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山も良いよね ⑭

 「おまたせ。ちょっと遅くなっちゃったかな?」
 荷物一式と共にイツキが姿を見せる。
 「本日は、一般的なバーベキューね。肉食え肉って、大量に準備したから頑張って片してね
 「はーい!カズキ頑張りまっす!」
 オニクスキスキー
 俄然張り切るカズキ。
 「え…!?いや、これ…どうだろ?」
 肉が入っていると思しきクーラーバックを覗いたトシが、困惑顔で呟く。
 「これ…はコレでいいの?バーベキューってこうゆう肉使ったっけ?俺が分かっていないダケ?」
 傍らにいるマサトに困惑状態のまま訊ねる。
 「ぅひゃ。こりゃまた大層な肉だぁねぇ…。ステーキ用じゃね?見事な霜降りで…。」
 「バーベキューで気軽に頂いてしまって良いんでしょうか?」
 トシやマサトの話しを耳にしたカズキが思わず縮こまる。
 「良いよー。食べちゃってね。」
 「そ・それじゃぁ…遠慮なく…っ。」
 カズキは、イツキの言葉に勇気を得るが
 「まだ、火熾してないからなー。」
 ヤスノリによって出鼻をくじかれる。

 「ただーいまー。」
 シンが釣り場から戻る。
 「「おかーえりー。もぅすぐ……。」」
 皆が声をかけながら出迎えるが
 「どーしたの?ソレ…。」
 シンの頭部を目に絶句する。
 「おー。スゲーだろ。」
 釣竿などを傍らに置きながら、自慢げな返事をする。
 ソレもそのはず、シンの頭にはタイガーが腹這いで乗っかっているのだから…。それも得意気な表情をして。
 「はっはっはー。すっかり仲良しだぜ。」
 自慢げに胸を張るシン。
 「羨ましいだろー?」
 カズキを挑発するような態度を見せる。
 「くぅぅぅぅっ。羨ましくなんか無いやぃっ!」
 『お約束』どおりに羨ましがるカズキ。
 「すっかり懐いたねぇ。どうやったの?」
 タイガーが元々懐こい仔だと知ってはいても、懐きっぷりに目を見張りイツキが訊ねる。
 「ぃや…、一緒に遊んだだけです…。」
 特別なことは何もしていないため返事に困るシン。
 「シンちゃん、そのぶら提げてるの、釣った魚?」
 「そ、そ。大漁さー。でも、このままだと大変な事になると思うから、一発ピシっと凍らせてもらった方が良いような…。」
 「?食べないの?凍らせるのは構わないけど…。」
 「ぅーん…あっちもこっちもだと半端に残りそうですしね。」
 「えー、釣りたて食べたい。」
 「獲れ採れ食べたいし。」
 ミヅキカズキの姉弟口撃。
 「じゃ、ま、捌こうか。こっち側の川のところでなら池に影響出ないし。」
 「あ、じゃぁ俺も手伝いますよ。」
 イツキが魚の入っている、魚籠代わりの手提げを手にしようとすると、シンはすかさず身を引き自分が持つと示す。
 「いや、お前はこっちでオミさんと火の番してろよ。捌くのは俺が手伝うから。」
 「あ、あぁじゃぁ頼むわ。」
 マサトに魚を預けるシンを目に
 (ぅーむ…ココでは得意な事で役割分担か…。シン君が釣りしに行くのに反対意見が出なかったのは、釣りがシン君の趣味でそれをみんなが知ってたから?それとも他に何か理由があるとか…?)
 オミが観察しながら考える。
 「マーちゃんとイツキさんのお肉取っておかないとねー。」
 カズキが暢気な様子で配慮を見せる。
 「『食べたい』の言い出しっぺじゃぁないのか?お前は。」
 言外に手伝いはどうしたと匂わせる。
 「カズキが、魚捌いたりするのに役に立つと思う?」
 シンの突っ込みに自虐しつつ言い返す。
 「ところで、ソレどうやったの?ムリクリ乗せたの?」
 シンの頭上でのんびり寛ぐタイガーを指し示し、興味津々と訊ねる。
 「あぁ、あの急なところを下りるときに、手が塞がっちゃうしタイガーは困った様子でうろついちゃうし、で、試しに乗せたら、なんか気に入ったみたいで…。」
 ほうほうなる程と目を丸くして聞き入るカズキを
 「良いだろー。羨ましーだろー。」
 と、からかう。
 「きぃーっ。平気だもん!羨ましくなんかないったらないっ!」
 ムキになるカズキ。
 (本当、よくまぁ…寛いでいる事…。高い所だから気分良いのかな?)
 シンの頭上のタイガーを眺めつつオミが感心しつつ、疑問を口にする。
 「急な所を下りるときって言ってたけど…、爪立てられたりしないで済んだ?無駄に怯えたりする場合もあるから…。」
 「いえいえ、全く。」
 オミの杞憂をあっさりと否定する。
 「最初は肩に乗せようかと思ったんですよ。オミさんがいつもしているように。でも、下りるときってあちこち掴まるから、肩が派手に動くでしょう?それはマズイよなと思って、じゃぁいっそ余り揺らさずに済む頭でどうだろう?と思って。思った以上にお気に召したようで…。」
 どうぞ、とばかりにオミの方へ僅かに頭を傾け、タイガーを本来の飼い主へと返す。
 「あれ?タイガーの身体、あんまり熱くなってないね…?」
 タイガーを抱き下ろしたオミが、不思議そうに訊ねる。
 「あーー…、えー…、そのぉ…、実はぁ…。」
 途端に歯切れが悪くなるシン。
 「?なに?日陰にずーっと居たとか?」
 大体、タイガーは、怒りはしても危険な状態には陥っていないのだから、オミが気付かなくても不思議は無いし、オミの様子からは状態を気に掛けはしても、何をしているか遠見で覗いたりはしていないと察せられる。
 「水遊び…してみたり…。」
 苦笑いをしながら答えるシン。
 「「水遊びっ!?」」
 聞いていた全員が驚きの声を上げる。
 「タイガーが?」
 一番驚いているのは他ならぬ飼い主のオミである。
 「川岸で水の表面をチョイチョイとか…?」
 勘違いをしている可能性を考慮し、思いつく状況を口にして確認を取る。
 「いえ…泳いでみたり…?」
 「およ…ぐ…っ!?」
 衝撃を受ける飼い主。
 当たり前と言えば当たり前。過去ン百年に渡り、風呂へ入れる度に大騒ぎを演じてきたのだから…。
 「タイガー…、君って仔は…。」
 手の中のタイガーをしみじみと見つめ、感慨深く呟く。
 「あの…、頭の部分が濡れるのがイヤみたいです…。後、滴状の物が掛かるのもイヤな様で…。」
 シンは遠慮がちに、気付いた点を今後の為にと伝える。
 「そう…。そうか…。シャワーがまずダメだったんだね…。」
 「大きめの桶なんかに水を張って、お腹に手を廻すと良いんじゃないかなーって…。で、水の中に居るって状態に慣れるまで、首の後ろをチョイって、少し摘んでいると尚良いかと…。」
 「そう…浸かって泳ぐ分には良いんだ…、水に濡れても…。」
 段々とオミの落ち込みっぷりが目に付き始める。
 (シンちゃん、拙いんじゃないのぉ…?)
 流石にカズキが目で訴える。
 (仕方無いだろ…。嘘吐くわけにもいかないんだし…。)

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山も良いよね ⑬

 「~~♪」
 気分良く鼻歌を歌いながら釣りをするシン。
 土産代わりの綺麗な石は、タイガーが見つけ遊んでいたのがきっかけなので、ご褒美代わりにと暫らくタイガーの遊び相手までしてしまい、結局、石探し前に放った分は見事に食い逃げされてしまう。
 なので、餌の(苦手な)虫探しから再開したが、土産代わりになりそうな物を新たに手に入れられたので気分が良い。
 足下にはタイガー。こちらも、たっぷりと遊び相手をして貰ったので、機嫌良くシンの足下に座っている。
 と、シンの手にした竿に手応えが。
 「お…っしゃ。」
 ゆっくりと手元に引き寄せ
 「タイガー、ほれほれ。デカイのが釣れ…。」
 タイガーの前にかざして見せようとするが、タイガーは相変わらず魚の大きさに慣れず、怪訝な表情を見せながら身を引いてしまう。
 「…っと、怖いか…。分かった分かった。持っとくからな。怖がらなくていいよ。」
 元気に跳ねて、滴を跳ね散らかしている釣り上げた魚の口近くの釣り糸を、シンが手でしっかり握り込み、魚籠代わりの手提げへと足早に急ぐ。
 「んーと…?何匹目だ?」
 川に半ば沈めるようにセットした手提げの中へ、針を外した魚を入れながら目で数える。
 「あ…れ?えーと…?って、動くなよ。分からんくなるだろ。」
 魚籠代わりの手提げの中で狭っ苦しそうに泳ぐ魚へ、文句を付ける。
 「んー…ん?んん?」
 自分がアチラからコチラへ、何度足を向けたかを思い返して数えてみるが、やはり途中で分からなくなる。
 「5回は確かなんだけどな…。」
 呟くシンの目に、無造作に置いた釣り針の照り返す光に興味を示すタイガーの姿が映る。
 大慌てで、但ししらばっくれて、釣竿と糸と針を(特に針の部分は手の内に隠すようにして)手にし、ポイントへと戻る。
 「タイガー、おいで。こっちのヒラヒラで遊ぼう。」
 呼ばれたタイガーは一旦首を傾げ、しかしシンの手元の、枝にぶら下がったつる草を目にした途端一目散に駆けてくる。
 「さっきのキラキラはイタイってなるからなぁ、こっちでガマンなー。」
 声をかけながら枝をゆっくりと揺らし、タイガーがつる草を狙いやすくする。
 
 池の端、日除けテントではオミが再びボヘーと過ごしている。
 とは言え、先程のようにグルグルと考えているのではなく、文字通りの『ボヘー』。
 少年達がキャッキャと戯れていたり、キョウコやミヅキのカロリー消費狙いに負けず劣らずムキになったように泳いでいたり、浮き輪などを使ってまったりと漂っている様子を見るとは無しに見つめている。
 肌をさらすのがタブーで、そのタブーから抜け出せずに居るオミからしたら、あっさりと水着になり、平気で泳ぎ回り、水着姿ならば見られても(凝視でさえなければ)全く気にしない彼等が、こちらへ放り出されて随分たった今でさえ不思議でならない。
 お互いの『習慣の違い』であるとは充分承知しているが、そしてこちらへ放り出されてから相当な年月が経っているのだから、いい加減自分が慣れるべきと分かってはいても、結局ズルズルと『以前のタブー』を引き摺っているとの自覚はある。又、状況に応じて、状況に合った服装をしている、状況に合わせた服装を心掛けているとも理解している、が…。
 「やっぱり『頭で理解している』だけだからかねー?」
 良くわからん…。
 呟くなり溜め息をひとつ零す。
 そして、慌てて周囲を見渡し、リラックスしていると見えるように装う。
 (いけね。カズキ君達に心配させちゃう。考えていたのは全くの別件って分かって貰えるかな…?)
 例え別件でも『グルグル考えていた』のは同じなんだが…そこには気付かないオミ。
 オミのその様子を、池の中程から目にしたカズキ。
 「あー…またオミさん…。」
 「まぁまぁ…。心配かけないようにって、ワザと余裕を見せてくれてるじゃん。騙されとけよカズキ。」
 同じように目にしたトシが傍らのカズキへと声をかける。
 「はぁ~い…。」
 カズキとしては気に掛かるが『お兄ちゃん』に諭されたら聞かないわけには行かず、不満を表しつつも同意する。
 オミはと言うと、今までなら大抵はタイガーが居て一緒にヒマを潰したり、イツキが居て相手をしてくれていたりで時間を過ごしていたワケだが、生憎とイツキは食事の支度に燃えているしタイガーはシンと共に居て…、(オミを)構ってくれる相手がいない。
 自然、暇を持て余す。
 (ぃゃまぁ…水着姿で構われても…それはそれでオミが困るワケで…。)

 「お、お。上手いぞタイガー、流石、ナイス!」
 シンの動かす枝にぶら下げられたつる草の、その動きに合わせたようにアチラへひらり、コチラへジャンプと見事な体捌きをするタイガー。
 枝を動かすシンも、タイガーの体捌きっぷりをある程度把握したので、タイガーの近くで焦らしたり、動きに合わせて逆方向へ距離を取ったりと、ワンパターンにならないように、又、タイガーが面倒臭がって投げ遣りにならない様に注意している。
 「いやもぅ…あっちぃねぇ…。」
 タイガーが空中で身体を捻り、位置を変えようとしていたつる草を見事に捉え、牙を顕わにしつつ身体の下に組み敷き、猫パンチをお見舞いしている姿を眺めやりながら、陽射しに目を細める。
 「山の中で森に囲まれているし川の脇だから良い風が吹くとはいえ、暴れたら、そりゃぁあっちぃよねぇ…。」
 体格が良く、しっかり者とはいえ高校一年生16歳男子のシン。そりゃぁまだまだお子チャマなところも有るワケで…『立場』を脇へ置けば元気盛りの男子が顔を出す。
 「タイガー、ちょっと休憩。その辺に居てな。」
 頭から水を浴びる程度ではおっつかないと、おもむろに上着やズボンを脱ぎ、海パン姿で川に入る。
 とはいえ、深い部分でもせいぜいシンの腰辺りで流れも急ではないので、泳ぐというよりも浮かんで漂う程度ではあるが…。
 川岸では、つる草に緩く絡まったタイガーが、浮かんで漂っていたり潜って暫らく浸かっていたりするシンの姿を首を傾げつつ眺めている。
 幾度か潜っていたシンが顔を出し
 「浅過ぎっ。腹擦っちまう。」
 苦笑しながら不平を零す。
 「とはいえ、あっち側は流れが急だし深そうだし…と。」
 分岐したもう片方を眺めつつ危険性を考慮し、溜め息を吐いて諦める。
 「タイガーは暑くないのか?平気……ニョワッ!」
 タイガーの頭に触れた手を、妙な悲鳴と共に引っ込める。
 「カンカンになってるじゃんか!なんで平気そうな顔してんだよ。さっきよりずーーっと熱くなってんぞっ!」
 こりゃヤバイ、マズイとタイガーを抱え、シンの膝位までの深さへと連れて行き、有無を言わせず首だけ出させて身体を水へ浸ける。
 タイガーは猛抗議をするが、如何せん水の中。前足と後ろ足の間、胸からお腹の部分に手を添えられ水中に浮いている状態では逃げようにも思うように動けず…。その上、抵抗を奪うようにシンが首の後ろを軽く摘んでしまう。
 「怒っても良いし、嫌っても良いけど…、冷やしなさいっ。」
 絶対的な態度で水に浸かるのを強要するシン。
 迫力に押されて(?)不承不承大人しくするタイガー。(尤も、隙を見つけたら逃げてやると表情に表れているが…)。
 シンはタイガーをある程度水に浸からせたら首の後ろを摘むのを止め、但し、足がかり手がかりを得られぬように自らの身体から少し離し、タイガーの腹部にまわした手を、タイガーを支えたままゆっくりと動かす。
 すると、タイガーの前後の足が水をかくように動くので
 「おーー。タイガー泳ぐの上手いねぇー。」
 声をかける。
 声をかけながらゆっくりと動かし続ける。
 「上手い上手い。さっすがぁー。タイガー上手だねー。」
 十中八九、タイガーは水から逃れようとしていただけのハズ…。
 そのハズであったのだが
 「ぉおー、凄いぞタイガー。スイスイだねぇー。かぁっこいー。」
 おだてられて勘違いしているのか、満更でもない表情を見せる。
 「ニャンコとは思えない見事な泳ぎだねぇ。」
 褒めちぎりながら、タイガーの腹部を支えている手を動かしていく。
 シンの腕や手が見えなければ、あたかもタイガーが自力で泳いでいるように見える。

山も良いよね ⑫

 乗せられた岩の上での身繕いを終わらせたタイガーが、傍らの草の動きを興味深げに目で追っているのを、隣の、より大きな岩の上に腰掛け休憩していたシンが微笑まし気に眺めている。
 ふと思い立ち、岩から下りて少し離れた草むらに分け入り、僅かの後、細めの枯れ枝とつる草を持って姿を見せる。
 「ターイガー。」
 つる草を枯れ枝に括りつけ、それをタイガーに見せながら少々大袈裟に左右へと揺らす。
 「ホレホレ、タイガー。」
 タイガーが興味を示すと、小幅な左右への振りに小さく上下の振りを交える。
 「フッフッフ…捕まえられるかなぁー…?」
 タイガーが狩の体勢に入るのを確認すると、岩の上では危ないと判断し、スパッと雰囲気を変え一旦枝を離れた位置へ置き、タイガーを岩から下ろす。
 タイガーは、突然の雰囲気の変化や目の前で揺れていた怪しいブツの突然の消失に驚き、『???』状態のところを抱え上げられ地に下ろされたので、尚『???』状態でシンを見上げる。
 「川に転がって行くなよ?」
 転がって行かないように気を付けるべきはシン自身ではあるが、タイガーにも念の為と言い聞かせ、タイガーが困惑状態なのを敢えて無視し、置いた枝を手に取る。
 「では再開。ほれっ。」
 まるで何事も無かったかのように、先程と同じように枯れ枝に括りつけたつる草を揺らし始める。
 タイガーもケロっと騙され、再び現れた怪しいブツに興味を示し、ジーっと揺れる様子を観察する。
 タイガーの上体が低くなりお尻が上がって…。
 「おっと…こっちだ。」
 タイガーが飛び掛るタイミングに合わせてすかさずつる草の位置を変えるシン。
 が、タイガーとて猫、向きを変えてすぐさま飛び掛る。
 「お…っと。」
 つる草をずらすシン。
 飛び掛るタイガー。
 素早く位置を変える。
 しっかり食い下がるタイガー。
 ……。
 何度か繰り返すうち、風がタイガーに味方する。
 「あ。」
 シンがずらそうとした時には既にタイガーの前足がつる草にかかる。
 片方の前足でしっかり押さえ込み、もう片方の前足で『これでもか』とばかりにペシペシ…。
 シンがふざけて揺すると…。
 ムキになって両前足で捕まえようとし、身体ごと押さえ込みに掛かる。
 「タイガー、ちょっと待った。」
 シンが声を掛けても全く気付かず、一心不乱につる草を仕留めようとするタイガー。
 あっちへぐるん、こっちへくるん。
 「絡まってるって、タイガー。やっつける前にやられちゃうよ。」
 「ゥニャォン。」
 黙っててよと言っているかのよう…。
 「いや、だから…絡まってるって…。」
 「ンニャッ!」
 ウルサイと言われ…。
 「ターイガー…。ちょっと落ち着けってっ。」
 「ニャニャニャッ。」
 それどころでは…。
 埒が明かないので驚かすしかないと判断したシンが、少し離れ全く違う方向を向いて大きな声を出す。
 「駄目っ!」
 その大声に驚いたタイガーが、なに?なに?何事?とばかりにキョトンとしながらも、つる草に絡まったまま素早く警戒態勢をとる。
 「タイガー、絡まってるよ。ほれほれ。」
 シンは、今何かありましたか?と落ち着いた態度で、タイガーに絡まったつる草をクイクイッと引っ張る。
 「ウナャーゥ。」
 タイガーがシンへ目で訴える。
 「え?何もないよ。大丈夫。ホラそこどきな。絡まってるし、もぅ充分やっつけたろ?」
 ホレホレおどき、と急かされると、我に返って冷静さを取り戻したタイガーは大人しくつる草から離れ、興奮状態で乱れた身体の身繕いを始める。
 「お猫様はマメだねー。」
 呟きながら身繕い中のタイガーを抱え上げ、つる草付きの枝も持ち、釣りを再開すべくポイントへ向かっていく。
 「タイガーも。迷子になったら困るからな。」
 身繕いを邪魔されたタイガーは迷惑そうに一声鳴いたが、綺麗さっぱり無視される。
 「ほい。ここで続きをどうぞ。」
 傍らの足下に下ろしながら声をかけ、ついでにタイガーの頭、耳の間をコショコショ。
 つる草付きの枝を近くの岩に立てかけ、釣り再開。
 エサの虫を捕まえるために近くの石をチョイとどかし、眉間に皺を寄せながらも町育ちの虫嫌いには辛い虫取りをし、悲鳴を堪えつつ見つけたエサを針へ付け、そーれと狙ったポイントへ投げ入れる。
 と、タイガーがなにやら前足でチョイチョイと弾いているのが目に入る。
 「?タイガー?それなんだ?」
 顔を寄せるようにして見ると、深緑色の石の小さな欠片。川を流されて来た様で、流されている間に欠けた欠片が、川の流れの勢いで岸に打ち上げられた様に思われる。
 「へー、綺麗なの見つけたねぇ。」
 よくよく見ると、川岸のあちらこちらに小さい緑色の欠片がチラホラ目に入る。色の濃いものや薄いもの、斑や縞の模様入りに見えるもの。どれもこれも小さい欠片の為、今のようにじっくり見ないと気付かぬままに居たであろう。
 「結構あるな…。この縞模様?綺麗かも。」
 目に付いた欠片を幾つか拾い、掌に乗せた一つを何の気なしに日に透かしてみる。
 「お?微妙に透ける?いいかも…。」
 ふと考え、そして軽く嬉しげに微笑み
 「うん。いいかもね。昨日のと合わせたら映えるかな。」
 楽しげに新たに幾つか拾い集める。
 「タイガー、お手柄だ。エライエライ。」
 シンは、声を掛けられ首を傾げるタイガーの下顎をコショコショしながら、嬉しげに話しかける。

 ―― 釣り、忘れてますね ―― 。

山も良いよね ⑪

 「ぉ~、冷たくて気持ち良ぃ~。」
 分岐している場所と魚籠代わりの手提げを浸けている場所の間で、シンがズボンを膝上までたくし上げながら川に入っている。
 「気持ち良い風が吹いてるけど、日差しが強まってきたから暑っちぃんだよねー。」
 川岸の浅いところから中程へとゆっくり歩を進め
 「こりゃいいや。」
 膝下まで水に浸かりながら呟く。
 川面を少々眺めていたが、おもむろに手で水を救い上げ顔を洗う。
 「ぅひゃ。冷てぇー。」
 思わず声をあげ、次いで一気に頭を水へ突っ込む。
 「だー…つべてぇー…。」
 勢い良く頭を上げ、そのままの勢いで左右に振り水気を飛ばす。
 「ふー…さっぱり。生き返るぅ~。」
 はふ~と一息つき、ふと川岸へ目をやると、タイガーが小首を傾げながらシンの方を見ている。
 シンはにっこり笑いかけながら川岸へと向かい
 「タイガーも暑いだろ?ちょっとこっちへおいで。」
 タイガーが不思議そうに首をかしげている隙にさっと抱き上げ、先程まで自分が居た辺りへと連れて行く。
 「じゃ、タイガーちょっと我慢ねー。」
 言うが早いか、片手をタイガーの前足と後ろ足の間へ入れ持ち上げるように支え、もう片手で水を掬い上げ、タイガーの毛皮を濡らし始める。
 タイガーが抗議の声を上げながら暴れても
 「はいはい、濡れるのイヤねー。昨日のお風呂も騒いでたねー。」
 あっさり却下。
 穏やかに(面白がって?)声をかけながら、何度か繰り返しタイガーの毛皮が全体的にしっとりと濡れたところで
 「は~い、しゅーりょー。お利口だったねぇ、タイガー。偉かったねー。いっぱいガマンできたねー。」
 事実とは真逆だが、その点を無視して褒めちぎる。
 「ほれ、ここなら風も通るし石も冷えてるから気持ち良いよ。お利口でココに居てな。」
 タイガーを川岸の木陰にある岩の、少々高い位置へと下ろす。
 「ま、段差が大きいから一人じゃ下りられないし、と。」
 迷子にしないで済むからな。
 と満足気に頷き、再び川の中へと向かう。
 「で、だ。」
 先程と同じ場所まで戻ると素早く辺りを見回し、一気に上着を脱ぐ。
 脱いだ上着を迷うことなく水へ浸しタップリと濡らすと、今度はそれを全力で絞る。
 絞った上着を広げてざっと形を整え、再び着直す。
 「やっぱり、思ったとおりだ。引っ付くのさえ気にしなきゃ、コレはコレで気持ち良いぞ。」
 必死に舐めて水気を拭おうとしているタイガーを見ながら、嬉しそうに呟く。

 「オミさんの人見知りって、もしかしてソレが理由?」
 飲み物で喉を潤したリョウが訊ねる。
 カズキとオミが話し込んでいるのを目にし束の間躊躇っていたが、渇きは無視できるレベルでも無かったので、気付かぬ振りでトシやヤスノリ・ヒロと共に割って入り、話の概要を聞いたところである。
 「いろいろ気に掛けたり、引き摺ったり。どうしたら良いのか分からなくなって、面倒くさくもなって、結局他人を遠ざけちゃうパターン?」
 トシが確認するように訊ねる。
 「ぅ…ん、まぁ、そう…。」
 オミが頼りなげに答える。
 「テレビで見てた『銀の人』の冷ややかな態度が、実は人見知りを隠している状態だったとは…。」
 カズキが少々おどけてみせる。
 「オミ、そんな…冷ややかな態度してた?」
 キョトンとした表情で訊ねるオミ。
 「冷ややかって言うか、『なんだ?コイツ』って言うか…。」
 「取り付く島も無いって感じでした。」
 カズキの言葉を受けるようにヒロが続ける。
 「あ…あ、そう…。」
 怖そうに見えてたのか、初めて知ったよ。とオミの表情に現れる。
 「気にしても…あんまり意味が無い様な気がするんだけど、それって俺が子供で学生だからそう感じるんですかね?」
 ヤスノリが続ける。
 「こっちが気に掛けたり、気にしたり、気を回したりって気遣ったって、大抵の人はソレに気付いていないみたいに思うんですけど…。ヘタしたら逆に『ラッキー』って、都合よく利用されそうな気もするし…。」
 「おぉ、流石ヤスノリ。強気の発言。」
 カズキの小さな呟き。
 「お前は俺にケンカ売ってんのか?」
 「滅相も無いっ!」
 「相手によってとか場所やタイミングによってとかで、言っちゃって良いことや悪いことがあるとは思いますよ。でも、それは人付き合いのマナーだったりしますしね…。ヤスノリだってさっきあんな事言ってたけど、じゃぁオミさんやイツキさんに『ケンカ売ってんのか?』って言うかっていったら、言わないでしょうしね。」
 ヒロがもっともなことをもっともらしく言うと
 「ま、言わないですね。言うとしたら、悪ふざけの最中に悪ふざけの延長として、ふざけて言ってるよって、その場に居る人なら分かるように言うと思います。」
 ヤスノリが自分の事だからと、補足を付け加える。
 「もし、その『ふざけて言ってる』に気付かない人がいたら、どうする?明らかに、その際の言葉を言葉のまま受け取って誤解している様な人。」
 「ん~…?オミさんやイツキさんにふざけて言ったにも係わらず、オミさんやイツキさんに『ふざけて言っている』と通じなかったらって事ですか?即行謝ります。謝って、ふざけただけだって本心じゃぁないって伝えます。」
 問われたヤスノリがきっぱりと答えるが、オミは尚も粘って訊ねる。
 「……誤解が解けなかったら…?」
 「その時はその時考えます。でも、謝罪を受け入れてもらっても、或いは誤解されたままだとしても、多分、二度とその人に対して、悪ふざけはしないでしょうねぇ…。」
 「距離を取るって事?」
 「いえ、取り敢えず『通じない』ってはっきり分かったんですから、繰り返さないように気をつけるって事です。誤解が解消されなかったとか、謝罪を受け入れてもらえなかったら…まぁ気まずいですから、自然と少しずつ離れていくとは思いますけど、それはお互いの『気まずさ』が原因でしょうしねぇ…。」
 「一番タチ悪いのは、偶然居合わせただけの『第三者』だよな。自分が言われたワケでも無いのにギャーギャー騒ぐ。」
 リョウが、過去の経験を思い出しながら悪態を吐く。
 「ヤスノリが即行言った『お前関係ないだろ』で絶句したヤツ居たの思い出したー。」
 トシが笑いながら言うと。
 「だってアイツに言ったわけでもないのにすぐ騒ぐから…。」
 「オミさんやイツキさんは大人の方だし、場合によってはマスコミが絡んだりするでしょうから、俺達みたいなワケにはいかないでしょうけれど、なにをどう言っても曲解する人は曲解しますよ?」
 ヒロが逸れかけた話を戻す。
 「その手の人って根性捻じ曲がってるから、何言っても無駄だよね。言葉尻を捉えたり揚げ足取りしたり。で、自分が凄い事言ってるって得意気になるんだよね。」
 「――― 。そうゆう人、どうしてる?」
 「「あからさまに無視してます。」」
 四人が異口同音に答えると
 「でもさぁ、そうゆう人って、反論しないと『言い負かした』って調子に乗ったりしない?」
 それまで大人しく聞いていたカズキが大真面目に尋ねると
 「重要なのは『言い負かした』じゃぁ無くて、『誤解を解くべき相手の、誤解を解いたか』だろ?」
 トシが改めて状況を提示する。
 「関係ないヤツがいくら騒いだところで、結局は『関係ない』んだから。」
 ヤスノリがダメ押しし
 「せいぜい『はいはい。でもお前関係ないから。』で。」
 リョウが具体的にあげる。
 「どうせその手の人とは『仲良く』なんて無理ですしね。それにその手合いには嫌われた方が逆に清々しますし、好かれる方が困ると思うんですよね。関係ないのに関係あるみたいに、近くを付いて回るでしょうから。」
 ヒロまでが言い募る。
 「割り切ってるんだねぇ…。」
 オミは改めて、自身の引き摺りっぷりを自覚する。
 「んー…、全員に好かれるなんて無理でしょうしね。その手の人は一定数いるだろうな、と。割り切るって言うか諦めるって言うか…。仕方ない事でしょうから『じゃぁ、仲良くできる人と仲良くしよう』ってダケです。仲良くできる人は多ければ多いほど良い、とは思いますけどね。」
 彼等の中では比較的温厚なヒロでさえ、相手によっては付き合いに線を引くと明言する。
 オミが考えを纏めようと黙っていると、自然彼らは、今の話題に出てきた『関係ないのに混ざってくる人』の話しで、勝手に盛り上がり始める。

 因みに ―― 、
 キョウコとミヅキはせっせと泳いでカロリー消費に励み、マサトは『オミさんもやってるだろうけど、一応念の為』と、二人の様子を注意して見ています。

山も良いよね ⑩

 カズキが対岸から泳ぎ戻ってくると、テント内でぼへーっと遠くを見ているオミの姿が目に入る。
 カズキの目には心なしか落ち込んでいるように見えた為、飲み物を貰いがてら訊ねてみようと小走りに走り寄る。
 海パン一丁で…。
 「おーい、オミさぁ~ん。」
 「だーーーーーーっ!その格好でオミの視界に入っちゃだめぇぇーーーーっ!」

 「大変失礼いたしました。」
 上着を羽織りズボンを穿いたカズキが大袈裟に詫びると
 「いえ、こちらこそ取り乱したりして失礼しました。」
 オミも合わせて大袈裟に詫びる。
 「ねね、オミさんね。さっき、もしかして落ち込んでた?」
 二人してエヘヘと悪戯っぽく笑いあった後、カズキが世間話しのように軽く訊ねる。
 「え…っ?」
 オミの表情が、驚きから疑問⇒合点へと変わり気落ちしたようなものとなる。
 その変化を目にしたカズキは、内心大慌てとなるが必死に隠し、気付いていない風を装いつつ飲み物を飲み続ける。
 (えーと…どうしよう…。子供に気遣われたって気にしちゃう。そいでもって、また落ち込んじゃうかも…。)
 カズキは頭をフル稼働する。
 (どうする?どうする?なんか…こう…ないか?上手く誤魔化すテは…って、誤魔化すんじゃぁ無くても…えーと…。)
 カズキが表情に表さないように必死になっていると、その様子を目にしたオミは少し寂しく微笑み
 「カズキ君。オミね、よくキーちゃんに注意されるんだよね。引き摺り過ぎだって…。」
 困りまくっているカズキの後頭部へと話しかける。
 「あれこれ気にし過ぎで、引き摺り過ぎだって。もっとあっさりと受け流せって。」
 カズキはコソッと顔半分ほど振り返り
 「えー…えへへへへへ…。バレちゃった?」
 隠しきれなかったかと笑って誤魔化す。
 「カズキ君は、あんまり引き摺らないみたいだけど…?」
 「?兄ちゃん達だって、そんなに引き摺ってないみたいだけど?」
 「ぅーん…まぁ…そぅだねぇ…。」
 一同の顔と様子と取り敢えず分かった性格とを思い返すオミ。
 「キョウコ姉ぇがあっけらかんとしてるしね。」
 「そー…だっけ?」
 微妙に悩むオミ。
 「普段のキョウコ姉ぇは、コロコロ笑って『終わり』って感じなんだけど…?」
 「そ、そう…。」
 オミは、確かにしつこかったり、引き摺ったりする様には見えないと一応の納得を見せる。
 「あのねぇ…カズキの場合はね…。気にしても仕様が無いんだよねぇ…。」
 困った風にカズキが続ける。
 「す~ぅぐにケロっと忘れちゃったりするから。気にしても、あんまり意味ないんだよね。」
 オミが何も言えずにいても気にせず続けるカズキ。
 「『ケロっと忘れるところを気にしろ』って良く言われるんだけど、ソコも忘れちゃうもんだから…。」
 カズキはテヘヘっと笑って誤魔化し
 「だってさぁ、色々気になっちゃったりするし、面白そうって思っちゃったり、不思議ぃ~って思ったりもするし…変なのって思ったりもするし…。どうしても、すぐに他の事が気になっちゃうから…。忘れるなを忘れちゃうんだ。すぐ後に思い出すんだけどね。」
 開き直るように言い訳をする。

 「タイガー?あんまり端っこにいると危ないよ。落ちたらどこかとんでもない所へ流されちゃうよ。」
 シンは足下で座り込んで、川面を覗き込んでいるタイガーへ声をかける。
 「ナー…ゥ。」
 タイガーは、話しかけられた内容を理解している訳ではないだろうが、声のするほうへ顔を向け返事をする。
 シンが『あそこが良いかも』と目星をつけたポイント。推測は当たり、糸を垂らし暫らく待つと力強い手ごたえが得られる。
 なのでシンとタイガーは、あたりがあれば直ぐに釣り上げられるように、糸を垂らした竿の近くでまったりと時間を過ごしている。
 新たにエサを付けた針を、先ほどから何度も釣り上げているポイント目掛けて投げ入れ、ふと足下を見たらタイガーが座り込んでいたので声をかけたところである。
 「さっきまで、あそこで魚を覗いてたのに。一人じゃイヤなのか?」
 魚籠代わりに持ってきていた布製手提げ袋を、川の分岐を少し戻った水中へ錘代わりの石と共に入れ、持ち手の部分を石に引っ掛けておき、釣った魚をその手提げの中へいれている。
 その臨時魚籠には既に4匹ほどの魚が入れられていて、時折鱗を日に煌めかせながら狭い空間を泳いでいる。
 シンは、タイガーがその鱗の煌めく様を凝視している様子を確認していたので、こんなにすぐ足下へ戻ってくるとは思っていなかった故のセリフである。
 「ミャーゥ?」
 言葉が通じるわけが無いと理解していても声をかけるシンと、何を言われているのか分からないけれど返事をするタイガー。
 いつの間にかすっかり仲良しな一人と一匹。

 「えーと…どうしよう…飲み物を貰いに行きたいんだけども…。」
 テントの方を眺めつつヤスノリが困ったように言うと
 「ぅー…、俺も貰おうと思ったんだけど…。」
 トシが同意の呟きをもらす。
 「なにやら真剣に話し込んでいますなぁ…。」
 ヒロが眺め見たテント内の様子を口にする。
 「もしかすると、この島にいる最年長と最年少が仲良く話し込んでるって事になるのか?」
 リョウが茶化すように言う。
 「あー…そうか、オミさんの方が年上みたいな事言ってたっけ…。」
 トシが思わず納得の声を上げる。

 「タイガー、下がって下がって。ピチピチ来るよ。」
 撓んだ竿を手に、足下のタイガーへ声をかける。
 タイガーは言葉の意味は分からなくとも、シンの様子からただならぬ状況を感じ取り、動物にとっては苦手とされる後退りをする。と、タイミングを合わせたように水面が割れ、活きの良い魚が水を飛ばしつつ鱗を日に照り返しながら、姿を見せる。
 タイガーは跳ねる水に迷惑そうな表情をしつつも、煌めく鱗に目を奪われている。
 シンが、片手で竿を操り空いた片手で、跳ねるように身をくねらせる魚を捕らえる。
 「ほら、タイガー。また釣れた。」
 嬉しそうにタイガーへと見せるが、見せられたタイガーはと言うと、魚はピピッと跳ねるし中々に大きいしで、見せられても…気にはなるけど…一体どーしろと?と全身で表し、困惑状態である。
 「こいつをまたあの中にいれるからねー。」
 シンが言いながらさっさと針を外し、竿を近くの大きめの石に立てかけ、魚籠代わりの手提げへと向かうと、タイガーもおっかなびっくりと後を追う。
 五匹目なので五度目なのだが、タイガーは未だ、大きめの魚の様子に慣れていない模様 ―― 。

山も良いよね ⑨

 タイガーが、傍らから顔を覗かせている花房に鼻を近づけ匂いを嗅いでいたり、風で揺れる草の葉を首を傾げつつ眺め時折前足でチョイチョイしている様子等を目に入れつつ、シンは川沿いを上流へと、時々タイガーへ声をかけながらのんびりと歩いていく。
 「タイガー?迷子になっちゃうよ。おいでー。」
 声をかけられたタイガーは、はーいとばかりにシンの後を追う。が、いかんせん猫なので…視界に別の形の葉が少々違う動きを見せたりすると、そこで立ち止まりチョイチョイ…違う色形の花が見えればそこで…、川の水が川岸で少々跳ねていれば今度はそこで怪訝そうに首をかしげ…、と寄り道ばかりしてしまう。
 「お猫様は仕方無いねぇ…。」
 確認に後ろを振り返ったシンは、離れた場所でうろちょろしているタイガーの姿を認め、苦笑いしながら迎えに戻る。
 なにしろ一応と言おうが建前と言おうが形だけと言おうが、シンは釣りを目的として別行動をしている以上、タイガーに合わせて遊び、時間を潰してしまうワケには行かないのだ。
 周りの目が無い + 小さい猫が同行 + 自分の性格 + それを知ってる幼馴染み共 = 釣って帰らなかったら盛大な笑い者。
 シンの頭の中でこの式の答えが理性を保たせている、と言っても過言では無いのではなかろうか。
 「好奇心が刺激されまくりのところ悪いんだけど、この先の分岐のところまで抱かさってておくれね。」
 と、前方に見えた流れが二つに分岐していると思しき、軽く飛沫の上がっている場所を目で指し示しつつ抱き上げたタイガーへと声をかける。
 「もう日が昇って暫らく経つから、タイミングを外しかけてるんだよね。ボウズで帰ったら、なにをどう言っても絶対信用されないで、ひたすら大笑いされるだけだろうしねぇ…。」
 シンは、タイガーへ溜息と一緒に漏らしつつ、目指す場所へと足を速める。

 オミ造成の池では、別行動のシンとテントに避難しているオミ以外の一同が、思い思いに水遊びを楽しんでいる。
 カズキが、まるでカエルかアメンボウの様に泳いでいると、マサトが前方から泳ぎ寄り声をかけていく。
 「向こうまで泳ぐつもりなら…この先ちょっと行った所に、底からかなりデカイ岩が顔を出してて浅くなってる場所があるから、しんどくなる前にソコで休憩しとけ。お前の身長でも余裕で顔を出せるから。」
 軽く振り返るようにして、カズキへ目で場所を指し示す。
 「はーい。分かったー。」
 返事をし、教わった場所へと微妙に方向を変え、せっせと泳いでいく。
 
 マサトに教わった浅い場所に辿り着いたカズキは、辺りを見回しつつ一息つき呟く。
 「はひぃー、だだっ広ーい…。」
 一人っ子でもないのに独り言の多いカズキ。
 「頭出しっぱなしだったから熱くなってら…。」
 呟くなりダプンと水へ潜り、
 (ぅひぃー、ひゃっこい。)
 すぐに上を見る。
 (おー、キラキラ。キレー。すげー。水が綺麗だから?浅い所から見てるから?お日様の光が反射しててスゲー。)
 水面の直ぐ下で水面を見上げるように漂いながら、水に映る夏の日差しを眺めるカズキ。
 (こうゆうの見ちゃうと、魚が羨ましくなるんだよねー。魚だったら、こうゆうのず~っと見てられるって思うから…。)
 と、ぼーっとしていると、なにやら足の裏がこそばゆい…。
 (なになに?なんで?なんなの?)
 カズキが大慌てで水面に顔を出すと
 「あ、出た出た。」
 暢気な声が聞こえる。
 「え?え?キョウコ姉ぇ?なんで?何時来たの?つか、くすぐったいでしょっ!」
 カズキは猛抗議をするが、キョウコは全く意に介さず
 「えへへへー。って、そんな焦らなくてもいいでしょ。足を引っ張ったワケじゃないんだから。」
 「そーだけど…さぁ。」
 ちょっぴり不貞腐れるカズキ。
 「足を引っ張ったら洒落にならないと思って、くすぐったのに…。」
 (くすぐるのだって洒落になら無いと思いますっ!近くに誰かいるなんて知らなかったんだからっ!)
 カズキは声には出さず、表情で訴える。
 「分かった分かった。アタシが悪かったって。でも、声かけたって聞こえないでしょ?」
 「ほっとけばその内息が苦しくなって、顔出すでしょ。ほにゅーるいなんだから。」
 「でも…ねぇ。あんまり長いこと潜ってると、オミさんが心配するかもしれないから…。」
 オミにしろイツキにしろ、こちらの心情に気を使ってか大雑把にしか様子を見ていないようだから、潜って遊んでいるのか溺れているのか判断し辛く、まさかと慌てさせてしまうかもしれない。
 キョウコがそういった懸念をカズキに伝えると
 あ、しまった。考えてなかった。
 カズキの表情にありありと表れる。
 「潜るなとは言わないけど、潜っている時間は程々に、ね。」
 「はーい。」
 (心配かけないように気をつけるって言ったばかりなのに…やっちゃったよ…。)
 か~るく落ち込むカズキ。
 (ぅ~ん、頭の熱いのを冷やしたいワケだけど…回数増やせばいいかな?)
 再び潜る。
 (ひゃっこい。けど、さっきほど冷たいって感じない…って事は、少しは冷えたって事だよね。)
 つらつら考えつつ潜っている。
 (潜っている時間は程々にって言ってたけど…程々ってどれ位が程々の時間になるんだろう?)
 潜った状態で首をひねる。
 (そろそろ出ておいたほうがいいか。)
 今度はぴょっこりと水面上に頭を出す。

 「なぁ、タイガー。」
 「ニャー。」
 「もうちょっとジッとしててくれないかな?」
 「ニャー。」
 抱えられている事に不満を感じているタイガーが、自らの自由を奪っているシンの手から逃れようとジタらバタらともがいている。
 「落ちちゃうから。落ちたらビックリで腰抜かしかねないだろ?」
 「ナーゥッ。」
 「ここ、渡るよ。落ちたら水ん中ドボンだよ。」
 「ニャッ?」
 水という単語は理解できるのか、或いは水の匂いで判断したのか、一時的に大人しくなるタイガー。
 「ジーッとしててねー。危ないからねー。」
 「ナー。」
 安全が確保されていての我儘勝手だと、タイガーの様子から理解することができる。
 その証拠のように、シンの手に抱えられているタイガーは、先ほどまでとは打って変わって大人しく抱えられるに任せている。
 尻尾も『任せた』とばかり、リラックスしている様を示す。
 シンはタイガーの態度に苦笑しつつ、緩やかな流れの川を、飛び石のように隙間を開けて連なっている石を伝って対岸へと渡っていく。
 「じゃ、下りるかい?」
 対岸へ渡って数歩進んだところでタイガーへ声をかける。
 が、聞こえない振りをするタイガー。
 「じゃぁ、このままあそこまで行こっか。」
 タイガーの歩みにあわせるよりも、自身のペースで歩いた方が目的の地点へとすぐに到達できる為、そのまま歩みを進める。
 「なぁ…タイガー…。」
 「ニャ?」
 「もしかしてタイガーは、わざとオミさんを困らせてないか?」
 「ナー…ゥ?」
 猫は気ままな生き物だと知っているが、分かったうえで、尚且つ人の言葉が通じるわけがない、通じても簡単な単語位だと分かっていて、その上、大体自分が猫語を理解不能だと分かっているにも係わらず、タイガーに話しかけるシン。
 「ボール好き?」
 「ナー。」
 「散歩好き?」
 「ナー。」
 「鰹節好き?」
 「ナー。」
 「オミさん抱っこ好き?」
 「ナー。」
 (オミさん良かったねぇ。今一番良い声で返事したよ。)
 アイスクリームや牛乳を訊ねなかったのはシンの優しさか。尤も、タイガーが『カツオブシ』を、木の削りカスに見える『アレ』と理解しているのか甚だ疑問ではあるが…。

山も良いよね ⑧

 『急な場所』を登りきったシンは一旦振り返り、下で様子を見ていた男子一同へ登りきったと合図を送った後、さらに上流へと歩き始めた。
 微かな流れの川の脇を、釣りに適していると思われる場所を探しつつのんびり歩いているシンの耳に、聞き覚えのある声が微かに聞こえてくる。
 「?」
 声の聞こえたほうを僅かに振り返り首を傾げながら様子を伺うと、少し離れた場所で吹く風とは関係なく草が動く。
 「??」
 なんか動物でもいるのかな?
 シンがぼんやり考えていると、再び聞き覚えのある声が、先程よりは幾分はっきりと聞こえてくる。
 「え?」
 驚いて耳を澄ましていると三度聞こえる。
 まさかと思いつつも、念の為と考え直し声をかける。
 「…タイガー?」
 草むらから草の動きと音、それと鳴き声。
 「ニャー。」
 声が少しずつ近づいてくるのに合わせ草の動く位置も近づいてくる。
 「タイガー?どうした?付いて来ちゃったのか?」
 「ナー。」
 シンの目の前の草むらから、見覚えのある小さな鼻先が顔を覗かせる。
 「どうした?出ておいで。って、まさか引っかかって出れないとか?」
 シンが気にかけ、草むらを低い位置から覗き込むために身体を屈めようとすると、タイガーがスルッと隠れていた草むらから出てくる。
 「ミャー?」
 小首を傾げながらチョコンと座りシンを見上げるタイガー。
 

 「オミさん…いないっぽいんだけど…。」
 声をかけながら辺りをざっと見て回っていた一同の内、カズキが半べそをかきそうになりながらオミへ伝えると
 「あ…大丈夫だから、すぐ分かるから。」
 オミが、カズキの様子にうろたえながら応える。
 「すぐ?」
 きょとんとしながらカズキが問うと
 「ぅ…うん…。気配を探せばいいだけで…。オミの方で探さなくてもタイガーに何かあれば、多分タイガーはオミを呼ぶだろうし…。」
 呼ぶって、表現が変かもしれないけどね。
 オミは言葉を選びながら答える。
 「って事は、まだ呼ばれてない?少なくとも怖い思いはしていない?不安になっていたりもしていない?」
 「うん。大丈夫、危険な状況にはなってない。」
 オミが微笑みながら請合うと
 「でも、危険な状況だって自覚してないだけって場合も有るじゃない。」
 心配の塊のようになっているカズキ。
 「 ――― 。大丈夫。今は、単純に不思議そうにしてる。」
 ツっと、カズキから視線を外し、感じ取ったタイガーの状態を伝える。
 「どこにいるの?ほっといて平気なの?」
 

 「タイガー。ヒトリでどうやってきたの?あの岩場、いくらなんでも登れないだろ?」
 シンが大真面目にタイガーに訊ねる。
 「ニャウ?」
 シンの問いかけに首をかしげ、そろそろとシンの足下へ近づく。
 「?」
 シンがタイガーの行動を不思議に思っていると
 ≡ シン君。 ≡
 オミの声が聞こえる。
 「??」
 キョロキョロと辺りを見回すシン。
 ≡ そこにタイガーいる? ≡
 シンは、あ、テレパシーね。と合点がいき、即座に新たな疑問 ― どう伝えれば良いか? ― が湧いて出る。
 居るのは確かに居る。でも、どうやってそれを伝えれば良い?
 シンは足下のタイガーを見、真剣に悩む。
 ここに居る『コレ』が『ソレ』なワケだけども…、どうやれば伝えられるか?
 なにしろコチラは超能力とは無縁の身。離れた場所に居る相手にコチラの意向を伝えるには、大声を出すしか術が無いのだが、生憎、大声が届く距離にお互いが居るわけでもない。
 シンが、伝えたくても伝えられない状況に困っていると、それを察したオミの声が聞こえる。
 ≡ あぁ、分かった。タイガーをお願いするね。 ≡
 はい、頼まれます。
 否も応も伝えようの無いシンは応じる以外選択肢が無いのだが、猫が苦手でも無い(どころか子猫大好きな)ので大人しく(大喜びで)甘んじる事にする。

 「タイガー、どこにいるの?」
 心配の塊のカズキが訊ねる。
 「シン君の所。脇の草むらから登ったのかな…?ついて行っちゃったみたいだね。」
 「シンちゃんの後を?」
 カズキの後を追うように戻ってきていたミヅキが、確認するように訊ねる。
 「うん、そう。」
 「そっか。見付かって良かったぁ~。」
 ミヅキが安心したように呟くと、現況確認に集まってきた他の少年達もそれなら安心とばかりににこやかに頷く。
 「…でも…昨日、タイガーはシン君を噛んじゃったんだよね…。その上今日まで面倒かけて…シン君、怒ってないかな?」
 オミが気遣わしげに口にすると
 「あー、あのケガなら…愛すべき負傷って言って喜んでましたよ。」
 マサトが妙な表現をしながら、オミの杞憂をあっさりと退ける。
 「『愛すべき負傷』?」
 オミは意味が分からず首を傾げるが、思い当たる点のある一同は、シンらしい表現だとクスクス笑い出す。
 「多分『愛らしいタイガーの為に拵えた名誉の負傷』って事かと…。」
 シンの性格と怪我をした理由と状況を考え合わせて、それっぽい説明をするマサト。
 「……え…っ?」
 タイガーのそばに滅多に近寄らないシンの様子と、そのシンの中でタイガーが『愛らしい』対象となっているとの説明に合点がいかないオミ。
 「シンは『ちっちゃいノ』大好きだから…。」
 「この間…確かホタル見たときにそういった話をしたような気がするんですけど…。」
 ヒロがキョウコの後から補足するように言葉を添える。
 「あれ…ホントの事だったの?悪ふざけしてからかってたワケじゃぁないの?」
 「?からかってはいたけど…?」
 リョウが不思議そうに言う。
 「いや…だから、苦手なのをからかっていたりするのかと…。」
 「あぁ、逆に言ってって事か。でも、昨日だっこしてたし…。」
 「苦手だけど、タイガーの為に我慢して…。」
 「「大好きだから大喜びで。」」
 オミの言葉を、全員が口を揃えてキッパリ否定する。

山も良いよね ⑦

 稲荷寿司を食べ小腹を満たした後、川の上流へと向かうシンに、マサトからカズキ迄の男子が付いていく。
 「えー…と?」
 シンが、釣りもしないのに何故一緒に来るのか不思議そうに彼等の顔を見ると
 「だって、急な所を見てみたいから。」
 腕白小僧の表情でカズキが応えると、全員がうんうんと頷いてみせる。
 「あぁ、成る程。」
 納得する。

 男子達が川の上流へと向かうのを見送った、キョウコ、ミズキの二人は淵に沿って池の様子を見て回っている。
 「水が綺麗だわ…。」
 「昨日の話しだと、この辺沼だった事になるよねぇ?」
 「元が沼とは思えないね。水が澄んでて、底までしっかり見えるもん。」
 「深いのかな?よく分かんないけど…。」
 ミヅキが身を乗り出して覗き込もうとすると、
 「あーーーーぁぁぁ…っ。あ…危ないから、ソレは止めて…。」
 大慌てで止めるオミの声が聞こえる。
 顔を向けると、離れたところで困った表情を見せるオミがいる。
 オミに分かったと伝えるべく、大きく頷くキョウコとミヅキ。
 「すべって落ちたら、オミさんが気に病んじゃうね。」
 「そうね。ケガとかしなくてもオミさんのことだから、気にしちゃうね。」
 二人は微苦笑を浮かべつつ、眺めるだけにとどめる。
 
 「おー。ここかぁ。」
 カズキが興奮気味に声を上げる。
 目の前には4メートル程の、崖と言うにはなだらかな斜面が見える。
 「成る程、ちょっと急だね。足場も悪そうだし…。」
 目の前に下ってくる川の両脇には、ゴツゴツした岩が顔を見せ、その脇に土が盛り上がり、木の枝や草が所々飛び出している。
 カズキでは手を目いっぱい伸ばしてやっと端に届く程に、一つ一つの岩が大きく、岩の連なりの高低差は緩やかではあるが、傍らの川の水しぶきが掛かり塗れて、水苔も所々に生え、滑りやすそうである。
 その脇の土の所は、枝を横に張り出した木が幾本も連なり、木と木の間は下草が茂っていて分け入るのは難しそうである。
 「シンちゃん、登れそう?」
 「う~~ん…、なんとか?」
 カズキの問いに眉を寄せつつ答える。
 「ま、這ってきゃなんとかなるでしょ。崖って言うほど急じゃないし。」
 へー、シンちゃんだと登れちゃうんだー。と感心するカズキ。
 「んじゃ、ちょっと行ってくるな。」
 シンは言うが早いか、さっさと足を掛け登り始める。
 「は~~い。いってらっしゃーい。」

 「ねーねー、オミさん。ここね、前は沼だったなんて信じられないんですけど…。」
 池の傍ら、平らな石畳の部分と土の部分の分かれ目付近で、昨日のように張った日除け用テントの中、オミが飲み物などを気楽に飲み易いように並べているとミヅキに声を掛けられる。
 「んー…?でも、沼だったんだよ。こっちからあっちーの端までと、あそこからむこーーーうの端まで。大きいのや小さいのが幾つもあった。」
 範囲を指差し答える。
 「沼って泥んこってイメージなんですが…。」
 ミズキが粘ると
 「泥だったよ。どろんどろんで凄かったさー。で、水面がキラキラしてて、タイガーが『行くー。キラキラ獲るー。』って暴れた。落とさないようにするのが大変だったよ。」
 「えー…、泥の名残が欠片も見当たりませんが?」
 「あぁ。だって、埋めちゃったし。」
 あっけらかんと答える。
 「埋め?」
 「昨日言ったよねぇ?穴掘って深くして岩で補強したって。」
 えぇ、聞きました。でもコレ補強って言うの?
 辺り一帯の石畳と池の淵の立ち上がり、その先の水面などを振り返り、強く疑問に感じるミヅキ。
 「岩で補強しただけで、泥って表面に出なくなるものなんですか?水がすんごい澄んでて綺麗だったんですけど。」
 「んーー…とね。穴掘って…掘って、掘って、掘って、徹底的に堀りまくって大きな穴にして。周りの土が崩れないように岩で一旦壁作って。で、細かい石を山盛りにバラ撒いて、上からムリクリ押さえて、又バラ撒いてを10回位繰り返して。その上にその石よりちょっと大きめの石を、これまた山盛りバラ撒いて…を繰り返して、ちょっとずつ大きめの石にしてね。7層から8層位になってるよ。で、一番上になるべく表面が平らな大きめの石を撒いて押し付けたの。壁の方も同じように、土が固くなってるところに板状の岩を、間を開けて二つ壁代わりに埋めて、間の部分を掘って深い溝にして、細かい石を埋めて上から押さえ込んで、又間を空けて壁代わりの岩を埋めて、深い溝を掘ってって、池の側の壁代わりの岩まで繰り返して。埋める石もちょっとずつ大きくして。で、それを繰り返して溝がある程度石で埋まったら、壁代わりの岩を外して隙間が残ったら細かい石で埋めて。で、一番上に表面が平らな石を敷いたの。」
 あっさりと、大掛かりな土木工事の過程を口にする。
 「たっだいまぁー。シンちゃん、あっさり登ってっちゃったよ。」
 キョウコとミヅキが、オミの工事内容に呆れ返っていると、カズキが走り寄りながら声を掛ける。
 「ねね、ここ泳いでも良い?水綺麗だし深さも有りそうだし、良いよね?」
 「いいけど、消毒も殺菌もしていないから飲まないでね。」
 「は~い。って、あれ?タイガーは?」
 オミの足下をチラ見し、見当たらないのでカズキが尋ねる。
 「え?ソコにいない?」
 オミは川の脇に繋がる土の部分の、草むらへと目を向ける。
 「あれ?」
 いない。
 「さっきアソコの草むらの所で、花をチャイチャイしながら遊んでたのは見たけど…。いないから、てっきりオミさんの所だと思って…。」
 カズキも草むらを目で指し示す。
 やはりいない。
 「え?あれ?草むらの所の奥に行っちゃったとか?」
 「見える範囲には居ないみたいだ…ねぇ…。」
 マサトがぐるりと見渡しながら言う。
 「タイガー?どーこぉー?」
 キョウコとミヅキが大きめの声を出し、隠れているのか姿を見せないタイガーの名を呼ぶ。

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