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最上部にて…

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お邪魔します ⑬

 一通り出し揃えると、再びヤル気が待機するワケだが…、既に粗方済んでいるので、たじろぐ事も無くやり過ごす。
 「じゃ、ミートローフを切るよー。」
 イツキの声に、一斉に視線がまな板と包丁へと注がれる。
 「なんで熱々では切らないの?」
 「んー?型崩れしやすいからねぇ、熱々だと。」
 イツキはカズキの素朴な疑問に身構えることなく答える。
 厚過ぎず薄すぎず、絶妙な厚みで切り分けていくイツキ。
 切り口は、イツキが型に順々に詰めた様に肉と野菜ペーストで層を成している。
 「野菜ってペーストじゃないとマズイ事ってあるんですか?」
 「いやいや、スティック状でもいいし、サイコロ型でもいいし。あんまり大きいと崩れちゃうけどね。」
 「チーズいつの間に入れてたの?」
 型に詰める所は最初から見ていたはずのカズキが驚きの声を上げると、イツキは悪ふざけをしつつ自慢気に
 「カズキくんがちょーーっと油断してる間に
 と答え、カズキをむくれさせる。
 「さて、切れた。じゃぁシンくん、さっきの皿貸してくれるかな。で、マサトくん、そこの野菜の入ってる耐熱容器を取って。」
 
 シンから手渡された皿の手前側に、切り分けたミートローフを二切れ載せ、その向こう側にマサトから渡された、野菜のソテーを盛り、ミートローフにソースをかけ
 「はい、完成。」
 「「ぉぉお。」」
 「お野菜結構多めに使ってるねぇ。」
 「この付け合せの野菜って、ナニをどうしたヤツなの?」
 「付け合せの方は、ナスとインゲンとプチトマトとシーアスパラガスってヤツに、レモンバターを少々多目に乗せてオーブンで加熱、炒りごまを少々振って混ぜました。プチトマトには予め切れ目を入れてます。レモンバターをオリーブオイルへ、煎りゴマを粒胡椒へ変えても良いよね。オリーブを細かく切ったのをついでに混ぜてもいいかと。」
 「間に挟まってるペーストの野菜は?」
 「人参とほうれん草だよ。で、薄く切ったチーズを間に少々。野菜の臭みを誤魔化してくれるから。」
 「結構手間かかってるよね?」
 「いやぁ?野菜のペースト位じゃないか?手間が掛かるのは。肉はハンバーグの種を作るのと同じだから。って事で、皿を並べてくれるかな。盛ってくから。で、盛り付け終わった分から向こうに持って行って。」
次々と皿に料理を盛り付けていくが、少々余分に余りが出る事に気付いたトシが訊ねる。
 「多くない?」
 「お代わり用だよ。食べれる量に差があるだろ?盛った分で足りなかったら遠慮なくお代わりしなね。」
 フムフムと頷く一同。
 「ね、シーアスパラガスってナニ?この綺麗な緑色のでしょ?」
 マサトが興味津々に訊ねると
 「ナニと言われても…、野菜?海岸に生えるみたいなんだよね。」
 「え?海岸で採れるの?塩まみれなのに?」
 「う…ん、海岸で採ったねぇ。オミがどっかから拾って来て、適当にばら撒いて、海岸に根付きそうだったからガンバレーって『応援』して…。今では勝手に増えてるよ。コレは日本の固有種でも自生種でも無いから、知らなくてもしょうがないね…。むかーーしは日本でも自生してたかもしれないけど…。」
 何気にオミの、『妙な所が大雑把』な性格をバラしている。
 「関東の海に植えちゃったらマズイかな…?」
 「どーだろうねぇ。外来種の制限がどれ位厳しいかに依るんじゃないかな?個人所有の海岸で、きちんと管理出来るなら違ったりもするんだろうけど…。」
 「って事は…、輸入か…。高く付きそうだなぁ…。」
 或いは、ここに採りに来るか、ここから送ってもらうかだが、今日ココへ来るのでさえテレポで送って貰っているワケで。
 輸入にしろ、『ここ』からにしろ、運送費として『テレポート使用料』や『超能力者の護衛料』が上乗せされているからこそ、お代が高くついてしまうと言う事を、この時代に生きていれば嫌でも分かっている。
 では、テレポートどころか超能力者の護衛を使用しなければ良いではないか、海でも川でも人間は船で風や潮流を読みながら移動したのだから、海路が整えば大した問題も無いだろうと言う考えはココでは通用しない。
 油断しようが、しなかろうが、化け物や怪物等は襲ってくるときは襲ってくる。
 小さいサイズならば、船に乗っていればなんとかなるだろうが、大きいヤツでは、人間の作った船などひとたまりもない。
 余程の運に恵まれない限り、超能力者の護衛無しでの輸入等、考えるのも無駄である。
 なので、シンとマサトはため息混じりに呟くが、イツキは気に掛けても無駄なので、あっさりと話を変える。
 「って事で、お次はサラダかな。ヒロくん、冷蔵庫に入れてあるから取ってくれるかな。あー…と、皿もだね。ヒロくん、一緒に冷やしてあるガラスの皿を先に出して貰える?」
 「カズキが運ぶから、ヒロちゃん取って。」
 比較的背の高いヒロが下ろして、現在一番背の低いカズキが運ぶ。
 役割分担をしつつお手伝いしました実績を作れるので一石二鳥な上に、後日帰宅した際に嘘をつかずに済むから精神衛生的にも平穏に過ごせます。
 「ぉっ?イツキさん、これなんです?スープ鍋みたいな…。」
 冷蔵庫から、言い付けられた物を取り出そうとして覗き込むと、サラダとは到底言いがたいブツが目に入り、思わず訊ねるヒロ。
 「そのものズバリ、スープだよ。サラダと皿出したら、ついでにソレとカップもよろしく
 「スープ…?って冷やしちゃうモノだっけ??」
 カズキがキョトンとしながら疑問を口にすると
 「んー?ものによっては冷やしてもおいしいのがあるよ。」
 イツキが機嫌良く応えると、カズキはへーそうなんだーと単純に納得し、納得した直後に、冷製スープとは如何なる物かと興味を露わにして、サラダとサラダ用の皿をイツキへ渡した後に例え僅かでも早く知りたいと、ヒロから受け取る為にいそいそと冷蔵庫前へと戻っていく。
 で、当然と言えば当然の如くお兄ちゃん達も興味を示し…
 「冷製って…、個人的には冷めたスープを美味しいとは感じないんだけども…、敢えて冷やしてるって事?」
 「冷めたと冷やしたの違い?」
 「冷やして飲むのを前提にして作ったって事でしょ?」
 「温かいのを作る場合と作り方とかが全く違うのか?」
 口々に疑問を述べだす。
 要は『さっさと見せろ』と…。
 イツキは、その隠そうともしない好奇心の発露を好ましく又楽しんで耳にしつつ、サラダを各皿へと盛り付けていく。
 「じゃ、サラダをテーブルに持っていってね。で、お次はスープ、と。」
 「クリームのスープ。って温かいのとどう違うんだ?」
 「あ、キョウコちゃん、ソコのパセリの小瓶取ってくれる?」
 パセリーパセリっと…、と呟きながら傍らの小瓶へ手を伸ばす。
 「って事は、パセリを散らす、と。」
 「そーいえば…、冷製でクリームってヴィシソワーズとか言うのなら聞いたことがあるけど…?」
 シンがアタリをつけて口にすると
 「んー…、ウチではおイモは使わないんだよねぇ。オミが嫌がるから。」
 イツキの口から、再びオミの好み発言。
 なので、再びカズキからニマニマ攻撃が…。
 「そーしたら…、コレはどの様なスープなんです?」
 「ぅん、ただの冷製クラムチャウダー。」
 「クラムチャウダーって冷やしても美味しいの?あったかいのしか知らないけど…。」
 カズキがすばやく反応する。
 「美味しいよ。」
 イツキが応えるや否や、好奇心に満ちた18本の視線がスープ鍋に注がれる。
 「えぇーと…、すぐに食事なんだから、あっさりと分かるよ?」
 流石にイツキがうろたえる。
 と、そこへ暢気な上にも暢気なオミの声がかかる。
 「キーちゃん、キーちゃん。もぅすぐご飯でしょ?タイガーのご飯準備したいんだけど、その辺空く?」
 「後はパンを出したら完了、ってお前、タイガーまだ降ろすなよ。クレー、ヨコセー、登らせろー、ソコに美味しいのあるーって騒ぐから。」
 オミに抱きかかえられながらも、そこかしこに溢れる料理の匂いに食欲を刺激されたらしいタイガーが、ジタバタと脱出を試みている様子を目にし、イツキが軽く注意する。
 尤も、抱えられていても既にミーミーミーミー騒いでいるのだが…。

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お邪魔します ⑫

 少年達はあーでもないこーでもないとやっているが、ケリが付くのを待っているとコゲてしまうので
 「大人しく見れないならあっちへ行ってなさいっ!」
 強権発動。
 キッチンで騒がれるのは、状況も状況である上に大体場所柄的に相応しくなく且つ、加熱は待ってくれないワケで、流石にイツキも穏当には対応していられない。
 あぅ。
 ちょっぴり落ち込む一同。
 「じゃぁ、しょうがねぇから、カズキ代わってやるから前に来な。その代わり動くなよ。マサトはトシと交代で、キョウコはミヅキと代わってやってよ。」
 元々の提案者であるシンが仕切ると、皆が状況的にも仕方無いと応じて並び代わる。
 結果…前列 ⇒ カズキ・ミズキ・ヤスノリ・トシ・ヒロ・リョウ
 後列 ⇒ キョウコ・シン・マサト
 まるで、カズキのゴネ得の様だが、そもそもシンを初め高校生組みは、イツキの妥協を引き出すのを最優先事項として捉えていたし、年齢差を考えても、付き合いの長さ的にも、なるであろう並び順的にも、カズキが大人しく従うわけがないと予め分かった上での事なので、特にコレと言った支障もきたさない。
 彼等の間では予定調和として収まってしまう。
 「じゃ、開けるから。身を乗り出したり、覆いかぶさるように覗こうとしないでね。」
 全員が頷いて了承するのを確認すると同時にオーブンの扉を開けると、食欲をダイレクトに刺激する匂いが辺りに漂う。
 食欲を刺激されつつも、イツキが引き出すトレイ及びケースに好奇心丸出しの目が注がれる。
 「イツキさん、それってソレで完成?」
 先ほどの注意が堪えたか、カズキが好奇心を抑えきれずに居ながらもおずおずと尋ねる。
 「ん?いや、一旦型から出して、もう一度、今度はちょっと、表面に軽く焦げ目が付く位焼くよ。」
 型から中の肉を出しつつ、敢えて意識して温和な雰囲気を表しつつイツキが答える。
 イツキとしては、注意にしたがって危険を避けてもらえれば良いだけで、萎縮させてまで大人しくさせようとは考えていないので、気をつけてくれればそれでいいと態度と表情や声音で現す。
 「この、染み出ている焼き汁をソースに使うんですよね?」
 肉の置かれた網の下に置かれたフライパンに、焼いている間に肉から染み出た汁が溜まっているのを視線で指し示し、でもオイタはしませんよとばかりに手を後ろで組んだキョウコが訊ねる。
 「うん、そう。ある程度溜まったらソレはソースに、その間にこっちは表面を追加で焼くね。」
 肉を追加で焼く際に使用する耐熱皿を取り出しつつ、『こっち』で網の上の肉を指し示し、段取りを伝える。 
 「えーと、その焼き方ってどんな場合でも、この料理なら共通ですか?」
 マサトが例外はあるのか訊ねてくる。
 「ぅーん、微妙。今回は表面に薄い肉を巻いてるって言うのもあるから…。表面がパリってなるといいかなって理由で、型から出してもう一回、表面を炙る為に焼くんだけど。肉等を巻いていない時はやらないね。」
 とてもとてもとてもレシピが気になるんだなと察したイツキは、その好奇心だか探究心だかを快いものと感じ、思わず目元と口元が緩む。
 とは言え、彼等の好奇心は底抜けのようにも察せられるので、迂闊に気を緩めぬ様に己に言い聞かせる。
 「レシピは後で渡すから。参考用にアレンジしたヤツも。」
 だから大人しくしていろと言外に匂わす。
 「「はーい。」」
 言外に匂わせた点も察したか、聞き分けよく返事をする。
 でも、そう長いこと持たないよね。

 イツキがフライパンに溜まった焼き汁と各種調味料などでソースを作っている間も、9人の視線はその動きを一つも見逃すまいと、逐一追っている。
 先程からずーっと、9人分18本の凝視に晒されるイツキ…。
 表面を焼きなおしていたオーブンを開けても、ジーーーーッ。
 オーブン内の香りを取り除く為に香草を少々加熱しても、ジーーーーーッ。
 パンをオーブンで温めようとしても、ジーーーーーーッ。
 スープを温め…(以下略。
 全くもってやりにくい。
 「そろそろ出来上がるから…。」
 言いつつ振り向いたところで、期待に満ちたまなざしに迎えられ一瞬たじろぐ。
 「えーと…、テーブルにクロスを掛けてきて貰えるかな?」
 たじろぎ、圧倒されたが故に思わず『お手伝い』を言付けてしまう。
 テーブルにクロス…?
 理解したカズキが『お手伝い一番手』とばかりに名乗り出る。
 「はーい。カズキやる。隣のおっきいテーブルにテーブルクロスかければいいんでしょ?やるやる。テーブルクロスはどこにあるの?」
 「隣の戸棚にあるから好きなの使って。」
 カズキ一人のヤル気に気圧される。
 そして、後8人のヤル気が待機しているという事実にも…。

 「えー…、ミヅキちゃんはカズキくんに続いてプレースマットを敷いてきて。で、トシくんはシルバー類をテーブルにヨロシク。」
 圧倒的多数のヤル気に負けたイツキは開き直り、安全で負担の少ない『お手伝い』を言付ける方へと切り替え対応する。
 「ヒロくんとマサトくんでソコの大きめの皿を人数分並べてきてくれるかな。数があるとちょっと重くなるから気を付けてね。」
 「シンくん、悪いけど今の皿より一回り小さめの皿を人数分だしてくれる?」
 「あ、で、ヤスノリくんとリョウくんでそこのグラスを人数分テーブルに持って行って。キョウコちゃんはその横のスープカップとソーサーと小さ目のスプーンを人数分出して。」
 対応するとなったらソコは流石のイツキ。サクサクサクッと言付ける。
 壊れ物は食べ物商売の家の子へ、壊れ物の内重いもの、一式揃えるものを年嵩の子に振り分ける。
 
 

お邪魔します ⑪

 少年達が互いにやいのやいのと賑やかにしているのを楽しげに眺めていたイツキが、キッチンを気に掛け席を立とうとすると、その気配に気付いたトシが声をかける。
 「イツキさん、そろそろ良いカンジ?見に行くの?俺も見たいから行って良い?」
 その声を合図とした様に、皆が我も我もと身を乗り出す。
 相手は元気盛りの9人。一斉に腰を浮かせながらの「自分もコール」は結構な迫力になる。
 こうなるのを見越してコソっとキッチンへ行こうと考えていたイツキは、出足を挫かれるわ想像通りに騒がれるわで、内心自分に舌打ちする。
 とは言え、別にイツキは「NO」と言えない性格をしているわけでもなく、他者と接するのが苦痛と感じるワケでもなく、寧ろ逆に他者や他の環境に強い好奇心を感じるタチで、好奇心まみれの彼らのことも好意的に感じているのは事実である。
 ただ単に「今は」、彼らが他の事に気が向いている隙に彼らを出し抜こうと考えていたにも係わらず、気付かれてしまったのが少々悔しいだけで…。
 「いいけど…、まだ出来上がりじゃないよ?」
 好奇心まみれの人にはナニを言っても無駄。
 諦めさせるにはキッパリ断るか、状況に適しているかいないかを自覚させるか、興味を他に向けさせるか、一種の種明かしをして興味を減らさせるか位しか方法がないと、自分を省みれば嫌でも分かるイツキは、自身が狙っていた「出し抜く」のを諦め、彼等の好奇心に付き合う方へと妥協する。
 「まだする事あったの?なにするの?俺達やっちゃダメ?」
 一つ返すと三つ返って来る…。恐るべし好奇心。
 「火傷するかもしれないから、させるワケにいかないから、やるのはダメ。」
 「じゃーしょうがないから…。」
 トシが言いかけると
 「あれ?でも、イツキさんケガ治せるよね?」
 カズキが口を挟む。
 「火傷してもイツキさんが、チョイなって治してくれれば良いんじゃない?タダで。」
 カズキはどうしてもやりたいらしい。
 で、他の子達も同様らしく、カズキの科白に納得と同意を表す。
 「たとえ治しても、火傷させたって事実は変わらないでしょ。」
 いくら妥協するにしても超えるワケにいかない一線を、又、彼らが無意識に問題外としている点を質す。
 「イツキさんがわざとしたとか、注意しなかったんなら問題だけど…、それとひどい火傷なら、ね。でも、イツキさんは俺たちに注意してるし、俺たちだって火傷しないように注意できるし、注意してたのに火傷しちゃう時ってひどい状態にはならないと思うし、ちょっぴりの火傷で大騒ぎするほどウチの親はバカ親じゃぁ無いですよ?」
 ヒロが、皆も同様であろうと長い付き合いから推察し、淡々と自らの考えを述べると
 「ご両親が大騒ぎするかしないかは別問題でしょう?」
 「でも、ケガが駄目って言ったら何も出来ないじゃんっ!」
 特に好奇心の強いお年頃のカズキが、その強さを表すように声に力を込める。
 まるで、イツキの対応は過保護すぎると、別の見方をしたら『事勿れ』かと責め兼ねない勢いを言外に感じたシンが口を開き、妥協案を提示する。
 「オーブンを開けるんでしょ?なら、オーブンに多少なりとも接していて危険を心得ている人を前に、慣れていない人は後ろ寄りで見せてもらうんじゃダメか?前側の人は後ろ側の人が見える様に屈んで、ちゃんと安全を確保して。後ろ側の人は前の人を絶対に押さないってして…、当然イツキさんの指示には大人しく従うワケだけど。」
 安全を確保しつつ好奇心を満たす為の提案は少年達にはあっさりと受け入れられる。
 と、なるとソレへの対応を求められるのはイツキの側で…。
 「うー…ん、それなら、ま・いいかな。」
 少々考えた後、OKを出す。
 イツキの返事を耳にした少年達、特に中学生・小学生組は喜びを前面に表す。
 その様子をやれやれとばかり眺め、キッチンへ向かおうとするイツキへオミが、愉しんでいる様子を含ませつつテレパシーを送ってくる。
 ≡ ホントにいいのぉ?知らないよぉ? ≡
 ≡ ?なにがだよ? ≡
 ≡ さぁ~てね。気付いてないならいいんだ。どうせ直ぐに分かるし。 ≡
 ≡ なんだよソレ。教えろよ。 ≡
 ≡ さ~ね。どうせ直ぐに分かるよ。 ≡
 愉しそうにしらばっくれるオミに対しブチブチと不満を伝えつつも、イツキはそそくさとキッチンへと向かう。


 さて、キッチンのオーブン前では、オーブンの扉を開けトレーを引き出す係りのイツキと、その様子を大人しく見学すべく少年達が陣取っているのだが…。
 その並び順は、先ほどシンが提案した通りに、オーブンに接した経験のある者が前面へ、経験の無い者が後ろへとなったのはいいのだが、先程オミが愉しげにしていた理由があっさりと判明する。
 オーブン経験者 ⇒ キョウコ・シン・マサト・ヤスノリ・ヒロ・リョウ
 オーブン未経験者 ⇒ トシ・ミズキ・カズキ
 イツキは、コレは少々マズイのでは?と考えつつ、この並びに関わりがあるであろうそれぞれの家業を今更ながらに思い浮かべる。
 キョウコ・ヒロ ⇒ Barなので酒の肴によっては調理時にオーブンを使用。
 マサト ⇒ 食堂なので献立によってはオーブンにて調理。
 シン・リョウ ⇒ ペンション宿泊客の食事提供時にメニューによって使用。
 ヤスノリ ⇒ 形は違うがパン用オーブン使用。
 トシ ⇒ 問屋から仕入れた駄菓子や安価な玩具などを店頭へ。
 ミヅキ・カズキ ⇒ 問屋から仕入れたあれやこれやを店頭へ。
 イツキが、すっかり失念しOKを出した自分に対して、か~るく眩暈を感じているところへ、カズキが妥協案の提案者であるシンへ異議申し立てを炸裂させる。
 「ずるいよっ!シンちゃんっ!!」
 そりゃ、年長組みが前側で年少組みが後ろ側じゃぁね…。

お邪魔します ⑩

 「えぇぇぇぇぇーーーーっ!カズキ、そんな事言ってたぁぁぁっ?」
 二人から当時の自分の言い放った一言を教えられ驚愕するカズキ。
 「それじゃぁ…そりゃぁダメだよねぇ…。警戒するよねぇ。カズキがどお言ったって、信じられないよねぇ…。」
 一瞬、魂が抜けたようにポヘっとなり、その後激しい後悔に襲われる。
 「って、カズキのバカァッ!そんな事言ったら警戒されて当たり前じゃんっ!無理じゃん!決まってるじゃん!触らせて貰えるわけないじゃん!なんでそんな事言うんだよぉ!カズキのアホォッ!」
 過去の自分の行動を、嘆く嘆く嘆く…。
 ぅぁあーーんっ!自分のバカァーーッ!!
 後悔先に立たずという言葉の意味を、ここまで分かり易く体現するのは、今この時のカズキを置いて他に誰も居ないのではと言うほどの悔やみっぷり。
 そんなカズキを華麗にスルーして、シンが真面目に、気にかかっていたことを訊ねる。
 「ここって電気どうしてんです?なんでもかんでも超能力でカバーってワケでもないですよね?オミさんの髪だって、超能力で乾かせるでしょうに、わざわざドライヤー使ってるし…。」
 シンが口火を切ったことで、他の子達からも疑問が提示される。
 電気やガスや石油や水の供給はどうなってるの?排水は?超能力はどれ位使ってるの?超能力を使うのに制限とかってあるの?等々。
 ちなみに誰も、悔やみまくるカズキを構ったりせずに、放置している。
 「あー電気はね、島の中のあっちこっちに小型の発電装置や変電装置や蓄電装置を設置してるよ。『総本部』から担当が点検や調査に来るし、時々新しい装置に変えてる。ロスを減らす為や小型化する為に研究、開発してるんだって。」
 どこか他人事に聞こえるのは、必要性は理解していても、オミやイツキにとってはいくらでも超能力でカバー可能な事柄なので、どうしても必要性・重要性を実感し辛いからか…。
 「オミ達の所なら、装置になにか問題があって爆発しても、誰かが死んだりする心配をしないで済むからだよ。」
 「え、爆発する前提??」
 トシが焦ったように訊ねると
 「冗談だよ。ただ、何かあって電力の供給が止まっても、俺たちなら対処可能だし、特に困った状態に置かれるワケでもないし、すぐに連絡を付けられるからね。サンプリング役に丁度良いらしい。使用状況やそれに見合う発電が適時成されているか時々見に来てるよ。」
 他、上水は地下水をポンプで汲み上げ、煮沸して使用していること。ガス・石油はタンクに詰めテレポでポンと運んでいる事。設置や各種接続は専門担当に任せていること。ガスや石油で風呂やシャワー・キッチン等での加熱をカバーし、発電用にも廻している事。生ごみは森や林或いは荒地に埋めて堆肥としている事。欠けたガラス器や瀬戸物、缶などや使い廻しの利かなくなった紙や端切れなどの布は『総本部』でリサイクルしている事。排水は浄化槽を埋め込み、汚泥と汚水に分け、汚泥は担当が回収処理し、汚水は川から水を引き入れ濃度を下げつつ一旦沼地に流している事等を説明する。
 「まぁ、だからそこそこ暮らせるね。」
 そこそこって言わないのでは…?
 自分たちの生活では、電気は高値で不足気味であるし、ガス・石油等も高値で不足気味、どころか怪物・化け物・巨大生物・モヤモヤなどの脅威に晒されている現実を前にすると、ここは別天地であると感じてしまう。
 「おぜぜ払って頂けるなら、がっつりカバー致しまっせ。」
 イツキが似非関西弁で商売を請合おうとする。
 「そこに払えるだけの金があったら、電気ガス石油に振り分けます…。」
 マサトが半ば本気で応える。
 「普段の生活って超能力抜き?」
 ヤスノリが訊ねると
 「ここではその時の気分で使ったり使わなかったり。」
 「制限無いんだ…?」
 「ここでは、ね。ま、でも君達の手前、あんまり使わないように気を付けてるけど。超能力者が、余りに当たり前に超能力使ってるのを目にしたら、気分悪いでしょ?時々ちょっとだけ、オミと二人でテレパシーしてたりは、あるけどね。」
 「後は、まぁ、使うよーって素振りをしてからかな。」
 畑でのアレとソレを指し示しつつオミが答える。
 「あ、そうそう、明日の移動はどうする?テレポにする?歩く?」
 「歩くの?海でしょ?距離あるよ。」
 オミが勢い良く不満を述べる。
 「距離あるってどれくらいです?」
 ヒロが具体的な距離を訊ねる。
 「歩いて二時間かかる。帰りの方が登りになるからシンドイけど…。」
 「超能力無しにしたら、歩く以外ないでしょう?クルマ無いし。」
 イツキがやれやれ困ったねと言うように呟く。
 「クルマがあったとして、誰が運転するんです?」
 リョウが恐る恐る訊ねると
 「オミが。」
 オミがにっこりと名乗り出る。
 「テレポでよろしく。」
 皆が反応できずにいる中、キョウコがあっさり希望を述べ、それを聞いたオミがか~るく頬を膨らませ遺憾を表す。
 この間ずーーっとスルーされまくっていたカズキが、とうとう不満を述べる。
 「少しはカズキも構ってよっ!」
 

お邪魔します ⑨

 ソファーの前へ移動させた背もたれの無い低めの椅子にオミが座り、ソファーに座ったイツキがオミの長い髪をドライヤーで乾かしている。
 オミの髪は、長いわ細いわ柔らかいわで、油断をするとすぐドライヤーの吸気部に吸い込まれたり、ドライヤーを持つ手に絡まってしまう。
 「イツキさんは、オミさんの髪に触ってもいいんだよねー…。
 夕飯の支度は、後はミートローフが焼けるのを待ってソースを作り、パンを適量温めればOKという所まで進んだので、全員で吹き抜けのある部屋で思い思いに過ごしている中、オミとイツキの様子を眺めていたカズキが不満気に愚痴を漏らす。
 「カズキもオミさんの髪に触りたいなーーっ。」
 「カズキ君は髪の毛抜いちゃうからダメェー。」
 カズキのおねだりを一蹴するオミ。
 「抜かないから。」
 「ダメ。」
 「ホントのホントのホントに抜かないから。」
 「信じられないからダメ。」
 「なんでよー?触るだけなのにぃぃっ。」
 カズキ必死の懇願。
 「絶対ダメッ!」
 「えぇぇー、いいじゃーん。」
 「ダーメッ。」
 イツキはドライヤーをかけつつ二人のやり取りを目にし、自然に浮かぶ苦笑を抑えきれずにいる。
 「どーしてぇ?」
 尚も粘る。
 「抜くから。」
 カズキはどうやら初めて合った時の自分の言動を綺麗さっぱり忘れているらしく、それが原因でオミに警戒されているとは全く気付きもしない。気付きもしないから思いつきもしないので、何故そこまで拒まれるのか全く分からない。
 「抜かないしぃーっ。」
 カズキの心からの叫びも
 「信じない。」
 あっさりと拒まれ、それどころかプイっと横を向かれてしまう。
 「えぇーーっ。そんな。しなくていいじゃぁん。」
 完全拒否の姿勢をみせたオミに泣きつくカズキ。
 「なんでよぉ?どーして、カズキは抜くって決め付けるのぉ?分かんないー。」
 地団駄場団駄と駄々っ子状態になるカズキ。
 まぁーーーーったく綺麗さっぱり欠片も残さず忘れている様だと気付いたオミは、忘れっぷりが不思議でなら無いらしくキョトンとしてカズキを見ている。
 「?どーしたの?なに?」
 まじまじっと見つめられていることに気付いたカズキが訊ねると
 「ぅーん…?カズキ君、忘れたの?」
 「?なにを?」
 「初めて合ったとき、なんて言ったか。」
 「へ?」
 初めて合った時って?なんか言ったっけ?なに話したんだっけ?
 必死に思い出そうと、記憶を辿る。
 えーと?公園で合った、って言うか…見かけたんだよな。で、ぅわーいって思って…声かけて…。なんて言ったんだっけ?
えぇ…と?ぅーー…?
 眉を寄せ、首をひねり必死に考えるも思い出せず…。
 オミさんは確か…タイガーと遊んでて、イツキさんはそれを眺めてて…。えーと、それで???
 本物がいるーって思って…ぇーと??え?あれ?出てこない…。なんか言ったよな。なんだっけ?
 悩んでいるカズキの姿を見て、イツキとオミが不思議そうな顔をする。
 ≡ ねね、ホントに忘れてるみたいだよ。 ≡
 ≡ スゲエな、あんなはっきり大きい声で言ってたのに…。 ≡
 ≡ 見事な忘れっぷりだよねぇ。 ≡
 カズキは必死に思い出そうとするも、まぁーーったく欠片も思い出せないものだから、二人のほうにチラっと、コソっと向き直り
 「カズキ、なんて言ったっけ?」
 テヘッと、大して悪びれもせずに訊いてくる。

お邪魔します ⑧

 軽快なリズムで足音を響かせながら、風呂上りでホカホカになったカズキが階下へと降りてくる。
 階段の先の食堂や、その奥にあるキッチンを眺めつつ、昼間通されその後の散歩の行き来の際出入口代わりに使用した部屋へ向かい、ドアからヒョコっと覗き込み部屋内を見渡しつつ首を傾げ、部屋とは逆側の今しがた素通りした食堂の奥のキッチンへと向かう。
 「イツキさぁ~ん。オミさん部屋にいないけど…?」
 キッチンから漂う気配の主は『この人だ』と決め付けて声をかける。
 おおきなボウルでなにやら捏ね繰り回しているイツキは、風呂上りで頬を火照らせたカズキへと顔を向け応える。
 「おや、出たのかい。オミは今風呂だよ。」
 「へー。お風呂かぁ…って…(閃いた!)もしや、今外へ出たら、普段は完全装備のオミさんの、超無防備な…。」
 「オミに粉微塵に吹き飛ばされたいならどーぞ。」
 イツキは、良い事思い付いたと嬉々とするカズキに皆まで言わせず、微苦笑しながら物騒な物言いで遮る。
 「…姿が見えちゃうから、中で大人しくしておくべきだよね。」
 粉微塵は勘弁願いたいカズキは、自分で自分の言葉にウンウン頷きながら、直前までの嬉しそうな様子を一変させ、尤もらしく締める。
 「って事で~…、飲み物貰って良い?喉渇いちゃった。勝手に出して注いで飲んで良い?」
 雰囲気をガラリと変えて尋ねるカズキ。
 「どーぞ。」
 律儀に手順を追って訊ねるその様子に苦笑を漏らしつつ、とは言え手は止めずに返事を返す。
 「ソレ何になるの?」
 デッカイ冷蔵庫からこれまたでっかいドリンクボトルを取り出し、こちらは見慣れたサイズのグラスに注ぎ、イツキが捏ね繰り回しているボウルを覗き見て訊ねる。
 「んー、コレ?ミートローフだよ。頭数が多くて、少々豪華さを演出したいときに便利な料理
 「豪華さを演出って…言っちゃっていいの?」
 イツキの見も蓋もない言いっぷりに、カズキの飲む口が止まる。

 カズキが喉を潤しつつ、イツキの調理の様子を眺めていると、先に風呂を済ませた『お兄ちゃん達』がワヤワヤと降りて来る。
 「お?カズキ早ぇじゃん。」
 「ちゃんと頭洗ったのぉ?」
 お兄ちゃん達の内、真っ直ぐキッチンへ顔を出したシンとミヅキが、カズキの姿を認め声をかける。
 「洗ったしー。」
 子ども扱いされたとブーたれるカズキ。
 「ナニ飲んでんだ?俺にも注いでくれ。」
 「アタシにもー。」
 カズキのブーたれなど意に介さず、飲み物を催促する。
 「イツキさぁん言ってよ、手伝うから。俺等結構丈夫よ?」
 風呂に入りつつ、やはり厚意に甘えすぎるのも如何なものかと考えたであろうシンが、困ったように言うと
 「んー…。ま、でも、もぅ少しで一段落付くし。」
 こちらも、無理をさせて体調を崩させたらと考え、遠回しに断る。
 断られたシンが、もぅ一歩踏み込むには何と言えばいいかと渋い顔をしつつ考えていると、先ほどのカズキと同様に部屋を覗きに行っていたトシが、キッチンへと顔を出し声をかける。
 「オミさんもタイガーもいないけど、こっちにいるの?」
 「オミさんはお風呂ー。」
 カズキが応えると
 「ふーん、じゃタイガーは?」
 「タイガーはオミの出待ち。」
 丁度良く話題を変えられるとばかりにイツキが応える。
 「出待ちって…。アイドルさんとかの追っかけサンみたいね。」
 笑いながらトシが言っていると、ミズキがボソっと
 「イツキさん、ソレ後なにするの?」
 唐突に訊ねる。
 話題を逸らし切れなかったイツキはまごつきつつ
 「え…えーと…、コレをオーブンで焼いて、粗熱を取りつつソース作り、かな。」
 必死に平静を装い、具を耐熱容器に入れながら答える。
 「間に入れたのってナニ?」
 行なっていることを訊ねても良かったのかと気付いたカズキが口を挟む。
 「野菜のペースト。コロコロしたのが混ざってるとオミが嫌がるんだよね。」
 オミの好みを気にかけると知ったカズキが、感心するように相槌を打つ。
 (もしかしてオレ自爆した?)
 イツキの動揺を見透かしたカズキが意味有り気な笑顔をニマニマと見せるが、一言も触れずただニマニマとして見せている。
 「ねね。ソース作りって簡単?アタシやってもいい?」
 イツキとカズキの水面下の戦い(?)を無視しミズキが訊ねる。
 「え?あー…いや…危ないから…。えーと、あのね、焼いた時に出る焼き汁って言うの?それを使うから、下手すると火傷しちゃうから。今回は、ね?」
 耐熱容器に捏ねていた具を詰め間に野菜ペーストを挟み具を詰め今度は別の野菜ペーストを挟み…を繰り返しながらカズキのニマニマを牽制し、尚且つミズキのヤル気を傷付け無い様注意しつつ断るイツキ。
 いっそ手伝わせた方が楽なんじゃ…?
 「その料理ってオーブンとやらが無いと作れない?」
 飲み物で喉を潤していたトシが、参戦(?)する。
 「へ?ぃや…どーだろ…。フライパンでも、やってやれない事は無いと思うけども…、時間が掛かるだろうし、何よりフライパンが悪くなりそうね。」
 イツキはフライパンでの状況を想像し、難点をあげる。
 「そっかー、家でも作れたらって思ったんだけど…。」
 トシが残念そうに呟くと
 「あ、レシピって教えてもらえます?」
 正面から手伝いを希望しても無理と判断し、飲み物を口にしつつ遣り取りを傍観していたシンが、オーブンが家にない為に少々残念がっている子達を尻目に話しに乗る。
 「?」
 イツキが不思議そうな顔を向けると
 「ぃや、あの、ウチでアレンジして出せないかな?と思って…。ウチはオーブンあるし。料理のレパートリーが増えるのは『お宿』としても助かるし。」
 「あー、成る程。良いよ、教えるよ。ってコレ、似たような料理知ってるでしょ。メインの材料って同じだよ。」
 「ソースとか、ね。後、付け合せとか。献立なんかも知りたいかも、参考に。」
 シンが細々と口にしていると、いつの間に来たかマサトが
 「俺も知りたい。ウチもアレンジして出したいなー。」
 シレッと混ざる。
 「分かった、分かった。教えるから。」
 呆れたようにイツキが応えると、唐突にカズキが言い出す。
 「あ、そーか。カズキ分かった。シンちゃんトコでオーブン借りれば良いんだ!」
 「あ、そーか。ウチも借りるー。」
 「って事で、アタシ達にもレシピ教えて下さーい。」
 「分かったから。後で教えます。」
 イツキが持て余し気味に応えると
 「何か知らんが俺もー。」
 ヒロが混ざり
 「良く分かんないけど俺も。」
 ヤスノリも混ざり
 「なに?なに?楽しいことなら乗るけど?」
 キョウコが混ざって
 「楽しい事ってなに?なんか知らないけど俺もー。」
 リョウも混ざる。
 「俺も」「私も」「ウチもー」の大合唱の中、イツキが泡を食っていると
 「どーしたの?」
 ホカホカのオミが暢気に顔を出す。


お邪魔します ⑦

 「「「ただいまーぁっ!」」」
 全員が元気な挨拶と共に、開け放たれた大きな窓から部屋へと入る。
 「おー、お帰りぃ。」
 「あ、イツキさん、手伝いちょっと待ってね。手と顔洗ってくる。」
 「「俺等もー。」」
 結局スイカを食べてノドを潤した全員が口周りや手をベトベトにしてしまい、洗わない事には何も出来ない有様になっている。
 「あぁ、いいからシャワーでも風呂でも入っちゃいなさい。」
 声をかけられたイツキは、手伝わなくて構わないと言外に仄めかす。
 イツキとしては、今日は環境が激変しているのだから、自覚が無くとも疲れていると思われるので、なるべく気軽に過ごしたほうが良かろうと思っての言葉だが、耳にした全員は、
 「「「?」」」
 本意は伝わっておらず、逆に勘違いを招く。
 「えーと…、手伝うと逆に邪魔…でしょうか?」
 シンが代表して恐る恐る訊ねる。
 「へ?いや。そういう意味じゃないけど…?」
 「台所とか、入っちゃヤダとか?」
 キョウコがダメ押し確認をする。
 「いや、全く。好きに入ってくれて構わないよ。」
 泊まりに来た少年達に本意が全く伝わっていないどころか、勘違いを招いている事にこれまた全く気付いていないイツキ。
 お互いが「?」状態でしばし硬直。
 「キーちゃん、『いいから』ってどういう意味?」
 辺りに漂う微妙な空気を感じ取ったオミが、真顔でイツキに尋ねると
 「どうって、そのまんま。手伝わなくてもいいよって意味。」
 真顔で返すイツキ。
 「手伝わなくて『も』いいのね?」
 オミは、『も』を強調して再確認をする。
 「うん。取り敢えず今日いっぱいと明日の朝飯の準備はいいかな、手伝わなくて。」
 「その『手伝わなくて』は、手伝いは邪魔って意味?」
 「なんでそうなる?」
 とことん気付かないイツキ。
 「あのぅ…。私達、親からきちんと手伝うように言われていまして…。イツキさん達に甘えてばかりじゃダメだって。」
 キョウコの言葉に全員が頷き、同じように言われていると同意を表す。
 「うん。なんとなく分かる。」
 自分が親の立場なら同じ事を言うだろうから、彼等の両親がその様に言い聞かせて送り出したであろう事は想像に難くない。
 「えーと…ですから…。」
 マサトが補足しようと口を開きかけたところで
 「あ。俺は別に『やるな』とか『したら迷惑』とかそんなつもりで言ったんじゃないよ。」
 イツキがやっと気付き
 「『今日は』環境が変わったから気が付いていないだけで疲れているかもしれないし、明日は早くから遊びに出たいだろうし、あんまり無理するようなことさせたら体調崩すだろうから、休めるときは休ませた方がいいな、と思っただけで。」
 手伝いを拒否・拒絶したワケじゃないんだよ、と説明する。
 とは言え、彼らは基本『遊びに来た』ワケだからして…
 「…した場合、何を何時手伝えばいいんだ…?」
 明日は明日で遊びたい、でも、明後日だって、明々後日だって遊べるなら遊びたい、と言うのが本音のカズキは真剣に悩む。
 「使わせて貰ってる部屋は極力散らかさない様に注意して…、風呂とかトイレも汚さないように気を付けるとして…、後は洗濯とご飯の支度や後片付けくらいだけど…?」
 「だ・か・ら。今日の晩飯と明日の朝飯は俺がやるから、君達はその間のんびり過ごして身体を休めなさい。」
 イツキは、カズキ達の困惑を吹き飛ばすように力強く断言する。
 「「「はーい。」」」
 イツキは少年達の元気な返事を受けて、満足気に頷く。
 「さ~て、飯の準備を、と…。で、お前、何を浮かべてるの?」
 オミの後ろに漂う半球の物体に眼を向け、今更ながらに訊ねる。
 「うん。途中で食べたスイカの余り。」
 オミは真顔で返す。

 上階からの
 「手、手だけ洗わせて。」
 「やっぱ、顔もー。」
 「風呂♥風呂♥」
 「ねね、後でサウナ入らせて♥」
 「あ、俺も俺も。」
 「覗くだけでも…♥」
 等々、賑やかな声を耳にしつつ、ひろーい居間で一息入れたオミ。
 ひたすらオミにしがみ付いて満足したらしいタイガーは、それでもやはりオミの傍らからは離れず、椅子に腰掛けているオミのすぐ脇での~んびりと寝そべっている。
 「じゃぁ、タイガーもサッパリしようか。」
 言うが早いか、傍らにあるテーブルに湯気を立てたタオルと渇いたタオルが数個現れる。
 「ほ~ら、ぬくぬくだよー。」
 声をかけつつ、湯気を立てているタオルを空中で振り幾分か温度を下げ、タイガーの顔や耳を拭き始める。
 「キレキレしましょーねぇー。」
 眼の周りから鼻周り、口、顎、顔全体を拭き、耳から頭へ。
 少々驚いたタイガーが止めろと言うかのように、前足でオミの手をペシペシ。
 「はいはい、じゃぁ次は背中ねー。」
 オミは全く意に介さず、新しい温タオルでタイガーの背中をほんのチョッピリ強めにコシコシ。
 背中は気持ちいいのか大人しく撫でられるタイガー。
 徐々に背中が伸びて…、
 「『ソコが良いのぉー』なの?」
 オミは「丸めた起毛ハンドタオル」になったタイガーに声をかけながら、背中や足の付け根等を拭いていく。
 タイガーは小さいので、前足や後ろ足をウーーンと伸ばしても、せいぜい『ハンドタオルサイズ』にしかならないんですね。
 「じゃ、今度はお腹ねぇ。」
 声を掛けつつタイガーをコロンと仰向けにさせる。
 「お腹コシコシコシー。」
 オミの声とタオルの動きに合わせ、タイガーがウーーーンと伸びる。
 「はーい、手もキレキレしましょー。」
 前足をフキフキ。
 「今度は足ねー。」
 後ろ足をフキフキ。
 前後の足を拭きつつ爪チェックも怠り無く…。
 (切らないと…伸びてる。どうにかして、ネムネムさせないと…。)
 肉球もフキフキ。
 新しい温タオルで首周りとシッポとお尻をフキフキ。
 頭から尻尾まで温タオルで拭いたら、次は乾いたタオルで全身をくるんでワシワシ拭き、タイガーの湿った身体から水気を拭き取る。
 フキフキ、モミモミ。
 「はーい、お利口チャンでしたぁー。さっぱりしたねぇ、タイガー。」
 タオルから顔をピョコっと出させ、『お鼻でチュー』をしつつ声を掛ける。
 「ナー」
 オミの顔を前足でか~るくテシテシするタイガーをイスの上に座らせると、全身をプルプルと震わせお決まりの身繕いを始める。
 「じゃ、次はブラッシングだね。」
 オミがタイガー用のブラシを見せると、タイガーが目を輝かせ、ソレ好き♥ココやって♥とばかりに背中を見せる。
 「はいはい。コレ好きだもんねー。ココねぇ。」
 タイガーの背中をゆっくりとブラッシングする。…が、なにぶんタイガーは小柄なものだから…、一擦りで終わってしまう。
 寝て貰わないと爪切りに移れないオミは、ゆぅぅぅぅぅぅっくり・ゆぅぅぅぅぅーーーーっくりと何度も背中をブラッシングする。
 ゆーーーーーっくり・ゆーーーーーーっくり…、タイガーが気持ち良さそうに寛ぎ始めると、今度はお腹をゆーーーーーっくり・ゆぅぅぅーーーーーっくりとブラッシングする。
 顎の下から顎の付け根へ、顎の付け根から前足の付け根へ…ゆーーーーっくり・ゆーーーーっくり…。
 タイガーがすっかり脱力し、ウトウトし始めたのを確認し
 (そのまま・そのまま。寝ちゃってタイガー。)
 内心の期待を表に現さない様気を付けつつ、タイガーのブラッシングを続けるオミ。
 タイガーは気持ち良くてウトウト…。
 (良し。このまま寝るんだ。タイガー。)
 内心は内心として…ゆーーーっくり・そぅーーーっとブラッシング・ブラッシング。
 ウトウト…ウトウト…、もぅ無理です、目が開きません…ウトウト。
 (寝て。タイガー。良い子だから。)
 そぅーーと・そぅーーーーっとブラッシング。
 ウトウト…ウトウト…も、好きにして…ウトウト…下さい…ウトウト…。
 (良し、もぅチョイ…。)
 ウトウトスピー…ウトウト…。
 (後一押し…。)
 オミとタイガーが静かに戦って(?)いると、突然イツキが声を掛ける。
 「お前も風呂入っちゃえよ。」
 その声にタイガーは驚き、ビクッとして飛び起き、オミは力無くうな垂れ…。
 「キーちゃんっ!」
 オミにキっと睨みつけられたイツキは、近くのテーブルに乗った使用後のタオルとタオルの隙間から覗いているタイガー用爪切りを目にし、バツが悪そうな顔をする。
 「なんか…ゴメン。」

お邪魔します ⑥

 「はひぃー、しくじったぁ。騒ぎすぎちゃった、ノド渇いたぁ~。」
 川からの帰り道。
 着いた当日だし、あまり調子に乗って遊んでると疲れが出るだろうからと、早めに切り上げ家へ戻るその途上。
 きゃっきゃ言って興奮して過ごしたのが災いしたか、のどの渇きを覚える一行。
 しかしながら、コレと言って特に何か準備してきたわけでもないので渇きを潤すに足るものも無く、川へと向かう際に見つけたイチジクの木のところまではまだ間があり…。
 オミがしばし思案し
 「あー……スイカとかで良ければ…ある…けど…。」
 言いたくなさそうに口にする。
 「スイカ?あるの?どこに?好き好きスイカ、下さい。」
 ここでもカズキが素早く反応を示す。
 「って、なんで川に行くときには教えてくれなかったの?同じ道でしょ?ここ。」
 「だって……。」
 なに言われるか考えたら普通はいえないでしょ…。
 思っても言わないオミ。
 言わない代わりに不本意だと僅かばかり表情に表す。
 「どこどこ?スイカどこ?」
 全く意に介さぬカズキ。
 気持ちは既に未だ見ぬ愛しいスイカへ向かっている。
 「この先に右へ入る小路があって、その先に…。」
 「そんな道あったっけ?」
 カズキが川へ向かう際の道々を思い浮かべつつ訊ねると
 「逆からだと分かりづらいんだよ。」
 へー、なるほどねぇ。
 感心するカズキ。
 「貰っていい?スイカ。良ければ遠慮なく頂戴します。」
 お前は少し遠慮しなさい。
 思っても言わないお兄ちゃん達。
 ま、彼らも喉は渇いているので、この際便乗を決め込む。

 「おぉ、スイカーっ。って、なんじゃこりゃーっ!
 カズキの声が響き渡る。
 曲がり道に入ってから、トットコトットコと先を急で行ったカズキがソレらしき場所へ辿り着くと、目の前に表れたのは…。
 「倉庫みたいなのがあるんだとばっかりぃー…。」
 開けた畑状の植え込み。
 「あ、トマトもあるよ。キュウリも。水気が欲しくて甘味はいらないならコレもいいね。」
 カズキの後から辿り着いたオミが開き直って声をかける。
 なんだ?どうした?カズキの大声が聞こえたけど…?カズキー?どーしたぁ?オミさぁ~ん?
 皆が暢気に辿り着く。
 「って、なんだこれ?」
 「畑?」
 「これまたスゲエなぁ。」
 「良く育ってる事…。」
 「随分色々植えたねぇ。」
 「お、唐辛子まである。」
 「こっちには茄子が生ってるよ。」
 「スイカ、とうもろこし、きゅうり、トマト、茄子、唐辛子、枝豆、インゲンとみょうがとおくらに生姜……。」
 「お見事。」
 「ここいらって汚染されてないの?既に浄化されてるとか?」
 「あー、そういえば…。十個前後に一個は妙なのが出来るとか聞いてたけど…、無いねぇ。」
 「えーと…物のついでに収穫して行きます?」
 キョウコが冷静に提案する。
 「オミさん、オミさん。どれなら食べていいの?」
 あくまでも食い気に走るカズキ。
 「熟してるヤツなら別にどれでも…。」
 熟してる…カズキに分かるかな?
 カズキは一面に広がる作物を見渡し不安げな表情をする。
 「スイカなら…コレがお勧め。」
 クスクス笑いながらオミがとある一つを指し示す。
 「ほぅほぅ。じゃ、それで…ってナイフもハサミもありませんっ!」
 それ以前に冷えてないケドね。
 「うん、いらないし。」
 オミは平然としている。
 「あ、そっか。超能力。」
 そーそー、と頷いて肯定を示すオミ。
 「じゃ、とりあえずコレでいい?」
 うんうんと力を込めてカズキが頷く。
 オミはカズキの同意を得るが早いかサクっと切り離し、手元へと寄せる。
 「ちょっと待ってねぇ。冷やすから。」
 へ?冷やす?どーやって?
 皆が驚いて見ていると、見る見るうちにスイカの表面に水滴が付く。
 スイカが冷やされることで、スイカに接している空気も冷え、空気に含まれる水分が液体化し…結果、スイカの表面に水滴が付くわけで…。 
 「「「おぉー、スゲエ。冷蔵庫要らず。」」」
 皆が感嘆の声を零すと
 「コレ位ならズルにならないよね。第一ココはオミ達の島だし。」
 言いながらオミがにっこり笑う。

 「そー言えばさ、オミさん。」
 ノドの渇きが落ち着くと好奇心が顔を出す。
 「もしかして、ここら辺の作物もこの間のアメリカンチェリーと同じ経過を辿ったの…?メロンらしき姿も見えるし…。」
 やっぱり思い出すし、言い出すか…。
 「あ、そーいえば。」
 オミの胸中も知らぬ気に、カズキの近くに居たトシやヒロがまず反応し、その反応が順々と全員へ…。
 「「「この間はご馳走さまでしたっ!」」」
 皆が一斉に礼を述べる。
 「い…いえ、こちらこそ、助かりました。」
 圧倒されて萎縮するオミは返答するのがやっとの有様。
 「で、もしかして…?」
 話しを戻しオミの顔を覗き込むカズキ。
 その件に触れて欲しくないオミは、カズキのその視線をわざとらしく逸らし
 「聞いちゃダメっ。」



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