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最上部にて…

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雨の日は静かで物憂げで… ⑦

 オミとシンが微妙な空気を漂わせているところへ、寝惚けカズキが乱入してくる。
 「おはにょー。って、どうしたの?なんでカズキは寝てたの?皆も寝ちゃってるし。お昼ご飯に、眠くなる成分のものでも混ざってたっけ?」
 「お前はいっつも平和だねー。」
 シンは苦笑いをしつつ、お目覚めドリンクを注いでやる。
 「んー?カズキ今、お馬鹿扱いされた?」
 疑りの目でシンを見る。
 「いやいや、まさか。」
 シンとカズキが暢気に話していると、カズキだったらどのような反応を見せるか気になったオミが、試してみようと行動を起こす。
 「ね、カズキ君。ちょっと見てて。」
 声をかけ、先程と同じように数十個のブラックベリーを宙に浮かべ、一気に中の芯を取り出してみせる。
 「おぉ?」
 「おー。」
 目の前に現れる変化の一々に目がまぁるく見開き、感嘆の声が漏れる。
 「すげー。えー、オミさんすごーい。こっちのなになに?何が取れたの?なにを取ったの?」
 キャッキャ言いながら、芯をまとめて入れてあるボウルを覗き込む。
 「これ何?芯?硬いの?美味しくないの?」
 大興奮。
 「すごいねー。あんなに沢山なのに一瞬なんだねー。で、なに?あれ全部やるの?多くない?大丈夫?」
 カズキの余りに無邪気な反応に、苦笑してしまうシンとオミ。
 「あ…の、オミさん?人それぞれって事で良いでしょうか?俺、別に馬鹿にしたとかそんなつもりは無いんで。そこは分かって頂きたんですけど。軽率な態度だったとは思いますが…。」
 「あ、いや、ごめん。オミも神経質すぎたみたいで…。」
 二人が突然、和解に向けた対応を取り始めたため、話しについていけなくなったカズキが不思議がる。
 「どうしたの?ケンカでもしてたの?」
 「「いや…そうじゃないけど…。」」
 二人して同時に否定する。
 「?ふぅん?ま、いいけどさ、ケンカじゃないんなら。でさ、それもやるの?多くない?」
 二人が同時に声を揃えて否定したからか、それ以上は追及せず、それどころかお代わり分にも山盛り入っている事を少々気にかける。
 「カズキ手伝うよ。」
 「あー…いや、潰れやすいし、お尻の所が取れちゃうのはちょっと…。」
 オミがこだわりを口にすると
 「追加分はジャムにする予定だよー。」
 キッチンからイツキの声がする。
 「ジャムにする分も、形が崩れるのはイヤ?」
 まさかと思いつつカズキが確認を取る。
 「それは、こだわっても…無駄…かな?」
 オミは少々困ったような表情で応える。
 「じゃ、カズキ手伝うー。縦半分に切ってほじったら取れる?」
 「じゃぁ俺も。なんか道具がどうとかって仰ってましたけど、2つ程ありますかね?」
 エプロンだー、汚しちゃいそうだから要らない紙敷くぞー、まな板いるよねー、予備のボウルもー。チョロチョロと支度に動き回るカズキ。

 「あ゛-、負けたぁー。オミさんには勝てないのは当たり前だけど、シンちゃんにまで負けたー。」
 キョウコがポヘっと目を覚まし、見当たらない2名を探そうとリビングを出ると、ダイニング側からカズキの声が聞こえてくる。
 何をしているのかと寝起きボケの頭で見に行くと、オミとシンとカズキが黒っぽい色をした果実らしきモノと戯れて(?)いるのが目に入る。
 「なにしてるの?その黒いのなに?果物っぽいけど…。」
 「あ、キョウコ姉ぇおはよー。これねブラックベリーって言うんだって。で、中の芯のトコ取るの競走してたの。」
 「あぁ、おはよ。ブラックベリー?へー。ほんとに黒いわねー。で、芯取るの?苦いとか?」
 「渋味が強いんだってよ。果汁が飛ぶかもだから離れてたほうが良いぞ。」
 お目覚めドリンクを渡しながら状況を説明する。
 「ハイハイ。って、競走ってオミさんのところには道具が見当たらないけど?」
 「オミさん超能力でやるしー。一気にやれちゃうからハンデ貰ってるの。って、なんか良い匂いがキッチンから…。」
 クンカクンカと匂いを嗅ぐカズキ。
 「カスタードクリームが完成したみたいね。」
 「え、じゃ、拙いんじゃないの?遅れちゃってる?」
 「あ、いや。冷ますはずだから…まだ平気。ケーキの分はもう渡してるし。」
 「じゃぁ安心。で、カスタードクリームってことは…シュークリームとかエクレアとか…?」
 「え゛?オミは…ミルフィーユをリクエストしたんだけ…ど…?」
 とたんに不安に駆られるオミ。自分がリクエストしたケーキだからこそ、前向きに手伝ったというのに、それが無駄になるなんて考えたくもないらしい。
 「キーちゃぁん。ミルフィーユだよね?作ってるの。」
 「あぁ。そうだが?だぁれかさんが煩いからなぁ~。」
 「煩くてわ~るかったねぇ。」
 不貞腐れてブスったれるオミに、カズキがのほほ~んと
 「ミルフィーユってなに?」
 これまた無邪気に尋ねる。

 残りのブラックベリーの作業をしつつ、ミルフィーユなるケーキの説明を受ける3人(1名は見ているだけだが)。
 「え?パイ生地で作るの?パイ生地を重ねるの?」
 カズキが驚きの声を上げる。
 「パイ生地って作るのが大変だったと思うんですけど?」
 「生地は作り置きがあったと思ったけど…。」
 キョウコの心配に対し、安心させようと記憶を辿って応えるオミ。
 「パイ生地って作り置き出来るの?」
 カズキの素朴な疑問。
 「うん。キーちゃんがまとめて作って冷凍してたはず。」
 だから安心しておねだりが出来る。と続けるオミ。
 「カスタードクリームも作るのは面倒臭かったはずぅ~…。」
 と、起き出してきたヤスノリが口を挟む。
 「おぱよー。失敗し易かったはずなんだけど…カスタードクリーム。」
 挨拶をしつつ、空いている席に座り込みながら続ける。
 「へ?イツキさん、あっさり作っちゃったみたいだけど?」
 「そなの?慣れってヤツかなぁ。もうコツを覚えちゃってるとか。ホワイトソースとかもそうなんだけど、分離しちゃって失敗しやすいんだ…。」
 ヤスノリが、キョウコからお目覚めドリンクを貰いながらカズキの話しに応えていると、イツキがキッチン側から顔を出す。
 「お、ヤスノリ君起きたかい。おはよーさん。で、ブラックベリーはどう?終わりそうかい?そろそろ皆を起こしたほうが良いんじゃないかって思うんだけど…。」
 起きて直ぐにケーキってのはキツイだろ。と気にかける。
 「もうすぐ終わります。」
 「じゃぁ、起こしてくるわ。」
 シンの返事を受けてキョウコが席を立ち、皆がうたた寝をしているリビングへと向かう。
 「もう出来るの?ケーキ。どんなの?どんなの?」
 気持ちが既にケーキへと向かっているカズキ。じっとしていられないらしく、作業の最中だというのに足をばたばたさせている。
 「落ち着け、カズキ。ケーキは逃げないから。」
 「くぅーーっ。気になるぅーーっ。」
 「あぁ、まだやる事はあるよ。ただ、今の内に起きていたほうが食べるのに苦労しないで済むかなって思うだけで。寝起きで目の前にケーキ出されても困るかなって。」
 「やる事ってなにデスか?どんな事やるデスか?」
 「カズキー、お前日本語変だぞ。シンちゃんのセリフじゃないけど、ケーキは逃げないから落ち着けって。」
 「だって気になるんだもぉん。」
 ジタバタジタバタ…。
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雨の日は静かで物憂げで… ⑦

 イツキとシンが物置倉庫からダイニングへと戻ると、見るからに寝起き状態のオミがボーっと座っている所へ行き当たる。
 「あれ、お前起きてたの?」
 「うん、ちょっと前に…。で、このガラス片はナニ?どうしたの?」
 「あぁ、それは良いんだ、いらない分。」
 と応えながら、不自然にならない様シンの腕に触れ
 ≡ だよね?ガラスは要らないだろ? ≡
 と素早く訊ねる。シンも同意の視線を目を極僅かに動かす事で伝える。
 「いらない分という事は…いる分があるという事で…。」
 「お前、寝起きのくせにしつこいな。」
 苦笑いしながら、オミへとお目覚めドリンクを差し出す。
 シンはオミの目を気にし、少々挙動不審気味になりながら、取り敢えず使わせて貰っている部屋へと向かう。
 「倉庫で何してたの?」
 「ちょっと探し物。」
 「フーン。オミには内緒なんだー。へー。」
 拗ねるなよ。

 一方のシンはと言うと。
 部屋で、借り受けたボンドや保護材、出したボンドを薄めて伸ばすための薄手のプラスチック板や、塗った貝殻を並べて乾かすためのボード、そもそも塗る為の筆等をどこへ仕舞うか思案している。
 ここだと確実にマサトにばれるワケで…。
 クローゼットの一番下に、荷物で隠しながら置いておくか?
 出し入れしている間に気付かれる?
 作業は寝ている隙を突くとして…。
 ボンドや保護材がどれ位臭うかだよな…。
 う~~ん…?
 ばれ無いように、作業の開始終了は円滑に、ただし作業中は集中できるように。中々に難しい条件である。
 ≡ シン君。あのね、2階に余っている部屋があるから。階段昇りきったところのすぐ右にドアがあるでしょ。その部屋か、或いは、ドライルームの真上に当たる部屋。お勧めはドライルームの真上の部屋だね。ちょっと離れているから、出入りにさえ気を付ければ、臭いとかは余り気に掛けないで済むよ。換気は絶対必要だけどね。どっちの部屋も狭いけどバスルームが付いているから、作業の後にシン君に付いた臭いも落とせるよ。 ≡
 シンが考えていると、イツキからテレパシーで助言が届く。
 大助かり。と、シンは早速それぞれの部屋の位置を確認しに行く。
 階段昇ってすぐ右の部屋は…中学生組みとカズキが使っている部屋の脇に辺り、作業時に彼らが風呂を使っていたりすると気付かれる恐れあり。
 片やドライルームの真上に当たる部屋はと言うと、女性部屋の近くをうろつく事になり、少々怪しまれる可能性あり。
 どちらも微妙と言えば微妙な…。
 シンが決めかねていると、再びイツキからテレパシーが届く。
 ≡ ドライルームの真上の部屋なら、キッチン奥の階段使えばすぐだよ。 ≡
 それだっ!
 ≡ そろそろ皆起き出して来ても可笑しくないから、荷物を置いたら下りてきな。 ≡
 はーい。
 あちらへは聞こえないであろうと分かっていても、一応返事だけはするシン。いそいそと荷物を置いて階下へと降りていく。

 「だからキーちゃん、オヤツはミルフィーユが良い。カスタードクリームの、トリプルベリーで。」
 ダイニングからキッチンへとオミのおねだり真っ只中。
 「トリプルベリーって気軽に言うけどな、ブラックベリーは渋いだろーが。」
 「芯を取っちゃえば渋くない。」
 「自分で取りなさい。」
 「えー…。」
 「じゃぁ、却下。」
 「えぇー、そんなぁー…。キーちゃぁん。」
 「じゃ、芯。」
 「はぁ…い…。」
 不満気。
 「イヤならいいんだが?別に。」
 「喜んで。」
 うっそ臭い笑顔と共に了承するオミに、しらばっくれてニッコリ笑顔でボウル一杯のブラックベリーを渡すイツキ。
 渡された分量を見て引き攣るオミを無視し
 「じゃ、まかせた。ヨロシクな。」
 イツキはあっさりと踝を返す。
 大量のブラックベリーを前にアワアワしているオミへ、見かねたシンが声を掛ける。
 「手伝いますよ。何をどうすれば良いんです?」
 「ありがとう、でもコイツってば潰れやすいから気持ちだけで良いよ。」
 「でも結構量有りますよ。」
 「うん、でもオミには奥の手があるし。道具を使ってやると筒みたいになっちゃうから、それはオミがイヤなんだよね…。」
 奥の手…?
 「奥の手というか…見えない手と言うか…。」
 「あぁ、超能力。」
 シンが合点のいった表情で口にすると、うんうんと頷いて早速やってみせる。
 「このね、真ん中のが渋味の元らしいの。結構奥まであるから、道具を使うとなるとお尻の部分まで取れちゃうんだよね…。それがオミには無駄に悔しくて。」
 オミの妙なこだわり。
 大雑把なんだか細かいんだか。
 「はぁ…それじゃぁ、俺は手出しできないですねぇ…。随分と大量に有るのに。」
 眺めているしかないのが後ろめたく、少々困り顔を見せる。
 「ま、ま。見てなさい。オミもやるとなったら遣るんだから。」
 と声をかけ、複数個の果実の芯を取り除いてみせる。
 「ね、いっぺんにやれば直ぐだよ。キーちゃんもそれが分かってるから、面白がって意地悪するんだ。」
 あぁ、成程。ふざけてジャレてただけ、と。
 口には出さずに納得するシン。
 「では記録に挑戦。」
 言うや否や数十個のブラックベリーが宙に浮く。
 「えーと…もうちょっと減らしとこう。失敗したら、後がメンドイ。」
 あっさりと、一部をボウルへ戻す。
 「じゃ、コレぐらいで。」
 言うが早いか、宙に浮いている実の数量が倍になる。
 「うむ、成功。」
 満足気に頷くオミと、呆気に取られ、直後に笑い出すシン。
 「そ…それなら早いですね。手を出す暇もない。」
 「今、オミ、子供っぽかった?」
 「え?」
 「やってから気付いた。ちょっと子供っぽかったね。」
 照れ臭そうな顔をする。
 「あ、いや、俺が笑っちゃったのは、まさかあんな一瞬で中の物が取り出せるなんて思ってなくて…意外すぎたからなんです。」
 「?」
 「ビックリし過ぎると笑っちゃったりしません?」
 「んん~~…?」
 「え?あれ?俺ぐらいなモン?」
 シンが戸惑っているとイツキが『お代わり』を持って顔を出す。
 「オミ、これもよろしくー。って、どうした?」
 「あー…その…びっくりし過ぎて…。」
 シンが言い辛そうに話し始めると、オミが遮ってイツキに訊ねる。
 「ねぇキーちゃん、ビックリし過ぎると笑っちゃったりするもん?」
 「は?」
 問われてすぐには理解できなかったイツキだが、幾分か作業の進んだらしいブラックベリーと、バツの悪そうな表情のシンを見ておおよそ理解し
 「あー…成程。ま、居るけどな。お前はビックリし過ぎると固まる方だよな。怯えたりな。って事で、お代わり分もよろしくー。」
 イツキはかる~く流してキッチンへ向かう。
 「はぁ…。オミさんは固まっちゃう方なんですか。俺とは逆方向に反応するんですね。」
 「だって、驚いたら息を呑むでしょ?固まるでしょ?びっくりし過ぎたら、なにこれ?どうゆう事?って怖くなったりするでしょ?」
 オミの必死の抗弁に
 「すみません、固まるのも疑問を感じるのも、長くて最初の数秒くらいです…。俺、暢気すぎるのかなぁ?」
 溜め息を漏らしつつ応え、頭を抱えるシン。
 「もしかして…オミは大袈裟すぎる?」

雨の日は静かで物憂げで… ⑥

 昼食後再開された『合同宿題会』。猫のタイガーは相変わらずダルさに負けてのダル寝、イツキとオミは邪魔にならないように読書(?)中。
 午前中に比べれば弱くなったとは言え未だ降り続く雨は、雨垂れの音を小さく響かせている。
 
 雨垂れの滴る音。
 ノートを走る鉛筆の音。
 時折混ざる、ページを繰る音。
 極小さく呟く声。
 
 イツキがふと気付くと、聞こえてくるのは微かな寝息。
 不思議に思い、頭を上げて周りを見渡すと、隣に座っているオミは言うに及ばず、机代わりのテーブルに突っ伏する面々が見える。
 さもありなんと苦笑いを浮かべ掛けたいつきの耳に、微かな寝息を縫ってペンの走る音が極々僅か聞こえてくる。
 不思議に思い音を辿ると、ムキになったように問題を解いているシンの姿が目に入る。
 あっけに取られその様子を眺めていると、直に解き終わったのか、シンの表情が満足気なものに変わる。
 と、周り中がうたた寝中であるとここでやっと気付いたようで、途方に暮れたかのような表情を見せ…眺めていたイツキの存在に気付く。

 場所をダイニングに移し、イツキとシンはお茶休憩を取る。
 皆がうたた寝をしているリビングは、風邪など引かせぬよう室温を少々上げてあるが、毛布等を掛けなかったのは、掛けたときの気配で目を冷まさせてしまうのを避けるため、室温調節で対応しようとのイツキの判断である。
 「いやー…、まさか皆寝てるとは思わなくって…。」
 気恥ずかしそうにシンが言うと
 「俺は、シン君が一人でしっかり起きているのが不思議だったよ。」
 真面目君と茶化すかのような表情をイツキが見せる。
 「あー…あれは、タイミングなんだと思います。問題を読んでいたり、解くために考えている最中に睡魔に襲われると、負けちゃって、既に解き始めていると勝てるんじゃぁないかと…。俺があの時やっていた問題は、解くのがやたらと手間の掛かる問題だったんで…。」
 真面目な訳じゃぁないですよーと仄めかす。
 「フム。それって動いていれば勝てるけど、止まってたら負ける?」
 そうゆう事?と目で問うと
 そうです、そうです。と軽く頷いて肯定する。
 「カズキなんかは、動いていても負けるかもしれませんけども…俺は動いていたら勝てます、ね。本当は眠くなったら寝ちゃうのが一番なんでしょうけど。ダルイから寝る、とか。」
 「タイガーみたいに?」
 笑いながらイツキが言うと、シンも笑いながら
 「えぇ。タイガーみたいに。…って、いけね、忘れてた。」
 応じた際に、タイガー繋がりで記憶を刺激されたか、慌てた表情を見せる。
 「?なに?」
 「あ…あのぉ、昨日なんですけどね。俺とタイガーは別行動してたワケですが…。」
 「うん、釣りに行ってたんだよね?」
 「その時に、拾い物をしまして…。」
 えーと…持ってたはずなんだ。朝、訊こうと思ってポケットに…。と上着のポケットを探る。
 「あ、あったあった。コレなんですけどね。川原で見つけて。貰ってしまっても良いものだろうか、と。」
 テーブルの上にタイガーと見つけた、深緑色の石の小さな欠片を広げてみせる。
 イツキは、広げられた石を何の気なしに見つめ、中の一つを手に取る。
 「ん~~?こんなの落ちてたんだ?へぇー。いいもん見つけたね。とは言え、小さすぎて財産価値は無いけども。」
 「?」
 今なんておっしゃいました?
 「こっちが翡翠でこれがサファイアかな?こっちは真珠だね欠けてるけど。あ、この辺のはガラスだ。で、コレはトパーズかな。」
 イツキがざっと種類ごとに分け、ガラスは特に離して置く。
 「え?えー、あのー、もしかしてココって宝石が採れちゃったり…?」
 自分で口にした『宝石』という単語に恐れをなすシン。
 「えー?どうだろねぇ?可能性としては、例の大災厄前にココに住んでいた人の持ち物じゃないかな?大災厄絡みでナニかあって、地に埋まったものが雨に洗われて川に流されて、って事では無いかと…。小さいし、欠けちゃってるから、さっきも言ったけど財産的な価値は無いね。お土産代わりに持って帰りたいなら、持って行って良いよ。変な思念も纏ってないし…。」
 「最後の一言が気になるんですが…。」
 シンは一瞬嬉しそうな表情を見せたが、この時代、この世界では聞き逃すわけに行かない、物騒な発言が気に掛かる。
 「宝石ってやっぱりありがちなんですか?『強い思念が篭る』とか。」
 「そーねぇ、多いねぇ。頻度で言ったら、ね。でも、これは綺麗なモンよ。まっさらってカンジだ。安心しなさい。」
 「それなら…まぁ、安心して。って、いいんですか?貰っちゃっても。」
 「いい、いい。見つけた者勝ちだね。」
 「それじゃぁ、まぁ、遠慮なく。」
 嬉しげにエヘヘと笑い、失くさぬ様に仕舞い始める。第一他の子達に見つかったら、煩い思いをするのは目に見えているのだから。
 と、いそいそと仕舞っているシンへイツキがボソっと
 「彼女へのお土産かい?」
 なんかお茶請けにつまむか?と声を掛けるくらい気軽に尋ねる。
 「へっ?」
 全力で動揺するシン。
 「いやぁ、この間の海で、といい、今回といい、可愛い感じのや綺麗な感じのを拾ってるみたいだから。」
 イツキの言葉に顔を引きつらせる。
 「あの桜貝の貝殻や珊瑚の欠片もシン君のだろ?小さ目の器で殺菌してたヤツ。桜貝なんて季節外れなのに、良く見つけたねぇ。でも、保護材や艶出しを塗っておかないと色が褪せちゃうぞ。」
 「保護材やら艶出しやらに心当たりがありませんで…。」
 内緒にしていた物がバレバレだった事実に打ちのめされ、テーブルに突っ伏するシン。
 「ミヅキちゃんに渡した分はフェイクかい?みんなに煩く追及されないための。土産相当分を見つけても、フェイク分も相応に見つけて皆に見せて置けば、皆が寝ている間にしていたことを誤魔化せるしね。」
 イツキがニッコリ笑いかけながら話すと、シンは隠すことを諦める。
 「はぁ…まぁ、一応そんな所で…。出掛けたは良いけど、土産の一つもないってどうなんだろうと思いまして…。」
 「成程ねぇ。で…思ったんだけどさ、補強?した方が良いよね、あの貝薄いし。でね、ボンドを薄めて裏側に塗ってみたらどうだろう?」
 イツキとしてもからかってばかりでは悪いと思ったのか、ささやかな提案をする。
 「ボンドをそのまま伸ばして塗ろうにも、ちょっと時間が掛かると乾いてきちゃうし、ボテっとした感じになっちゃうじゃん?だから、薄めたボンドをうっすらと塗ればボテッとした感じは出ないで済むだろうし、薄いんだから途中で乾き始めちゃっても上塗り可能じゃぁないかと思うんだよね。ま、ミヅキちゃんが言ってたように、マニキュアのトップコートを薄めて使えば良いんだろうけど、生憎ココにはマニキュアを使う人がいないからねぇ…。」
 「あーボンドか。そ・か、その手があるか。って、でも表側には塗れないですよね。いかにも加工しましたってなりそうで…。」
 「んー…家具の艶出し材ならある。ウチってばホラ古いから。時々塗っとかないとねぇ…。試しに欠けちゃってるヤツがあったら、それでやってみたらどうだろう?」
 「…そうですね。駄目だったら、そのとき又考えるとして…。探って良ければ、ボンドや艶出し材を取って来ますけど…?」
 「日本語では無い言語で書かれていたと思うけど…。」
 「じゃぁ、済みませんがご一緒に。」


雨の日は静かで物憂げで… ⑤

 「そろそろお昼にしない?で、悪いんだけど…。」
 「はい。お手伝いですか?何します?カズキは前向きに手伝いますデスよ。」
 勉強から逃れようと、やたらと前向きな返事をするカズキ。
 「イヤイヤ、手伝いの話しではなく…。」
 「?したら、何を?」
 全く何にも判りません状態のカズキ、きょとんとしながらイツキを見る。
 「ぅん、悪いんだけども、残り物片すのに協力して貰おうと思って…。」
 イツキが言い淀むと
 「ご安心を。」
 「何の問題も有りません。」
 「食い散らかしてるようなもんなんですから、お気になさらず。」
 直接答えていなくても、うんうんと頷き同意を示す。
 「残り物ってメニューはどうしたの?」
 オミが不思議そうに訊ねる。
 「ポーチドエッグを添えたシーフードカレーピラフにカボチャの温野菜サラダと枝豆スープ、デザートにアセロラとスイカのゼリー。」
 「それのどこが残り物なんですか?」
 「カレーもシーフードも残り物だし。西瓜もいつぞやの残りだし。枝豆は採れすぎて困ってるし。カボチャくらいだよ初物は。」
 「多分、言われなくても気付けるのはカレー位かと…。」
 「なんだったら、ホットドッグやハムサンドもつけるよ。頂き物があるから。」
 「「そんなに食えませんっ。」」
 「重目のおやつが…オマケ扱い。」
 苦笑いするヒロの一言に、はっと気付いたようにオミが口を開く。
 「キーちゃん。オヤツはミルフィーユがいいっ。カスタードクリームとトリプルベリーで。ベリーが余ってたよね。」
 「昼を食ってから言いやがれ。」

 「温野菜サラダは…カボチャとシーアスパラガスと赤と黄色のピーマンと揚げ茄子と…?このイボイボのってなに?」
 カズキの問いに
 「ゴーヤーだよ。苦瓜とも言うらしい。苦味は取ったから安心してね。って、材料がやたらと被ってるだろ?」
 キチンと答えるイツキ。
 「でも、美味しいから気になりません。料理法が全く違うみたいだし。」
 「ホワイトソースを掛ける、と。ドレッシング代わりですよね?ソースの味が濃い目だから、タップリ掛ける必要は無い、と。」
 とのマサトの問いに
 「そーそー。」
 料理慣れしている相手だけに、細かいことは指示をせず『おまかせ』する。
 「バター風味…って事は、材料を茹でた後にざっとバターで炒めた、と。」
 「レシピあげるから、分析しないでー。」
 「あ、失礼。」
 テヘっと笑って誤魔化すマサト。
 「おー、緑色のスープゥ。」
 「生クリームを大匙1杯程、ぐるーって回しながらかけるとお洒落だよ。」
 「成程。いざチャレンジ!」
 ヤスノリが挑戦する。
 「シーフードカレーピラフのシーフードが、恐ろしいぐらい豪華だな。」
 とは、シンの感想。
 「ポーチドエッグはピラフの上に乗せちゃって良いんですよね。」
 ヒロの質問には少々指示を出す。
 「うん、そう。真ん中よりちょっと端に寄せて乗せるのがお奨め。スパイスの辛さが中和されるから、遠慮なく絡めて食べてね。」
 「「はーい。」」
 イツキは、皆がそれぞれテンでバラバラに興味のある料理へと散って行き、ついでにバラバラに質問をしてくるのを捌く。
 「テーブルの準備、できたよー。」
 ミヅキの声に
 「じゃ、テーブルに運ぶわ。」
 キョウコが一度に皿を4枚ほど持っていく。
 「んじゃ、俺も。」
 と、手出しできなかったシンやリョウも運ぶほうを手伝う。ちなみにカズキも温野菜サラダを、ソースを掛け終わった順に運んでいる。
 これらが打ち合わせ無しの分担で、中々に手際よくスピーディーに進められているのは、付き合いの長さからくる阿吽の呼吸
であろうか。そんな中、全く入り込む隙を見つけられなかった約一名は
 「オミは大人しく、タイガーのご飯を準備します。って、起きて来ないけどお腹減ってないのかな?」
 最低限の義務を果たす。

 「そういえば、メニューが全部『温かい』物だけど、なんか理由でもあるの?」
 オミが不思議そうに訊ねると
 「雨で、ちょっと冷えるかなと思ってね。冷たいメニューだと確実に冷やすだろ?って、寒くないよね?」
 「平気でーす。今日は長袖がしっかり乾いていますから。ご心配をおかけしまして…。」
 昨晩、少々冷えると上着を借りたミヅキが答える。
 「いや、大丈夫なら別にそれで構わないから。君達も冷えたりしたら言ってね。室温調節するなり、男物だけど上着貸すなりできるから。」
 「「は~い。」」
 「ニャーウ。」
 「あ、タイガーが混ざって…。おはよータイガー。」
 「ニャー。」
 カズキにしっかり返事を返す。
 「お腹減った?オミさんがちゃんと準備してくれてたよ。」
 「…ナー。」
 「さっきまで爆睡してたくせに…。みんながこっちに来て、あの部屋から人の気配がなくなったから目が覚めたんだろー?」
 オミが茶化す。
 「ナーゥ。…ッ…ッ…。」
 前足でオミの足元をテシテシして抱っこをせがむタイガー。
 「分かったよ。でも、ご飯はいらないの?寝てたからお腹空いてない?」
 タイガーを抱え上げながら話しかける。
 タイガーは、甘えてべったり引っ付きながら、鼻をクンカクンカさせる。その様子を見ながら苦笑しつつ軽い愚痴(にもならない愚痴)をこぼす。
 「お腹は空いている、と。雨降ってダルいと甘えん坊に拍車が掛かるねぇ。」
 「ミー…ゥ、ナー…。」
 目で訴えるタイガー。
 「分かった分かった。連れて行ってあげるから。」
 ココのソコだけどね。

雨の日は静かで物憂げで… ④

 シンがキレた後は、流石に皆粛々と宿題に勤しむ。
 キョウコやマサトは言われずとも必要であれば行うため別格ではある。第一マサトは、シンと教え合い、教わり合いをするワケだし、キョウコは聞かれる側、教える側でもある。
 皆が真剣に黙々と宿題に励んでいるので、オミも邪魔をしてはいけないと、大人しくパパ・アンディーから送られた写真を元に製作された写真本を眺めている。
 外は雨。シトシトと降り続き、部屋の中は勉強中の為、外も中もゆったりと時間が過ぎていく。
 そんな中、またしてもカズキが…
 「も…無理。カズキはもう駄目です。脳みそが干からびます。どうせカズキはアホの子なんです。これ以上は気が狂います。」
 弱音を吐く。風船から空気が抜けていくように隣の誰も座っていない側へとへなへなと倒れこんでいく。
 「カズキはアホの子なんですー。お勉強出来ないんですー。身体動かしている方がマシなんですー。」
 うだうだと訴える。
 「でもお前、スポーツだって俺達より悪いんじゃね?」
 ヤスノリが情け容赦なく突っ込む。
 「短距離だとヤスノリに負けて、長距離だとシンちゃんに負けて、中距離だとリョウちゃんに負ける。」
 ミズキがあげつらう。
 「バスケやバレーじゃヒロちゃんの高さに太刀打ちできず、相手の弱点の突き方ではトシに及ばず…。マーちゃん並に肩が強くてコントロールが良いってワケでも無いし…。じゃぁ度胸があるのかと言えば…悲しいくらいの怖がりだし…。」
 事実を突きつけられすぎて瀕死の様相を見せるカズキ。
 「どうせカズキはみそっかすですー!なにやっても今三ぐらい及びませんー。しょうがないでしょ、敵わないんだからっ!」
 「当時の俺たちと比べて、だからなぁ、フォローの仕様がないよなぁ…。」
 流石にリョウが気の毒がる。
 「あ、でも、垂直飛びで一番高いのカズキだったよな。後、滞空時間長いのも。それと…体が柔らかいのも。」
 ヒロが必死で持ち上げる。
 「トシと同じで、記録に残り辛いのが得意なんだな。」
 シンもフォローに回る。
 「あ、水泳。伸びてきてるじゃん。昨日、チョロっと見てたけど、なかなか良いカンジに泳げてたぞ。」
 マサトもフォローする。
 「すぐにってワケには行かないだろうけど、後2年もあればリョウ達を追い越すんじゃないか?」
 「え?そんなにカズキ泳げてた?」
 追い越される危険に対し敏感に反応する4人。
 「おぉ、中々良いカンジだったぞ。うかうかしてるとマジで抜かされるぞ。」
 4人は、マサトの言葉に煽られる。
 「「そんな簡単に抜けると思うなよ?」」
 お兄ちゃん達の脅しに、フォローされたことで持ち直したカズキが、負けじと言い返す。
 「フフフフフフフ、2年。2年位って言ってた…。カズキ頑張るっ!」
 「?」
 カズキの妙な自信に合点がいかない4人、頭の上に『?』が揺れる。
 「だって1年経ったら、リョウちゃん達受験じゃんっ!ブランク1年って大きいよね。そしたらカズキの天下だ!ひゃっほーぃっ!」
 手放しで喜ぶカズキ。と、突きつけられた現実に打ち砕かれる4人。
 「うっは、マジかよー。」
 「やべえじゃん。」
 「カズキに抜かされるのぉ?」
 「勘弁してよぉ。」
 散々な言いっぷりをする。
 「随分ね。」
 「じゃぁ、アレか。今年のタイム測定は何が何でも気張らないと、来年は時間的に伸ばしようがないだろうから…。」
 「ぅーむ、これから休み明けのタイム測定に備えるのか…キッツイな…。」
 4人がそれぞれ考え込む中
 「はぁーはっはっはっは。カズキ頑張る!」
 仁王立ちで宣言するカズキ。
 に、冷静に声を掛けるシン。
 「そーかそーか、頑張るか。じゃ、ま、取り敢えずは中学生になろうな。カズキ?」
 「他でもない『お前』が、今年受験生だろうが。」
 現実を突きつけられる。
 「ぐはぁーーっ!」
 崩折れるカズキ。と、一連の会話から疑問を感じたオミが訊ねる。
 「受験?中学に進むのに?あれ?義務教育ってやつで、全員中学に行けるんじゃなかったっけ?なんで受験?」
 賑やかになったので様子を見にきたイツキが、何の話をしてるのと覗き込むと、イツキに気付いたオミが同意を求めて声をかける。
 「キーちゃん、中学って義務教育ってヤツで全員行けるんだったよね?以前そんな話ししてたよねぇ?」
 イツキがオミに頷いて肯定すると、キョウコがざっと説明する。
 「あー…ウチは私立なんですよ。なんで進学しようと思ったら受験しないと…。内部進学になるワケだけど、ウチってばユニークな校風してるから。油断してると上がれないんですよね。」
 「落ちたら、すぐそこの公立だぞ。いいのか?」
 マサトが冷ややかに追い討ちを掛ける。
 「い・やっ。あそこはイヤ。絶対に嫌っ!カズキはアホの子だけど、お馬鹿な学校はイヤぁっ!」
 「じゃぁ頑張れ。」
 「シクシクシクシク…。なんで、もうちょっと『程よい学校』が無いんだよぉぉっ。」
 『程よい学校』?って事は今の学校も別の意味で『程よくない学校』って事?訳の判らなくなったオミが、目でイツキに訊ねる。
 「お前、気付かなかったのか?この間『お宿』に泊まったときに、リョウ君が宿題やってたじゃないか。見なかったか?」
 「見てない。知らない。多分。」
 最後の部分に、記憶の心許無さを表すオミ。
 「確か宿題が多くてってラウンジでやってた…。」
 記憶を辿るツイキ。
 「あー…キーちゃんに聞いた。弟君が宿題やってたって、年齢にそぐわない中々に難しいヤツって。で?」
 きょとんとしながら訊ねる。全く理解できていないらしい。
 「察しなさいよ。年齢にそぐわない中々に難しい問題が宿題で出される学校って事でしょう。イコール難関校だよ、オマケに附属のある。」
 「附属…。って?」
 「同じ一連の学校で、少なくとも高等部・中等部・初等部があるんでしょ。」
 高等部 = キョウコ・シン・マサト
 中等部 = ヤスノリ・トシ・ヒロ・リョウ・ミヅキ
 初等部 = カズキ
 「なーるほどぉ。」
 「ウチ幼稚舎からあるよ。大学もある。」
 カズキがあっけらかんと口にする。
 「それはまた、気合の入った私立だねぇ。授業料とか凄そ…。」
 イツキが渋い顔をして見せると
 「学校システムの中には、特別特待・特待・優待・奨学って優遇システムがありましてー…。」
 「特別特待なら全てタダ!」
 「ビンボー人には有り難いシステムだよねぇ。」
 キョウコ・マサト・シンがリレーのように説明する。
 「つ・ま・り、君達は特別特待で通っている、と。」
 「「頑張ってまーす。」」
 「馬鹿学校は嫌だって我儘言ってるのは自分なんだから、授業料払わせちゃ駄目だろカズキ。私立なんだぞ、なんだかんだと金掛かるんだぞ。破産しちゃうぞ?」
 「アウウウウー…。も・少しお利口さんに生まれたかったよぉ…。」
 「何言ってんだか。やれば出来るって結果は出してるんだから、少なくとも『お馬鹿サン』じゃぁねぇだろ。」
 ホレやれとシンにハッパをかけられる。

雨の日は静かで物憂げで… ④

 「滝の裏からの景色も綺麗だったよー。」
 昨夜からの雨が相変わらず降り続く中、暇を持て余したカズキが報告とばかりに話し出す。
 「水音は凄かったけど。真ん中ら辺まで行くとそれまで一段高くて足場が有ったんだけど低くなっちゃって、滝壺と繋がってて細い川みたいになっててね、辿って奥の方見たら池みたいに広がっててね、その奥はグッと高くなってて…。水場だし日も差さないから涼しくてね…。」
 結局自分しか滝の裏側に入っていない為、興奮気味にキャッキャッと報告するカズキ。
 「コラー。宿題しろー。」
 に、水を差すシン。
 「こっちに来てから遊び呆けて、全然、丸っきり宿題してないんだから、今日位大人しく宿題しとけって。」
 マサトにも諭されるが、
 「カズキはもうこれ以上大人しくしてたら死んじゃいます。」
 聞く耳を持たないカズキ。
 もーやだー。死んじゃうー。宿題イヤー。勉強キライー。気が狂うぅー。
 騒いで訴え
 「と、言うわけなんで、タイガーと一緒に遊ぼうと思います。」
 冷静に宣言し、そそくさと席を離れる。
 「タイガー、タイガー。一緒に遊ぼ。何が良い?何して遊ぶ?」
 いそいそとタイガーの元へ向かうが
 「あー…タイガー無理だよ。雨の日はひたすら寝ちゃうから。朝も起きてこなかったでしょ?」
 オミの一言と、お昼寝ベッドから尻尾だけで返事をするタイガーの姿にへこたれるカズキ。
 「雨の日は、お腹空いた時と喉渇いた時とトイレ位しか動こうとしないんだよ。後は寝飽きた時にチョッピリ遊ぶ…かなぁ?」
 ガックリと落ち込む。
 「諦めて宿題しろー。」
 「お前、全然進んで無いじゃん。」
 「今のうちにやっといた方が良いぞー。」
 皆が追い討ちを掛けるように声を掛ける。
 「シンちゃんとマーちゃんとキョウコ姉が揃って居る時って中々ないぞ?」
 「進めるなら今のうちじゃんねぇ?」
 「お姉は大学進むって言ってるから、これから先時間取れないぞ?今だって一杯一杯の予定で動いてるんだし。」
 「訊くなら今よね。って事でリョウちゃん、宜しく。」
 「へ?俺?」
 「去年の。去年の。思い出して。一つ宜しく。」
 等々。
 そんな中、口々に言ってるセリフを偶然耳にしたイツキが、不思議そうに訊ねる。
 「へー、キョウコちゃん、大学に進むんだ?嫁には行かないの?」
 大災厄からこっち、多少平均寿命が延びたとは言え、結婚適齢期やら出産適齢期やらの考えは然程変わらずに続いており、世間では、女性なら16・7歳から22歳辺りを結婚適齢期と捉えている。
 大学の、それも4年制に進んでしまうと、ストレートで進んでもスキップをしない限り卒業時には22歳となる為、『適齢期』を逃す恐れがあり、大抵の女性は『嫁き遅れ』と表現されることに恐れ戦き、表向きどれ程強がっていようとも内心では避けようとして秘密裏の行動を取ったりもし、『嫁き遅れの年増』が女性同士での極悪の悪口としてまかり通っていたりもする。
 その様な世間の風潮の中、キョウコは正に適齢期に当たっているので、イツキはその『世間の当たり前』を前提に踏まえて訊ねたワケである。
 「私は別に…。どの道いつかは嫁に行かなきゃなら無いなら、それまでは好きにしたいんです。行きたくないって頑張ったって、いつかは行かざるを得ないんでしょうし、だったらそれまで好きにしたっていいじゃないっ!」
 キョウコの訴え。多分きっと、大多数の女性が言いたくても言えずに、堪えていたであろう一言。
 「はぁ、そりゃ、まぁ、その点は自由なワケだけど…。」
 イツキは言葉を濁しつつ、消極的に同意を示すが
 「『適齢期』を逃すと『大安売り』されちゃうよ?」
 オミがあっさりと現実を突きつける。
 「高く売れるのは22歳までだよー。今のところは。」
 「コラ!オミッ!」
 イツキが止めるが
 「大学行ってても嫁には行けるけど、日本の男性って自分より学のある女性を敬遠するからねー。大学に進んだ時点で安売りされる覚悟をしないとねー。」
 遠慮なくガッツリと現実を突きつける。
 オミに茶化し半分とはいえ『世間様』を突きつけられると
 「いっそ、嫁に行くのは諦めるとか…。」
 キョウコが後ろ向きの考えを口にする。
 「世の中には『行かず後家』って言葉が…。派生系として『行けず後家』とか。」
 オミが追い討ちを掛ける。
 「国際結婚って手もあるわよね。」
 「まともな社会を構成している国って、日本の他には結構限られてて…。大抵の『まともな国』はすんごく小さい。から、例えるなら『村意識』とかに結構縛られています。日本の現在より、縛りが厳しいよー。そんなとこに嫁に行きたいか?」
 「遠慮しますー。」
 「大学行ってどうするの?」
 結婚だの嫁だの話しから離れようと、イツキが横から口を挟む。
 「どうもしません。『大学生』ってヤツになりたいだけです。で、『会社勤め』をしてみたいってだけで…。それと嫁だの結婚だのに、なぁんの魅力も感じていないだけです。どちらかというと『大学生』とか『会社勤め』とかに、より強く興味を感じているんです。」
 キョウコの本音。
 「あー…、『大安売り』される女性の大半が似たような事を考えていたみたいよ?」
 を叩き折るオミ。尤もオミには面白がっている面もあるが。
 「オミー、お前ねぇ。」
 イツキがやんわり咎めるが
 「だって、現実をどこまで見据えての考えなのかって重要じゃん。」
 至極ご尤も。
 「雇う企業側だって、すぐに結婚退職されるって考えているから採用しようってしないし。採用する企業も同様で、すぐに退職されるからまともに社員教育なんてしないし。女性社員を募集するっていうより、男性社員の嫁候補を募集してる面が強いし。現状、女性の『会社勤め』ってそんなのばっかりじゃん。全部が全部じゃぁ無いけどさ。」
 次々指摘される社会の現状。
 「お姉ぇ。入った会社で嫁入り先探すとか?旦那の会社の実情とかが分かるから、ある意味いいかもよ?」
 「それだって、お奨め社員を勧めてもらえるのは22歳くらいまでです。その後はどんどん質が下がります。」
 ヒロの提案を一蹴するオミ。
 「大学出ちゃったら、あとが無いじゃん。崖っぷちじゃん。」
 カズキが混ざり、遠慮ない一言を口にする。
 「判った。判りました。私は数少ないであろう、女性社員を社員の一員としてキチンと迎え入れる企業への就職を目標とし、大学へ進学しようと思います。という事で、受験勉強頑張りますっ!」
 開き直るキョウコ。
 「嫁入りは諦めるらしいぞ、ヒロ。」
 「って事は、嫁に行っていない小姑になると…。」
 「ヒロちゃんの嫁が、小姑に嫁いびりされないように頑張んないとな。」
 完璧に他人事として茶化す、マサト、トシ、ヤスノリ。
 「そんな事しませんっ!」
 「お姉ちゃんが嫁に行かなかったら、カズキも同じ事を心配しないとならないの?」
 ヒロと同様『姉』のいる身としては少なからず気に掛かるようで…。
 「嫁と小姑の家庭内バトルを仲裁する役?カズキがするの?」
 「小姑だけでは無いだろー。まず第一に姑って存在が…。」
 「お母さんが嫁いびり?するかな?しちゃうのかな?えー…?」
 「君達全員、嫁姑戦争を警戒しないとならないねぇ。」
 オミが面白がって言うと
 「あ、俺平気。次男だしー。安全圏~~。」
 「「えー、リョウちゃんずるーい。」」
 リョウが安心安全宣言をすると沸き起こるブーイング。
 「って、カズキ!あんた、アタシが嫁いびりするって決め付けないでよね。大体、お母さんだってするとは決まってないんだから。」
 「は~い、ごめんなさ~い。って言うか、嫁入り先あったらコウコのウレイを無くす為にも遠慮せずにサクッと嫁行ってねー。」
 「生意気じゃんっ!」
 引っ叩かれるカズキ。
 「ヒロ?あんたまさか…?」
 ん?と拳骨を見せながら確認するキョウコ。
 「いやいや、まさか…。」
 アハハーっと引き攣った笑いで返すヒロ。
 彼等のそんな様子を目にしつつイツキがあっけに取られながら口にする。
 「進路一つでこの騒ぎ。」
 いい加減見かねたシンが、流石に切れる。
 「いーから、お前ぇ等宿題しろっ!教えねぇぞっ!!」

雨の日は静かで物憂げで… ③

 一同から総突っ込みを受けた翌朝。キッチンで朝食の支度に勤しむイツキと、珍しくも早起きをしたオミが話に花を咲かせている。
 「滝の裏か…。成程、見てみたい物かもねぇ。大抵は危ないからって止められるだろうしな。」
 「安全に回り込めるように、壁を少し削ったほうがいいと思う?」
 「んー…どうだろうな。危険って分かってて、無茶したいってのもあるだろ?一種の『冒険』みたいに。」
 「あぁ、そうね、あるだろうねぇ…。でも、それで遠慮させちゃうのもどうかなぁって思うんだよね。」
 「遠慮ねぇ、するね、彼等。世話を掛けない方向で。希望を口にしつつ無理は言わないみたいな形で。」
 「だからぁ…。」
 「でもな、こっちがなんでもかんでも揃えたり、整えたりしてもね、彼らはそのことに対して遠慮しちゃうと思うぞ?」
 「?嬉しくない?」
 「嬉しいとか嬉しくないとかじゃなくて、気を使わせちゃったとか心苦しいとかだよ。」
 「…そんなの…いいのに…。」
 考え込むオミ。
 「どこまで厚意に甘えて良いのか?って話しになるだろ。甘えすぎは図々しいと紙一重になるんだぞ?」
 「ぅー…そうだけどぉ…。」
 「程々がね、いいんだよ。彼らは特に自分たちの希望は口にするんだし。今はまだトコトン親しいってワケでも無いんだしね。」
 「そんなの分かってるし…。でも、遠慮されるのってどうよ?って思うんだしっ。」
 不貞腐れたように口にするオミ。
 「お前がソレを言うとねぇ…。彼等から10倍位になって返って来ると思うぞ?『オミさんの方が遠慮してる。気を使ってる。』ってな。」
 イツキが愉しそうにクスクス笑いながら糺す。
 「オミ、そんな事ない。」
 オミがプイッとそっぽを向いて言い募ると
 「ウソ吐かない。」
 あっさり否定される。
 「ウソ吐いてないし。」
 「確かにね、今までのお前を知っていれば、『気を使っては、いない』わな。でも彼らは、『今までのオミ』を知らないんだから…。」
 違いなんて分かるわけないだろ?
 とイツキは続ける。
 「オミは…なるべく素で応じるようにしてるし…。」
 「ま・あ・な。」
 否定はしないイツキ。
 「なんだよー。ヤな言い方するじゃん。」
 「素を見せてはいないだろーが。」
 「見せてるし。だから『お手伝い』しないんだし!」
 「うん、お前は『手伝わないのが手伝い』だからな。」
 「ふーんだ。邪魔ってキーちゃんが言うからでしょ。」
 プイっと横を向くオミ。
 「で、聞きたいんだが。お前あの大嘘いつ白状するつもりだ?」
 「?どの大嘘?」
 「新素材がどーの。」
 「あっ!」
 「シーツなら商品化されてるけど衣類にはなってねーぞ?大体アレは改良の余地が大有りなんだし。タイガーのはお前が無理言って作らせただけだし。」
 「タイミング外しちゃったもんだから…。普通にシーツの話題に流れちゃったし。昨日着てみて気付かなかったかな?」
 「カズキ君は、何かが気になるって表情をしていたけどねぇ…。」
 等々、ぐだぐだ話をしていると突然他者の声が割って入る。
 「話は聞かせてもらったぁっ!」
 カズキが堂々胸を張って立ちはだかる。
 「お。おはよー。相変わらず早いねぇ。」
 全く気にしないイツキ。いつもと同様に挨拶をする。
 「お早うございまーす。って、そうじゃなくて。聞かれて困ったりしようよ!」
 「俺は困らねぇし?困るのはオミじゃね?」
 助け舟を出さないどころか暴風雨の真っ只中に突き落とすかのようなイツキ。面白がっているのがありありと分かる。
 「えーとえーとえーと……お…おはよ?」
 とんでもなくわざとらしい笑顔で挨拶をするオミ。
 「ハイ、おはようございます。って、違うでしょ。騙してゴメンナサイでしょう?」
 そんな嘘くさい行為には騙されませんよと凄むカズキ。
 「おかしいと思ったんだよっ!涼しいって勘違いさせる新素材って言ってたのに、涼しい時に貸すなんて変だもん。借りたやつは新素材製じゃぁないのかなって思ったり、新素材製はお高いから貸してくれなかったのかな?とか。でもシルクって言ってるし、充分お高いブツだし。じゃぁ新素材製ってなんなのよ?って。オミさんっ!」
 「すみませんでした。」
 カズキの勢いに押され、あっさり謝罪を口にするオミ。
 「え?あれ?そんな簡単に認めちゃうの?」
 オミが余りにもあっさりと謝罪を口にしたため、肩透かしを食らったような形になるカズキ。
 「だって、『冗談』だったし。冗談だって言うタイミングを掴めなかったし。話の流れとか周りの雰囲気とか…。」
 オミがぐだぐだと言い訳を口にする。
 「あんな堂々と自慢げに言われたら信じるでしょう?オミさん達なら買えそうだし。」
 「いかにも本当らしく言ってから『実は~』って言いたかったの。タイミング外しただけなのっ!」
 「じゃ、新素材はどこまで本当なの?」
 未だ疑いそのものは持ち続けていると、座った目で表すカズキ。
 「えーと、シーツ?ショールと帽子に加工するって話しが出てたと思う。ね?キーちゃん。」
 「あー…帽子って話しは出てたな。誰かが言ってたと思うけど勘違いさせるだけだから、危険っちゃぁ危険なんだよな。油断しちゃうから。」
 「じゃ、タイガーは日焼け予防の為に暑い思いさせられてたの?」
 まだ疑いは残っていますと目に表すカズキ。
 「タイガーのは…無理言って作って貰ったの。表面をチョット濡らしておくと涼しいって勘違いできるから。」
 「濡らしておかないとダメなの?」
 「人間は汗かくからそれで反応するの。ネコは汗かかないから、ちょっぴり湿らせるといいの。」
 「?」
 「汗とかの水分に反応して『冷たい』って錯覚を起こさせるんだよ。」
 「湿らせたシャツ着れば良くない?」
 「起きている間は良いけど寝ているときにそれだと、気持ち悪くないか?それにシーツそのものは『湿っている』ワケじゃぁないんだしな。」
 「フム。成程ね。タイガーも、湿った猫服だと砂がベッチャリ付いちゃうし、着ていなかったら暑くてぐったりしちゃうし、砂が付いたときに塩っ気のある砂舐めちゃうしで、マズイと。」
 カズキの挙げた『なりそうな事』にいちいち頷き、同意を示すオミ。
 「じゃぁなんで昨日は着せなかったの?塩や砂の心配が少なかったから?」
 「見せた途端に全力で引っ掻かれ威嚇されたから、オミが挫けたんです。それに、朝早かったから日中は寝ちゃうかな?って思ったんだけど…。」
 「シンちゃんと全力で遊んでたねー。泳いじゃってたって言うしねー。」
 カズキがオミの避けた事実を突きつけ
 「でも、シンちゃん、アレまだ本気じゃぁ無いんだよ。遠慮も理性もなくしたら、あんなもんじゃ済まないの。」
 『ちっちゃいの』が大好きなもんだから遊ばせるの上手いんだよねー。と追い討ちを掛ける。
 オミが全力で落ち込んだのを確認すると、お返し終了とばかりに表情も声の様子もガラリと戻すが、話題は違和感の無い程度に変えるに留める。
 「引っかかれたところってどこ?どんな風に?すぐに超能力で治しちゃった?」

雨の日は静かで物憂げで… ②

 「見てみてー。どお?似合う~?」
 歩き方のコツを掴んだカズキが、お披露目とばかりに皆の集っている居間へ姿を表す。
 「似合うかと聞かれても…、こっちがお前のそうゆう格好を見慣れてないからなんとも言えない。」
 「随分な!そうゆう時はお世辞でも『似合うよ』って言うもんでしょっ!」
 トシの冷静なコメントにカズキが噛み付く。
 「お前が女の子なら気を使って言っとくけど、男だし?」
 「気を使っても無駄にしかならないからなぁー。」
 トシとヒロの言い分も分かるだけに、不満げに頬を膨らませても文句は口にせず
 「いいも~~ん。女子に聞くもぉ~ん。」
 と開き直りながら且つ、期待に満ち満ちた様子を隠そうともせずにキョウコとミヅキの近くへ向かい、その様子のまま訊ねる。
 「ねね。似合う?(ホメテホメテー、オセジデモホメテー)」
 「「びみょー。」」
 取り付く島もない返事に、流石のカズキの根性も挫け
 「ひどぉーーーーいっ!酷いよぉ。あんまりでしょー、お世辞でもいいのにー。」
 傷心をマサトに訴えるが
 「それより、イツキさん。カズキやミズキが着てるのってシルク?模様は染めたの?それとも生地の織り方を変えてあるの?」
 華麗にスルーされる。
 「うん…まぁそう…。」
 「中に着てるのも?ズボンもシルク?」
 「うん…。」
 「「「すげーえーーっ。」」」
 完璧無視。
 いいのかな?放っておいて。
 そう思っても、あまりの盛り上がりに口に出せず…。
 「カズキ、カズキ。ちょっと見せな。」
 トシが呼びつける。
 「ちょっと触らせろ。」
 「着心地どうよ?」
 「しんなり滑らか。」
 真顔で答えるカズキ。
 「裾をちょっと触っただけでも違うもんなぁ。柔らか~い気持ちいー。」
 「って事は…お高いんじゃ…?」
 キョウコが、汚したら弁償できる値段なの?と心配げに訊ねると
 「ぅぅ~…ん…まぁ、それなりに?」
 イツキが、心理的な負担を掛けるだろうが、だからと言って嘘を吐くのも憚られると渋りがちに答えると、途端に行儀が良くなる一同。
 「カズキ、お前気を付けろよ。ミズキも。」
 「汚すなよ。」
 「クリーニング代が高くつくぞ。」
 「落ちなきゃ弁償しなきゃ、だからな。」
 散々脅かされまくってビビるカズキ。
 「う…う‥うん…。」
 ビビリながらも、なにやら腑に落ちない表情をしつつ借り物衣装に目をやるが、周りは全く意に介さず話題が流れていく。
 「経済力の違いが、こんな形で現れるなんて…。」
 カズキが一応の立ち直りを見せたことで安心したイツキは
 「オミのは冗談抜きで高いよー。」
 無理矢理オミを混ぜいれる。
 「キーちゃん!」
 「冗談抜きでって…?」
 「あー…レースとか…?」
 オミの抗議の声が、トシとヤスノリによってあっという間に掻き消される。
 「このレースの部分もシルクな…の…?ってシルクじゃん!」
 リョウが言いながらオミの裾へと手を伸ばし、驚いた声を出す。
 「シルクでレース編み?このサイズで?すげー。」
 ヤスノリが目を丸くして、オミの肩口から足首へと舐めるように見る。
 「模様も細かーいって、まさか手編み?その上二重?」
 ヒロが驚きながらまじまじっと見る。
 「タティングレース編みとか言うヤツらしいよ。詳しくは知らないけど。」
 イツキが聞きかじり情報を流す。
 「え゛っ!タティングでっ!?マジで?その大物を?」
 キョウコとミヅキが反応する。
 「…だよなぁ?オミ?」
 オミに確認を取るイツキ。
 「う…うん。?どうしたの?」
 訳のわからないオミをこれまたほったらかして
 「あんな面倒臭いタティングで…その大物を仕上げるなんて…。職人ってすごーい。恐ろしい根性。」
 褒めてるのか貶してるのか…。
 「?タティングってそんな大変なの?」
 全く分かっていないオミは真顔でイツキに尋ねる。
 「さぁ?俺には、手編みのレースで飾られているってだけで大事だが?」
 「知らないってすごーい。」
 全く分かっていないオミとイツキに、女子二人から、からかいとも取れるツッコミが入る。
 「えー…っと、なんか凄さを分かってないとマズイようなんで…あったらレース編みアレコレの本でもお貸し頂けますか?」
 微妙な空気を察したシンから妥協案が提示される。

 「えー…まず、レース編みには道具によって幾つかの種類に分けられるようで…、一般的なのが鉤針編みなのかな…。」
 即席お勉強会状態の男子。共通認識は『女子を敵に回すな!』らしく、イツキやオミまでをも巻き込んで、レース編みのアレコレ本をひっくり返して、せめて知識だけでもと調べていく。
 「大まかに分けると鉤針編み、棒針編み、ボビン、タティングとあって…、オミさんのはこのタティングレースってヤツだと。違いは鈎針や棒針編みは毛糸を編むのに似ていて…ボビンレースは編むって言うより織るって表現すべきモノで、タティングは結ぶって表現すべきモノらしい…。」
 「『織る』?『結ぶ』?どうゆう事?」
 カズキが、腑に落ちない点は一旦脇へおきながら、不思議そうな顔をする。
 「どうって言われてもねぇ…『織物』と表現すべき編み方らしいんだが…?『ボビン』と言われる糸巻きに糸を巻いて、糸を交差させつつ交差させたところをピンで押さえ、平織り、綾織り、重ね綾織りのように編んでいくらしい。」
 とマサトが上っ面を説明する。
 「で、タティングの『結ぶ』だが…。主に『シャトル』と言う小さな糸巻きに巻いた糸を使って、結び目を作り連ねていくレース編みだそうだ。『ニードル』と呼ばれる『針』を使用する方法もある。どちらも糸の結び目を連ねてモチーフを作ったり、繋げて模様にするらしい。って、なぁこの図って作り方?結び目の作り方っぽいんだけど…すんごく小さいぞ。これで『一個』だが『一目』らしいんだが…。」
 古くて傷みの見える本の、編み方の図解を指し示しつつマサトが溜息混じりに訴える。
 「え゛?これで一目?これを繰り返してアレを作るの?」
 覗き込んだヤスノリがあっけに取られる。
 「……結ぶってさぁ…縫い物をする時に糸留め?で結び目作るじゃん?玉結びとか…。アレのもっと細かいのを繰り返すって事?」
 トシが、以前学校の被服の授業で習ったことを、必死に思い出しつつ例えながら訊ねる。
 「もっと細かそうだぞ…。」
 その場に居た全員、特に男子が、うひぃーと嫌そうな表情を見せる。
 「だ・か・ら。ソレを、細目の絹糸製のレース糸であんなに編むんだから、どれ程手間ヒマ掛けたの?一体お幾らするの?ってなるでしょう?」
 キョウコの追求を、男子連中は顔を引きつらせながら頷く事でしか応えられずにいるが、当のオミとイツキはというと
 「へぇー…、成程ねぇ。手間掛かってるんだねぇ…。」
 感動が薄いイツキ。
 「でも、コレ、お弟子さんの作らしいよ?」
 微妙に論点のずれるオミ。
 「「「そうじゃないっ!」」」

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