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最上部にて…

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文化祭に招待された ①

 「もう、始まってるな。」
 やたらと広い敷地にやたらと大きな建物が幾棟か建ち、とんでもなく人が集まり賑わっている。
 キョウコ、マサト、シンの通っている高校の文化祭当日。
 『学校』や『学校行事』にオミが興味を示したのを憶えていたシンから、案内と招待券を貰い訪れたワケだが…。
 「なんか…凄くない…?」
 あまりの人の多さに、オミが怯んだ様子を見せる。
 「あ、来た来た。」
 正門脇から聞き覚えのある声がする。
 「イツキさん、オミさん。そこの入口から入ってね。脇に居る腕章着けた人にチケット渡して。」
 塀代わりの柵の間から、カズキがかけて来た声に従い校内へと入る。
 入り口脇にカウンター代わりの机を置き『実行委員』の腕章を着けた生徒へチケットを渡すと、受け取った生徒は半券を千切り隣へと渡す。
 イツキがチケットの行方を目で追っていると、渡された生徒は、手渡された半券の辺の短い側の中央へ穴を開け、逆隣へとチケットを渡す。
 受け取った生徒は、チケットに開けられた穴へ細いリボンを通し、
 「どうぞこちらをお持ち下さい。」
 イツキへと返してくる。
 「へぇ、栞か。」
 返されたリボン付き半券を手に感心するイツキ。
 「読んでる本に、目印として挟むアレだよねぇ。」
 オミは、栞に付けられたリボンに興味を示すタイガーの魔手を避けるようにして眺める。
 「お土産が一個できた。」
 「でもお前、本読まないじゃん。」
 イツキの突っ込みに、口を尖らせるオミ。
 そんな二人にカズキが慌てた風に声をかけて来る。
 「体育館に急ご。試合が始まっちゃう。シンちゃんとマーちゃんが出るんだよ。」
 「体育館?試合?」
 「とにかく急いでっ!始まっちゃうっ!」
 イツキの疑問に答えず、先を急がせるカズキ。
 「走ってっ!」
 ヤスノリとリョウまでが前の方から声を掛け急がせる。
 「走れって…。」
 イツキは未だしも、オミはタイガーを連れている上に独特の服装が走る行為を阻害する。
 タイガーが人の多さに怯えた様子を見せ、小さく鳴きながらオミの胸元にしがみ付き、オミはそんなタイガーを庇う様に手を添え、小走りで付いて行く。
 「オミさん…、女の人みたいな走り方になってる…。」
 「女って…、後で殴られるぞ。」
 「だってー…。」
 足首までかかる裾、浅いスリット、足下へ向かうほど裾が広がっているとはいえ、走るなといわんばかりのデザインをされている。
 「なんで、そんな動きにくそうな格好してんの?」
 「『民族衣装』だし。」
 「なんでそんなデザインなの?」
 「昔っからだし。」
 カズキの質問の意図と、イツキの答えが微妙に食い違っている。
 「えーと…、だから…。」
 「ワザとなんだよ。」
 尚も食い下がろうとするカズキを制しイツキが言う。
 「オミ。お前、ちょっとだけ浮きながらついてきな。」
 「え?走らなくて良いの?」
 オミはオミで微妙にボケている。
 「いいから、浮いて来な。」
 「じゃ、遠慮なく。」
 先導するヤスノリやリョウに付いて行くと、体育館らしき大型の建物が見えて来る。
 「おーい、こっち。」
 ヒロがその建物の脇から大きく手を振って合図を寄越す。
 合流すると、すぐに
 「こっち。この階段あがって、中二階に。」
 行き先を案内される。
 階段をあがると、トシが少し前方にたって手招きしている。
 「こっちこっち。」
 トシの所まで辿り着くと、
 「あそこでミヅキとキョウコ姉が場所を確保してるから。」
 体育館中央方向を指し示される。
 「あ、イツキさん、オミさん、こっちこっちぃ。」
 トシの声が聞こえたらしいミヅキが、振り返って手招きする。
 君達手際が良いね。
 ミヅキの呼ぶ声に応じて向かうと、二人がそれまで座っていた席を立ち、イツキとオミに勧めてくる。
 「はい、どうぞ。座っちゃって。」
 「え?だって君等の席でしょ。」
 「確保してただけだから、座っちゃって。いつまでも立ってると、後ろの人の迷惑になるし。」
 「じゃ、まぁ、お言葉に甘えて…。」
 
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お姉ちゃん ②

 超能力者二人が思考の迷宮に嵌まっていると、カズキの後ろの方から声が聞こえる。
 「カズキ?どうしたの?お父さんたちは?」
 「お父さん配達、お母さんは買い物ぉ。」
 「ふーん、そっか。お客さん?」
 ヒョコっと、カズキと似た顔立ちをした、声の主が顔を出す。
 「あ、いらっしゃーい。それと、この間は御馳走様でした。カズキの姉のミヅキと言います。飴、美味しかったです。」
 「本当にコレ、キミが作ったのっ?」
 プラスチックの加工と、今目の前にいる少女が、どうしてもイコールで繋がらないイツキが勢い込んで尋ねる。
 「は?あぁ。はい。作りました。何回か試行錯誤を繰り返して…。」 
 それがどうかしましたか?
 と表情で尋ねる。
 あまりにあっさり肯定されたので、大人二人は思わずまごついてしまう。
 材料はどうした?作業場所は?なんで多面形?中は空だよね、鈴入ってるけど、っていうかそもそもコレなに?
 聞きたい事はあるけれど…、勢いがそがれたので無理っ。
 「えー…と、えー…、売り物だよね?」
 イツキがバツの悪さから逃れたいが為、タイガーが気に入っていたのを無理やり思い出し尋ねる。
 「えぇ、一応。でも、大きさが半端だから…。」
 いいえ、仔猫のタイガーにはぴったりです。
 タイガーがオミの押さえている手から、必死にキラキラへと前足を伸ばしている様子を目にし、姉弟がクスクス笑い出す。
 「あー、確かにタイガーになら、丁度良いかも。軽いしキラキラしてるしね。」
 「じゃ、取り敢えず先にコレ頂戴な。タイガーが我慢の限界みたいだから…。」
 ジタバタと暴れるタイガーを、オミがやっとといった様に取り押さえている。
 「はーい、まいどー。」
 いや、毎度は買ってないよ。突っ込まないけどね。
 「ありがとうございます。」
 姉が照れくさそうに礼を口にする。
 「値札をチョッキンしていいですか?お姉ちゃんのが売れた証拠にしたいんで。」
 「構わないけど、証拠って?」
 「売れたら、売り上げの一部がお姉ちゃんのお小遣いになるんです。」
 「なーるほど。」
 思わず納得するイツキ。
 「くぅーっ。カズキも小遣い稼ぎしたいぞー。」
 「あんたも何か作れば良いじゃない?」
 姉があっさり言う。
 「うん。無理。プラモデルすら完成させる前に飽きるのに…。」
 「プラモの組み立てくらい簡単じゃない。パーツが揃ってるんだから。」
 なんとなくキラキラの材料が分かったぞ…。
 「難しいなんて言ってないし、飽きるって言ったんだしぃ。」
 憎まれ口を叩く。
 「大して変わらないでしょ。」
 かーるくハタかれる。
 「で、タイガー?ど・する?外はまだぬかるんでるから、外で遊ぶとエライ事になっちゃうよー。って言うか、お二人がまだ見るんならウチで遊ぶ??」
 「自分がタイガーと遊びたいんでしょー?」
 「じゃ、お姉ちゃんが店番って事で。カズキはタイガー番で。」
 今度はペッチンと叩かれる。
 「別にいいけどね。店番代わっても。脇の部屋にしときなさいよ。」
 「はーい。じゃ、タイガーおいで。あそぼー。」
 「助かるけど、いいの?」
 「いいの、いいの。」
 それじゃぁ、お言葉に甘えて…、頼むね。とキラキラとタイガーを預け、超能力者二人がさっきまでの続きをと店内を見て回るのに戻る。
 暫らくすると、再びオミの、少々興奮した声がする。
 「キーちゃん、パズルあるよ。買ってぇ。」
 おねだり。
 「お・ま・え・はぁっ。パズルいくつも持ってんだろーが。」
 「これこれ。10000ピースの大物。で、どっかで見た憶えのある風景の…。」
 オミがウキウキしながら、イツキの元へ持って来る。
 「ん?確かに憶えがあるな…この風景。って言うか、パズルなんて扱ってるの?」
 店番を交代したミヅキに尋ねる。
 「えぇ。パズルもありますし、プラモデルもありますし、ぬり絵や積み木もあって、文房具もありますし、何故か料理本もあります。」
 料理道具もあれば、掃除用具もあるし、ロープやネジや釘や工具類もあって、ペンキ等もある、シャンプーや石鹸やひげ剃りもあって、アクセサリーといえば聞こえの言い小物類もある、襖紙や障子紙もあるし、必要ならカーテンやカーペットも取り寄せるよぉ、ウチって一体何屋だったけー?
 「だから買って。お土産にするから。」
 オミ、ねばる。

お姉ちゃん ①

 お宿のある比較的広い道から少々離れた所にある脇道を入って行くと、雑貨屋が目に入る。
 「あ、ここか。」
 少々離れた位置からでも、中々に広い店構えなのが確認できる。
 一日降り続いた雨の後が残る道を、水溜りをよけつつ店先へと近づく。
 「いらっしゃーい」
 元気な、そして少々幼い声が出迎える。
 「おや、店番してんのかい。」
 「あれ?イツキさんとオミさん。とタイガー。ど・したの?」
 「ご挨拶だね。」
 微笑みながらイツキが応えると
 「えー、だって用ないでしょ?雑貨屋に。」
 不本意だと態度で表す。
 「うーん…、生活雑貨や日用雑貨は、確かにあんまり用は無いかな。」
 店頭に並ぶ生活に密着したアレコレを見つつ応える。
 イツキがカズキとやり取りをしている間、オミは不思議そうに店内を見回している。
 「オミさんには珍しいみたい?どこの家にもあるモンだと思うけど…?」
 なんでそんなに不思議そうな顔するの?
 「…なんか…いっぱいあって……。」
 オミがポソっと答える。
 お?口利いてくれた。わーい。
 とは声には出さず、変わりに表情に表し、にへらにへらするカズキ。
 「って、用らしい用もない店に、なんでわざわざ?」
 「うーーん?何かあるかなって。」
 ?雑貨なら売る程あるが…。何かってなんだ?
 首を傾げつつ悩むカズキ。
 「って、言うか、リョウ君に訊いてね。カズキ君ちってどこ?って。」
 「へ?なんで、また…。」
 ウチなんかを?とは続けず、より一層首を傾げる。
 カズキのその様子を楽しげに見つつ
 「雑貨屋だって聞いてたし、近所だろうから場所教わって。」
 「お母さんにでも聞いた?例の飴の時にでも。」
 イツキが軽く頷いて答える。
 「成る程ね。」
 あっさり納得するカズキ。
 オミは、イツキとカズキがやり取りしている間に、キョロキョロしながら店の奥へと進んでいく。
 カズキは逆に、キョロキョロと見て回るオミが不思議らしく
 「鍋の蓋やらお玉が、そんなに珍しい?」
 首をひねる。
 二種類の片手鍋を手に首をひねるオミ。
 「セットの蓋があるヤツと蓋無しのヤツだよー。」
 小声で教えるカズキ。
 成る程と納得し、あった場所へ戻すオミ。
 「随分色々と扱ってるね。」
 「んー…。この辺、荒物を扱ってる店無いしね。」
 「荒物っ」
 意外な言葉がカズキの口から出たので驚くイツキ。
 「え?だって、荒物って言うんでしょ?あの辺の。」
 店の一角、オミが不思議そうにハタキを手にしている辺りを指し示す。
 「オミさん、それ猫おもちゃじゃ無いからねー。」
 タイガーがハタキに強い興味を見せたのを目にし、慌てて言い添えると、オミは大慌てでハタキを元の位置に戻し、タイガーを抱え込む。
 「それは掃除道具です。部屋の高い位置を、それでパタパタして、埃を払うの。」
 ほうほう成る程と、頷きながらハタキをなめるように見る。
 そんなオミの姿を見て
 「二人は普段どんな生活してんの?」
 イツキの顔を覗き込むように尋ねる。
 覗き込まれたイツキは、すかさず顔を逸らし
 「聞いちゃダメ。」
 即答する。

 オミが随分と熱心に見て回るので、イツキも釣られて見て回っていると、奥の方からオミの慌てた声が聞こえて来る。
 「だ、ダメだって。タイガーッ。それ、売り物っ。」
 とうとうタイガーが堪え切れずにオイタをしてしまった様で…。
 イツキがやれやれとタメ息を吐いていると、鈴の音と共に足下になにかが転がってくる。
 「もぅっ、タイガー、どこに弾いたの?」
 オミがタイガーを叱っている声が聞こえるが、それは軽くほっといて、足下に転がって来たモノを拾い上げる。
 目の前にかざすと、キラキラ光る、多面体で出来たアクセサリーの様だ。
 とはいえ、直径が7・8cmあるのでアクセサリーとしては大きいが。
 「キーちゃん、そっちに転がっていかなかった?キラキラしてて鈴が入ってて、真ん丸じゃないけど丸いの。」
 「これか?」
 今し方拾い上げたキラキラを見せる。
 「あ、それそれ。キラキラを気に入っちゃったみたいでさぁ…。」
 二人がグダグダやっていると
 「どーしたの?なんか必要な物でも見つかった?」
 カズキがひょっこり顔を出し、イツキの手に乗っているキラキラを目にする。
 「あ、それ。」
 「?コレはナニって表現すべきもの?」
 イツキがキラキラを、手の上で軽く揺り動かしながら尋ねる。
 「さぁ?」
 尋ねられたカズキが真顔で首を傾げる。
 「さぁ?…って、自分のところで扱ってる物でしょうに…。」
 「それ、お姉ちゃんが作ったんだ。なかなか上手く出来たからって、お父さんが店に出したの。売れるかどうかは別にして。」
 「お・ね・え・ちゃ・ん?」
 「うん。お姉ちゃん。」
 「お姉ちゃんって、普通、世間一般的には、年上の女姉弟を指すわけだが?で、これはどう見ても、プラスチック製なワケだ。」
 「うん。どっちもその通りって理解してるけど?」
 それがどうかしたの?
 「キミんところのお姉さんは、プラスチックの加工をしちゃうの?」
 「しちゃった、ねぇ。」
 「しちゃった、…って。」
 イツキもオミも目を丸くする。
 「お姉ちゃんね、ハンドメイドで小物類とか良く作るんだよ。大抵は布やフエルトや毛糸を使うんだけど…、どうも気が向いたらしくて…。」
 どこをどう気が向くと、プラスチックを加工しようって気になるんだ?それも女の子が…。
 

お兄ちゃん達 ⑪

 15分後。
 二人は傘を深く差し、先ほどの店の前へ戻る。
 見ると店の入り口には準備中の札が掛けてあり、窓や入口には内側からカーテンが掛けられ、中の様子が分からなくされている。
 脇から小さく声がかかったのでそちらへ振り返ると、先ほどの少年が裏口らしき場所から顔を出して手招きをしている。
 「悪いけど、こっちから…。」
 誘われるまま二人が後に従うと、やはり店の裏口だったようで、狭い通路を僅かに通って店内へ辿り着く。
 「壁寄りの方がいいかな。バレにくくて。」
 適当に座ってくれと言う。
 「昼定食が幾つかありますけど、そっちにします?賄いじゃなく。」
 「我儘言えた立場じゃないんで、そちらが稼げる方でいいですよ。」
 「稼がせて頂けるんですか。じゃ、通常メニューの一番高い…。」
 マサトが悪ふざけをすると
 「こーらっ!」
 父親らしき男性からあっさり叱られる。
 「お前は賄いの準備でもしてろ。」
 すみませんね、まだまだガキで…等、謝罪をしてくる。
 結局、定食なら大して時間がかからないと言うので、定食を2人分と副菜を2種類頼む。
 ちなみにタイガー用には、猫飯簡易パックと外出用マイ皿(ご飯用・水用の2種)を持参している。
 タイガー用を持ち歩いてはいても、雨が降っている為、又、雨を凌げる場所にアテがなかった為に出す事が出来ず、結果タイガーもお腹をすかせていたワケで…。
 オミがタイガーに急かされつつ、猫飯と水を用意していると
 「へぇ、マミーバッグでは無く、ニャンコバッグを持ち歩いてるんですね。」
 先に別注文の副菜を運んで来ながら、マサトが感心したように話しかけて来る。
 「ネコ用のアレコレが、外で簡単に手に入るとも思えないからね。」
 イツキが気安く応じる。
 「なんか嵩張る物も入っている様に見えますが…?」
 「あー…。それは、アレよ…。」
 口篭もる。
 「?」
 「ト○レ」
 自分たちしかいないとは言え、場所柄を考慮し声を潜める。
 「あー。なーるほど。あっちに人間用があるから、その近くに置いて使わせると良いかも。」
 マサトはカラカラと笑いながら店の一角を指し示しつつ、厨房へ戻っていく。
 「やっぱり彼らは、お互いの店を客に教えたりしないみたいだね。」
 マサトが戻って行くのを確認してから、珍しくオミが先に口を開く。
 「ここの事も言わなかったしなぁ。」
 「客を廻しあってズルく稼いでいるって、ご近所に思われるのを避けているとか?」
 「客を廻し合うなんて、どこでも当たり前にやってる事だろ…。」
 「わざと教えないようにしてるってワケでも無さそうだよねぇ。聞いてないか?とか言ってるし。」
 「訊かれたら言うけど、訊かれてないから言わない、って事かね。」
 「って言うか、彼親切ね…。」
 店は超能力者NGって営業してるのに…。
 ご贔屓さんにバレたら離れられちゃうかもしれないのに…。
 店が経営危機に陥るかもしれない、という危険を冒してまで招いてくれるなんて…。
 「ね。って、もしかして、俺たち…ひもじそうな顔でもしてたかね?」
 「……見かねたってやつ?」
 先に運ばれた副菜をつつきながらヒソヒソボソボソやっていると、直に定食が運ばれて来たので大喜びで食べ始める二人。
 と、裏口の方から人の気配が…。
 店舗側に居た人々が、一瞬だが警戒する。
 「マーちゃぁん、おじさぁーん。」
 聞き覚えのある元気な声と
 「ご飯余ってたら譲ってぇ。」
 姿。
 マサトは、警戒していた素振りを全く見せずに応じる。
 「カズキ、どした?米ねぇのか?」
 つい先日、二日酔いの二人を地獄の底に叩き込んだ、マシンガン質問のカズキ。
 悪意が無いだけに始末が悪い。
 幸いにも、戦々恐々としている超能力者二人には気付いていない様子。
 「米はあるっ!しつれーな。飯が足りないだけだっ!」
 「足りないって、多めに炊かねぇの?」
 「朝用と昼用を一緒に炊くんだけど、足りそうもないの…。余ってる?」
 実は自分が昼食時間まで待てなくて、こそっとふりかけご飯を食べて飯の量を減らしたのは内緒だ。
 消化されちゃってるから、脳内からも消去されつつあるし…。
 「まぁ、一応。でも入れ物が無い。って、なんでこんな時間に昼飯?」
 「入れ物でしたら、ここに。」
 エヘエヘとタッパーを厨房に差し出しながら、事情説明などをゴチョゴチョ。
 「長っ尻のお客さんに、お父さんとお母さんが捉まっちゃって…。」
 で、客がいる事にやっと気付き…、
 「えーーーっ!ちょー……っ」
 モガガ…。
 大慌てのマサトに口を塞がれる。
 「おまっ。ちょ…声デカッ。」
 「ウガ。」
 ばれたらマズイと気付き、うんうん頷いて承知したと伝える。
 「で、なんでここに超能力者さん?」
 ご近所を憚り一部小声にする。
 「ぅー…ん…とぉ…。」
 訊かれたマサトも困る。
 話題の主も困る。
 思案した末、マサトの口から出たのは…。
 「食いっぱぐれて、迷子…?」
 まんまじゃん。
 カズキが大爆笑したのは言うまでもない。

お兄ちゃん達 ⑩

 「お腹減ったー。」
 オミが情けない声を上げる。
 流石に梅雨時だけあって、雨がシトシトと鬱陶しく降り続いている中、散歩を強行している。
 「雨に煙る町を散歩、なんて暢気な事しなきゃ良かったな…。お宿で大人しく過ごして、別料金出して昼飯準備して貰えば良かったか。」
 ましてや、今二人が散策しているのは住宅街。
 飲食店なんて数える程しか無いところへ持って来て、やっと見つけても悉く超能力者NGだったりする。
 住宅街は、どこでも大抵保守的だから致し方ないのだが。
 そして、そんな経験は、時間が経てば『良い思い出』になったりすると、長い時を生きて来た超能力者は経験で分かっているので、いちいち腹を立てたりはしない。
 しない、が…。
 それとは別に、腹は減る…。
 「宿の方に戻って、あのパン屋でパン買うか。惣菜パンも扱ってたろ。」
 空腹に負けたオミがうんうんと頷く。
 「ただ問題は……ここがどこなのかって点なんだが…。」
 迷子。
 いい歳こいた超能力者が二人。
 二人揃って迷子。
 「うー…ん、困ったぞ。店を探してあっちこっちウロチョロ入り込んだから、お宿がどの辺りなのかさっぱりだ。」
 途方に暮れる二人。
 取り敢えず、それっぽいと思われる方角へ適当に歩いて、途中誰かに会ったら宿までの道を聞こう、と再び歩き出す。
 最悪テレポでポンもあるし、遠視で俯瞰って手もあるしと、超能力者の中でもチートな超能力者は、いたって暢気である。
 ただ、あまり超能力で対応してしまうと、全く『楽しめない』事も分かっている。
 なので使わない、緊急避難的処置程度にしか『使わない』。
 しばらく適当に歩いていると、前方に飲食店らしき店構えが見える。
 ほっと一安心する二人。
 食べ物にありつけるとは限らないが、最低でも道を訊く位は出来るだろう、そう思って店に近づいていく。
 と、店から客らしき男性が傘を差しつつ出て来る。
 その男性は、こちらへ数歩歩き出し、つと二人に眼を留め、にわかに苦々しい表情を見せる。
 全身から嫌悪感を溢れさせ、傘の内から道路中央へ唾を吐く。
 「けっ。」
 すれ違いざまに睨み付け、言い捨てて去って行く。
 「オミ達、あの人になんかしたっけ?」
 馴れっこな二人は、さして気にすることなく受け流す。
 「さぁて。ただ、道すら訊けそうに無いってのが少々…。」
 困っちゃうね。
 うん、そ・だね。
 二人が暢気に困っていると再び店から、今度は腰下エプロン姿の年の頃16・7の少年が、傘を差しつつ顔を出す。
 「ぉわっ。超能力者サン。」
 「テレビで知ってるクチかい?」
 イツキが軽口を叩く。
 「いえ。シンの所に泊まってらっしゃるんでしょ?シンから聞いてます。」
 どうやら、ここにも幼馴染みが…。
 「って、言うか、シンかリョウから聞いていませんか?あ、俺マサトって言うんですけど…。ウチは失礼ながら超能力者NGなんで…。」
 「あー……。やっぱり。」
 超能力者二人から諦めにも似た雰囲気が漂う。
 「ウチ等は構わないんですけど…、定連さんの大半が超能力者嫌いで…。すみませんね。どこかに向われるんでしたら、道ぐらい教えますよ。」
 「お宿と、お宿からさして離れていないところのパン屋を知りたいかな…。」
 迷子ですって白状してるようなものなんだが。
 「宿の近くのパン屋?ヤスノリのところかな。って、この時間にパン屋って昼食べてないんですか?」
 で、迷子なんですね。
 ええ。迷子なんです。で、昼も食べてないんです。
 タイガーまでがオミの上着の隙間から顔を出し、情け無さそうな声で鳴く。
 「雨の中アレですが、後15分位時間潰せます?宿に帰る方が断然早いけど。」
 「?」
 「そしたらウチが一旦休憩に入るから、賄いで良ければ出せますよ。あっちも、今から飯を作ってくれって言われても困るだろうし、パン買って帰るのも気が引けるのでは?それに、他の店も、悲しいかな昼休憩に入っちゃうかと…。」
 だから、出前も多分無理…。
 二人がもっけの幸いと二つ返事でOKすると、
 「じゃ、そこの裏にきてくださいな。表からだとちょっとマズイんで…。」
 と言い残し、自分はお得意さんに出前の食器を下げに行く所だったからと、急ぎ足で離れていく。

 

お兄ちゃん達 ⑨

 二人が日本酒を堪能していると、ヒロタダがひょっこり顔を出し挨拶をする。
 「俺、これであがります、姉が交代で出ますんで、ごゆっくりどうぞ。おやすみなさい。」
 「お。世話かけたね。おやすみー。」
 少年が手をひらひらさせつつ離れていくのを見送り、イツキがボソっと呟く。
 「姉?」
 「まー、別に珍しくは無いよね。姉弟なんて。オミとしては、宿の兄弟が、揃って影響を受けていないようだって事の方が不思議だ。」
 「それだけ、この地域は汚染の影響が少なかったって事だろ。」
 「なのに、なんで、一人っ子や二人兄弟ばっかりなんだろ?影響少なかった所の、影響の出ている子がいない兄弟って、大抵そうだよねぇ。」
 「うー…ん、やっぱり、影響を受けた子を育てるのは覚悟が必要だろうからな。家族や近隣の人達の理解と協力も必要だろうし…。次の子も影響が出ないって保障は無いんだしね。産む回数が増えれば増えるだけ、否も応も無く、覚悟を必要とされる回数が増えるワケだから…しんどくなるんだろ、精神的に。言い方は悪いが、どんどん怖くなるんじゃないか?で、その怖さに耐え切れそうもないと判断して、諦める。と、違うかね?」
 等と話していると、明るく元気な女性の声がかかる。
 「こんばんはー。って、ほんとに大物超能力者サンだわ。カズキにウチを教わったって本当?」
 振り返るとそこには、なかなかの美人が、一気に雰囲気を変えてしまうような笑顔で二人を覗き込んでいる。
 「ばんはー。うん。カズキ君に教わった。」
 「あの子ったら、可愛い事してくれちゃって。」
 口調の端々に親近感が溢れているので、さして親しくない二人にも、憎まれ口を利いているだけだと分かる。
 カズキの話しを知っていて、尚且つ、カズキを指しあの子と表現をする以上、この女性はヒロの姉と理解できるが、一応、念の為確認を取る。
 「えー…と、キミはヒロタダ君のお姉さんでいい?」
 「あぁ、はい。キョウコって言います。よろしくー。」
 「こちらこそー。」
 イツキ、鼻の下伸びてないか?
 オミは軽く微笑んで挨拶の代わりとする。
 「はー、オミさん、美人サンねぇー。」
 悪気は全く無く、只々関心している様である。
 「男にしておくのが勿体無いぐらい。キレー。」
 まったくうれしくありません。
 オミが軽く憮然とした表情を見せると、
 「あ、ごめんなさい。つい、まんま口にしちゃって。」
 あっさりと謝罪する。
 いや、あなたも美人だし、スタイルも良さそうね、とは思っても言わないオミ。
 代わりに頬笑み、首を軽く振って怒ってはいないと伝える。
 オミのその様子で安心したか、一際良い笑顔を見せ
 「ごゆっくりどうぞ。」
 言い残してカウンターへと去っていく。
 「美人だったな。」
 イツキがボソっとオミに呟く。
 「スタイルも良さそうだったね。」
 オミも応じる。
 男って……。
 とはいえ、店内の他の客も男が多いからか、これと言って用もないのにキョウコに声をかけている。
 キョウコも慣れているらしく、軽く応じ、時には笑い声が上がる。
 一歩間違えればきわどくなる表現をするものがいたりすると、別の方からそれを諌める声がしたり、父親らしきカウンターの男性が目を光らせたり。
 夜も更けつつある為か、宴もたけなわな状況を見せ始める。
 ワイワイ、ざわざわと飲兵衛共が楽しげにグラスを空けていると、カウンターの方から店の男性の声が聞こえて来る。
 どうやら、歌手志望の人が営業に来たらしい。
 店内の奥側でやるから、良ければ聞いてやってくれとの事。
 気に入ったらチップをお願いします、とは伴奏役の同行の男性。
 何杯目かのお代わりを手にしたイツキが、興味を示し『営業』の二人連れの様子を眺める。
 オミの興味はもっぱら『酒』に向けられているが。
 ちなみにタイガーの興味は、オミの膝から必死に背伸びをし顔を出した、テーブル上のツマミだが。
 『営業』と言えば聞こえの良い『どさ回り』の二人は、始めの2・3曲に、店内のほぼ全員が知っているだろう有名どころのヒット曲を歌い、次にこれは自身の持ち歌であろう、マイナーな曲を2曲程歌う。
 店内の客の様子はまずまずといったところか。
 歌詞も曲も声も特に悪くもなく……。
 『悪くもなく』ではダメなんだけどもね、メジャーデビューするには。
 客が冷めて行くのを察したか、再び、今度は別の有名どころの曲を歌う。
 伴奏の男性が客の様子を素早く見て取ったか、早々と趣向を変え客にリクエストを求める。
 それに応じた客の一人が、チップを添え当人の好みの曲をリクエストする。
 結果、再びそこそこの盛り上がりを見せる。
 前の客に続き、別の客もチップを添え新たにリクエストをすると、その曲でもやはりそこそこ盛り上がる。
 何人かの客がリクエストしていく内にとある客が、同じくチップを添えつつダンスナンバーをリクエストし、盛り上がりは一層増して行く。
 イツキは、歌手志望の一行が超能力者を苦手としている可能性を考慮し、カウンターまで出向くのを止め、テーブルを片付けた後に近くを通ったキョウコへ金を差し出して、ドリンクのお代わりを注文する。
 「ケイブルグラムと日本酒ね。」
 「はぁい。オミさん、日本酒に嵌っちゃったんですね。ペース落とさないと後が辛いですよ、日本酒は。」
 「悪いね。自分で行かないで。」
 「いえいえ。あの人たちが超能力者サンを苦手としてるかもしれませんし。目に付かないようになさってるんでしょ。じゃ、ちょっとお待ち下さいね。」
 他の客たちの多くは、リクエストされたダンスナンバーに盛り上がりを見せ、一部の者は実際に踊り出している。
 「あれは、本人達にとって地獄の苦しみだろうねぇ…。」
 興味が無さそうにしていたはずのオミが、盛り上がっている客達の向こう側、歌手志望の一行を透かし見る様にして言う。
 確かに、いくらチップが入るとはいえ、自分の持ち歌ではなく、全く別の曲での盛り上がりでは、完全否定されたも同然であろう。
 表向きの様子では、楽しげに曲を弾き、歌い、一緒になって踊ってはいるが、その心中たるやいかがなものか…。
 「金を稼いでこその『お仕事』さ。嫌ならさっさと別の事を『仕事』とすればいい。」
 逆に、興味を持っていたと思しきイツキが冷めた口調で応える。
 「ま、そうだけどね。」
 「他に『出来る仕事』が無いのなら別だけど、あるでしょー、探せば。自分を『みじめ』と感じ無いで済むお仕事、探してみつければ良い。」
 「キーちゃん、こ・ゆとこあっさりしてるよね…。」
 「『これしかない』ってのは、大抵が本人の思い込みだからな。爺姥ならまだしも、若いのに、自分の思い込みでがんじがらめって、アホかと。自分で自分を縛ってナニが楽しい?家業を継がなきゃなら無いってワケでも無いんだろーに。」
 「せざるを得ないとかってあるじゃん?」
 それってどう思う?
 「止むに止まれず?少なくとも、あの人達には当てはまらないわな。家族の反対を押し切ってってクチなんだろうけど、可もなく不可もなくじゃぁ、メジャーは無理でしょ。自分で自分を『みじめ』と感じるのなら、さっさと転向すべきだな。続けてても無駄だろ。」
 グラスに僅かに残っていた酒を一息に飲み干す。
 「おまっちどーさまぁ。」
 辺りに漂っていたシビアな空気を一瞬で吹き飛ばす明るい声。
 「なに?なに?真面目な話しでもしてらした?」
 微妙な雰囲気を感じ取ってか、二人の顔を交互に見つつ尋ねる。
 イツキが苦笑で応えると
 「お酒が入ってる状態で、真面目な話ししても無駄よぉ。所詮酔っ払いの戯言になっちゃう。」
 明るく、あっさりと一蹴する。
 「そ・れ・よ・り。猫ちゃんに猫ガムあげてもいいかな?さっきから、どうも人間用のツマミを狙ってるみたいだから…。人用のは、食べさせない方がいいんでしょ?」
 「あー…。自分用の、食べちゃったんだよねぇ。あっという間に…。」
 「あげてもいいなら、今持ってるし。こう言うのは、一応飼い主さんの許可を得ないとって思って。いい?あげて。」
 オミの頷きよりも、遥かに大きな期待に満ちた瞳がキョウコを見つめる。
 「う~~ん、猫ちゃん、お目々ぐりぐりだぁ。」
 はい、どーぞとタイガーの目の前に猫用ガムを置く。
 じゃ、それの代金を…、とイツキが金を出そうとするのを
 「あ、いらない、いらない。これは猫ちゃんに、あたしからのサービス。」
 と制し、それじゃとあっさりカウンターへと戻って行く。
 タイガーの顎の脇をコショコショするのも忘れずに。
 「なんだろう。タイガーが妬けるのは…。」
 キョウコが離れたのを見計らって、タイガーの鼻先を軽くつつきながらイツキが呟くと、つつかれたタイガーが迷惑そうに小さく鳴く。
 「ニャッ。」

お兄ちゃん達 ⑧

 二人が一杯目を飲み進めている間にも、店には新たに客が入り、賑わいを増していく。
 「ふーん。客の人数が増えてるのに、喧しくはならないんだな…。」
 「お行儀の悪い客は追い出されるんじゃない?」
 店名もそうだし、カズキも似た様な事を説明していたワケで…。
 「ねぇねぇ、それより、ここに書いてある、コレってナニ?何だと思う?」
 1杯目をかぁ~るく空けたオミが、テーブルに備えられている飲み物一覧の一点を指し示し、不思議そうに聞いて来る。
 「んー?」
 イツキが覗き込むと、そこには『さけ』の文字が。
 「どーみても、さけと書いてあるが?」
 「だってさ、ここに書いてあるのって、全部『さけ』だよねぇ??」
 まぁ、飲み屋だし。飲み物一覧だし。ノンアルコールやソフトドリンクは別個に書いてあるし…。
 敢えての『さけ』記載。
 「う…ー…ん…?」
 二人が頭を悩ませていると、脇から声が掛かる。
 「どーしました?なんか変な事でも書いてあります?」
 先程の少年が、空いたテーブルを片付けた際に二人の様子を目に留め、声をかける。
 「あ、あー、きみ、あのさ…。」
 イツキが口を開くと
 「ヒロタダって言います。ヒロで良いですよ。で、コレ、ですか?」
 少年が件の一覧表の『さけ』の部分を指差す。
 「『さけ』がどうかしましたか?」
 「だって、これに書いてあるのって、全部『さけ』だろ?」
 「ん?」
 生粋の日本人と、日本人に見ようと思えば見えるけれど日本人とは言い難い二人と、その三人の様子を見てマネをする一匹が、揃って首を傾げる。
 ①敢えてのさけってナニ?
 ②いや、だって、さけって酒じゃね?
 ③だってここに書いてあるのって全部さけじゃん?
 ④なんで皆首曲げてるの?
 全員、微妙に考えがズレている。
 「あっ!分かった!」
 少年が声を上げる。
 「?」
 「表現とそれに対しての理解って言うか、受け止め方の違いが原因だ。」
 「は?」
 ナニソレオイシノ?状態の超能力者2人。
 「いや、あの…。この『さけ』って『お酒の種類』って意味じゃなく、そのものズバリ『酒』を指してるんです。」
 ウン、ワカラン状態になった2人の超能力者。
 いや、分かれよ。
 「だから、この『さけ』は『日本酒』って事です。」
 苦笑しつつ少年が食い下がる。
 「あぁっ!ニホンシュ!」
 アクセント変デスヨー。
 「あったね。あるね。そーいえば、そういうのが。」
 「日本酒かぁ。」
 オミも思わず声を漏らす。
 少年は、お、オミさんの声まともに聞いたの初めてかも、とは思っても顔には出さず、代わりに尋ねる。
 「試飲してみます?少しですけど、出来ますよ。」
 エート?ナンテイッタ?イマノナニゴ?
 「…日本語なんだけど、…英語で言わないと通じない?」
 熟語で音読みだから漢語かもしれませんけどね。
 「シインって??」
 子音?死因?私印?え?飲み物の話しだったよね?酒の…。
 超能力者二人が二人とも『?』状態を示す。
 もしかして、一杯で酔っ払った?酒弱い?日本語ペラペラだったよね?
 こちらはヒロの疑問。
 うん、やっぱりズレてる。
 「えー…と、試し飲みの事ですが…?」
 「!」
 二人の表情が一瞬で明るくなる。
 「あーっ!あぁっ。はいはい。成る程ねー。」
 分かった?ホントに?なんか怪しいけど…?
 とは思っても表には出さず、話しを進める。
 「カウンターに来て頂かないとなりませんが。試して見たければどうぞ。」
 二人はいそいそとカウンターへ向う。勿論タイガーも連れて。


 

お兄ちゃん達 ⑦

 日が落ちて暫らく経った頃。
 イツキとオミと、オミの肩上のタイガーが、辺りを見回しつつ歩いている。
 昼間、カズキに教わった店を探しているワケだが、知らない町の生活道路を進む為、どうしてもキョロキョロと見回す事になる。
 「えー…と?この先、突き当りを左だよな?」
 「う…ん、そのはず…なんだけど…。どーみても住宅街だよねぇ?そんなとこで飲み屋なんてやれるの?」
 酔っ払いがうるさくて近所迷惑になるから、嫌がられてやっていけないのでは?と疑問を呈するオミ。
 「んー…、道間違えたかね?カズキくんが嘘を吐いているとは思え無いしなぁ…。」
 二人と一匹でキョロキョロ。
 「カズキくんの書いた地図だと、店の敷地が結構広かったけど…この辺の家って、悪いけども狭いよねぇ…。」
 住宅街では、大抵同じような大きさの家が立ち並ぶものだ、との前提でオミが言う。
 件の突き当りまで辿り付き、左を確認すると、通りの右前方に一際黒い影がモソっと見える。
 その影の向こう側に、近隣の家から零れる明かりよりやや明るい光りが目に入る。
 その明かりの向こうにも、モソっとした黒い影、その影の向こうにまた明かり…。
 道に面した部分に、少々背の高い樹木が間隔を空けて植えられ、その樹木の間から明かりが漏れていると分かる。
 二人は顔を見合わせ、その明かりを目指す。
 辿り着いた先は、道路側に背の高い木、その奥に少々背の高い木、そのまた奥に大人の腰上程の高さの木と、段々に木の高さが低くなり、その間を縫う様に小道が通っている。
 道路に零れていた明かりは、樹木の間や小道に所々設置してある誘導灯の明かりである。
 誘導灯を辿った奥に、大きめな建物らしきモノが見える。
 ここが目指す店であろうか?二人が辺りの様子を伺うと、小道の脇に、小道に面して立て札が設置されている。
 イツキがその立て札を見る為に敷地内へ入る。
 『Bar 暴れるな』

 店内に入ると、酒を飲むには早い時間の割に、既に何組かの先客が居り、そこそこ賑わっている。
 「いらっしゃーい。って、超能力者サンじゃん。」
 「どこ行っても、ソレが付いてくるね。」
 イツキが呆れたように苦笑しながら応じると、
 「テレビに出てる有名人さんですから。」
 悪気の無い返事が返って来る。
 相手は、背は高目だが全体的にまだ幼さを感じさせる少年で、年齢は14・5か。
 「あれ?いいのか?飲み屋で働いて…。」
 「家の手伝いですし。そこそこの時間になったら退散しますしね。」
 にっこり笑って応える。
 「ウチはキャッシュオンデリバリーなんで、注文はカウンターでお願いします。お席は空いてる所をお好きにどうぞ。」
 簡単に店の方式を伝え、二人のそばを離れる。
 猫の事も、超能力者は云々も無し。
 客の方も店に入った直後は入口の方へ顔を向けたが、二人の姿を確認するとすぐに、それぞれがそれまで行なっていた事を再開する。
 カズキにその様な店を教えて貰ったとはいえ、あまりの拘らなさに二人の方が面食らう。
 取り敢えずと気を取り直し、空いている席にオミとタイガーが陣取り、イツキが注文をしにカウンターへ向かう。
 「この時間なら、食事はお宿で済ませてらっしゃいますね。ウチのツマミは軽めのが主体だから。」
 先程の少年が確認を取ると、イツキは軽く頷き
 「お宿がどこか知ってる?」
 思いつきで尋ねると、少年は悪戯っぽく微笑み
 「えぇ、知ってます。」
 「君も幼馴染みかい?」
 イツキが『誰と』とは言わなかったので、少年は無難にお宿の兄弟を想定する。
 「ええ、リョウちゃんと同い年で幼馴染みです。ウチにはいらっしゃらないだろうと思ってたんですけど。」
 「その口振りだと、既にどこなら行ったって、知ってるね?」
 「ヤスノリの所とトシの所にいらしたでしょ?二人とも他所の店の事は話題にしてないって、言ってましたけど。」
 注文しつつ、注文した品が出てくるのを待ちつつ話している。
 「ところで、どうしてココを知ったんです?リョウちゃんの所からだと分かり辛いから、プラプラと散歩してる程度では辿り着けないと思うんだけど…?」
 飲み物・ツマミ共に3種類(ペット用ドリンク・オヤツ含む)を注文したのと、手の空いている時間帯なのとで、商品を運ぶのを手伝いながら、少年が余程不思議と感じるのか尋ねて来る。
 「んー…。カズキっていう子に教わった。知ってる?」
 「カズキッ、ですか。」
 「知ってる、と。」
 「え、えぇ、知ってます。そぅか、カズキと接点がありましたか。どーりであいつ、最近機嫌が良いはずだ。」
 あいつ『超能力』や『超能力者』に憧れてるもんだから、と続ける少年の口調からは、『手のかかる弟』の事を話しているように感じられる。
 「年は違うよね。」
 「えぇ。違いますが、お互い土地っ子ですし。親同士が結構仲が良いんで、アイツも幼馴染みになりますね。」
 教えたって言えばいいのに、あいつはぁなどと、ここには居ない少年に対し悪態をつく。
 「幼馴染みのお兄ちゃんちの店を、教えてくれたんだろうか?」
 「うーーん?どうでしょう?むしろ超能力者OKの店として教えたんでは?飲み屋だとNGの店ばかりでしょ。」
 どうやら彼らは、お互いがお互いの家を - 店を - 紹介し合うと言った事は行なわないようだと察せられる。
 「まぁ確かに。そう尋ねもしたし。」
 話しながら商品をテーブルに並べていると、カウンターから少年が呼ばれる。
 「じゃ、ごゆっくりどうぞ。」
 少年は、オミに支えられながらテーブルに前足をかけ、顔を覗かせているタイガーの、耳の間をコショコショしてからカウンターへと戻って行く。

お兄ちゃん達 ⑥

 イツキが階下のラウンジへ向うと先客が一人、ペンを片手に真剣な顔で座っている。
 『お宿』の兄弟の弟の方が、ラウンジに陣取り難しい顔をし、首を傾げている。
 あっと言う間に、従業員(仮)と鉢合わせしてしまったが、致し方ないのでその件は銀河の彼方へとあっさり放り投げ、一体何をしているのかと、イツキが不思議そうに近寄ると、つと顔を上げ人懐っこくにっこり笑いかけて来る。
 「おじゃましてまーす。って、他が空いてるからいいよね?こっち使っても。」
 ラウンジに幾つか置かれているイスやテーブルを指し示しつつ、同意を求める。
 「せいぜい二人分しか使わないしね。で、何してるの?勉強?」
 「宿題っす。ウチ宿題多いのヨ…。」
 げんなりした顔で答える。
 「宿題?って、それ数学?」
 イツキが驚きを露わにすると、弟君はにんまりと笑い、
 「イツキさん、解けます?」
 どうだ難問だろう?こんなのが宿題で出ちゃうんだぜ、と自慢と自虐を織り交ぜた表情で尋ねるので、イツキは渋い顔で応じる。
 「解けはするだろうけど、説明したり理解させたりはちょっと…ねぇ。」
 宿題に立ち向かっている様子を、向い側の席から眺めててもいいか?と身振りで尋ね、了承を得たので腰掛けつつ尋ねる。
 「もしかして、自分の部屋とか無いの?」
 「あるけども、狭いし。それに……。」
 傍らの窓から中庭を眺めつつ言い淀む。
 「?」
 闊達なタイプの弟君が言い淀む様子が、イツキには不自然に感じられるが、彼が宿題に改めて取り掛かったので口を閉ざし、数式を解いていく様子を静かに眺める。
 弟君はゲンナリして見せていた割には、サクサクと解き進めている。
 数問解いたところで、おもむろに顔を上げ、脱力する。
 「あー…しんど…。」
 「簡単に解いていたように見えたけど?」
 イツキが労をいたわるように笑いかけながら尋ねる。
 「書くのと、いちいちの計算がメンドイです。」
 大真面目に答えてくるが…、それって全部じゃね?
 流石に口には出さず、苦笑いしつつ話しを変える。
 「さっき、なにか言い淀んでいたけど?おおっぴらにしづらい話し?」
 「んー……?」
 思い出そうとして首を傾げつつ、遠くを見る。
 「あ、あー。部屋、ね。」
 それそれ、と頷くイツキ。
 「って、部屋が問題なんじゃぁ無いですよ。うー…ん、言っちゃっていいのかなぁ…。」
 僅かに悩む様子を見せる。
 「マズイなら訊かないけど。お兄さんに横取りされてるとか?」
 イスからずり落ちかけながら否定する。
 「いやいや、兄ぃは別に…。」
 「そーいや、お兄さんは?カウンターにもいないけど…??」
 「カウンターを空けてても、別に問題無いですよ。借り上げなんだし。必要があるとしたら、種々雑多に掛かってくる電話番位でしょう。」
 種々雑多?イツキは疑問に思うが口を挟まない。
 「お泊りのお二方が自分達に用がある時は、部屋に設置してある『ブー』をブーってして頂ければいいんだし。」
 「『ブーをブー』って…。」
 イツキが堪え切れずに吹き出す。
 「カウンターにもありますしね。『ブー』が。」
 ブザーを押す真似をしてみせる。
 「で、兄ぃですが…。まだ捕まってるようで…。俺は、兄ぃが捕まってる隙に逃げて来たんです。」
 へ?と表情で尋ねるイツキ。
 「会合からの流れで…ウチに来たみたいで。同業サンなんですけどね、余所ンちの事がすこぶる気になるタチの方みたいで。で、その人に兄ぃはまだ捕まってるみたいです。」
 「同業者サン、か。無下には出来ないねぇ。」
 「そうなんです。迂闊に迂闊な事はねぇ…。」
 二人して、うんうんと頷きあっているとカウンター側から声が掛かる。
 「あー、お前やっぱりコッチに居たか…。」
 見ると、兄の方がカウンターを出てこちらへと向かってくるところが目に入いる。
 「自分だけ逃げやがって…。」
 ブツクサと文句を言いながら、弟の頭を軽く小突く。
 「留守番、留守番。宿題しながら留守番。」
 弟が言い訳をして誤魔化すので、兄はテーブルを軽く一瞥し、取り敢えずウソは吐いていないと確認する。
 「解放?帰った?」
 前半は兄の事、後半は押しかけて来た同業者の事だが、
 「うん。帰ったって言うか、父さんが、帰る様に話しを持っていって…で、ようやっと帰ってくれた。」
 溜息混じりの返事は、後半部分に対してのみ。
 もっとも、帰る = 解放 なのだから問題は無いワケで。
 「あの人は、なんであぁなんだか。他所ン家を詮索したところで、自分家のナニが変わるワケでもあるまいに…。」
 尋ねるでもなく呟く。
 イツキが不思議と強く頷いて、同意を示す。
 イツキの強い同意を不思議に思いながらも、兄は弟に半ば命令口調で指示を出す。
 「リョウ、お前、食堂の準備手伝ってきな。そろそろ始めないと間に合わないだろ。」
 弟が不平を言おうとすると、兄が全身で
 『俺は、ハタ迷惑な御仁と付き合う、って言う義務を済ませたんだからな』
 オーラを漂わせる。
 刃向かっちゃいけない・歯向かっちゃいけない・はむかっちゃいけない
 と本能が告げるので、弟君は仕方なく腰を上げ指示に従う。
 イツキは、その姿を同情の笑みで見送りつつ
 「弟クンはリョウって言うんだ?君は?」
 さらっと尋ねる。
 「あ、あぁ、シンって言います。名乗るの忘れてましたね、済みません。」
 前半では頷き、後半では軽く首を振り、了解の意を表すイツキ。
 「ところでさぁ……。」
 顔をテーブルに広げられたままのノートへ向け、指でとある一箇所を指し示しつつ、話題を変える。
 「これ、答え間違ってるよね?言ってあげた方がいいかな?」

お兄ちゃん達 ⑤

 「わーい、ベッド大っきぃ。キングサイズだー。」
 オミがタイガーと共にベッドに倒れ込む。
 案内された部屋で、荷物を置くとほぼ同時に顔を見せた経営者と、先程の宿泊者カードの件などのやり取りの後、ウエルカムドリンク代わりのコーヒーもそこそこにふざけ始める。
 「こーら、餓鬼ンちょみたいな事しなーい。」
 イツキに注意されても、オミとタイガーはベッドでキャッキャッコロコロとふざけている。
 「この大きさなら二人で使っても楽勝だね。」
 バフバフしながらオミが言うと
 「あー…、そ・ね。って絶対、同性愛者って思われたぞ。」
 「えーーー。」
 「えーーーって、世間一般的にはそう受け止めるモンだろーがっ。」
 「一緒に住んでるって時点で、そう思われてるんじゃない?」
 悪戯っ子な表情でオミが応じると、イツキが悔しそうに渋い表情をみせる。
 「俺は、美人でグラマラスで気立てが良くて機転が利いてしっかり者の女性が好みなのに…っ。」
 随分と贅沢な好みで…。
 オミはせいぜい『美人』にしか当てはまらないワケで、男だし、男だからツルペッタンだし、なんか見覚えのあるモンくっ付いてるし、気立て?我儘っ子が?素直って言えば素直なんだろーけど…しっかり者からは程遠いし、どこをどーしたって『男』だし…、時々どこかのなにかを勘違いした野郎がオミにアプローチしてたりするけど…、なんで『コレ』にアプローチする気になるのかよく分からんし…、それなのにっ、どーして…っ?
 イツキに随分な言い様をされている当の本人は、と言うと
 「ねね。タイガーも一緒に寝るんで良い?」
 全く気にせず。
 気にしていないと言うより、今更感を溢れさせていると言うべきか。
 「って言うか…、タイガー寝ちゃった。ど真ん中で。どーしよ?トイレの場所も教えてないのに…。」
 イツキが覗き込むと、確かに、大きなベッドのど真ん中に小さなタイガーが猫とは思えない大の字で寝ている。
 「起きるまで居ないとマズイだろうな。起きて一匹だと気付いたら大鳴きして騒ぐだろうし、ペット用の小さいドアが無いから自力じゃ部屋から出られないし、壁やドアをガリガリしそうだしな。」
 「しょうがないなー。夕飯までそこらを散歩しようかと思ったのに。」
 口にする言葉は怒っている様だが、その様子からはわざとらしさしか感じられない。
 
 「オミ、コーヒー冷めるぞ。」
 オミがいそいそと、タイガーのあれこれを部屋に設置しているのを眺めつつ、イツキが声をかける。
 「冷めると言うか、冷め切ると言うか…。本物コーヒーが勿体無い。」
 「へ?本物?」
 「お前…失礼なヤツだなー…。」
 苦笑しながらイツキが突っ込む。
 「どこからどーやって手に入れてんだろ?日本じゃ採れないよね?ほんとーに本物?代用コーヒーじゃなく?」
 「ほんとーに本物。日本じゃ採れなくても輸入は可能だろ。お高くなるけどな。」
 「日本人…金持ちだねぇ…。」
 目を真ん丸にしてカップを覗き込む。
 「金持ちかねぇ?金を掛ける所と掛けない所をキッチリ分けてるんじゃね?クーラーは無いみたいだし…っと、これは電力のせいか…。」
 「フム…成る程ね。」
 チョッピリ口を付けて、直ぐに
 「アチッ。キーちゃん、熱いよ。冷めてないよぉ。」
 「えーーっ?お前この熱さでもダメなの?世話のやける猫舌だなぁ。俺なんて、クピクピいけちゃうのに。」
 イツキがウマウマと飲み進める姿を、オミはむくれて軽く睨みつける。
 「だって、熱いし。」
 必死に息を吹きかけ冷ます。
 「そーいや、散歩がどうとか言ってたよな。俺がタイガーが起きるのを待ってるから、一人で行ってくるか?」
 「やだよ。」
 即拒否。
 「んじゃ、どーする?」
 「キーちゃん、建物の様子見てくれば?」
 「見るっつったって、風呂ぐらいしか見るとこないだろ。」
 苦笑しながら拒否。
 食堂は夕飯の時に見れるしね。
 「中庭は…、迂闊にうろつくとオーナー家族や、ヘタしたら息抜きしてる従業員と鉢合わせしそうだし…な。」
 妙な所に気を使う。
 ま、舞台裏は見ないに越した事は無い、と。
 「あ、うろつかなきゃ良いのか。眺めれば。」
 オミが、ん?と顔を向けると
 「庭自体は結構手入れされていたし、ロビー横のラウンジから庭が眺められそうだったし。ぼーっとするのに丁度良さそうだ。一息入れたら行ってみるか。」
 うん、そうだ、そうしようと、一人で納得する。

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