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最上部にて…

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やっぱり海だよね ⑨

 「ねぇ、オミさん…。」
 満腹カズキは隣のビーチチェアに座ったオミに、ぼーっと遠くを眺めながら話しかける。
 「?なぁに?」
 オミは膝の上でのびーっとしているタイガーの顎をなでながら、カズキの問いかけに応える。
 「オミさんね、いつもあんな美味しいのたっぷり食べてるの?」
 「いつも?美味しい?」
 オミにとって、イツキが作った料理を食べるのは当たり前すぎるほど当たり前となっているので、質問の意図が理解できず、逆に問い直してしまう。
 「美味しいじゃん!…お母さんのご飯も美味しいけどさぁ。」
 どこからか話が当事者に漏れるかもしれないと気付いたカズキは、とっさにだが、取って付けた様に母親の料理をフォローする。
 「材料が獲れ採れ新鮮だからねー。」
 顎をなでられたタイガーがゴロゴロと喉を鳴らすのを、嬉しそうに見つめながら答えにならない答えを返す。
 「ウチの方だってそこそこ新鮮ですぅ。」
 理由になっていないと言外にほのめかす。
 「キーちゃん料理にハマってるからねぇ…。」
 苦笑いしながら応えると
 「はま……?」
 ハマっていると表現していいレベルなのか?
 と疑問に感じたカズキは、思わずしげしげと、膝上でじゃれているタイガーの相手をしているオミの様子を見つめてしまう。
 「?なに?どうかした?」
 視線を感じてオミが不思議そうに訊ねる。
 「ぅーん…、ハマってるとかってレベルじゃぁ無いんじゃない?って思って…。」
 「フム。キーちゃんってば凝り性だし…。」
 凝り性な人って本人が納得するまでトコトンやるよねぇ。
 自身もたっぷりと食べたにも拘らず、美味しいとは口にしないオミ。
 「成る程ね。じゃぁさオミさん。オミさんの好きな料理って何?イツキさんが作るヤツで。」
 質問の方向を微妙に変えるカズキ。カズキとしては、美味しいと口にしないオミに美味しいと言わせたいと感じているのだが…。
 「は…?…うーん…と…。」
 しばし考えるオミ。今まで食べてきたイツキの料理のアレコレが脳裏を走る。
 「卵焼き?」
 「卵焼き…?」
 考えて出た料理名がそれかい。とばかり、思わず聞き返すカズキ。
 「うん。卵焼き。今朝のクルクル巻いたのも好きだし、半月形のも好きだし、グシャグシャにしたのも好き。」
 嬉しそうな笑顔で応えるオミ。
 「へぇ…。卵焼きかぁ。」
 そりゃぁまぁ確かに朝御飯の卵焼きも美味しかったけども…。
 もっと複雑に手の込んでいる料理名が出てくるかと思っていたカズキは、意外な表情で意外な料理が挙げられたので戸惑ってしまう。
 が、オミの表情が随分と嬉しそうだったので、自分なら(母親の)どんな料理を好きと感じているか思わず考える。
 「ぉー…卵焼きねぇ。カズキも好きかも。お母さんの卵焼き。」
 色々な料理が脳裏を走ったにも拘らず、カズキのオツムも『卵焼き』に落ち着いてしまう。
 「美味しいよねぇ。卵焼き。」
 オミはカズキの思惑を知ってか知らずか『美味しい』のは『卵焼き』だ、と念を押すように口にする。
 「はぁ、『卵焼き』が『美味しい』と。イツキさんの料理では無く。」
 カズキが少々むきになって確認を取ると、オミは大真面目な表情で
 「うん。」
 と言いつつ大きく頷く。
 オミがイツキの料理を『美味しい』と認める気が無いとカズキは察し、方向をガラリと変えて新たに問いかける。
 「え…っと、じゃぁね…、あのね、オミさんの故郷だと、肌を見せるのは『はしたない』ワケでしょ?そしたら、魚とかどうやって獲ってたの?魚食べる習慣無かったの?」
 あまりに不自然に、話の方向性を変えたため照れくさそうに訊ねるカズキ。
 知りたい事は山ほどある、でもとっさには出てこない、どこまでなら訊いても立ち入りすぎにならないか判断に迷う、だけど知りたい、ってさっきから質問してばっかりじゃん。
 カズキの逡巡を表情から見て取ったか、オミが安心させるようにニッコリと笑って答える。
 「魚は食べてたよ。だから獲る人は居たハズだけど…、どぉやってたんだろ…?」
 あ、『王子様』な立場の人に一般労働者の様子を聞いちゃったよ。知るわけ無いよね、エライ人の生まれなんだから。
 カズキが軽く後悔していると
 「オミの所だと、主体になって働くのは女性なんだけど…、女性がどうやって水場仕事をこなしていたか…ちょっと不思議だ…。いくら仕事だからって抵抗なく肌を晒していたとは思えないんだよね…。必要だから行うってのは分かるんだけど。」
 「女性がやるの?漁業を?」
 カズキにとっては意外すぎる単語を耳にし、つい今し方悩んでいたにも拘らず問い直してしまう。
 「女性が、いわゆる『家長』だからね。家の責任者である以上、働いて稼いで家族を養うのは当然の義務でしょう?」
 「あ、あぁ、そっか、カズキ達のお父さんの立場なんだ。」
 あっさり納得するカズキ。
 「そそ。だからって家のことを男がするとは限らないんだけどね…。」
 え?
 オミの話しに素早く反応し、怪訝そうな表情を見せるカズキ。
 家のことをしなかったら何するの?ウチのお母さんなんて、店を手伝いながら家の事もこなしてるのに…。女性がお父さんの立場なら、男はお母さんの立場でしょ?違うの?奥さんが働いている時、旦那さんは何してるの?ぐーたらしてるの?ソレなんて役立たず?何の為の旦那さん?居る必要ある?病気やケガしてるワケじゃ無いんでしょ?
 カズキの脳内を駆け巡る疑問の山…。
 疑問に感じつつも、訊ねて良いものか、口にしてしまっていいものか悩んでしまう。
 余りに質問をしてばかりだと嫌がられてしまう可能性もあるので、それを避けたいカズキは訊きたいのに訊けずにいる。
 「大多数の男は、ヒマそうにブラブラして日を過ごしてたよ。一部の男性は小遣い稼ぎに精を出してたけど。」
 オミが気を利かせて説明するが、新たな情報に触れれば新たな疑問が湧くもので…。
 え?ヒマでブラブラ?小遣い稼ぎ程度?なにそれ?どこの子供?
 「男の子は、文字通り『放ったらかし』で育つからねぇ…。」
 自分もそうだったっと言外に匂わせながら続ける。
 「幼い頃から色々と教え込まれるのは女の子だけでね。男の子は適当に育てられるんだ。だから、大抵の男は何にも知らないし、分からないし、出来ないんだよ。で、出来ることも無いしやろうとも思わないから、ブラブラして日を過ごすしかないの。」
 なにそれ、ナマケモノ?人の姿をした『ナマケモノ』ですか?
 カズキが目を真ん丸にしながら、きょっとーーんとしていると
 「キーちゃんなんか、『種』としてしか存在理由がないんだねぇって嫌味っぽく言ってたよ。」
 ふざけている様にクスクス笑いながらオミが言う。
 『種』…『種』って…。
 「ぅひゃー。」
 微妙なお年頃のカズキは、『種』の意味を察してジタバタしながら顔を赤らめる。
 「ありゃ、ちょっと刺激が強かった?ゴメンね?」
 やべ、失敗した?とオミは誤魔化すように笑顔を向ける。

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やっぱり海だよね ⑧

 「はひー食べた食べた。満腹ぷくぷくー。」
 海の幸を片っ端から胃袋へ収納し大満足のカズキは、重たくなったお腹を抱えるようにノロノロとビーチチェアに腰掛ける。
 「お腹パツンパツンで動けませぇん…。」
 足まで乗せて伸ばせる、大きめのビーチチェアにだるるぅ~んと横たわる。
 「カズキ、食い過ぎ」
 「お前はもぉ…。」
 トシやヤスノリが笑いながら呆れている。
 イツキは微苦笑しながらカズキを擁護する。
 「ぃゃ、でも、食休みは大切でしょう。」
 イツキとしては、食べすぎで体調を崩すのは避けたいが、たっぷりしっかり食べて貰うのは自身の希望とも合致するので、彼らの食べっぷりはむしろ喜ばしく受け止めている。
 「君達も満腹でだるかったら、片付けを手伝わなくていいんだよ。俺一人でなんとかなるから。」
 「いやいや、大丈夫です。」
 「いくらなんでも、そこまでぎっちぎちに詰め込んだりしていませんから。」
 笑いながら、イツキの甘い言葉に乗らないよう自制をみせる。
 (イツキさんは、どうも甘やかしグセがあるみたいだねぇ。)
 (流されたら、家に帰ったときに自分が苦労しそうだ…。)
 (カズキは見境無く食ってたから、実際動けないんだろうけどな。)
 (ここでイツキさんに甘えたら、帰った後バレた時にこっぴどく叱られるわな。)
 リョウ・トシ・ヤスノリ・ヒロの四人組のアイコンタクト。胎児の頃からの付き合いによる意思疎通は流石なもの。
 「ほれほれ、サッサと片してテーブル拭けよ。」
 マサトが白々しく四人を急かし、素早く目配せをする。
 (イツキさんが手を出すような隙を作るなよ。あの人きっと、何処までも際限なく世話焼くぞ。)
 「「はーい。」」
 流石に胎児の頃から知っているだけあって…(以下略。
 四人は、マサトの言葉に反抗することなく、チャッチャと作業を進めていく。
 「よーし、取り敢えず皿は入ったっ。他、しまっておく食器あるか?」
 洗うのは帰ってからするにして…。
 使った皿を仕舞い込んでいたシンが、しゃがみ込んだ状態で声をかける。
 「んー…?いや、無いよ。グラスはまだ使うでしょ。」
 リョウが応える。
 「んじゃ、皿はこれでOKっと。貝とか盛ってたトレイは?どうした?」
 「あ、サイズが大きいからってこっちのクーラーボックスの中に仕舞っちゃった…。ってイツキさん、こっちに入れちゃマズかったですかね?」
 トレイを片付けたヒロが、シンに答えつつイツキに確認を取る。
 「いや、別に構わないよ。ところで調味料はどこへ?」
 「調味料類は小さい篭があったので、それに入れてトレイと一緒のクーラーボックスへ仕舞いました。」
 ミズキがすかさず答える。
 「あぁ、成る程。ありがとう。」
 ≡ なんだろう?俺に手出しさせないって位の手際に感じるんだけど…。 ≡
 ≡ 実際、手出しさせないつもりなんでしょ。 ≡
 ≡ なんでよ? ≡
 ≡ さぁ?オミは、基本が「やって貰う側」だし…分かんないよ。 ≡
 ≡ んー…? ≡
 軽く首を傾げながら少年達の様子を観察するイツキ。
 オミは彼らの様子を軽く一瞥して
 ≡ 打ち合わせ無しだろうに、見事な分担だねぇ。 ≡
 半ば面白がりながら、気付いた点を伝える。
 イツキとしては、手持ち無沙汰となってしまうので少々不満なワケだが、だからといってヤル気を潰すのも気が引けるため少々複雑な心境ではある。

 一通り片付けると、皆も強い日差しからの避難を兼ねて、まったり食休みと思い思いに寛いぐ。
 中学生組はカードゲームに興じ、高校生組はイツキが適当に持ってきた雑誌にそれぞれ目を通している。
 「男用ファッション雑誌なんて、わざわざ買ってるんですか?」
 マサトが手元の雑誌に目を通しながら聞くとはなしに訊ねる。
 「んー…、勝手におくってくるんだよねぇ…。着ないし興味ないから要らないんだけど。言ってんのに送ってくるんだから困っちゃうよねぇ。」
 「はぁ…。送ってくるんですか。要らないって知ってても…。」
 一体誰が送ってくるんだ?要らないって分かってるのに、それでも尚、って…。
 マサトは腑に落ちないと、不思議そうな表情をするが
 「女性用化粧品やメイクの雑誌は…?」
 キョウコがついでにと訊ねる。
 「送ってくるんだよねぇ…。誰が化粧するんだっての。分かってるクセにわざと送って来るんだよ。」
 「じゃぁ…この写真集のような本は…?スナップ写真ですかね。風景も人物も、後ペットかな?一緒くたですけど。場所が違うってカンジですが…。」
 「あぁ、それは定期連絡みたいなものだよ。『ココに来たよ』ってね。元はただの写真で、地名と日付つきで梱包されて届くの。」
 「あー、って事は、何月何日にはココに居たって事が、一応分かるワケですね。」
 「そそ。」
 「「で、何方が?」」
 三人が声を揃えて問いかける。
 「?パパ・アンディーだけど?言ってなかったっけ?」
 三人が三人ともキョトンとする。
 (パパ・アンディーって誰?)
 (誰?)
 (知らないし。)
 三人のアイコンタクト。
 日本人は、お互いがお互いの雰囲気から伝えたい事を読み取る能力が優れているようなので、ある程度親しい仲ならアイコンタクトが取れればテレパシー代わりになりますね。
 (あ、でも聞き覚えはあるかも。)
 キョウコが何かに気付いた表情を見せる。
 「パパ・アンディーとママ・レティシア、知らない?」
 三人が言葉を継げずにいるのを見かねてか、聞いた事無い?と言外に匂わせながら訊ねる。
 「あ。『ママ・レティシア』は聞き覚えある!」
 マサトが素早く反応する。
 「総本部の代表の方?」
 キョウコがもしやと訊ねる。
 「え?あれ、待った。…もしかして『パパ・アンディー』って『ママ・レティシア』との共同設立者サン?なんかそんな名前見た覚えが…。」
 あぁっ!そうだ。それだ!その人だっ!
 シンが口にすると、後の二人が応じる。
 「うん、その人。」
 イツキが三人の反応を楽しそうに見つつ答える。
 「「――― っ。」」
 イツキの答えに一瞬絶句し、顔を見合わせる三人。
 「あの人って、好奇心旺盛でねぇ、一ヶ所に留まっていられないらしくて…。あっちにフラフラ、こっちにフラフラって。気が付くとどっか行ってるんだよ。大体オフィスワーク苦手だしね。」
 「はぁ…。」
 三人はイツキの言い様に、間の抜けた相槌しか打てない。
 「で、その写真は、約束させられてるんだよ『ママ』に。『行った先で写真を撮って送って来ること』『その写真には地名と日付をつける事』って。」
 「『約束』ですか…。」
 シンが、様々に湧き上がる疑問を一旦仕舞いこみ、確認を取るように口にする。
 「うん。守らないと『一年間のデスクワーク』か『離婚』だって脅されてる。」
 イツキが楽しそうに、サラッととんでも発言を口にする。
 ヘーソウナンデスカー。
 イコールで繋がらない三人は一旦は聞き流すが
 「「えっ!離婚?って、ご夫婦でらっしゃるんですか?そのお二人は。」」
 聞き流すワケには行かない単語に、やっとの事で反応する。
 「うん、まぁ、そう。一緒に居る事って滅多に無いけどね。」
 なにしろ約一名あっちこっちフラフラしてるから。変わった夫婦だよねー。
 とイツキが、心底面白がっているとイヤでも分かる様な笑顔を見せる。

やっぱり海だよね ⑦

 「ちゃんと着たら、水分補給してね。飲み物は、まだたっぷりあるからね。」
 オミが例によって例の如く、後ろを向きながら一同へ声をかける。
 「「「はーいっ!」」」
 こちらも同様に声を揃えて返事をする。
 「麦茶飲むー。」
 大急ぎで上着を羽織っているカズキが、注いでいるヒロへおねだりをすると
 「待て、今注いでるし。全員麦茶でいいんでしょ?取り合えず最初の一杯は。」
 「「「麦茶ぁー。」」」
 くれくれーと、声が揃う。
 「全員着た?」
 オミが、一同の声の揃いっぷりに笑いを堪えながら訊ねる。
 「あー…っと、今、カズキがズボン穿いてるところで。済んだらOKです。」
 シンが状況を伝えるとウンウンと頷いて応える。
 「穿いたぁーっ。オミさんお待たせー。」
 「はーい。」
 軽く返事をしながら振り向くと、つい今し方迄ズボンと格闘をしていたにも関わらず、既にカズキは飲み物を口にしている。
 「カズキ君、すごーい。」
 オミが驚嘆の声を上げると
 「飲み・食いに関しては…ね。」
 マサトが呆れた様に苦笑しながら応える。
 自分の事が話題になっていると知ってか知らずか、カズキは麦茶を一気飲みし
 「くぅ~~~っ。乾いた身体に染み渡るぅーーーっ。」
 っはー。と『風呂上りの一杯』の様な反応を見せる。
 「麦茶うめぇー。…って麦茶だよねぇ?ウチで飲むのと違うっぽいんだけど…?いいんだよねぇ?麦茶で…。」
 不思議そうにドリンクピッチャーをしげしげと見つめる。
 「何が違うの?なんかが違うっぽいんだけど…『なんか』が『なに』か分かんない…。」
 グラスへ新たに注いだものを凝視しながら首を傾げる。
 「水・麦・焙煎の仕方・分量、意外な所で隠し味、さてどれだろう?」
 シンが謎掛けのように言うが、言った本人を含めた全員が大きな『?』を頭の上に掲げてしまう。
 と、そこへ
 「おまちどー、昼飯だよ。って待たせすぎた?」
 イツキが、突然空中に荷物と共に現れ、皆が和んでいる様子を目にし慌てたように声をかける。
 「あ、いえ。今し方戻ったところで…。」
 イツキに妙な気遣いをさせまいと、シンが事実を事実として伝える。
 「そ?ならいいんだけど…。妙な表情してどうしたの?」
 「ウチで飲む麦茶と違うっぽいんだけど…、ナニが違うの??」
 カズキが目を真ん丸にして訊ねる。
 「へ?麦茶は麦茶でしょ?違うってなにがどう違うって感じるの?」
 ワケの分からないイツキは頓珍漢な受け答えをしてしまう。
 「なにかがなんか違うの。」
 問われても具体的に把握出来ていないものだから、こちらもヘンテコリンな事を口走る。
 「んー……?」
 さっぱりワケの分からないイツキは、思わず真剣に考え込んでしまう。
 「身体が乾いているからかな?って思ったんですけど…、二杯目でも違うって感じるものですから…。」
 キョウコが可能性の一つを否定する。
 「んー…、特に変わった作り方をしているつもりは無いんだけどねぇ…?」
 イツキの首が一層傾げられる。と、オミがコソコソっとバツが悪そうに声をかける。
 「ね、お昼ってナニ?タイガーがさっきからすごく騒ぐんだけど…。」
 「あぁ、海鮮バーベキューと鰯でつみれ汁、白飯も欲しいかと思ってお握りも。」
 「「「海鮮バーベキュー?」」」
 今、全員の頭から『麦茶の不思議』が、光速を超え銀河の彼方へ飛んでいきました(いつかきっと、宇宙の端も越えるでしょう) ―― 。
 
 「「おぉ、でけぇ海老がいる…。」」
 「「アワビだ…アワビ。」」
 「ホタテ、さざえも…。」
 「「足の長いカニが…っ。」」
 「「この縞々の魚は…まさか…っ。」」
 イツキの持って来た荷物の一つ、クーラーボックスを覗き見て感嘆の声をもらす中学生組と小学生。
 「こーら、手伝えよ。大体開けてちゃ、あっという間に温まっちゃうだろ。」
 シンが、行儀の悪さを叱るように声をかける。
 「風で砂が入っちゃう気がするんだけど…、さっきみたいに派手に水撒くわけに行かないよねぇ?テントの中と外と、両方に撒きたいんだけど…。」
 オミが日向の様子を気にしながら呟く。
 「派手にやったら、そりゃぁ砂が舞うだろうねぇ。」
 イツキが微苦笑しながら応えると
 「水撒く?水道は…無いから…えーと、バケツにでも海水入れてやる?カズキやろうか?」
 働き者アピールするカズキ。
 「じゃぁ…。」
 イツキの声と共にポリバケツとじょうろがポンっと現れる。
 「そこに海水いれるから、そのじょうろで撒いて貰える?」
 「はーい。」
 カズキは、ポリバケツの突然の出現に少々驚きながらも、元気一杯応える。
 
 「如雨露じょうろ…お水ぅ撒きぃ~。」
 適当なメロディーに適当な歌詞をつけ口ずさみながら水を撒いていくカズキ。
 如雨露の水が空になったのでポリバケツから水を補給しようと覗き込むと、先ほどは気付かなかった影の動きが目に入る。
 「?……?」
 今の何?と目を凝らすと、ポリバケツの中微かに見える魚影。小さな影がつつ・つー、つつ…とポリバケツの中で泳いでいる。
 「おぉっ?」
 更に身を乗り出すように覗き込むカズキ。
 つ・つつー…つー・つつー・つ・つ…。
 「カズキ君、どうしたの?ポリバケツが竜宮城の入り口にでも繋がった?乙姫様でも見えた?」
 カズキが、余りに真剣に覗き込んでいるのに気づいたオミが、クーラーボックス狙いで暴れるタイガーを抑えつつ声をかける。
 「ポリバケツが竜宮城の入り口とかって…なんかヤだぁ…。」
 声をかけられ我に返ったカズキが脱力しながら応えると、オミが微笑しながら問いかける。
 「何が見えたの?」
 ひょいと覗き込むが、光の反射のせいかキラキラと輝く水面しか確認できない。
 「?」
 視線でカズキに問うオミ。
 「魚?小さいのが泳いでるの。まさか入ってるとは思わなかったからさ。」
 「んー?見えないけど…?」
 「カズキも最初は見えなかったし、分からなかったよ。だからびっくりして、さ。」
 オミはカズキの言葉に頷きながら尚凝視するが、反射のせいか屈折のせいかやはり見えないので、思わず眉間にしわが寄る。
 「むぅー…。」
 余りの見えなさに痺れを切らし…。
 と、唐突に
 「あ、居た。」
 嬉しそうな声と表情を見せる。
 「ホントだ。小さいねぇ。」
 嬉しそうにニコニコしながら言うオミに、カズキが若干冷ややかな声で確認を取る。
 「オミさん、今超能力で見つけた?」
 「あ、バレた?だって見えないんだもん。」
 さして悪びれるでもなく応える。
 「なんだろう…?なんか、こう、モヤモヤしたものを感じる。」
 カズキが自分の感情を持て余した様に呟くが、オミは全く意に介さず
 「この子でしょ?ホント小さいねぇ。」
 空中に、小さな魚の入った小さな水球を浮かべ、カズキに声をかける。
 「こんな小さい魚よく見つけたねぇ。カズキ君すごーい。」
 尚もニコニコとカズキを褒める。
 褒められれば、複雑なモノを感じていたとはいえやっぱり嬉しいワケで、
 「えへへー?そお?ぃぁ、なんか動いたなーって…へへー。」
 つい表情が緩む。
 「でねオミさん、やっぱこの子、そこの海に居たんだよねぇ?さっき泳いでいた時には、魚なんて全然見なかったけど…。」
 「ぅー…ん、多分ね。魚自体は居るからねぇ。皆が泳いでいるときは避難してたんじゃない?」
 「避難…。あぁ、いつもと違うイコール危険って事か。」
 「キーちゃんでもやっぱり除け切れないんだねぇ。で、どうしようか?この子。」
 「このままココに入れていたら、きっとカズキは如雨露で掬っちゃうよ。そしたら死んじゃうだろうから、海に返してあげて。」
 カズキの言葉に笑顔で応えて
 「カズキ君がそれでいいなら返すね。」
 オミが言うが早いか、キラキラと日の光を照り返しつつ浮かんでいた水球が、フっと消える。

やっぱり海だよね ⑥

 タイガーは相変わらず、引く波を追ったり、寄せる波に追いかけられたりを繰り返している。
 波が引いていけば、その表面のキラキラ(日の照り返し)をチョコチョコと追いかけ、波が寄せてくる時には、オミに声をかけられつつ大きな白いブクブク頭(波頭)から逃げ、引いて行くと再びキラキラを追って ―― 。

 「シンちゃん、次シンちゃんの番。」
 ミヅキに声をかけられ、巨大山崩しの砂山へ向き直ったシンの目に入ったモノは…。
 「なっ!?コレかよ?マジでー?」
 半ば倒れ掛かった、天辺に刺さった棒。
 「フフフフフ…。クリア出来る物ならやって見せるが良い。」
 悪役になりきったカズキの偉そうな声が聞こえる。
 「カズキ頑張りましたデスよ。」
 胸前で腕を組み、尚且つ胸をそらして自信満々。
 「お・ま・え・はーっ!やったろうじゃねぇの。なめんなよっ!」
 挑発と分かっていて乗るシン。
 ぐるりと砂山の周りを見回し、とある一点を頂上付近から下まで一気に削り取る。
 シンが削るそばから、サラサラと砂山の側面が崩れる。
 崩れるにしたがって、頂上で傾きながら刺さっている棒が僅からながらシンの削った側へズレ込み、それと共に傾きが戻される。
 傍らから、様子を覗き込んでいたカズキの溜息が零れる。
 「ちぇー…、止まっちゃった。」
 ほぼ直立で静止した棒を目にし、ガックリと肩を落とす。
 「ハハハハハ。どーだカズキ。恐れ入ったか?」
 今度はシンが、カズキに合わせて偉そうに腰に手を当て胸を張る。
 「くぅーっ!今度こそっ!!」
 本気で悔しがるカズキ。
 「同じレベルで…、全く。」
 二人の様子を見ていたキョウコが苦笑しながら呟く。
 と、シンが自分の削り取った砂を少しづつ均している姿が目に入る。 
 「シン?あんた何やってるの?」
 不思議に思い様子を見に行き、シンに声をかけるキョウコ。
 「ん~~?ぃゃ…さっきなんか硬いのに触ったなって思って。」
 砂を均す手を止めず答える。
 「硬いの?石とかじゃなくて?」
 「んー…。?」
 「あった?何?」
 キョウコも思わず身を乗り出すと、シンが砂の中から光沢のある硬い欠片を取り出してみせる。
 「貝…?の殻か?」
 「へー…貝なんているんだぁ。砂地だからかしらねぇ?」
 キョウコが少し興奮気味に応える。
 「あぁ、そっか。砂地なら貝位いるか。」
 他にも何かあるかなぁ~~。
 シンは面白半分に再び砂を均し始める。

 ≡ オミとタイガーは、先にテントへ戻ってるね。タイガーが喉渇いたみたいだから。 ≡
 オミの声が頭に直接聞こえてくる。
 「「「はーい。」」」
 波や風の音に紛れて届かないと分かっていても、返事をする少年達。
 ≡ 君達も程々で休憩取りなよ?日に当たり過ぎてると、日焼けがとんでもない事になっちゃうし、喉の渇きを我慢し過ぎると死んじゃうんだからね。 ≡
 「「「はーーぁいっ。」」」
 テントに向かうオミの後ろ姿へ返事をする。
 「んじゃぁ、体冷やしと砂落としと汗流しを兼ねてちょっと泳いどくか?」
 シンが背中を伸ばしながら声をかける。
 「はーい。って、シンちゃん、さっき何やってたの?」
 カズキが興味津々と訊ねてくる。
 因みに、巨大山崩しはトシが期待に応え(?)天辺の棒を見事に倒しました。なので、トシは只今罰ゲームとして、首まで砂に埋められているワケですが…。
 「出してぇ。俺も泳ぐー。重いぃー。」
 「写真撮るまで待ちな。近年稀に見る傑作なんだし。今カメラ取って来るから。」
 テントへ向かうマサトに、言い捨てられる。
 カズキに問われたシンは、特に隠すことなく先ほど見つけた貝殻を手に乗せ、見せながら答える。
 「何って、コレが砂に埋まっててさ。」
 「?貝殻?埋まってるの?気付かなかった。」
 トシを埋めてたのにねぇ。巨大砂山だって作ってたのに。
 「ま、探すにしても後にするんだな。お前肩赤くなってきてるぞ。泳ぎながらきっちり冷やしな。」
 「はーい。お土産にいいよね。貝殻。」
 冷たい冷たい。火照った身体に水がつべたいー。
 カズキとシンは、騒ぎながら遠浅の海中を少しは深い方へと移動していく。
 罰ゲーム中のトシは、炎天下に皆に置いて行かれるわ、カメラを持って戻ってきたマサトに写真を撮られ捲くるわで散々な目にあっている。
 きゃぁぁ、トシ君すてきぃー。こっち向いてぇ。笑ってぇっ。
 トシは自棄になりながら、マサトの白々しい声に合わせ笑顔を振り撒く。
 ばっきゃろーっ!!
 ―― トシ心の叫び。

やっぱり海だよね ⑤

 タイガーが日陰と日向の境目から、波打ち際の少年達を遠目に見ながらうろついている。
 「どーしたの?タイガー。日向は砂が熱いよ。」
 オミに声をかけられたタイガーは、訴えるように小さく鳴く。
 「ミー。」
 一人と一匹は、お互い先ほどの叱り・叱られをすっかり無かった事にしている。
 「行きたいの?濡れるのキライだし、砂が付くのもイヤなのに?皆が居るから?」
 「ナー。」
 オミの言っている事が通じたのか、期待に満ちた目を向ける。
 「でも……。」
 あちらは『破廉恥軍団』(オミ目線)が集団で砂遊びに興じている。
 「あんな恥ずかしい格好の集団に近づけないっ!」
 オミは全力で拒否をする。
 「ミゥ…。」
 悲しげに項垂れるタイガー。が、すぐに波打ち際の少年達を気にし、うろうろとし始め
 「ミーミーミー。」
 呼ぶかのように繰り返し鳴き始める。
 「あー、もぅ分かったよ。行けば良いんでしょ。でも、オミは皆の方には行かないからね。」
 タイガーを一匹で波打ち際へ行かせるワケに行かない為、オミがイヤイヤながら折れて、おねだり状態のタイガーを抱きかかえる。

 「ひゃー、日差しが強い…。すごいねータイガー、キラキラしてるよ。」
 海面に照り返る日差しを指し示しタイガーに声をかける。
 タイガーはと言うとオミに抱えられながら、波の音に耳をピンとそばだて鼻をヒクヒクさせ、目は白く泡立つ波頭を凝視している。
 「ここでいい?」
 タイガーに声をかけながら、波打ち際の波が引き、濡れて砂が冷えている場所にタイガーを下ろす。
 「ミャウ。」
 オミの手から砂地へとおっかなびっくり、そーっと下り、すぐに砂の匂いを嗅ぎ始めるタイガー。
 「寒いとき以外何度も来てるのに、やっぱりソレするんだねぇ。」
 タイガーがオミの足下付近をちょろちょろしつつ砂の匂いを嗅ぎ、思い出した様に波の様子を気にかける。
 うろちょろ、うろちょろ。
 少しづつ探索範囲を広げ、つい今しがた波が引いたばかりの所にまで踏み込んで行き、潮の匂いを追う様に躊躇いながらも進んで行く。
 あれ程までに気にしていた少年達の事は、綺麗さっぱり忘れてしまった様だ。
 
 「あら、オミさんとタイガーが…。」
 砂浜で皆と巨大山崩しに励んでいたキョウコが、少し離れた場所へ来たオミの姿に気づく。
 「オミさんも完全防備だねぇ。」
 オミの『普段の服装 + つばの広い麦藁帽子』姿を目にしたヤスノリが、半ば呆れたように言う。
 彼らの所からも、オミの抱っこから下りたタイガーが、オミの足下をうろちょろしている姿が見える。
 「タイガー、波平気なのかな?」
 カズキが心配そうに口にすると、
 「オミさんが気をつけているだろうから、大丈夫だろ。」
 トシが安心させるように声をかける。
 「尻尾がちょっぴり上がって、ちょっとだけ曲がってるねぇ。」
 「って事は、あの服、猫の動きを考慮した作りになってるんだな。すっぽり覆われちゃってるのに。」
 マサトが感心しながら言うと
 「さっきもフツーに動いてたしねぇ…。」
 葡萄騒ぎを思い出しながらカズキが応えると、皆が思い出した様に笑い出す。
 「確かに…。」

 「タイガー、タイガー。危ないよ。波来たよ。」
 オミが油断しまくりのタイガーへ、慌てて声をかける。
 声をかけられたタイガーはふと顔をあげ、自らへ目掛け押し寄せてくる水の壁に気づき立ち竦む。
 硬直した身体と真っ白になった頭へ聞こえてくる大好きな声。
 「こっち。こっちにおいでっ。タイガー。」
 オミの声に我に返り、大急ぎでオミへと走り寄る。
 急いでいながらも、猫だけに時折チラリと波の様子を確認し、その度に更に走るスピードを上げる。
 必死の形相でオミの近くまで辿り着くと、差し出されたオミの手に気付く。
 「急いで、タイガー。おいで。」
 オミの声に励まされ、必死に走り、差し出されたオミの手に飛び移る勢いで乗っかると、すかさずオミが上へと持ち上げ、抱きかかえる。
 「頑張ったねぇ、タイガー。エライエライ。」
 オミの足下を、警戒して見つめるタイガーを、撫で繰り回して褒めまくる。
 「もう行っちゃったから大丈夫だよ、タイガー。怖いのは向こうに行っちゃったから。ほら。」
 キラキラと日の光を煌めかせながら引いていく波を、タイガーに指し示して見せると、タイガーは警戒しまくりの顔でそれを凝視する。
 「あっちに行っちゃったから、もう怖くないでしょ?もう一回下りる?」
 オミに促されて足下に下りるタイガー。
 とは言え、つい今しがた恐ろしい目にあっただけに、オミの足下から離れようとはせず、傍らから波の様子を怪訝そうに伺い見るのみ。
 気には成る、でもまた襲われるのは御免被る、でも気になる。
 その様な様子がありありと表れている。
 怖いー、でも気になる、でもでも怖いー、だけど気になるぅ。
 タイガーの葛藤。
 行こうかな、止めておこうかな、でも行っちゃおうかな、キラキラしてるの取りたいな。でも、おっきいのが来るしな。来なければ行くんだけどな…。
 波の動きを、ウロウロしつつも必死に観察しながら、でも足元からは離れないタイガーに、オミが笑いながら声をかける。
 「止めとく?もうちょっと抱っこで居ようか?」
 声をかけながら手を差し出すと、タイガーは躊躇いがちに前足をオミの手にかけ、訴えるように鳴く。
 「ナー…。」
 「ん?まだ帰るのはイヤなんでしょ?大丈夫だよ、まだ帰らないから。おいで。」
 オミの言葉が分かったのか、今度はあっさりと手に乗り、再び抱きかかえられる。
 「あー、また来た。ほら。」
 波の動きをタイガーに教えるオミ。
 タイガーが見ると、表面を煌めかせた、大きな『何か』が自分達の方へ押し寄せてくる。
 オミにしがみ付く前足に力が篭ると
 「ぅーん?こっちまで来ちゃうかねぇ…。」
 オミの暢気な声が聞こえる。
 暢気に動こうとしないオミにささやかな心細さを感じ、腹を押し付けるように身を寄せると
 「あぁ、大丈夫だ。タイガー、見てごらん。」
 足下を見せようとするオミ。
 「ほら、大きいのはここまで来れなかったよ。キラキラしてるの綺麗だねぇ。」
 タイガーが下を見ると、確かにオミの足下から幾許か離れたところで、ひたすらキラキラと輝いている。
 「今のヤツは大丈夫だったねぇ。」
 楽しげなオミの声。
 『安全だ』と確信すると、勇気が湧き上がってくるから不思議だ。
 タイガーは堪えきれずに『下りるー。』とオミに合図を送り、三度下ろしてもらう。

 巨大山崩し続行中の少年達。
 自分の番が回ってくるのを待つ間、オミとタイガーの様子を眺めている。
 「タイガーすんげぇ走りをしたねぇ。」
 「スタートダッシュと途中途中での加速が凄いねぇ。流石だねぇ。」
 タイガーの必死の走りを褒め称える。
 「でも、タイガーには、この波がどんな怪物に見えるんだろ…?」
 彼らは傍らの海へと顔を向ける。
 この浜は陸地へと抉りこんだようになっている入り江状で、波も穏やかな遠浅となっている。
 僅か沖には、随分と昔ならば陸と繋がっていたであろうと思われる、大きな岩壁が波避けの様にいくつも並んでいる。
 波音は、沖の岩壁や陸の崖壁などに反響しているが、少年達が遊んでいる入り江側ではささやかな物で、沖にある岩壁の、沖側から岩壁へと叩きつけられる音と、入江側のささやかな波音が相まって反響し、それが繰り返されるので、大きな音が繰り返されているように聞こえるだけである。
 波の高さは、高い時ですらせいぜい5・60㎝程度で、大抵は2・30㎝程なので、浮き輪などに掴まりたゆたっていると、クラゲにでもなった気になれるだろう。
 「タイガー小さいからなぁ…。」
 リョウが困惑したように呟くと
 「ぅーん…、塗り壁?」
 ヒロが首をかしげながら、『大災厄』後にも伝えられる妖怪の名を口にする。

やっぱり海だよね ④

 「シンちゃん、シンちゃん。さっきどうしたの?」
 濃い紫色をした薄側に包まれた葡萄を、種を避けつつ味わいながらカズキが訊ねる。
 「どうってなにが?」
 訊ねられたシンも葡萄を満喫中。
 「首傾げてたじゃん。」
 「あー、なんか砂の感じが違うなーって。海に向かうときは気付かなかったんだけどな。」
 「違う?砂が?」
 葡萄を齧りつつ砂浜へ目を向けるカズキ。
 砂浜は夏の日差しに照らされ、又砂が日を照り返すものだから眩しく、白っぽくも見える。
 「ぅん。すんごく眩しくてちっとも分からん。」
 大真面目に堂々と諦める。
 「お前、偉そうだなー。」
 シンが呆れたように呟くと、カズキはテヘへと悪びれる様に笑って誤魔化し、再び葡萄へ手を伸ばす。
 その手が葡萄を房から外した途端、それを待ち構えていたタイガーによって弾き落とされてしまう。
 ペシッ!
 つい先ほどオミに叱られて、手頃な大きさのボール(タイガー目線)を取り上げられたタイガーが、悔しさからの八つ当たりと好きに手に出来る羨ましさに狩人(猫だけど)の敏捷性とカズキの油断をプラスして、ここぞとばかりに横取りする。
 「あ…。」
 自分の手元からコロコロと転がり、タイガーにより尚転がされ続ける葡萄を、あっけに取られて思わず呆然と見送ってしまうカズキ。
 そのカズキの様子と、してやったり感を溢れさせているタイガーと、転がる葡萄を目にしたシンは不覚にも噴き出してしまう。
 「おまっ、ドジ。なめられてるんじゃね?」
 とは言え、カズキが子猫相手に本気にならない点は加味して、言外に匂わせてはいるが。
 「ガ~~ン。なんでカズキさっ!」
 カズキが悔し紛れにタイガーへ言い放つが、当のタイガーは聞こえないフリをし、ボール代わりの葡萄を更に転がしている。
 トトトッ…ペシッ…トトト…。
 タイガーは楽しげに戦利品(葡萄)で遊んでいる。それもテーブルの上で…。
 と、突然タイガーの身体が空中に浮き、葡萄を弾こうとした前足が空を切る。
 「ナァーッ!」
 タイガーが抗議の声を上げるがすぐに押しとどめられる。
 当たり前すぎるほどに当たり前な…冷ややかに怒りの表情を見せるオミが、少し離れた場所に立っている。
 「タイガー?」
 オミが冷ややかに…、とんでもなく冷ややかに声をかける。
 「ミゥ…。」
 ショボーンと項垂れるタイガー。
 反省しているわけではなく、見つかってしまった、ばれてしまった事を悔やんでいるダケだが…。
 「ダメでしょっ!テーブルはダメッ!葡萄もダメッ!!」
 流石の飼い主バ○オミが、冷ややかな様子はそのままで口調はきつく叱り付ける。
 反省していない事に気付かれたと、今度は本気で落ち込み項垂れるタイガーを湿らせてある地面へ下ろす。
 下ろされたタイガーはタメ息を零しながら肩を落とす。
 「ナ…ゥ…。」
 元々大して気にしていなかったカズキが、タイガーの落ち込み様を見かねて取り成そうと口を開きかけるが、シンに視線で止められる。
 「タイガーの躾だろ。口挟まない方がいいんじゃね。」
 シンに言われても、タイガーの様子が気になるカズキは、困惑顔で視線をタイガーとシンの間で往復させる。
 そんなカズキの上着の裾を隣に座っているミヅキが軽く引き、
 「カ・ズ・キ。」
 止めておきなさい。と言外に匂わせ声をかける。
 カズキは二人から止められ仕方なく渋々従うが、どうしてもタイガーの様子が気にかかるのか、身を乗り出すようにして、項垂れているタイガーをチラチラと盗み見る。
 「オミさん、この皮と種とヘタ、どうしたらいいんでしょ?生ゴミ袋とかあります?」
 タイガーの様子を知ってか知らずか、マサトが暢気にオミへと声をかける。
 場の雰囲気が一部神経質なものへ変わっているのに気付き、話題を変えようとマサトが気をまわした可能性はあるが。
 「あぁ、種だけ別にして纏めておいて貰えれば…。後はオミがするから。」
 タイガーを叱った時とは様子がガラリと変わったオミの返事に対し、微妙な雰囲気で応じるマサト。
 「え?なに?あ、纏めるのに皿が足りない?」
 微妙な空気にのみ気付いたオミ。
 マサトとしてはオミの口にした『後は~』の方こそ気にかかるのだが、オミは全く気付いていない。
 「種はコッチに入れておいてくれる?ってなに?微妙な表情して…。」
 「あー…その、種だけ別ってナニかなー?って思って。」
 マサトがバツの悪さを誤魔化すように、笑顔を貼り付けて答える。
 「あぁ。育てるんだよ。増やすように頼まれてる面もあるんだ。」
 「はぁ、『増やす』んですか…。理由聞いて良いですか?」
 「?移植する為だけど…?どっかの山奥とかに。」
 「『どっか』?」
 「うん。どこかの山奥に。ハゲかけてる山に植えて、後はほっとく。」
 「へ?『ほっとく』って…、枯れちゃったりするんじゃないですか?なんで?せっかく育てたのに?」
 「ぅーん…。野性化?させるって。植物も全滅したくなかったら頑張るらしいんだよねー。」
 「なんの為の野性化です?わざわざ育ててまで…。」
 マサトが全く理解不能と食い下がる。
 「なんでって…『山がはげてる』から?食べ物があれば山も賑わうし、野性化したらその季節には確実に実が生るんだし、美味しいって憶えたらまた食べに来るだろうしね。」
 あまりにあまりな返事に、まるで毒気が抜かれたようになるマサト。
 「はぁ、まぁ、そうですね…。」
 「って事で、種はコッチによろしくー。」
 「「はーい。」」
 

やっぱり海だよね ③

 「ねね、さっきの水の塊ね、魚とかはどーなっちゃうの?」
 オミが水の塊を撒き散らして冷やした砂浜の一部へ皆で降り立ち、日除け用テントを設置しながらカズキが好奇心満々で訊ねる。
 「んー…、出来るだけ除ける様にはしてるけど、小さ過ぎると除けきれて無いかも…。」
 「成る程。大きさが結構重要なのか。」
 腕を組んでフムフムと頷くカズキに
 「ぃゃー?敢えて言うなら『存在感』?」
 オミが嫌味になら無いように訂正する。
 「へ?」
 「魚って存在感小さいよねぇ。全部が、ってワケじゃないけど…。」
 魚の存在感?
 カズキが軽く首をかしげて悩みだすと、二人の様子を見ていたシンが、苦笑しながら声をかける。
 「手伝え、コラ。」
 良くわからない事で悩んでも、答えなんて出るワケ無いんだから、取り敢えず目先の事をこなしとけ、と言外に匂わせる。
 「はーい。」
 カズキは、その言外部分を感じ取ったのか取らなかったのか不明ではあるが、テヘっと笑って誤魔化しながら応える。
 その様子を見ながらも、オミは皆のヤル気に水を差す様な一言を口にする。
 「でも…別にオミ一人で出来ちゃうよ?」
 一同が一気に不本意な表情を見せ遺憾を伝えると、その表情で理解したオミが直ぐに折れる。
 「うん。手伝って。」

 2・3メートル程の高さのある崖を背に、少々広めのテントを設置し終わると、少年達はそれぞれ賑やかに、遊ぶための準備に取り掛かる。
 オミがタイガーの飲み水等を準備し少年達の様子に軽く目をやると、カズキが必死に大きめの浮き輪へ空気を入れようと、苦闘している姿が見える。
 「カズキ君、泳げないの?」
 聞かれたカズキは心底心外だという表情をし
 「泳げます!でも取り敢えず、浮かんで漂いたいのっ!」
 きっちり否定する。
 「ふーん…。で、ソレに空気を入れればいいんだね?」
 オミが言うが早いか、カズキが手にしていた浮き輪はポンとばかりに膨らむ。
 「おぉっ。超能力ってスゲー。」
 その様子を見ていた年長者達も驚きを露わにする。
 「そんな事も出来ちゃうんだ?」
 「超能力すげー。」
 と少年達が感嘆している端から、次々と『空気を入れるべき遊具』が膨らんでいく。
 「普段ならコレで小銭を稼がせて頂くんだけど…。」
 起きた事と耳に入ってきた事の両方に唖然としている少年達へ、悪ふざけで言っているだけだと、エヘッと笑ってみせる。
 「小銭…。」
 「もしかして…超能力でやって貰う事って全部お金掛かる?」
 トシが、今日一日でどれ程超能力のお世話になっただろうか、と思い返しながら恐る恐る訊ねる。
 「んー…まぁ一応…?」
 微笑みながら答える。
 「でも、今はウチに遊びに来ているんだし。アレもコレもオミが勝手にやったんだしね。これでお金取ったら、押し売りとかになるんじゃない?」
 だから、ココに居る間はそんな事気にしちゃダメだよ。
 オミはニッコリと笑いながら伝える。
 「使われることで、気分が悪いって感じるなら言ってね。」 
 「んーまぁ、超能力者って分かってて泊まらせて貰ってるし。それに大体、商売道具なワケだしなぁ…、超能力者の能力って。」
 だから金が絡んで当然だな。
 シンが言わずもがなを敢えて言う事でこの話しを締め括ると、皆も下手をしたらやぶ蛇とばかりに素直に従い、泳ぎに出る為にと上着を脱ごうとする。
 「だーーーーーっ!今脱いじゃダメッ!!
 「オミに見せるのもダメッ!」
 オミが血相を変えて言い募る。
 「向こうむいてるから、最後の人が声かけて。」
 大変失礼致しました…。
 
 「オミさん、俺で最後です。」
 殿役のシンが、後ろを向いているオミに声をかける。
 「はーい。気を付けて遊んでね。」
 返事を返しながら、すぐに続けて注意を促がそうとする。
 「オミも何かあったら直ぐ分かるように、気配をみとくけど…えーと…危なくないように…。」
 自分が当然辺りに注意を払い、気配を探り、何か起こったら直ぐに対処するのは当たり前ではあるが、気構えだけでもしていて貰えれば尚一層安全は確保されるワケだが、それを敢えて口にすると無責任に聞こえるのでは無いかと、適切な言葉を探して口篭もる。
 「あぁ、はい。無茶や無理はしませんし、一人で沖のほうへ向かったりもしませんから。」
 シンがオミの懸念を察して、普段親から注意されている事等を口にし、心得ていると伝える。
 「朝、二階で仕度している時に皆にも言っておきましたし、皆溺れたりしたくないですし、なにかあったら迷惑をかけますしね、気を付けますよ。」
 「ならいいんだ。そぅっと気配を探って様子をみてたりするけど、怒らないでね。」
 本来なら、無断で行えば覗き、依頼を受けて行えば探索となるが、今回は安全確保のための次善の策というヤツになる。なにしろ対象者が全員水着姿という、オミにとっては破廉恥極まりない格好をしているのだから致し方ない。
 「えぇ、構わないですよ。様子を見てて頂けるとこっちとしても安心ですし。」
 「でも、オミさん。」
 一旦口を閉じ直ぐにまた続ける。
 「まさか荷物番のために、残ろうとしていたりしませんよね?」
 他の場所での海岸ならば、泥棒対策等で荷物番も必要だが、ココは他にはイツキ位しか居らず、荷物が盗まれることなど気にかける必要もない。
 可能性としては、他の『手癖の悪い』超能力者の突然の訪問だが、その場合であってもオミが直ぐに気付くはずである。
 「あぁ、違うよ。オミはタイガーがここに慣れるのを待ってるだけだから。久しぶりに来たから警戒しちゃってるみたいなんだよね。他の生き物の匂いとかするみたいで…。」
 他の生き物?
 シンは匂いを意識的に嗅ごうとするが識別できず、不思議そうに首を傾げる。
 「ま、ならいいんですけどね。荷物って言ったって大した物を持ってきているワケじゃないんで。じゃ、行ってきますね。」
 「はーい、行ってらっしゃい。」
 シンがオミの準備した水濡らしルートを辿って海へと向かうのを気配で追いつつ、へばり付いているタイガー(猫服着用)を、撫でて落ち着かせてやりながら声をかける。
 「なぁんで人前で脱ぐのに抵抗を感じないんだろうねぇ?」
 「ナー。」

 ≡ そろそろ一旦休憩しない?キーちゃんが葡萄を冷やしててくれたよ。食べよ。 ≡
 波打ち際から少々入った辺りで、思い思いに戯れていた少年達の頭の中に、オミの声らしきものが流れ込む。
 一同キョトンとし、浜に張ったテントに居るはずのオミの姿を、まさかと思いながらキョロキョロと探す。
 と、崖の上から幾筋も張り出した枝の下、テントの屋根と張り出した枝の木陰が重なりあった部分と、照りつける太陽の強い日差しの境目で大きく手を振るオミの姿が、陽射しで痛んだ目に辛うじて見える。
 ≡ 葡萄食べない? ≡
 再び頭の中へ流れ込んでくるオミの声。
 ソレがテレパシーであると察した少年達は口々に
 「「食べるぅっ!」」
 と訴えるが、いかんせん場所が悪い。
 少年達の声は海の波音に紛れ、風に流され、浜の広さに散ってしまいオミの元へは届かない。
 「くぅっ!こっちの伝えたいことは伝わらないっ!」
 歯軋りするカズキ。
 と、なにやら慌てた様子が感じられる。
 ≡ ―――っ!―――――。――っ。 ≡
 ?なんだろう?
 確認するように、先刻までオミの居た辺りを見てみると、テントの方を向いているオミの後ろ姿が見える。
 ≡ タイガーに全部おもちゃにされちゃう… ≡
 オミの困惑気な小さな声が流れ込む。
 あぁ、丸いからねぇ…。
 「って、和んでいる場合じゃない!葡萄が全部タイガーに取られちゃう。戻らなきゃ!」
 食い気に勝るカズキが大慌てで岸へと向かうと、皆もそれを合図としたように次々と浅瀬へ、岸へと、殿役のシンを僅かに後ろにしつつ移動を始める。
 タイガーを捕まえ叱りつけたオミは、少年達からの声は全く聞こえなかったが、一同が揃って砂浜を目指して移動をはじめたのを確認し、慌ててテントの奥まった部分へと戻っていく。
 なにしろオミにとっては『破廉恥軍団』が、自分の方へと移動を開始したに等しいのだから。
 シンは砂浜へ全員がちゃんと戻る(特に、年少のカズキが途中で立ち往生していない)のを確認しつつ、のんびりと後を追うようにテントへと向かうが、その足下の砂の様子を気にかける。
 公園の砂場の砂とは少し違うような…?砂?泥?何か埋まってる???
 首を軽く傾げながら皆の待つ(そしてオミが慌てて後ろを向いている)テントへと、皆の後を追うように向かっていく。

やっぱり海だよね ②

 「オミさ~ん、おまちどー様ぁ~したくできた…。って、オミさんソレで行くの?」
 カズキが荷物を肩にパタパタと駆け寄り、オミの様子を見て絶句する。
 「うん。オミ別に泳ぎたいとか思わないし。なんか変?」
 「変って事は無いかもしれないかもしれないかもしれない…。」
 日本語が変になるカズキ。
 それもそのはず、オミは例によって例の如く、裾を引き摺りそうなほど長い『いつもの格好』をしている。
 とても海に行く服装とは思えない、が、オミの服装への拘り(というよりも、肌の露出厳禁!)を知っているカズキは、自身の『海辺での常識的服装』をオミに押し付けるワケにもいかない為、否定する事も出来ずに言葉が妙な状態になってしまう。
 どーしたものかとカズキが途方に暮れていると
 「ちょっと待ってねぇ。タイガーの準備が後ちょっとで終わるから。」
 タイガーの頭から尻尾まで猫服で覆う為、抵抗するタイガーを相手に四苦八苦している。
 「えーと…ソレは…?」
 状況に気圧されて、頭の廻らないカズキは、取り敢えず目先の不思議を解消しようとする。
 「んー?タイガーが日焼けしちゃったら大変だから。以前にやらかしちゃって、とんでもない程大変だったんだよ。」
 「なる程。って、暑いんじゃない?大丈夫なの?タイガーは水浴びも嫌がるんでしょ?オミさんだって、暑くないの?重ね着でしょ。」
 一気に頭が廻り、疑問連発。内容が健康に関する事なのは、カズキの性格を現しているといえる。
 「フッフッフ…。良く聞いてくれたねカズキ君。」
 悪戯っぽく応じるオミ。
 「コレはね、つい最近商品化できた新素材を使用してるんだよぉっ。いいでしょー。」
 自慢げ。自分が開発したワケでも無いのに。
 「新素材ってなに?どんなの?タイガーのも、オミさんやイツキさんのも?」
 カズキの好奇心も相変わらず素早く反応。
 「身体の方に勘違いさせる処理を施した新素材。コレは『冷たい』って勘違いさせるらしい。」
 「は?」
 なにそれおいしいの?状態のカズキ。
 「詳しいことはキーちゃんに訊いてね
 詳細説明はイツキに丸投げする。
 「で、タイガーは確かに毛皮で地肌が保護されてるんだろうけど、さっきも言ったように過去に日焼けでエライ目に遭ったから、例え布一枚でも覆われてるのと無いのとでは差は大きいんだよ、特に耳!」
 「はぁ…。」
 ワケ分からん状態のカズキは生返事しか返せない。
 「出来れば鼻先もカバーしたい…。」
 うん、まぁ、鼻も相当日焼けしそうだしね…。
 「日焼け止め塗っても舐めちゃうし…しょうがないよね、ココは諦めないと…。」
 カズキは、日影に居ればいいんじゃね?とは思ったが、タイガーは好奇心旺盛なネコだったと気付き思い直す。
 そうこうしているウチに、タイガーは顔と足の裏とお尻以外をきっちりと猫服で覆われる。
 服の模様は黒地に赤味の強いピンクの水玉で。
 タイガーは、普段身に付けない衣類を着せられて落ち着かないらしく、必死に取り外そうとジタバタ・ゲシゲシしている。
 なんだろう、なんか不思議な生き物を見ている気になる…。
 思っても言わないカズキ。良い子だね。
 「おまちどー。いやぁ、やっぱり着てると暑いねぇ…、ってナニそれ?タイガー?」
 マサトが遠慮無しに悪態を吐く。
 「ナニそれとはしつれえなっ。こぉーんなに似合ってかぁいぃのにー。ねぇ?タイガー、可愛い可愛い、似合ってるよー。」
 飼い主バカを晒すオミ。
 「はぁ…、すんません。って暑くないんですか?タイガーもオミさんもそんなたっぷり着ちゃって。」
 当たり前だが、やはり疑問はソコへ向く。
 「新素材なんだって。冷たいって勘違いさせるんだって。」
 分かっていないカズキが分かっていないまま、自分が聞いたことをマサトへ伝える。
 「へ?勘違い?」
 「あー、それ聞いた事あるわー。錯覚だっけか、させるって。」
 「でも、それって油断してると暑さ中りするから、水分補給はこまめにねって聞きましたよ。単に錯覚させてるダケなんだからって。」
 シンとキョウコが合流し会話に混ざる。
 「って、アレか。寝苦しい夜にさようならってやってた省エネ商品。」
 マサトがシンやキョウコの話しで記憶を刺激されたらしく思い出し、確認するように口にするとシンが同意を示すように相槌を打つ。
 「あー、アレか。ってアレ結構お高いじゃん。買って欲しいんだけど…おねだりしづらい値段だよね…。」
 「おねだりってなにを?」
 カズキが悲しげに訴えたところへミヅキや4人組が合流する。
 「おまた!で、おねだりってなになに?」
 例によって例の如くというべきか、揃うと尚一層賑やかに…、ぃゃ本来の目的忘れてないか?な状態へ。
 
 カズキが発端を説明し、マサトが状況を説明し、オミが詳細説明をイツキへ丸投したところで5人が納得する。
 「で、えーと…もう向かっていいかな?忘れもの無い?」
 猫服着用のタイガーを肩に乗せ、自身は日焼け防止用のつばの広い麦藁帽をかぶったオミが声をかける。
 「「「はーい。」」」
 「じゃ、なるべくひと塊に集まって。」
 オミの指示に素直に従う少年達。
 「で、目を瞑ってね。お互い掴まりながらでいいから。」
 オミの言うとおりに、腕や肩に掴まり合い目を閉じる。

 一瞬の後、頬に当たる風が変わったことに気付く。
 波の音、潮の香り、樹木を渡る風が揺らす枝葉の音、遠くで囀っている鳥の声や虫の音。
 目を開けて周りを見ようとする少年達にオミが声をかける。
 「もうちょっとだけ目を閉じててね。」
 声に従い開きかけた瞼に力を籠めると、直後に風が下から上へと頬や髪を撫で上げる。
 徐々に大きくなる波の音と、濃くなる潮の香り、樹木のざわめき。
 逆により遠くなる鳥の声や虫の音。
 「この辺りなら平気かな。目、開けて良いよ。」
 オミの声で一同が瞼を開くと…。
 眼前には水平線で隔てられた海と空。
 「のょあっ!」
 驚いたカズキが悲鳴ともいえない悲鳴を上げる。
 皆からも感嘆の声が漏れる。
 「地面に降りるのはちょっとだけ待ってね。浜がガッツリ熱せられているみたいだから…。」
 「…はーい…。」
 状況に慣れていないからか、返事をする声が微妙に頼りない。
 まぁ、当たり前ではある。
 地面は彼等の足元数メートル下にあるのだから。
 「落とさないから安心して。」
 声に笑いを含ませながらオミが声をかける。
 声をかけつつ、彼らを浮かせつつ、尚且つ水の塊を作り上げ空中に浮かべる。
 「えーと、その水はどこから…?」
 シンが『お兄ちゃん』として、又、落とさないと言ったオミを信用している証として、そして自分がその様に尋ねることで、怯えるような状況では無いのだから動揺するな、オミさんを信じろと皆に諭すように、勇気を掻き集めて訊ねる。
 「うん。海水。浜に撒くんだから別に問題ないでしょ。」
 オミはシンの行動を頼もしく感じ、協力するかのように意識的に明るく答える。
 答える間にも空中に浮かぶ水の塊はどんどんと大きくなる。
 「ぅーん、もうちょっとかな?砂が冷める前に染みてっちゃうからねぇ。」
 「もうちょっとって…、小さい子用のプール1個分くらいありません?」
 マサトが『もう一人のお兄ちゃん』としてシンに続く。
 「そう?でも、足場が熱いのってツライでしょ?タイガーも下ろしてあげられなくなっちゃうし。」
 「えー…と、この状態自体は、特に苦労はない?」
 キョウコが『お姉ちゃん』として、オミの負担を気に掛ける。
 「うん。全く平気。これっくらい軽い軽い。」
 話している間もどんどん大きくなる水の塊。
 その大きくなる様子を、唖然としてみていたカズキが思わず呟く。
 「すげー。でっかい風船が膨らんでるみたい。」
 
 

やっぱり海だよね ①

 「おはよーでっす!」
 お腹をすかせたカズキが、キッチンから漂う香りに誘われるように起き出して来る。
 「はい、おはよう。もう少しゆっくりしてて良かったんだよ。」
 イツキが朝食の支度をしつつ応じる。
 「お出汁のいい匂いがしてきて目が覚めちゃった。」
 昨日、あんなに食べたのにねー。
 カズキは不思議そうに、自分の腹部へと目を向ける。
 「イツキさん、ちゃんと寝た?もう随分と朝ご飯が出来上がってるけど…。」
 「寝たよ。ご飯はもうちょっと待ってねー。」
 「手伝うしぃ。お味噌汁のお味噌くらい溶けます。」
 言うなり鍋へと向かい蓋を取る。
 「はにゃー、マーちゃんちのお味噌のにほひー。って、溶けてるじゃん。」
 味噌汁の匂いに表情の緩む『日本人』の姿を、目を細めて眺め
 「うん、ごめん、先に溶いちゃってた。」
 「ぅー、じゃぁ、後は…えーと、煮るのも焼くのも炒めるのも…邪魔になりそうだし…お茶碗やお椀出そうか?」
 本日もやっぱり、『お手伝い』を気にするカズキ。
 「そうだね。茶碗とお椀とお箸を頼もうかな。あ、箸と箸置きはそこの引き出しにあるからね。」
 「おぉ、色々ある。って、バラバラのと揃いの、どっち使っていいの?」
 「お好きなようにー。」
 イツキの返事を受け、真剣に考え込むカズキ。
 (ぅーむ、揃いのはなんか正式なお客様ってカンジがするし…。って、茶碗とかもバラバラと揃いがあるじゃん。って、あれ?あれ?あれ?)
 カズキは、棚に仕舞ってある茶碗類と引き出しの箸等を交互に見比べる。
 「カズキの好みでいいんだよね。じゃ、テーブルに出してくるねぇ。」
 一揃いをトレイに乗せ、トテテテテテーと小走りに出て行くカズキ。
 イツキは、朝から元気なカズキを快く見つつ作業に戻る。
 と、隣からカズキの声が聞こえてくる。
 「カズキはもう『お手伝い』してるからね。これカズキのお仕事だから取ンないでよ。」
 声の様子はやや自慢げに聞こえる。
 「おー、早いじゃんカズキ。リョウ達は?」
 対しているのはマサトの声。
 「さっきは寝てた。起こした方がいいかな?シンちゃんは?」
 「シンは今、身支度中。」
 声が徐々に近づいてきて
 「イツキさん、おはようございます。」
 ヒョコっと顔を出し、小鉢に盛っているイツキに声が掛かる。
 「おはよう。って君達普段からこんな早くに起きてるの?無理してないかい?寝足りないんじゃないの?」
 「え?いつもと同じくらいの時間寝てると思いますけど…。で、これはもうテーブルに出しちゃっていいんでしょうか?」
 良ければ出すよーと、こちらも『お手伝い』する気満々。
 「あぁ、うん。頼むね。」

 直にシンが顔を出し、女子二人も起き出し、四人組も揃って起き出して来る。
 出来上がった料理を皆でワイワイとテーブルに並べ、イツキが味噌汁の鍋とお代わり用の白飯を入れた保温おひつをトレイに乗せて顔を出す。
 「味噌汁よそうよー。お椀頂戴な。」
 「はーい。」
 イツキの声かけに良い返事をしながら手元のお椀を差し出す、と気付く。
 「あ?お椀と茶碗で模様が揃ってる。で、全員がばらばら、被り無し。」
 「え?あ、ホントだ。」
 皆がキョロキョロと見比べ始めると
 「フッフッフッフッフ。とうとう気付いたですか。カズキ頑張りましたですよ。」
 カズキが胸を張って名乗り出る。
 「お前、ナニ人だよ。日本語変だぞ。」
 「わざわざ揃えたのかぁ?」
 「うん。お箸と箸置きもお揃いだよー。4点セットで。」
 「ぅおぉっ。本当だ。」
 「って事は、わざわざ揃えて買ったって事?」
 「んー?うん、気が向いたときにね。」
 ハイお次のお椀頂戴。
 訊ねられたイツキは、味噌汁を椀に盛りつつ答える。
 一通り味噌汁と白飯が行き渡るのを待っていた少年達全員が、それではと食べ始めようとするが
 「あれ?なんか…足りない感じがする…。」
 ミズキが口にすると
 「「?」」
 少年達全員がテーブルを見回す。
 「あ、オミさんとタイガーがいない。」
 「どーする?起こしに行った方がいいかな?」
 「じゃぁ、俺が起こしてこようか。」
 仮にも成人男性の寝室、ドアの外から声をかけるにしても(色気は無いが)男の方が良かろうと、シンが名乗り出て椅子から腰を浮かすとほぼ同時に
 「おぱよー。」
 オミの寝惚けた声がする。
 「あ、オミさん、おはよー。」
 「良かった、起こしに行くところだったんですよ。」
 「おはようございます。」
 オミの姿を確認した少年達が口々に挨拶する。
 「お前はぁっ。顔洗って歯磨いたんだろうな?」
 イツキが早起きをして手伝いに励んだ少年達の手前、少々怒った様に声をかける。
 「洗ったし、磨いたし。って、たゃまゃご焼きだぁっ。キーちゃん焼いたヤツ?」
 寝惚け気味の表情が、朝食の卵焼きを目にした途端に(舌が廻ってないが)はっきりとなり、眼はキラキラと期待に輝く。
 と、肩に乗っていたタイガーがテーブルの焼き魚に気付き、おりるーおろせーと騒ぎ出す。
 アソコ行くー。美味しいのアルー。おーりーるー。美味しいのホシイー。食ーベールー。
 肩から胸へと身体を伸ばしながら訴えていたタイガーが、降りれないワ下ろしてもらえないワでキレる。
 降りるノー。アッチ行くんだってバー。アッチー。
 キレてオミの顔、頬の辺りを両前足で力いっぱいプニーと押す。
 「わ、わひゃった、ワイガーのあさゃごひゃん、ひたくふるから。」
 タイガー容赦ない。

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