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最上部にて…

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○○○飴

 オミ(チビVer.)が口をモギュモギュしながら、イツキをペシペシし自分のほうへ注意を促す
 オミ(チビVer.) : ん
 オミ(チビVer.)が手にしているお菓子袋を差し出す
 イツキ      : ?
 パッケージ裏の原材料を指し示す
 イツキ      : えっ!しょ…醤油使ってんの?飴なのに?
 オミ(チビVer.)が大真面目に頷き、偉そうに胸をそらす
 イツキ      : ぃゃ、別にお前が作ったワケじゃねーし

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御曹司  ②

 「でも、お兄さん ― 名代殿 ― は婿入りする気まんまんだったじゃん?」
 拳骨から立ち直ったオミが続ける。
 「そんなの身内や極親しい親戚しか知らないだろ。後はお手伝いさんとかで古くからいる人か。」
 「そ、ね。大体それだって、疑おうと思ったら疑えるんだしね。疑惑を持たれずに済む様にと考慮した、ポーズではないか?って。」
 「…ノーマルは面倒臭い…な。」
 イツキがボソッと呟くと、オミがクスクスと笑いながら、
 「超能力者だって同じでしょ。能力の低いヤツは、いつだって疑ってる。自分より能力の上のヤツが、自分達を騙しているんじゃないかって。能力が低いと、上のヤツの考えの内、表面に表された分しか読めないから。」
 もぅ、キーちゃんってば人が良いんだからーと軽口を叩く。イツキは、人が良いと表現された事に対し、少々傷付くが
 「で、お前はソレをポーズと思うか?」
 気を取り直して問う。
 「まっさかぁーっ。あれをポーズって、余程の根性悪るの言いがかりだね。」
 「だよなぁ。とは言っても、言い切れるのは、俺達が超能力者だから、なワケだが…。」
 「でもね、キーちゃん。キーちゃんは気にかけてるけど…、代替わりのときには大なり小なりあった事でしょ?女相続は決まってても、姉妹の内の何番目の相続、とは決まって無いんだし。当代も先代も女姉妹が居たんだし。皆、他の姉妹を制して、身を守りつつ後を継いでるんだし…。」
 「今迄は原則に則ってるじゃん。今回は原則から外れてる。」
 「ぅーーん。そう…だけど…。」
 迄口にし、ふと悪戯っぽく微笑み
 「珍しい程の肩入れっぷり、だね。」
 「茶化さない!」
 メッとオミを制する。
 「……原則から外れてる、けど、…だからって、今迄に無かった事じゃぁないでしょ。以前にもあったじゃん。」
 「んー…。あった。けど…、あの時は息子しか生まれていなかったろ。それも一人。」
 「あー…そっか。」
 「だから、ねぇ。」
 「ここぞとばかりに蠢動するか。なぁる程ねぇ。」
 呆れたとばかりに白けた口調となる。
 「あちらの言い分は、資格ならこちらの方が相応しい、女であるし血筋でもある、って事だが…。」
 イツキがおもむろに口を開くと
 「基本を外してるって、なんで分からないんだろうね。大体、叔母さん方、御本人はその気なさそうじゃん。」
 オミが、その話題にはもう飽きたと、その様子をありありと見せつつ応じる。
 「その気がなさそう、では無く、その気が無い、が正しいだろうね。ところで、基本を外してるって?」
 「他家へ嫁いだり、婿入りした者、或いは他家に養子、養女として入ったものは、相手方の人間と看做す。家を継ぐ資格は、家に居る者に限定し、周囲の賛同を得られる者とする。これって、地域によって大なり小なり違いがあるとはいえ、結構長い期間受け継がれてきた不文律でしょうに。」
 イツキは、オミがきっぱりと言い切った事に驚きを隠せない。
 「そうでもしないと、相続の度に騒ぎが起こるでしょ。法律が厳正に適用されるなら、法律に従うんだろうけど、現状で厳正に適用なんて無理でしょう?だったら、その地域ごとの不文律が、優先して適用されるもんでしょう?こういうのって、キーちゃんの方が詳しいでしょーに。」
 どうしちゃったの?と目で問う。
 「こっちでもソレが通ると思うか?」
 イツキが真面目に問い返す。
 「通る、ね。こっちだって相続が家単位なんだから。墓も家単位だしねぇ。『嫁に行ったら婚家の墓に入るのが原則』って続いてるんだし。それに『嫁に行った人』が実家を継ぐって、『出戻り』みたいだけど、それで周囲が賛同なり納得なりするかね。嫁入り先の旦那さんはどうするんだ?離婚でもしたのか?って話しになるよねぇ。」
 オミにそこまではっきりと言われ、イツキが考え込む。
 「フム……で、だ、それをはっきり糺したとして…、大人しく引き下がるかね?」
 「んー…、現状一部無理。」
 「?」
 「名代殿、婚約破棄しちゃってるじゃん。だから、娘をもってる親戚方も狙ってるでしょ。」
 「あーー……っ。そっちもあるか…。」
 イツキがくぅーっとばかり頭を抱える。
 「なんで、婚約破棄するかなぁ…。いや、理由は聞いているし、覚えてるけど…ね。」
 「婚約破棄はイタイよねぇ。騒ぐ為のネタを与えてる様だよね。裏を読めば、炙り出しとも見えるけどねー。」
 「だ・か・ら、しーーーーっ。」
 「炙り出しだとしたら、まんまと乗せられている事になるんだけども…。分かってないのかね?それとも、分かってても乗らないワケにいかないとか?」
 と、声を少々落としてオミが続ける。
 「お前まさか、それをあの名代殿が考えたなんて言い出すんじゃないだろね?」
 「父親…か、父親の秘書殿か…、と。居たでしょ、やたら若いの。」
 儀式の参列者や、この地に到着した際に紹介された面々の姿を脳裏に思い浮かべつつ
 「居た、ね。不自然なくらい若い秘書。以前は居なかったよな?今回初めて紹介されたんだよな?」
 「前回は若い秘書さんは会社でお留守番で…、前々回は、父親も父親関係の人もいなかったし……。それ以前は忘れた。」
 「例外の男相続だから…足元を固めて置く為の、露払い作業を画策してる?実際に相続する前に、反乱分子を炙りだして、或る程度でも足場を固めておこうって?」
 「息子の苦労を少しでも減らしておくべしって親心でしょ。内部粛清も含めて。
 低めていた声を、最後の部分では更に潜めてオミが言う。
 「まさか、炙り出しの為に婚約破棄させた?息子にはそれらしい事を言って。」
 「言いくるめて?まっさかぁ。少なくとも入り婿の父親に、ソレはできないでしょ。」
 「母親は?正統者だし。」
 「無い。婚約相手の家だってそこそこの家柄なんだから、迂闊な事はできかねるでしょ。妙な事画策して、ソレに使われたなんて話しが洩れたら、どうなるかわかったもんじゃないし。家同士の良好な関係って最重要項目だろうし。敵は作らないに越した事ないし。この手の家で育って、跡を継いだ母親に、それが分からないとは思えない。婚約破棄の理由は、実際危惧されるからかと。」
 「じゃぁ…。」
 「婚約破棄って出来事をうまい事使おうとしている、って事では?」
 「うー……ん。おっかねぇな…。良い家ってのは…。」
 「それぐらいできなきゃ、ン千年も家を存続させられないって事では?つか、それが出来る人に恵まれなければ、か。」
 オミが淡々と答える様子を、イツキが真剣な顔で見つめ、
 「お前って、この手の話しに強いよなぁ。」
 しみじみと呟くと、茶化されたと感じたオミが、眉をキッと吊り上げ、さっきのお返しとばかりに拳骨をお見舞いする。

御曹司  ①

 依頼主の、超能力者の二人用にと準備された『離れ』と表現される建物。
 その敷地内の趣きある庭に面した、とある一部屋にて、イツキ、オミと向かい合って座る10代半ばの少年。
 「お疲れのところ、わがままをお聞き入れ頂きありがとうございます。」
 頭を下げながら丁寧に礼を述べる。
 「いえ。御家にはこちらこそお世話になっていますし、今ぐらいしか名代殿も時間が取れないでしょう。お気になさらずに。」
 イツキが楽にするよう勧めつつ応じる。
 「それで、聞きたい事とは?」
 自分も上着の裾を、少々たくし上げながら膝を崩す。オミは裾をたくし上げるのに抵抗があるのか、正座をしている。それに気付き、名代と呼ばれた少年は膝を崩すことなく、オミと同様に正座を続ける。
 「オミに合わせる必要は無いですよ?」
 尚も楽な座り方をする様勧める。
 「いえ。慣れていますし。お気になさらず。」
 固辞されては勧めようもなく、イツキは改めて本題へ移る。話しを振られて、少年は少々口篭もりながら尋ねる。
 「あ、…の、ここの住民をどの様に感じました?」
 随分と大雑把に、立ち入った事に対しての意見を求められ、一瞬二人の目が、真意は如何に?と少年に注ぐ。すぐに逸らし改めて尋ねる。
 「どの様に、とは?」
 「その…、お二人は他の地域の様子もご存知ですよね?ですから…、他の地域と比べて…どの様に感じられたかと思って。」
 「他の地域と比べると言っても、他の地域も『嫌超能力者』ですし…ねぇ。」
 「『も』と仰ると言う事は、ここでもその様に感じたという事ですよね?」
 少々渋い表情を浮かべつつ、尋ねると言うよりは確認をとるように口にする。
 「えぇ、まぁ。」
 イツキが答えるのに合わせ、オミは軽く頷いて同意を表す。
 「こちらでは、…名代殿始め御家に気を使ってとは思いますが、露骨にではありません。ただ……。」
 少年は、露骨では無いと聞き一旦表情を緩めたが、『ただ』と続いたので再び表情に力が篭る。
 「…その、一部を除いて。」
 「一部?」
 ふと、年相応の表情で二人を見る。
 「お気付きでしょう?」
 意味有り気な表情でイツキが返す。
 少年は軽く、息を吐き頭を振る。気を取り直し、続けてくれと目で促す。話しの最初、大雑把な問いは、単なる取っ掛かり、話しを始める為の導入部であるとその様子から漂わせている。
 イツキはこの少年が、対象を察したと理解しつつ且つ、知りたい事とは実はこちらであったかと推察し、その方向で話しを進める。
 「…あれは、なんなんでしょうね?本家である御家をたてているのは分かるんですが…、時折、少々…軽んじると言うか…わざとらしく対抗する、というか…。御家の出かたを探るというか。」
 イツキがそこまで口にすると、少年はふっと顔を庭の一隅へ向ける。視線をやや離れた所へ向けていたが、かるく目を伏せ、二人の方へ向き直り
 「短時間しか接していないお二人に気取られる程とは…。ご気分が悪かった事でしょう、ご容赦願います。」
 軽く眉を顰めつつも、詫びを口にする。
 「我々がいる時に、わざと表てに現しているともとれます。御家は、依頼者としてではありますが、超能力者とそれなりに良好な関係を築いてらっしゃる。我々に対しても、実際、皆さんの前であろうと無かろうと、裏表なく丁重に対応して下さってる。それを、快くは感じていない、と匂わせていらっしゃるように見受けられます。だとすると、明らかに御家の出かたを探っている事になりますよね…。ですが、出かたを探るにしては、表し方が露骨に過ぎるとも思えます。」
 その点は如何にお考えか?と言葉にはせず目線で問う。
 「揺さ振り、かと。今回の…、自分が名代としてたった件に絡めての。」
 二人、特にイツキが、いやがらせと表現しなかった点も含め、納得の表情を見せる。
 少年は、一旦深く息を吸い、其れまでとは雰囲気を変え、口を開く。
 「お二人はご存知でしょうが、当家では女相続が伝統になっています。自分には妹がいますし、次代は妹が継ぐのが当家での正統となります。ですが……。」
 少年は、立場や育ちを考慮した場合、らしくなく言葉を濁す。
 「妹さん、無理でしょう?アノ状態は脳障害からきていますよ。悪くはなっても良くなんてなりませんよ。」
 イツキが、身内の健康状態は口にしたくないだろうと、濁した部分を、敢えてあっさりと言葉にする。
 「えぇ。ですから…、それならそれで、男である自分に相続させるのではなく、母の女姉妹に継がせるべきだ、と。その様な事を考えているようです。」
 「『考えているよう』とは…、これは、また。」
 皮肉気味に笑いを含ませつつイツキが繰り返す。
 「嫁いだ本人の叔母方が、その様な素振りをしているならまだしも……。」
 頭を振りつつ、自嘲気味の苦笑を織り交ぜながら少年が応える。
 考えて…望んで『いる』のは、婚家であるかと理解したイツキが微苦笑を浮かべつつ、
 「で、可能なんですか?その、叔母殿方の本家相続は。」
 「いいえ。本家に子がいないならまだしも。本家に自分がいる以上、不可能です。」
 「名代殿がいなかったら?」
 「可能です。ですが、自分は既に後継として正式に指名されています。皆に、正式な後継者として周知する『披露式』は正月に執り行われますし。」
 指名されていても、胡乱な動きが見え隠れしている現状を無視しているかのような言い様に、イツキが表現を変え重ねて問う。
 「では、正月までに名代殿に『なにか』起こったら?」
 あからさまに口にされるとは考えていなかったようで、少年は表情を強張らせる。
 「母の考え一つでしょう。」
 強張らせながらも、額面どおりの受け答えをする。
 「妹さんの身の上に起きた事が、ご自身の身に起こらないと?」
 「あれは、汚染の影響では?尤も、自分の身が汚染されないなどと考えてはいませんが。」
 「汚染は、飲み食いでも影響を受けますよ?」
 それまで一切口を挟まなかったオミが、突然口を開く。
 少年はぎょっとしたようにオミを見詰め、
 「誰かが、妹の食事に汚染の酷い物を使用した、と?」
 首を振って否定の意を表す。その少年に対しオミは眉一つ動かさずにあっさりと返す。
 「いえ。名代殿、あなたの食事に、です。」
 少年は、自分が狙われる事など百も承知であったろうが、だからと言ってなんと返すべきか迷い、結果口を閉ざす。
 「と、いう事は…、『揺さ振り』は、辞退しろという意味ですかね。それとも『抑えて、取り纏める力を見せてみろ』と挑まれているんでしょうかね。」
 イツキが話しを先に勧める。
 「両方、かと。」
 少年の答えに、イツキとオミの二人が考えを巡らせる。と、イツキが今気付いたとばかりに苦笑を浮かべる。
 「これじゃぁ…、『聞いて』いるのは俺達だぁ。」
 ダメじゃん、と肩を震わせて笑う。少年はそれを慌てて否定する。
 「いえ、いいえ。とんでもない。」
 すると、部屋の外から遠慮がちに少年へ声がかかる。少年はそれに軽く答え、二人に向き直り姿勢を正す。
 「時間が来てしまったようで…、今少しお話をお伺いしたかったのですが…。後日にでも、時間が有りましたら是非お願いします。今日はありがとうございました、お蔭様で、僅かですが考えが纏まりました。貴重な休息のお時間に、お邪魔しまして失礼いたしました。」
 しっかりと頭を下げ部屋から退がる。
  二人は、少年や先程声をかけたであろう人物の、会釈しつつ退がる姿などを神妙に見送りつつ、お互い軽く目配せをする。

 部屋の近くから人の気配が無くなるのを待ってから、イツキがボソッと呟く。
 「おっとろしーお坊っちゃまだな。」
 「入って来た時と帰って行く時の、様子の違いったら…。」
 「覚悟の違いなんだろうけど…。腹は決まった、みたいな、さ。」
 「あの様子だと、内部粛清くらいあっさり行いそうだねぇ。それも、自分は一言も具体的な指示を出さずに。」
 オミが物騒な事をサラリと口にする。聞いたイツキの方が思わず焦って
 「おまっ。滅多な事を口にすんなよ。」
 小声で咎め、そのうえ注文をつける。
 「そういう事はテレパシーで頼むよ。」
 オミは頷きで返し、
 「流石に流石と言うべきか。ン千年の伝統を背負うってヒトは違うねー。」
 「良く続いてるよな。例の『大災厄』すら乗り越えて続いてるって。」
 オミが小声て呟く。
 「或る意味怖い。」
 「ま・な。とは言え、ここの家が残っていて、尚且つ好意的に接してくれたおかげで、コチラの歴史やら有り様が把握出来たんだし。今回だって『特技』の方とはいえ、依頼してくれているんだから、あんまり悪く言うなよ?」
 「わかってる。で、お坊っちゃまは、接待?」
 「だろ?新たな跡取りとして、顔を売っておかないと、な。」
 それを聞いて、オミがクスクス笑いながら小声で呟く。
 「本家の跡取りは伊達じゃぁ無いと、いらん事で騒いでいる叔父方に、プレッシャーかけて回るの間違いでは?」
 「しーーーーっ。ったく。」
 オミの軽口を止めつつ、疑問を口にする。
 「しかし…、あんまり堂々と、物慣れた態度を見せると、妹さんのアレの疑いを招くと思うんだけども…。分かってるのかね?」
 「アレって?分かってるって?」
 オミがとぼける。
 「妹さんの汚染からくる脳障害を裏で画策したのは兄ではないか?ってさ。」
 超小声でイツキが口にする。
 「なんでテレパシーにしないの?」
 オミが悪ふざけをし、同様に超小声で尋ねる。と、イツキからポカリと拳骨を貰う。

御曹司  ― 前振り ② ―

 満天の星空の下、連なる山脈の端、里に近い場所にある小高い山の、樹木の生い茂る中、オミはタイガーを何時もの様に左肩に乗せ歩を進める。時折その目線を上空へ、樹木の上端へと向ける。
 今、一人と一匹のいる場所の樹木は背が高く、枝も伸び葉も生い茂っている。又、所々には背の低い、潅木が樹木の間を埋めるかのように、こちらも枝葉を繁らせている。その様子を静かに眺め、時には顔を上げ、又は下げ、左側に顔を向け、右を見回し、足下を見、奥の方を覗き込み…。ゆっくりと辺りを見て回る。
 ふいに肩のタイガーが身を強張らせる。オミはその様子に気付き、身を強張らせるタイガーの視線の先を辿る。
 視線の先、一人と一匹からやや離れた場所に、オミの膝辺り迄の大きさの黒い影。
 四脚でごわごわの毛で覆われて亀背状で脚が体躯の割に少々細めで…等をオミが見て取った時に、肩の仔猫が威嚇するように唸る。
 タイガーを落ち着かせる為に手を添えると、オミのその動きを合図とした様に相手が藪の中へ、樹木の奥、闇の中へと姿を消す。それを見送りながら呟く。
 「この辺りでもまだ汚染の影響が残ってるのか…?それとも向こうの山から来たか?しかし、流石だねぇタイガー。気付くの早いねぇ。」

 オミが山を上へと進むと、徐々に樹木の間隔が広くなり、頭上を覆う枝葉の重なりも薄くなる。その隙間から夜空が覗き、月の明かりが指し込み辺りを照らしている。オミは照らされ、あるいは影に溶ける様に歩を進める。とはいえオミの長い銀の髪が、影の濃い部分でも僅かにこぼれてくる星明かりをその身に纏ったようにしてしまう為、ぼんやりとその姿を顕わにしてしまうが…。
 「この辺かねぇ?タイガー?」
 仔猫に話しかけながら、今自分が歩いてきたほうを振り返る。
 樹木の先端や枝葉の間から、夜空と人家のまばらな里が見える。
 「あ、ダメだ。…目印にできるものがない。」
 それでは、と周りを見渡す。見渡したとて、木また木が続くのみ。
 「えー…と。どーしよーかねぇ?タイガー?」
 問われた仔猫とて…
 「ニャゥ?」
 小首をかしげるだけ。
 「ぅー…ん。目印、勝手に作ったら、やっぱマズイよねぇ。あー、もぉ…っ。キーちゃんに鈴貰っとくんだったぁー。」
 『自分の杖を突き刺しておく』のは、色々色々憚られるので却下。バレた時に何を言われる事やら…。
 オミが頭を抱えていると、再びタイガーが身を強張らせる。しかも今度は怯えてオミに身を寄せる。
 肩に乗せていたタイガーを胸元に移動させつつ、気配を辿り顔を向けると、遠くに濃く人型の影が見える。
 人型とは言え、その影は体躯が太く全体的にがっしりとした印象を与え、腕が異様な程に長く地に付く程で、月明かりの中でも毛深さが分かる。大型の猿の様でもあるが、その背はまっすぐに伸びている。
 タイガーを庇う手に少々力が篭もる。が、すぐにその力を抜く。悪戯に刺激すべきではないし、この地へは別件で訪れているのだから、余計な騒ぎは願い下げだ…。
 「ここで食糧でも探してるのか?」
 オミは気を取り直し声をかける。相手に人間の知性を感じて。
 「悪いが食べ物の持ち合わせは無い。それとこの子は食べ物では無い。縄張りを荒らして食糧を横取りする気もない。あちらで探してくれ。」
 通じたか?オミがそれとなく様子を探りつつ続ける。
 「それと、ここいらは明後日 ― 二度目の日が昇ったら ― 、一帯の里から人が大勢来る。とある作業を行う為に。仲間がいるなら伝えなさい。離れていた方がいい、と。」
 オミが影の主を、汚染の影響を受けて産み落とされ、蔑まれ差別を受けている者の一人であろうと推測しつつ、一言一言区切りながら伝えると、人影は理解したのか、闇の中へと溶ける様に消えていく。
 タイガーは強張らせていたその身をくつろがせると、素早く身震いし、オミへ甘えるように擦り付ける。そんなタイガーにむけ
 「話しのわかる、友好的な人で良かったね。」
 オミは微笑みながら話しかける。そして気付く。問題は何も解決していない事に。
 「えー…、ど、どーしよーか?ねぇ、タイガー。どーしよ?」

御曹司  ― 前振り ① ―

 陽が波間に沈むにはまだ少々時間が要り様なとある日。暦の上ではこの日と相前後して季節が代わるとは言え、まだまだ暑さが残る。
 寒流がながれ込むからか或いは日が少々傾いだからか、海面を渡る風が幾分か涼しく、海岸に居並ぶ人々の火照り気味の頬を冷ます。
 ―― 御魂送りの儀式 ―― 喪われた命、様々な形でこの世を去った魂を『慰め』、往くべき場所へ『送る』。その為の儀式。
 もっとも、『儀式』そのものは、残された側、送る側の為にあるかのように、一部の人には無駄と思える程長々しく時間をかけ、仰々しく、しかし粛々と進められる。
 傾いだ日が半ばほど海に隠れる頃、頭から白布を被り、その頭布を額の辺りで黄金色の紐を二重三重に巻き付け留め、肩には領巾をかけ、頭布で顔を半ば近くまで隠したイツキが重々しく、しかし勿体付けずに進み出る。
 身に付けている装束は、頭から足元まで全て白く、両の手首や胸前には大小様々な鈴を付け、頭布を留めている紐からも、肩に掛けた領巾の両端にも極々小さな鈴を幾つも下げて。

 陽光が波間に消える僅か前、イツキの手を離れた領巾が風の流れに逆らい、海面を波間を沖へと鈴の音を響かせつつ漂い吹き流されていく。海面を漂うその領布は、不思議と波に捕らえられることなく高く低く舞う。
 その軌跡のさらに先、布が舞い行くであろう辺りの海面は、落ち行く陽の光を受け明るく輝く部分と、それとは対照に暗く陰となる部分が目に付く。
 陰の中に更に影か。立ち上った波頭の、水の壁の厚さによっては、陰が濃くも薄くもなるであろうが。
 その一際濃い影は波の動きから少々ずれた動きをし…。
 イツキの手から離れた領布は、手から離れた際は幅細であったはずが、漂うにつれその幅を広げ、舞う様に波間を沖へ或いは、一際影の濃いほうへと誘われているかのように舞い移動し、陽の最後の一筋が沈むと共にその姿も後を追うように消えていく。


 過去に起きた≪悲劇的大災厄≫より以前、それもとても古い時代のこの国では、『領巾』は女性の装身具とされ、男のイツキが使用するのは相応しくないのだが、領巾の別の一面『呪力を持つ布』を考えれば或いは妥当であろうか ―― 。起きた現象、波に捕らえられることなく舞い、且つ、舞いつつ幅を広げ、陽光が絶えると共に消えていった様を目にしたのなら、いくらその古い知識を持っていようとも、異を唱えるどころか疑問を口にする事すら憚れるであろう。
 たとえイツキやオミ達が≪悲劇的大災厄≫の約200年後に、突然、本人達ですら全く意図も望みもせずに『放り出された人』だという事を差し引いたとて、『御魂送りの儀式』に異論を唱えたり、疑問を差し挟むものは皆無と思われる。それを放棄する事で起こるであろう事態を考える事の出来る者ならば。
 
 尤もヒトには様々な考えの者がいるし、ましてや儀式の一端を担うイツキは、他世界から『放り出された人』であると同時に、忌み嫌われる『超能力者』でもある。あの『儀式』で行われた一連の超常的な様子が、超能力でのまやかしで無いと、誰に言い切れる?否、儀式云々以前に、『放棄した場合に起こる』であろうとされている事態そのものが、超能力で引き起こされていないと……。

 疑えば幾らでも疑える。外部の荒地で暴れている怪物は?常駐担当の超能力者が退治しなければ、街中の地表や空中に溢れる小型の怪物は?送りを行わなかった土地に現れる怨霊と呼ばれるものは?負の感情を強く持つものが、一処に多数集まると自然発生するといわれる悪念は?地中や海中を移動し、突然地表・海上に現れる化け物は?どこからともなく突然現れる大型の怪物は?飛翔タイプの大型化け物は?
 超能力者が、超能力で、超能力者の為に、自らの存在意義・理由を顕示する為に ―― 。

オミのお遣い ③  ~ Winner タイガー ~

 カズキが母親に簡単な説明をしながら玄関に続く廊下へ出てくる。
 「オミさん、おまちどー。」
 『カズキが奥に行っている間に、置いて帰っちゃおうか』などと考えていたのは億尾にも出さず、微笑みを浮かべながら二人が玄関口まで辿り着くのを待つ。
 オミの傍らに浮かんでいる荷物を指し示しつつ
 「あれがソレなんだけど…。」
 母親に、やっぱり自分が勝手に受け取ってちゃマズイよねと言外に匂わせつつ教える。母親は荷物の余りの量に驚きを隠さず、目でオミに問う。
 「こんなに沢山?」
 先程の問答を繰り返す恐怖に怯えつつオミが肯定の意を表す。
 「なぜ、こんなに……。あ。あぁ、いいえ、その、なぜウチへ?」
 量に関しては息子から説明を受けていたのを思い出し、別の疑問を改めて口に出す。
 「それ…は…。」
 尋ねられるとは思ってもいなかったため返事に困る。
 「カズキくんとは、その…親しくさせて頂いているので、この際、甘えさせて頂けないものか…、と。」
 お脳を超高速フルスピードで回転させ、無難な解答を導き出し、自分を卑下させるのも忘れずに口に乗せる。『ご子息』や『息子さん』とは表現しなかったのは、ご愛嬌とすべきかと。
 「は…ぁ…。」
 量的に確かに『甘え』ではあるが、まさか口にするわけにもいかずあいまいな返事で濁す。
 「そ、の…、配ってしまって良いのかしら?親しくさせて頂いている方達やご近所の方々に?」
 念の為、と確認を取る。
 「ええ。一向に構いません。お任せします。」
 幾分か声に力を込めつつ極上の笑みを浮かべ応える。思わず見とれる親子。
 「それは、ありがとうございます。お困りの様でもありますし遠慮なく頂戴致します。」
 即、我に返り、丁寧に礼を述べつつ深々と頭を下げる。オミも頭を下げ…ようとしたところへカズキが
 「あ!そっちの箱ってなに?別物みたいだけど。」
 突然思い出したと問いかける。母親に窘められるも意に介さない。
 「だって、知らないし、知りたいし。」
 「こっちは…、カズキくん誕生日でしょ…?たしか今月。」
 答えつつ、PKでカズキの前へ寄せる。
 箱から漂うチェリーとは異なる果物の香りと、果物とは異なる種類の甘い香りの混ざり合った香気を鼻にし
 「え、エ?これ、え?」
 「誕生日じゃなかったっけ?キーちゃんが作ったんだけど。」
 「誕生日だけど…。イツキさんが?え?ケーキでしょ?イツキさんケーキ作れちゃうの?」
 その問いには、にっこり微笑むだけで答えとし
 「6個あれば足りるよね?『お兄ちゃん達』の家の分も。」
 確認の問いをする。カズキ相手なら、オミは幾分か気楽に話せる。
 カズキは二度三度と頷きながら
 「いいの?ケーキも?」
 嬉しさを隠さずに確認を取る。その様子を苦笑しつつ見、改めて礼を口にする母親。
 「お気遣い恐れ入ります。ありがたく頂戴いたします。」
 「い…いえ、そんな、畏まらずに…。結果的に量を増やしていますし…。」
 母親相手だと、しどろもどろとなる。
 「あ、あの…、余計な話しですが、果物を商っているお宅を刺激しないよう注意して…お願いします。」
 慌てつつ、神妙な口調で続ける。相手が理由を察した様子を確認すると、気を取り直し
 「お手間をお掛けしますが、よろしくおねがいします。」
 オミは早々に切り上げたいのを表に現さないよう、極力注意しつつ頭を下げる。
 下げた頭をゆっくりと上げつつ、好意の笑みを浮かべ、僅かに身を退かせつつフッと姿を消す。
 「おぉ。消えた。すげー。さすがー。」
 カズキは目を丸くしながら、素直に感嘆の声をもらす。


 吹き抜けのサンルーム。
 大きな窓を全て開け放ち、子猫のタイガーと戯れているイツキ。その傍らに突然人影が現れる。
 「おー、お帰りぃ。どーだった?ちゃんと出来たか?」
 人影に向け愉しげに声をかける。声をかけられたオミは、返事もそこそこにイツキへ勢いよく飛びつき
 「キーちゃんっ!オミ……オミね…頑張った…っ!…すんごく、頑張った…よーっ!」
 子供返りをしたかのように半泣きで訴える。飛びつかれたイツキは半ば身体を傾げつつも、へばり付いてくるオミを支え労をねぎらう。
 「そ、そか。頑張ったか。よしよし。苦手なのに偉かったな。」
 「もーやだーっ!も・やんない!オミやだぁっ!」
 しがみ付きつつ駄々を捏ねるオミを宥めながら、必死に支える。いくらオミが男性としては細身であろうと、イツキの方が体格が良かろうと、重い物は重い。おまけに勢いが付いた状態で飛びついてるわ、へばり付いた状態で駄々を捏ねるわ、ましてやイツキは床に直座りだったのでバランスが取り難いわ、の悪条件。ギリギリでバランスを取り、必死で支えつつ宥める。PKを使って支える余裕すら無い。
 「偉かった、偉かった。良く頑張ったな。凄いな。よしよし。」
 「ぅー……、も・やだよぉーっ!」
 イツキにへばり付きつつ、イヤイヤと頭を振るオミ。
 オミの頭が振られる度、それに合わせ揺れるオミの銀髪がサンルームに差し込む陽の光りを受け、所々淡く光る。揺れる度に淡い光が動く。右へ左へと。
 突然、小さな影が高みへと飛び上がる。その直後 ―― 。
 短い驚きの声と床に重い物が落ちる音と微かな揺れ、が相前後して響く。
  ―― 想定140kg.超(2人分)が床に…。
 床に重なって倒れている二人の、オミのその背の上 ―― 。
 子猫が、動揺しているのを押し隠し、我関せずの態で身繕いする姿が ―― 。

オミのお遣い ②

 思わず土下座をしかけるカズキを制しつつ、逆に驚いたオミが問いかける。
 「はくらいひん?」
 「エ?え?だって、この辺じゃ栽培してないでしょ?」
 興奮冷めやらぬ様子のカズキ。
 「でも…『舶来品』は大袈裟じゃぁ…。」
 「?お取り寄せで輸入したんじゃ…。」
 まで口にし、取り寄せにしては余りにも大量にある点に気付き、的外れではあるが物騒な事を口走る。
 「まさかっ、盗んで…?盗人の共犯はお断りしま…。」
 「そーじゃないっ!」
 思わず遮る。
 「そーじゃなくて…そ、の…。」
 口篭もる様子に訝しさを感じ、重ねて尋ねる。
 「じゃ、どーしたの?これ?」
 「どうって……。」
 カズキはオミやイツキが盗みなんてするワケ無い、必要ないと分かっていながら、口篭もるオミの様子が可笑しいのと理由をしっかり聞きたいのとで悪ふざけをする。
 「やっぱり…ぬす…。」
 「違うって…。だから、オミが…、その…。」
 はっきり否定するには、個人的に触れて欲しくない点を明らかにせねばならないため結局口篭もる。カズキはオミのそんな様子を面白がって追い討ちをかける。
 「ほーほー…。オミさんが…盗んだ…と。」
 一部人聞きの良いセリフではないので声を潜める。
 「ち・が・い・ま・す!」
 じゃー、コレはなんなんだ?と目で問いかける。
 「だから…その…オミが…ちょっと油断して…しくじって…」
 最後のセリフは小さすぎて聞き取りにくくなる。
 「えぇーと…ゴメン。最後ンとこ、も、一回お願い。」
 カズキが真顔で頼む。
 「しくじったの。」
 ヤケ気味にオミが応える。
 「えー……、え?」
 理解できませんとばかりにカズキが目で問う。
 「だから、油断してしくじったって…。」
 「あの…なにをどう油断してしくじると、こうなるの?」
 荷物を上から下まで舐めるように見つつ尋ねる。
 「中身一緒なんでしょ?とんでもない量じゃん。ナニしたの?」
 「だから、油断して、しくじったの。」
 何度も言わせるなと、ややヘソを曲げ気味に答える。
 「あー…の、大変恐れ入りますが、具体的にご説明頂けますか?」
 思わずへりくだって依頼するカズキ。へりくだってはいるが、その意は『きっちり説明しぃや』となる。


 オミが『油断』と『しくじり』の内容を具体的に説明するが、その説明に新たな疑問を感じたカズキはその点を尋ねる。
 「それって超能力とどぉ違うの?」
 「超能力は遺伝しないの。コッチは一応遺伝するの。」
 「一応って?」
 「そりゃ、人によっては、強く出たり弱く出たり…。」
 「って事は、オミさんの血筋の人なら同じ事できちゃうの?」
 「まぁ…、大抵は…。すごく弱く伝わった人じゃぁなければ。」
 「へーーーー。すごいねぇ。」
 純粋に羨ましがる。
 「って事だから。コレ貰って!」
 やっと、本来の目的に戻る。
 「……。コレ…全部…?」
 少々腰が引け気味に確認をとるカズキ。
 「あと、これも。」
 だめ押しに別箱6個をPKにて前に押し出す。流石に困惑を隠しきれないカズキ。
 「えー…と…。おかーさんに訊いて来るから待ってて。」
 脱兎の如く家の中に逃げ込むカズキ。ついでに決断からも逃げる。
 カズキを見送りながらも、オミの頭はカズキの放った一言に反応する。
 『おかーさん』
 『おかーさん ⇒ お母さん ⇒ 母親 ⇒ 一人前の大人』と、オミの脳内で変換される。
 オミ的最重要ポイントは『一人前の大人』。
 『一人前の大人な人と今の会話、説明をもう一度』行わなければならないかもしれない…、と言う考えるも恐ろしい現実に直面する、と気付く。
 えーーーっ!

オミのお遣い ①

 大きめのテーブルの上に『どっさり山盛り』と積み上げられたアメリカンチェリーを前に、やや怒り気味のイツキと怯えた様子のオミ。
 「どーすんだ?これ。」
 詰問調に問い質すイツキ。
 「…エート……どー…するも……。」
 モゴモゴと言葉を濁すオミ。もっとも、真っ当な返事などアテにしていないイツキは耳を貸さずに続ける。
 「お前が、どーにかしろよな?」
 「エー…ッ」
 「だ・れ・の・せ・い・だ?」
 「……うっ……っっ。」
 オミのささやかな異議申し立ては、取り付く島もなくあっさり却下される。普段温厚でオミのわがまま・勝手に甘々なイツキが、今回ばかりはまーーーったく耳を貸そうとしない。
 「『本部』絡みには、もう……押し付けたからな…。」
 『配った』との表現は避け、且つ、自分の負担分は既に対応したと匂わせながら、怒鳴らないだけマシだろ、とあっさり部屋を出て行く。
 残されたのは、山盛りのアメリカンチェリーと途方に暮れたオミ、ワケの分かっていないタイガー。
 「あ・忘れてた。コレもあるからな。がんばー。」
 あっさりと戻ってきたと思ったら、新しく別の荷物を6箱ばかり置いてサクッと出て行く。
 オミはダメ押しを食らい、がーーっくりと肩を落としつつも追加されたブツを確認する。
 「あ…、キーちゃん優しー♥」
 一瞬立ち直ったが、傍らの山盛りなブツが目に入ると溜め息を吐く。
 「…はぁーぁ…ぁぁ…。そりゃー…ね。オミが悪いんだけど…ね。でもね…。」


 とある家の、奥側にある玄関前。オミがテレポで『ポンッ』とばかりに荷物と共に現れる。
 「…エート…?まずは…挨拶して…、それから訪問理由と、…事情…説明…ってオミがしくじったの言わないとダメかなぁ…後はぁ…。」
 ブツブツと呟きつつ、他家訪問時の脳内シミュレーションを試みる。
 「玄関の中にメモと一緒に置いておくんじゃダメかなぁ…。『食べて』って。」
 ―― ダメだろ。
 気を取り直して玄関をノックしようと手を上げ……
 「あれーーーっ!?オミさんじゃん!どーしたのぉ?」
 機先を制するように声がかけられる。
 驚きすぎて声にならない悲鳴を上げつつ、PKで支えていた荷物をとっ散らかしかける。
 「ご・ごめん。だいじょぶ?」
 崩れ掛けた荷物の山に怯えつつ、声の主カズキが続ける。
 「だ……大丈夫…。」
 余り大丈夫には見えない様子でオミが応える。狼狽している様をありありと見せつつ続ける。
 「今、帰り?」
 「うん。これ何?どーしたの?すっごい沢山。」
 目を真ん丸にして尋ねる。
 「ぁー…ぅん…そのぉ…。」
 シミュレーションでの想定が初っ端から崩れたものだから、立ち直りまでの時間を必要とするオミ。そんなオミの内面での慌て振りに気付かずカズキが続ける。
 「今日は一人?イツキさんは?留守番?珍しくない?オミさん一人なんて。普段、超能力あんまり使わないって本当なんだね。すっごく驚いてたでしょ?ビクーってなってた。カズキ来てたの気付いてなかったんだぁ?」
 先日のマシンガン質問は比較的記憶に新しいため大慌てて止めに入るオミ。
 「あ、あの。これ、貰ってくれない……かな?」
 思いっ切り本題から入る。シミュレーション意味無し、全くの無駄。
 「こ…れ?」
 積み上がっている荷物を上から下へと眺め
 「何?中身。」
 興味半分疑惑半分と確認を取る。
 「う…ん、その…。」
 チラリと中身、浅めの箱に詰めた件のチェリーを見せる。
 「!!」
 驚愕するカズキ。
 「は…舶来品様だぁーっ!」

怒涛の口撃   ― ヨッパーの苦行

 『超能力者でもOKの酒の飲める店』を教えた翌日の昼前。
 例によって例のごとく、いつもの『公園』に二人の姿を見つけたカズキ。二人の前にヒョコっと顔を出す。
 「もしかして…二日酔い…??」
 グロッキー状態の二人…の片方、イツキが弱々しく答える。
 「……そぉ…。あぁ…もぉ……酒はぁ…ぁ……。」
 「でも『もぅ、酒止める』とは言わないんだよねぇ。」
 と茶化す。
 「ウチのおとーさんも、そぉだけど。」
 「……自分が……酒臭い……気がす…る…。たはー…参ったぁー…。自分が悪いんだけどさぁ…。」
 イツキがこぼす。オミは黙ったまま、ボーーーっと空を見上げている。その様子は『話す気は無い』素振りでは無く、『話したらマズイ、色々と』な雰囲気を漂わせているので、カズキは先日の気懸かりは気懸かりとして、一旦脇へ置き触れずに置くべき、と判断する。
 「楽しく飲めたみたいでなによりです。って、あそこの小父さん、超能力者さんとか拘ってなかったでしょ?」
 「あー、うん。ありがとネ。珍しくフツーに飲めたワ。」
 ぐったりしつつも一応礼を述べるイツキ。
 「キミ……カズキくん…今日、学校は…?」
 二日酔いのヨッパーは最低限のコミュニケーションをとるのも必死。
 「今日は、全国的にお休みな日だと思うけど…?」
 「あ?あれ?そぅ…だっけ?」
 「カレンダー関係ない生活してるんだぁ?ウチのおとーさんは日にちや曜日を気にするけど…、あれは仕事の都合だからかな?」
 「……他の人はどーだか知らないけど…おれ等は曜日なんて関係ないのよ…。」
 「へぇー。関係ないって『超能力者は』って事?それとも、『イツキさんとオミさんは』って事?」
 「ぅー……後の方……。」
 答えるのも大変。
 「超能力者サンでも二日酔いに苦しむんだねぇ?超能力で治せないの?」
 心底不思議、と目を丸くして尋ねる。
 「治せるよー…、おれ等は…。治さないだけで」
 おれ等で、自分とオミを指し示しつつ答える。
 「それじゃ…なんで治さない……かな?しんどいンでしょ?」
 オミの子猫 ― タイガー ― の興味を惹こうとしつつ訊くでもなく訊く。
 「……んー……、教訓?」
 教訓?
 「それって…、『飲み過ぎ自戒』的な??」
 軽く頷きつつ肯定するイツキ。
 「なーるほど。」
 クスクス笑いながら続ける。
 「やっぱ、『肝臓大事』?」
 イツキは比較的大きく2回頷く。頷いて、頭を振ったことをか~~るく悔いる。その様子を、苦笑しながら見つつカズキが許可を求める。
 「タイガーとちょっと遊んでもいいかな?乱暴な事しないから」

 暫らくタイガーと遊んだカズキ。子猫と一緒にはしゃいでいたからか、顔をすこし上気させつつ、ふっと思い出したとばかりにヨッパー二人を見る。
 「あ、ねね、あのさぁ…。」
 子猫を抱き上げつつ、二人が顔を向け自分の掛けた声に反応を示したのを確認し、続ける。
 「イツキさんもオミさんも、二日酔い治せるんだよね?じゃさ、怪我なんかも治せる?病気とか。」
 肯定の頷きが返る。
 「手、使わないで物を動かしたり、離れたところに一瞬で移動したり、他者の考えを読んだりとか…」
 これは単なる確認として尋ねる。二人もそれは分かっているので微かな頷きで返す。
 「じゃ…さ…、……違う姿になったりとか…は…?」
 二人の目がやや瞠られる。突然何をいいだすんだ?とばかりに、カズキを見る。カズキは、二人の表情が変わったのを見て、聞いてはいけない事を聞いてしまったかと感じつつ、だからと言って訊かなかったことにも出来ないのでバツが悪そうに続ける。
 「ぅーん…と、……だって怪我を治せるって、怪我を無かった事にするみたいだし…、それをちょっと、使い方を変えたら…目や鼻の形とか変えられるのかなーって…思って…・。」
 イツキやオミは、カズキの真意を計りかねつつ、少々警戒を表しつつも短く答える。
 「出来るよ。」
 「!」
 応えが得られるとは思っていなかったカズキは一瞬驚き、そして、一気に興奮し…。
 「スゴーィ!ねね、その姿はホントの自分の姿?それとも気が向いたからしてる姿?あ、それから、その服装って、学校の制服みたいな、超能力者サン達の制服?それから…それから……。」
 カズキからの問いが一気に続く。

 今、ホントは何歳?なんでオミさんは髪長いままにしてるの?イツキさんの髪の色って染めてるの?オミさんは脱色したから?眉なんかも脱色って出来るの?睫毛長いけど超能力で長めにしてるの?誕生日っていつ?超能力使う時に、手をかざしたりってしてないみたいだけど、アレってする必要ないの?キライな食べ物ってある?なに?好きなものは?今まで退治した中でイヤだったヤツってなに?それって強かったから?明日の天気とかわかる?絶対当たる?明日晴れて欲しい時にムリクリ晴れにしたりってできる?予知って『予知するぞぉ』ってするの?突然ピーンってきたりはしないの?好きな事ってなに?仕事するのって楽しい?今までどんな所に行った事ある?また行きたいとこってどこ?そこってどんなカンジ?宙に浮くって大変?相手を浮かせるのと自分が浮くの、どっちがラク?普段は超能力って使ってないみたいだけど、それってなんか決まりとかあるの?

 出る出る、矢継ぎ早に次から次へと。ヨッパー二人があっけに取られているうちに次の問いに進んでいて、全く、話を逸らすどころか、ついていくことも止める事も、逃げ出すことすらできない。そもそも二日酔い状態の頭では…まともに対応できるわけもなく…。
 更にカズキの自覚の無い追撃は続く。

 PKで持ち上げるのに、重すぎて無理とか多すぎて無理とかってやっぱある?自分以外でも、その人や物だけ離れたところに一瞬でポンってできる?本当は女性だけど男性の振りしてたりする?超能力者サンって差別されちゃってるみたいだけど、買い物とかどーしてるの?その服って、オミさんとイツキさんで微妙に違うけど、それは好みの違い?重ね着してるけど暑くない?裾長くて動きにくいんじゃない?下にズボン穿いてるよね?オミさん、指先がちょっとしか出てないけど、袖邪魔じゃない?髪、地面に付いちゃってるけどいいの?日本茶と紅茶とコーヒーならどれが好き?戦わなくて良くなったら、やってみたい仕事とかある?火炎弾やカマイタチって本当はやるの簡単なの?カズキが離れた所にいても見つけるの簡単?温泉って入ったことある?透視って、やったら骨まで見えちゃう?超能力、使ってないみたいに見えるけど、実はこっそり使ってる?テレパシーで、自分の好きな人に自分の事を好きにさせるって出来るの?シャワー派?お風呂に浸かる派?テレポでポンって何人ぐらいいっぺんにやれる?オミさんもしかしてお化粧してる?どこに住んでるの?ここに来たのってどーして?なんか特別な理由ある?ここでも、やっぱりヤな経験した?普段ってなにしてるの?犬よりやっぱり猫が好き?タイガーって買ったの?貰ったの?拾ったの?この子で何代目?常駐してくれてる超能力者サンと仲良い?超能力者サン同士って普段どんな話しするの?ご飯とパンどっちが好き?餅つきってした事ある?靴ってそれブーツ?テレパシー使う時って聞こえなくても良いのまで聞こえちゃったりする?今まで食べた物の中でゲロマズってあった?規則みたいなのってあるの?破ったらやっぱりばれちゃう?海水浴って行った事ある?泳げる?不味い料理出されて、内緒で超能力使って、食べた振りして誤魔化したことある?すんごく暑い時に超能力で涼しくしたりってできる?ケーキ好き?二人って恋人同士?結婚とかどう思ってる?やっぱ女の人が好き?どんな女性がタイプ?二人はもしかして、一緒に住んでたりする?友達百人いる?超能力者嫌いの人に、腐った生卵投げられたりした?イツキさんの方が年上に見えるけど、本当にイツキさんが年上?グーで殴るのと、PKで吹っ飛ばすのどっちがラク?空から花を降らしたりってできる?今まで超能力使って失敗した事ってある?テレポでポンってした時に予定地と違うところに出ちゃったりっていうのは?……etc.etc.…。

『超能力者』のささやかな苦労

 子猫と戯れるカズキ。子猫「とは」すっかり仲良し。微妙なのは、対オミ。カズキとしては、もう少しお近づきになりたいのだが、どうも距離を取られている気がしてならない。オミと自分との間に、見えない壁があると感じている。
 (嫌われてる?…んー…でもこの間は、オミさんから話しかけてくれたし…。あの時は単なる気まぐれ…?イツキさんに協力しただけとか、援護射撃的に…。でも…名前で呼んで良いって言ってたし…、正確には頷いただけだけど…。駄目なら渋るよねぇ…。もしかして、社交辞令とか言うヤツ?カズキが子供だから、ちょっぴり甘い対応してくれた…?ホントは馴れ馴れしくてイヤ、とか…?)
 子猫 ― タイガー ― と戯れつつ、つらつらと悩む。悩みつつも戯れる。
 
 そんなカズキを眺めつつ、大人で超能力者な二人はボソボソと…。
 「ぉぃ、あれ。あの様子だと、あの子気にかけてるぞ、お前の態度を。」
 「…っ…、だって…。」
 「子供、困らせるなよ。いくらなんでも気の毒だろ。」
 「……。」
 「あの子に興味あるくせに…。ったく、しょーがねーなぁ。」
 「だって…どう応えたらいいか…わかんないし…。」
 「お前に嫌われてるって、勘違いされててもしらねーぞ?」
 「……、そ…れは…、ちょっと…マズイ。」

 大人二人がボソボソやっているのに気付いたカズキがそちらを見る。と、カズキに見られているのに気付いた大人二人がカズキを見る。
 「あ……っと、あのさぁ…。」
 イツキがすかさず声をかける。
 「この辺で、酒飲める店知らない?できれば、超能力者でも一向に構わないよ、な店」
 「んー…と…。」
 言葉を一旦切り、近所の店を脳裏に思い浮かべる。超能力者に対しての、店主の考えやら出入りしていそうな客はどうなのか等々…。
 「子供に聞くようなことじゃなかったね。知らないなら、別にそれで構わないんだよ?条件も厳し目だしね。」
 「ぅぅん。へーきだよ。この辺は場所的にも聞かれること多いしね。外部から陸路で来た人達が、この辺りで一旦一息入れるから。」
 「んでね、超能力者OKでペット連れもOKなお酒飲める店、一軒だけ知ってる。『暴れるな』なんだけど、酒癖……悪かったり…する…?他の条件は…。」
 と、条件なるものを挙げていく。
 ・暴れるな
 ・ツケはNG、現金払いで
 ・場合によっては、或いはモノによっては現物払いOK
 ・他の客を批評したり、ケチつけたりするな
 ・楽しく飲もうぜ兄弟
 条件を聞きつつイツキが
 「あぁ。当たり前って言えば当たり前すぎる条件だね。」
 「後は、連れてるペットが、ペット同士ケンカしないように飼い主が気をつけろ、とか、ペットを店内で暴れさせない、とか、たとえペットが、興奮したせいで壊したものでも飼い主が弁償する、とか。」
 「それも当たり前だね。うん、ソコ。その店教えてくれる?ただ…本当に超能力者OKなの?」
 「へーきへーき。店の人が自分で言ってたし。『きちんと条件守って、超能力で誤魔化したりせずに、払う物をきちんと払ってくれればそれで良い』って。おまけに『払う物払わないわ、暴れるわ、絡むわ、ケンカするわ、なヤツは例えノーマルでもお断りだ』って。」
 「是非っ!是非その店を教えてくれ!」
 思わず声に、態度に力が入るイツキ。それに気圧された様にちょっとまごつくカズキ。
 「う・うん。ま、まだ時間が早いから、店開けてないとは思うけど……。……超能力者サンって、もしかして…苦労してる…?……大変?色々と…。」
 カズキの問いに、イツキは思わずソッと顔を背けつつ…声を僅かに顰めながら答える。
 「ぅ…ん…、まぁ…ちょっとは…ね…。」
 (実際は、『それなりに』だけど)とは声に出さず飲み込む。
 その返事を受けて、カズキは思わずしみじみと呟く。
 「少数派ってヤツだから…かぁ…、やっぱり…差別されちゃうんだぁ…。」
 「うん…まぁ…そう…。」
 思わず肯定してしまうイツキ。溜息を付きつつ頷くオミ。多数派側に属するカズキは、決まりの悪さを隠しつつ『公園』の地面に近所の略図を描き、件の店の位置を記しつつ、おおよその営業時間などを伝える。

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