「もう、始まってるな。」
やたらと広い敷地にやたらと大きな建物が幾棟か建ち、とんでもなく人が集まり賑わっている。
キョウコ、マサト、シンの通っている高校の文化祭当日。
『学校』や『学校行事』にオミが興味を示したのを憶えていたシンから、案内と招待券を貰い訪れたワケだが…。
「なんか…凄くない…?」
あまりの人の多さに、オミが怯んだ様子を見せる。
「あ、来た来た。」
正門脇から聞き覚えのある声がする。
「イツキさん、オミさん。そこの入口から入ってね。脇に居る腕章着けた人にチケット渡して。」
塀代わりの柵の間から、カズキがかけて来た声に従い校内へと入る。
入り口脇にカウンター代わりの机を置き『実行委員』の腕章を着けた生徒へチケットを渡すと、受け取った生徒は半券を千切り隣へと渡す。
イツキがチケットの行方を目で追っていると、渡された生徒は、手渡された半券の辺の短い側の中央へ穴を開け、逆隣へとチケットを渡す。
受け取った生徒は、チケットに開けられた穴へ細いリボンを通し、
「どうぞこちらをお持ち下さい。」
イツキへと返してくる。
「へぇ、栞か。」
返されたリボン付き半券を手に感心するイツキ。
「読んでる本に、目印として挟むアレだよねぇ。」
オミは、栞に付けられたリボンに興味を示すタイガーの魔手を避けるようにして眺める。
「お土産が一個できた。」
「でもお前、本読まないじゃん。」
イツキの突っ込みに、口を尖らせるオミ。
そんな二人にカズキが慌てた風に声をかけて来る。
「体育館に急ご。試合が始まっちゃう。シンちゃんとマーちゃんが出るんだよ。」
「体育館?試合?」
「とにかく急いでっ!始まっちゃうっ!」
イツキの疑問に答えず、先を急がせるカズキ。
「走ってっ!」
ヤスノリとリョウまでが前の方から声を掛け急がせる。
「走れって…。」
イツキは未だしも、オミはタイガーを連れている上に独特の服装が走る行為を阻害する。
タイガーが人の多さに怯えた様子を見せ、小さく鳴きながらオミの胸元にしがみ付き、オミはそんなタイガーを庇う様に手を添え、小走りで付いて行く。
「オミさん…、女の人みたいな走り方になってる…。」
「女って…、後で殴られるぞ。」
「だってー…。」
足首までかかる裾、浅いスリット、足下へ向かうほど裾が広がっているとはいえ、走るなといわんばかりのデザインをされている。
「なんで、そんな動きにくそうな格好してんの?」
「『民族衣装』だし。」
「なんでそんなデザインなの?」
「昔っからだし。」
カズキの質問の意図と、イツキの答えが微妙に食い違っている。
「えーと…、だから…。」
「ワザとなんだよ。」
尚も食い下がろうとするカズキを制しイツキが言う。
「オミ。お前、ちょっとだけ浮きながらついてきな。」
「え?走らなくて良いの?」
オミはオミで微妙にボケている。
「いいから、浮いて来な。」
「じゃ、遠慮なく。」
先導するヤスノリやリョウに付いて行くと、体育館らしき大型の建物が見えて来る。
「おーい、こっち。」
ヒロがその建物の脇から大きく手を振って合図を寄越す。
合流すると、すぐに
「こっち。この階段あがって、中二階に。」
行き先を案内される。
階段をあがると、トシが少し前方にたって手招きしている。
「こっちこっち。」
トシの所まで辿り着くと、
「あそこでミヅキとキョウコ姉が場所を確保してるから。」
体育館中央方向を指し示される。
「あ、イツキさん、オミさん、こっちこっちぃ。」
トシの声が聞こえたらしいミヅキが、振り返って手招きする。
君達手際が良いね。
ミヅキの呼ぶ声に応じて向かうと、二人がそれまで座っていた席を立ち、イツキとオミに勧めてくる。
「はい、どうぞ。座っちゃって。」
「え?だって君等の席でしょ。」
「確保してただけだから、座っちゃって。いつまでも立ってると、後ろの人の迷惑になるし。」
「じゃ、まぁ、お言葉に甘えて…。」
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