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最上部にて…

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雨が上がったそのあとは… ③

 「あ、この花知ってる。サルスベリでしょ。派手だよねー。」
 果樹を見に出かけたはずが、果樹の木そっちのけで傍らに咲いている木等に興味を示す。
 「あっちの小さい釣鐘?ラッパみたいな形の花ってなんて言うの?ピンクのヤツー。」
 元気なカズキの質問に
 「アベリア?かな。この時期だと。」
 「じゃぁ、この細い葉っぱの威勢の良いヤツは…?」
 「キョウチクトウじゃぁなかったかな?」
 「それじゃ…あそこのあっちこっちに絡まってて、細いラッパみたいな花が固まって咲いてるのって?」
 「ツキヌキニンドウだったかと。」
 「へぇ…。すごい元気良いよねー。あっちもこっちもやたら元気。」
 「カズキ君がそれを言うの?」
 「へ?」
 自分の元気のよさを無自覚に棚上げしているカズキ。
 「ところで…、長袖長ズボンに耐えられてる?しんどいんじゃない?」
 「実はシンドイです…。」
 応えるマサトの顔が赤らんでいる。
 「やっぱり。取り敢えず一旦木陰に避難しようか。エンジュの木陰は涼しいから。」
 「エンジュって横に枝を張る木でしたっけ?」
 マサトの問いに
 「根っ子の方から枝分かれしたのを放っておいてたらスゴイ事に…。湿り気のある場所が好きらしいし、葉っぱも結構付いてるから涼しいよ。」
 安心させるように説明する。
 「ふつーそう言う所って虫すごいよね…?」
 カズキが嫌そうな表情で言うと、にっこり笑って
 「うん、まぁ花の咲く季節だし、それなりに。でも、実を付ける時期に比べたら可愛いよ。それにオミも虫苦手だから。今回、虫にはどいて貰う。」
 堂々の主張。
 「大体山側だろうが、海側だろうが、虫は大量に居るんだよ、いつの間にか勝手に増えてっ。オミやキーちゃんが虫嫌いだから、離れたところに移動させてるから見掛けないだけで。逆を言えば、オミやキーちゃんの居るところなら虫はいないって事で。尤も、石とか退かすと居たりするけど。」
 それは大助かりと、全身から嬉しさを溢れさせるカズキ。
 「じゃ、一旦避難するってことで。集まってね。」
 オミが声をかけると、素直にワラワラと集まってくる。
 全員が集まったところで、宙に浮き移動を開始する。
 「ほへー…、風が気持ち良いー。」
 カズキが呟くと
 「あぁ、そういえばあそこ、風が余り吹かなかったね。あの一体だけ平らで周りが囲まれちゃってたからかな?」
 オミが地形を思い浮かべつつ応える。
 「囲まれてるって…結構距離あったじゃん。一ヶ所は崖みたいに削れてて、ひらけてたんでしょ?沼地は周り全部が囲まれてたみたいだけど…。」
 「ひらけてるけど…木が結構生えてるから。背の高いのも低いのも。」
 風除けになってるみたいだとオミが言うと
 「あ、背が低いので思い出した。ちょっと離れた所にあったんだけど、細い枝がピョンピョンって垂れながら出てて、赤味の強い小さめの花が大量に咲いてるヤツってナニ?なんかモッサリ生えてて凄いやつ。」
 「萩…かな。ほったらかしだから、どれもこれもモッサリになってる様な…?」
 「あんまり背が高くなかったけど…低いってワケでもなさそうな高さ。で、上からどわーってみっしり垂れてた。」
 「萩っぽいね。」
 好奇心まみれのカズキの表現に微笑みながら答える。
 「萩かぁ…。アレは可愛いよね。アベリアって言うのも可愛かった。ツキヌキなんとかは迫力あるね。色が濃いからかな?」
 「あぁ、濃い赤が多かったから、他の色もあるんだけどね。」
 説明しながらもゆっくりと移動している。動きがあるから、僅かとは言え高い位置に居るからか風が火照った頬をなでる。カズキ以外の同行者は、風を受けながら涼みつつ流れる景色を目に映す。
 「あれ?ねね。あそこの青いのなんていうの?へばり付いて垂れ下がってるヤツ。すんごい涼しげな色してるー。」
 じっとしていられないカズキが、またもや訊ねる。
 「あぁ、ルリマツリだね。蔓性の花が頑張ってるよね。」
 「ルリマツリ?可愛い名前だねぇ。って、あっちのホワホワってなってるのなに?」
 「ネムノキかな。あれはあれで綺麗で好きなんだよね。あの木って横に枝を広げるから木陰で休憩って思ったりもするんだけど…隙間が多いのがね。」
 「あー…成程、確かに隙間が…。あれ?あの…ピョンピョン枝が出てて、紫色のってナニ?なんか先の方にみっちり花が付いてるヤツ。」
 「ブッドレアかな…。」
 「あれも元気だねー。」
 一番元気なのはカズキなワケですが、本人全く自覚なし。

 以後も、カズキのアレ何?コレって何?状態が続き…エンジュの木陰に着いた頃には、聞いていただけの同行者の方が疲れていたり…。
 「お前はもうちょっと落ち着きなさいよ。」
 マサトが一息吐きつつ注意する。
 「だって、なんかいっぱい咲いてるから…。」
 アウアウ状態で言い訳をするカズキ。
 「ここは、火事の時にどうとか気にしないで良いからね。幾らでも好きなように、植えたいものを植えられる。」
 オミが他の地域との違いを説明しつつタイガーに水を飲ませ、皆にはイツキに持たされたドリンクを配る。
 「驚いたのはヒロ君の所とリョウ君の所かな。結構敷地いっぱいに植えてるでしょ。他の家は建物の脇にこじんまりと植えてるだけなのに。」
 「あぁ、ウチは防音を兼ねてます。酔っ払いは声がデカイですからね。それに夜中過ぎまで起きてますから。少なくとも夜中に放火はされ難い。」
 「ウチの場合は夜中でも起きてるヒトがいますから。誰かしら必ず起きてるんで。それに生木って意外と燃えにくいんでしょ?枯葉や枯れ枝は危険ですが。」
 「それに…常緑樹にしなさいって指導を受けたけど、抜けとは言われなかったって聞いてます。常緑樹なら冬でも枯れないから。ついでに言えば、朝はウチが店を閉めた3・4時間後には近所の爺サマ姥サマが起き出していますし、店を閉めたからって直ぐに寝るワケでも無い。おまけに日中は、近所のチビッ子がウチの庭を何故か遊び場にしてるんで当然親が付いてますから、人目の途絶えることが無い。」
 ヒロの自宅はBarを経営しているし、リョウの自宅はペンションを経営しているので、他の店とは営業時間帯に違いがある故の特殊性であろうか。
 「あははは。ウチなんか24時間誰かしら何かしらしてるから、ウチの庭で迂闊な事なんか出来ないですよ。夜は夜で従業員が風呂使ってたり、その後サクッと風呂掃除始めてたりするし、朝は朝で朝食の仕込が早くからあるし洗濯屋さんも来るから、宿直当番しか起きていないって状態はせいぜい2・3時間程度なんですよね…。だから、ウチもまぁ放火はされ難い。」
 「放火ぐらいしか気にしないの?」
 二人が二人とも放火に言及したので思わず尋ねるオミ。
 「だって、後は気にしても変わらないしー。」
 二人の返事に、オミは変わらないのか?と首を傾げる。
 「貰い火とかなら、まず騒ぎが起きるでしょう?近所なら直ぐに気付けます。怖いのは放火ですよね。隣近所でお互い気を付けていても、頭おかしいヤツに火を点けられたらどうしようもない。」
 オミの表情を見てマサトが説明すると
 「寝る前に、生垣に水撒く家とかあるもんな。」
 「ウチ撒いてるよ、店先に。夜寝る前に撒くのが父さんの一日の最後の仕事。」
 ヤスノリが補足し、トシが自分の家の対応を話す。
 「店先って危険だよなー。って、どっかでヤられたよな。店先に放火。」
 記憶を刺激されたらしくリョウが口にすると
 「あー、公立の小学校前の文房具屋さんがヤられてた。一昨年だったかな、冬に。店舗部分全焼2階が一部焼け落ちて、住んでる人は全員避難できたけど火傷したとか…。悲惨なのは売上金。一部を店の方に置いてたもんだから、一緒に焼けちゃったとかで…パァになったって…。」
 ミヅキが、ソコは流石(?)に噂に敏感な女子らしく、知っている事を話し始める。
 「犯人はすぐに捕まったらしいけど、いい迷惑よねぇー。」
 「ウチなんか、そんな事が起きたら途端に路頭に迷うわ。だから、水撒いてるんだろうけどな。」
 トシが愚痴を零す。
 「あははー、ウチだって同じだわ。扱ってる商品多いし、燃えやすい物も多いから、燃えちゃったらどうしようもない。水撒きは毎日じゃぁないけど、それなりに頻繁にやってるわ。」
 ミヅキがウチもウチもと訴える。
 「まー、あれだ。焼けても平気な、裕福な家なんて無いだろうから…その時はお互いバイトで雇い合うって事で。家族で働けば金も貯まるでしょ。」
 マサトが深刻な雰囲気にならない様に、その話しは止め止めとばかりにさらっと締める。
 
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雨が上がったそのあとは… ②

 「何をどの様にって話しはしてないし、聞かれてもいないから、ソコは安心してね。」
 その様に付け足し、キッチンへ消えていくイツキを見送り、ふと視線を戻すと
 「私もソコを追及する気は無いから安心しなさい。」
 にっこり笑ってオベンキョするわと、キョウコが手をヒラヒラさせ、あっちへ行って勝手にやってろと示す。

 「移動速度、速めても良いかな?」
 立ち並ぶ樹木の上。空中散歩を楽しんでいる果樹縁組に声をかけるオミ。
 「構いませんが…どれ位…?」
 トシが答える。
 「んー…、コレぐらい?」
 オミの返事が聞こえた直後、一瞬だが軽く身体に負荷が掛かる。
 足下を見ると、急流を水が流れるように木々が後ろへと去っていく。
 驚いて横を見ると、離れた位置に立っている背の高い木々が、こちらもぐんぐんと後ろへと飛び去っていく。
 「は…はやい。早すぎます。オミさんっ。早すぎ早すぎっ!」
 カズキが驚いて、半ば叫ぶように声をかける。
 「そぅ?」
 自分は全く同意しかねると返事の端々から溢れ出ている。タイガーが相変わらずのんびりとオミの肩に乗っているのも相まって信じられずに居る。が、喜んで興奮状態だったはずのカズキはオミの腰の辺りに掴まっているし、リョウ達4人はお互いにしがみ付き合いミヅキはマサトの陰で、どうやらマサトのシャツにしがみ付いている様子が伺われる。
 オミ自身は全く同意しかねるが、カズキの意見に同意者が多数居るらしい様子を目にし、ユルユルと速度を落とす。
 「…っ。あーびっくりした。」
 誰が言うでもなく呟く声が聞こえる。カズキのしがみ付く力も弱まる。と、トシの焦った声が耳に入る。
 「ミーッ。ミヅキッ!死んじゃう死んじゃうっ。マーちゃんが死んじゃうから…っ。手を離せ!」
 どうやらミヅキは驚きすぎてマサトのシャツに全力でしがみ付いていたらしく、しがみ付かれたマサトのシャツが後ろへと引っ張られ、首絞め同然の状態になってしまったらしい。
 「え?エ?え?」
 自身が声をかけられた当事者だと理解はしたが、どこにどれ程力を入れて居るのか全く自覚の無いミヅキは、直ぐには反応できず困惑していたが、直に言われている事と自らの行っていること、それによる影響に考えが至り、大慌てで手を離す。
 「ごめんっ、マーちゃん!気付かなくてっ!」
 「だ…だいじょぶ…。」
 自由になったマサトは大きく息をつき
 「取り敢えず、生きてるから。」
 安心させるように笑って声をかける。
 一連の騒ぎを目にしたオミは、態度を改め口を開く。
 「大変失礼致しました。たとえ水平移動でも、尚且つ落としたりぶつけたりしなくても命の危険があると理解いたしました。これから先はゆっくりと、安心安全を最優先して移動します。尊い犠牲が現れなくてなによりです。」
 
 良く手入れされた芝が、そよと吹く風に軽く揺れる。
 大きく張り出された枝の葉が互いに擦れ合う。
 白く霞むほどに差す日と、木々や枝葉の濃い影が対比する。
 時折揺れる草花やテーブルに広げられた本の端。
 伝い流れるグラスの表面の滴。
 グラス内の氷が溶けて軽い音を立てる。
 全ての窓を大きく開け放した部屋。
 僅かに揺れるカーテン。
 テーブルの上に乱雑に置かれた小物。
 並べて置かれている幾つかの貝殻が、差し込む日を受け艶やかな様子を見せる。

 「なんかさー、木ばっかりなのかと思ったら、結構色々花も咲いてるよね。」
 「適当に撒いても、環境が合えば勝手に咲くんだよねー。」
 カズキがキョロキョロしながら口にすると、オミは感動が薄らぐ様な事を平気で口にする。
 「オミさん…。」
 「最初の内は色々考えながら種撒いたり、若木を植え替えたりとかもしたんだけど…その内面倒臭くなっちゃって…。」
 あーもぉ勝手に育てば良いでしょーって、ポイーってしちゃって…エヘヘ。結構育つもんだよね。
 カズキの、微かに失望の混じった視線を受け、笑って誤魔化しながら言い訳をする。
 「若木もポイーってしちゃってたの?」
 「したねぇ。植木鉢とか…植木鉢代わりの物とか使ってある程度まで育てて、で、1年か2年位育てたら適当にポイーって。鉢に植えていた時の土ごと。」
 あっけらかんと話すオミの様子に、軽く眉を寄せ考え込むカズキ。
 (そんなんで、木って育つのか?って言うか、育っちゃって良いのか?)
 でも、根付いてるんだよなー。増えてるみたいだし…。カズキは、認めたくなくても現実が目の前にある為、軽く溜め息を漏らす。
 「それって、果物の木でもなさったんですか?」
 マサトもやはり不思議なようで、横から口を挟むように訊ねる。
 「んー…と、果物の時はねぇ…。」
 当時を思い出しながら答えるオミ。
 「最初は鉢で育てて…で、植えるエリアを決めて、ある程度育ったら決めたエリアにポンポンポンって…。似たような環境で育つやつを混ぜて植えたねぇ。自家受粉しないのもあるから、数種類の品種?を混ぜたりね。あ、植えた後、横に枝を広げさせたかったから、間隔あけて植え直ししたな。」
 「フム。果物の方は少し丁寧にした、と。」
 オミの説明にフムフムと納得の表情を見せるカズキ、をゲンコツで軽く小突くマサト。
 「偉そうにしない。」
 イテ…ッ。

雨が上がったそのあとは… ①

 草木も眠る丑三つ時 ――
 より少し早い時間。各部屋の明かりもとうに落ちて、共用部分を照らす灯りだけが照度を落として点けられている。
 そんな薄暗い廊下に人影が一つ。
 辺りの様子を伺い、気配を殺して奥まった部屋へと向かう。
 音を立てぬよう、細心の注意を払いドアを開け、素早く中へと入り込む。
 後ろ手でゆっくりとドアを閉め、小さく息を漏らし明かりを付ける。
 「うーん…思わず寝ちゃったから、少ししか作業できないな。」
 ま、仕方ないか。取り敢えず裏側だけやっちゃえ。乾かすのに時間掛かるんだし…。
 と、独り言つ。

 「わりー、起きれなかった…。」
 シンが寝惚け顔で顔を出す。
 「あ、おはよー。朝御飯これからだよぉ。ギリで間に合ったね。」
 カズキが元気に応える。
 「ナニして起きれなかったかなー?」
 キョウコがふざけて突っ込む。
 「なにもしてねーよ(してたけど)。」
 「微動だにしないから、声かけてやったってのに…。今頃起き出しやがって。」
 マサトが笑いながら悪態を吐く。
 「悪かったって。片付けは俺がするよぉ。」
 「別に良いんだけどね。起きれないなら起きれないで寝てても。体調崩すくらいなら、寝坊してくれた方がマシってもんだ。」
 シンがブーたれつつもペナルティを背負うと口にすると、イツキが笑いながら、取り成すように声をかける。
 「で、今日はどうする?昨日の雨の影響で、川は泥水だろうし海も多分濁ってると思うけど…。」
 オミが尋ねると
 「果樹園の方に行ってみたい。」
 カズキが間髪居れずに答える。
 「へ?」
 「畑のカオスっぷりは見たから、果樹園のカオスっぷりを見てみたい。」
 「なんでカオスって決め付けるかな?」
 「オミさんのことだから、テキトーに植えたかなって思って。」
 カズキのちょっとばかり失礼な物言いを、軽く拳固で諌めるマサト。
 「こーら、失礼な言い方しない。」
 オミはと言うと、図星を指されたために絶句しているだけではあるが。
 「果樹園って植え方してたっけか?」
 イツキが軽口を叩くように口にすると
 「ぅんにゃ。それこそ適当に…。日当たり良さそうな所に点々と。自家受粉しないのも結構あるから、まぜこぜに植えてる…。大体生産農家じゃぁ無いんだし、実がなれば良いね程度なんだから、揃えなくたって良いでしょ?」
 「実がなれば良いね程度で…あのアメリカンチェリーの量になるの?なんかスゲー。」
 「 ―― っ。」
 綺麗に忘れていたことを指摘され絶句するオミ。
 「っはははははは…。だから、果樹園か。そりゃ見たくなるわ。」
 しっかり食べながらの会話です。

 「じゃ、連絡入れたら帰って来いよ。」
 「はーい。シン君キョウコちゃん、本当に留守番で良いの?」
 「はい、俺はまだ残した課題あるんで…。」
 「私は受験勉強に励みたいと思います。」
 キョウコの発した『受験勉強』というセリフに、全員の視線が一ヶ所に集まる。
 「カ、カズキは、果樹園行くんだからね。カズキが行きたいって言ったんだしっ。」
 ベンキョウヤダヤダーアソブー。とオミの陰に隠れようとするカズキ。
 「んじゃまぁ、行きましょうか。歩きで行けます?」
 シンの留守番理由に、怪訝そうな表情を見せながらも先を促すマサト。
 「いや、テレポで…。」
 「浮かんで行きたいっ!」
 オミの言葉を遮り、すかさず希望を述べるカズキ。
 「わ、分かった…。」
 小学生の迫力に押される激強ヨ超能力者…。

 果樹園組みがオミの能力でふんわり浮かびながらその場を離れるのを確認すると、キョウコがイツキに声をかける。
 「イツキさん、そこにテーブル出したらマズイですか?昨日や一昨日、外で使ったアレですけど…。」
 「いや、構わないよ。ちょっと待ちなね。」
 言うなり、庭先にポンとテーブルと椅子とパラソルが出される。
 「どこに置く?」
 「シンに手伝わせて…自分でやります。」
 余りにあっさりとテーブル等が出現したので気圧されるキョウコ。
 シンは、ソレ自分でやる事にならないんじゃね?と思いつつも、仕方ないと手伝う。
 「どこがいいんだ?ここはちょっと斜めだぞ?」
 「もうちょい左ー。そ・そ、この辺。ありがとー。」
 二人でテーブルを移動させ、大きく枝を張り出した木の脇に場所を決める。
 「うん、ここならバッチリ。」
 と嬉そうな顔をしつつ「ほいじゃぁ。」と戻っていこうとするシンに、ボソッと声をかける。
 「お土産準備の邪魔しちゃってごめんねー。でもここで背中向けてたら、あんたがどこでナニしてるかなんて分からないから…。」
 びっくりして立ち止まるシン。
 「その為に残ったんでしょ?昨日のオヤツタイムから嬉しそうな様子だったし。目途が立ったって事でしょ?」
 「なんで分かるかな?」
 表情を変えずに訊ねる。
 「だって、マサトが彼女が出来たっポイって言ってたし。」
 「バレバレって事かよ。」
 悔しそうにするシン。
 「うん。当の昔に…。あ、でも、カズキはまだ知らないかな~?リョウはどうだろ…?リョウが気付いてたら、あの4人にはバレてるって事で。で、ミヅキは気付いてるわよ。」
 キョウコの話しを聞いてガックリと肩を落とすシン。
 「まぁまぁ…。今だって、マサトは不審げにしてたけど、何も言わずに出て行ったじゃない。騙されておこうって事でしょ。訊かれでもしない限り、向こうでベラベラ喋ったりしないわよ。」
 キョウコが慰めようとすると
 「でも、キョウコには話したんだよな…?」
 「うん、話したけどね。」
 「キョウコから何か訊いたとか?」
 「ううん。でも受験勉強の事を愚痴ったから。気が紛れればって話題にした可能性が…。」
 「あぁ…成程。」
 辛うじて気を持ち直すシン。
 「でも、どうせその内バレると思うけど?リョウもそうだけど、トシがいつまでも気付かずに居るとは思えないもの。」
 シンはキョウコの指摘に絶句する。
 「ところで、イツキさん達はいいの?バレても。」
 「うん。イツキさんは構わない。もうバレてるし。」
 キョウコは、『達は』と『は』の違いに即座に気付く。
 「オミさんは?知ってるのかな?」
 「どうだろうねぇ。イツキさんが話すかな?」
 二人がコソコソ話していると
 「シン君に伝えて置かなければならないことがあります…。」
 イツキが声をかける。
 「?」
 「オミは気付いていました。」
 「あ…そうですか…。」
 意外、でも有りそう、と思うシンはなんともいえない微妙な表情を見せる。
 「今朝、起きたときに訊かれてね。『シン君はナニしてるの?彼女さんへのお土産でも整えてるの?』って。あの口調だと、前から何かしら疑っててやっと合点がいったって感じだったな。質問っていうより確認ってカンジの口調でね、鎌をかけたって雰囲気でもなかったし…。そう言う時のオミには、嘘ついて誤魔化すなんてムリなんだ、本気でへそ曲げるから。だから悪いけど認めといた。」
 「はぁ。」
 今朝なんだ、昨夜ではなく。変わらず微妙な表情を見せるシン。
 「オミさんって、鋭いんでしょうか?」
 キョウコが思わず確認すると
 「極端なんだよ。気付く時はあっさり気付くクセに、気付かない時はトコトン気付かないの。困るよねぇ、あぁいうタイプって。」
 未だに掴みきれない時があってねー…。と愚痴る。

○っぱー参上! ④

 四度、課長の『壮行会』で…

 ウチの会社にベトナム出身の方が居たよぉっ!
 ビックリさ
 ウチの会社ってば
 いんたーなしょなる
 だったんだねぇ

 ちなみに女性の方です
 勇気あるよなー
 日本で仕事したいからって
 実際行動を起こせるのがスゲエ
 
 逆の立場になって
 ベトナムの方が本場だからって
 じゃぁベトナムでソレを仕事にしよう
 ベトナムでお勤めしよう
 って考えるか?行動できるか?
 って思ったら
 無理かもって思っちゃったから
 単純にスゴイなと
 (ベトナム遠いぃしーと言い訳してみる。)

 そーいえば以前
 台湾系(?)の方も
 いたような…

 自分の出向先に直接関わらない事だと
 情報が流れてこない会社って…
 
 (出向先内の事ですらどこかで情報が止まるしな…。)

雨の日は静かで物憂げで… ⑩

 イツキに促され、意を決してリビングの入り口脇まで戻るカズキ。怒られちゃうかもとドキドキビクビクしながら部屋内を覗くと ―― 。
 キョウコ以下男子はひたすら黙々と問題を解いている。気付いていないのか?気付いていても敢えて無視しているのか ― 机に向かう姿からは全く察することが出来ず ―― すっとぼけて当たり前の態度をしつつ、自分の席として確保されている椅子へ座るか、或いはコソコソと椅子へ向かいコソッと座るか ―― 。
 カズキが迷っていると、端に座っていたミヅキが軽く顔をあげ、目で『早く座ってしまえ』と促してくる。それに力を得、一歩を踏み出し、後はササッと席ヘ向かう。結局コッソリを選んでしまったワケだが…そのまましらばっくれて机に向かい、宿題と格闘を始める。
 ―― と言う、カズキの一連の行動を、最初はダイニングの壁に隠れながら、次には同じようにリビングの入り口脇から、気配を殺して伺っていたイツキとオミは、カズキが席に着き宿題と格闘を始めた辺りで、安心してダイニングへと戻っていく。遠見や透視を使わないのは、彼等なりの気遣いか、それともコッソリ後を付けるという行動に魅力を感じたからか。
 ダイニングへ戻り、取り敢えず一安心と脱力しながら座り込む二人。
 「暗示をかけてやる気にさせるって手もあるけど、それってチョット…なぁ。」
 イツキが呟くと、オミが全く持って御尤もと頷く。
 「はぁ…勉強、大変ねー。なんであんなに頑張らないとならないんだろうねぇ?」
 少しも分かりませんと、首を振る。
 「そりゃお前『差別化』だろ。他者と自分の。比較的分かりやすくて、分からせやすい手段だね。後は身体を鍛えるとかね。こちらの方が分からせ易いけど。将来的に潰しが利きにくい。」
 「将来的?潰し?」
 「お・し・ご・と。ま、勤めるって言うのが前提だけど。彼等は実家が自営なワケだが、後継がないのかな?お勤めを経験してから後を継ぐのかな?」
 「後を継ぐのに、学力とか必要?」
 「家業をでかくしたいとか潰したくないのなら、知識は必要だろうねぇ。使い方次第だが。後、機転か。愛想とか人当たりとか。それと…マメさ。人脈って結構モノをいうしな…。」
 「学校の勉強と、あんまり関係ないんじゃない?」
 オミが不思議そうな顔をする。
 「勉強は知識でしょー。あ、後それと、抜け目のなさと、少々の狡賢さがあると良いだろうねぇ。」
 「ソレこそ勉強と関係ないじゃない。」
 憮然とするオミ。
 「学校でね、生活しながら学ぶんだよ。授業で学ぶのは知識。休み時間とかで学ぶのは人との関わり方。」
 「人との関わり方なんて、学校行かなくても経験できるでしょ?」
 オミが否定的な意見を口にすると
 「ガッコウにイカナカッタおみクンはマナベましたカ?」
 「…っ。」
 イツキの辛辣な一言に絶句するオミ。
 「学校だとね、取り敢えず同じ歳の子達と一緒にされるね。学年って言う形で、自分とほぼ同じ歳の子達でまとめられる。それってね、結構刺激になるんだよね。比べるべきではないけれど、発奮材料になりやすい。刺激しあってお互い高め合えると良いねって、考えての事なんだよね。これが大元になってるんだけどね。ってお前居たろ?全国的に学校システムを統一しましょうって時に。」
 「居たっけ?だってオミは『学校なにそれ?オミ知らない』なワケで。」
 「知らないワケないだろーがぁっ。アッチで俺が学校行ってて、その話しだってしてんだから、知らないわけねぇだろ。」
 「えー?あれぇ?おっかしーなー?」
 すっ呆けるオミ。
 お前は全く。とイツキが憤慨すると
 「でもオミ、別に困ってない。」
 「『お前は』困ってないだろーねぇ。『お前は』な。」
 「なんだよー。随分な言い様じゃーん。だって現に困ってないしー。」
 不貞腐れたように言い返すと、肩をチョイチョイとされる。ん?とそちらを向くと、肩をチョイチョイした指がそのまま180度向きを変え、イツキ自身を指し示す。綺麗に忘れ去っていることを、その指が思い出させる。
 「あー……あはは…はぁー…。」
 笑って誤魔化そうとしつつ、身に憶え有り捲くりな為、力なく溜め息を漏らす。
 「そ・ね。キーちゃん居たね、居るね。教わったし、教わってるね。簡単な読み書きや計算や……ソトに出る事とか、ヒトとまみえる事とか…ね。」
 先程のカズキと同じく、テーブルに突っ伏する。
 「例え簡単な読み書き計算と言っても、出来ると出来ないじゃぁ大違いだったろ?」
 イツキの言い聞かせるかのような言葉に、力なく頷くオミ。
 「ソレが知識。外に出て、他者と関わるのが生活。ただ生きているだけを生活とは言わんのよ?」
 テーブルに突っ伏したまま、大きく頷くオミ。
 「でも、あんなにしないとダメなモン?」
 『あんなに』と言いながらリビング側に少し顔を向け、イツキに訊ねる。
 「だから『差別化』。多少出来るって子はそれなりに多数居る。でも、それだと結局は『それなりな大多数』に埋没してしまう。他者との違いを明確に表せられないじゃん。」
 イツキの説明に、少々同意しかねるオミ。表情に表れている。
 「でも、勉強できなくても、友達作ったり仕事したりは出来るじゃん。」
 「知識が無いと騙されたりするぞ?大人は狡猾だからな。」
 「んん…っ?」
 眉間に皺を寄せるオミ。
 「知識は防御になるね。自分を守るための。で、使い方次第では一種の攻撃手段にも使える。ま、どう活用するかだね、重要なのは。」
 「知ってる事が多いほうが、自分にとって都合が良い、と。」
 「『相手よりも』を付けようか。」
 「ぅぅーん…?」
 オミの眉間の皺が益々深くなる。
 「ソレをひたすら追求すると、ああなる。」
 最後の部分でリビングへ目を向ける。
 「あ、成程…。でも、やりすぎじゃない?」
 オミの表情が明るくなるが懸念も表す。
 「同い年で、自分と大差ない相手が直ぐ脇に居たら、競争意識が刺激されるだろうが。」
 「そうだけどさぁ…。」
 「経済的な理由も有るだろうさ。我儘を通そうとしている以上、まるでペナルティを背負うように全額無償を狙っていたりもするんだろう。でも、ね。彼らは、どうも…競走してるみたいなんだよね。お互い得意不得意あって、それをお互い教えあって、カズキ君はひたすら教わる側だけども、必死に食い下がってるよね。で、試験に臨んで、結果は恨みっこなしって。お互い刺激しあって高め合うなんて、理想の体現だね。」
 「ぅーん…でも、競走って、ケンカにならない?誰も彼も皆『敵』、でしょ?」
 「学校の中だけの成績だけならな。そして会社内部とか、同業他社との経営規模比較とかならな。」
 「?」
 「彼らがお互いを『敵』認定してるか?リョウ君達なんて4人居るんだぞ。自分以外3人を敵って見てるか?」
 「見てない…。不思議だ。」
 「多分彼等にとっての真の敵は『学校』だろうね。」
 「は?」
 「学校ってのは、大人の側が権威で権力者だからなぁ。振るって許される権力に、正攻法で対峙してるんだろ。教師が勝つか、生徒が勝つか、ガチンコで勝負してるみたいだねぇ。」
 イツキは苦笑しながら話す。
 「振るって許される権力って?」
 「試験。」
 オミの問いに短く答えるイツキ。
 「なぁるほどぉー。」

雨の日は静かで物憂げで… ⑨

 オヤツ休憩をし、後片付けを済まし、宿題会を再開し、風呂へ入り、夕食を済ませ、三度(?)宿題会を…。となった所で、宿題の邪魔になってはと、ダル寝中のタイガーを連れダイニングへ避難していたオミのところへ、カズキが逃げてくる。
 「もぉ無理ぃー。もうイヤァー…。カズキ死んじゃう。」
 「死んじゃうって…。」
 カズキの大袈裟な言い様に、困った顔を見せるオミ。
 「でも、カズキ君『受験生』なんでしょ?内部進学でも試験があるって…で、公立はイヤって…。」
 大人としてカズキの自覚を促すべきと、本人も分かり切っているであろうことを口にする。
 「そうなんだけど…そうなんだけどぉー…っ。」
 テーブルに突っ伏しながらイヤイヤと首を振る。
 「キョウコ姉ぇの持ってる脳ミソをちょっぴり貰いたい~。シクシク。」
 「諦めて公立…。」
 オミがボソッと呟くと
 「絶対イヤッ。お馬鹿さんってのもあるけど、あの学校つまらなそうだからイヤっ。」
 ガバッと身体を起こし、真剣な表情で拒否を口にするカズキ。
 「つまらないって…学校にそんな違いってあるの?」
 オミが、全く判らんと訊ねると
 「あります。大有りです。ウチの学校の方が楽しいよぉ。カズキ、あっちの中学見に行った事あるもん。お姉ちゃん達の行ってる方が楽しそうだったよ。」
 「それは知ってる人がいるからじゃぁないの?」
 至極尤もな指摘をするオミ。
 「違うし。あっちの人達、何するんでも面倒臭そうにしてるんだよ。ふざけてる時だけだよ元気なの。お姉ちゃん達の所は違うの、皆いつも元気なの。グループで集まったりとかは、そりゃぁあるけど、元気で楽しそうなの。『宿題』をするんでも、楽しそうに誘い合ってたりするの。カズキはそっちの方が良いよ。」
 と訴えていると、イツキがキッチン側から顔を出す。
 「なんか、訴える声が聞こえると思ったらカズキ君か。」
 笑いながら声をかけ、ブーたれているカズキの頭を、少々乱暴にワシャワシャとする。
 「まぁ、確かに勉強って…シンドイね。面倒臭いしね。」
 「ねぇ、キーちゃん。学校ってそんなに違いがあるの?」
 「そりゃ、あるでしょ。校風とかカラーとか言って、学校側…教師とかがリードしてそういった雰囲気を出していたり、生徒の側で動きがあって成り立っていたり、様々だけどね。中学生だったら、大抵は学校側がそれとなくリードするんじゃないかな。」
 「じゃぁ、何でも面倒臭そうな校風の学校って、先生とかが手抜きしまくりって事?」
 「事勿れの可能性はあるね。でもねぇ、先生も忙しいらしいのよ。あんまり期待しすぎてもねぇ。中学生ってやたら元気だし、小生意気だから。それを何人も相手するんだろ。シンドイって…。或いは、学校側は生徒の自主性を待っているのかもしれないしねぇ。」
 「成程ねぇ…。」
 「ま、中学生相手に『待つ』ってどうよ?とも思うけどね。促せよって。高校生相手なら『待つ』のも有りだろうけどね。指導するって事の難しさだぁね。匙加減一つで、どうとでも転ぶもんだからねぇ。」
 「はぁ…そぅなんだ…。」
 キョトンとしながらオミが理解を表すと
 「お前、実はあんまり分かってないだろ?」
 イツキが茶化すように言う。
 「うん。あんまり。」
 「小学生と中学生と高校生の見本が目の前にいるってのに…。」
 オミの返事に苦笑混じりになるイツキ。
 「高校生のキョウコちゃん達を見てみろ。で、次に中学生のヤスノリ君達を見てみなさい。キョウコちゃん達に『促す』必要は殆んどないけど、ヤスノリ君達には少々必要そうだろ?カズキ君の手前、繕っている部分は見えるだろうに。」
 イツキの言葉に
 「そーか、やっぱりアレは繕っていたわけか…。可笑しいとは思ったんだ。皆が皆、聞き分け良すぎるんだモン。」
 カズキが納得の表情を見せる。
 「でも、その『繕う』も、彼らは『自主的』に行っているワケだが?」
 イツキが冷静に指摘する。
 「お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから、悪い手本になるのはマズイだろう。尤もカズキが勝手に悪い子になるのは、それは自分たちの与り知らぬ事。自分たちは、少なくとも、ソレを勧めるような真似はしていません。ってね、彼らは自分達でそう考えて、行動してるでしょ?違うかい?」
 「違くないデス。シンちゃん達に一々言われてやってるワケじゃぁないみたい。」
 カズキががっくり項垂れる。
 「と、小学生には『自主性』云々よりも、『指導』が必要なワケだ。」
 「はぅっ。サンプリングされたぁっ。」
 カズキの嘆きを
 「あははは。ごめん。でも、小学生の自分と中学生の彼等との違いも分かったろ?一つ違いのミヅキちゃんだって、アッチ側だしねぇ。」
 笑い飛ばしながら宥めつつ諭す。
 「う~~~ん…、子供の側の成長に合わせて、大人の側の対応も変えるべきって事?じゃないと、自主性とやらは育たないよねぇ?」
 オミが首を傾げながら疑問を口にする。
 「子供の成長度合いが、皆均一なら良いんだけどねぇ。差ってのはピンキリだからねぇ。身長だけを見たって、ヒロ君とトシ君辺りでは15cmは違うだろ?で、自主性ってのは内面的な違いで差が現れるんだから、同い年だからって、内面的なモノが同じように成長しているとは限らないだろ?ましてや中学生じゃぁ、差はデッカイよ。なのに、大抵の学校では十把一絡げで一クラスにまとめられている。先生って職が大変なのはソコだろう。『指導』すべきか『促す』べきか『待つ』べきか…ってね。」
 「一人一人に対応。」
 オミが大真面目に言うと
 「一クラス35人は居るって話を聞いたことがある。で、主に担当する教師は一人、生徒は十把一絡げ。やってられるか?」
 呆れたように言うイツキ。
 「もし、大真面目に『本校では、生徒一人一人の成長や性格に合わせた、生活指導を行っています』なんて言っている学校があったら、そりゃ詐欺なんじゃねって思うぞ。教師何人居るの?って話しだわ。言うのは勝手かも知れんけどねー。もしかすると、その学校では『生活指導 = 学習指導』って意味で言ってるのかもしれないけどねー。」
 『学校否定』と取られかねない事を、言う言う。
 「教科ごとに担当する教師は違うとは言っても、自主性なんて『教科』とは別だからな。全般を見なければならないのに、ソコが一人だぞ?学校側の指す『自主性』が『勉強』に限られていて、教科担当から『自主的な学習』の様子が報告されるって言ったって、キツイだろ。ま、俺ならお断りだね。アホらしい、無茶言うなっての。」
 「それって、もしかして学校システムに問題ある?」
 大真面目に聞いていたオミが疑問を口にする。
 「学校の『運営』システムの問題では?でも、ね『学ぶ機会を全員に平等に』って考えたら、ある程度は仕方無いだろうねぇ。俺は頼まれたってゴメンだがね。」
 「世話焼きな性格のくせに?」
 「気に入らないヤツの世話なんぞ焼きたかねぇわ。」
 あっさり拒否。
 「ふぅ~ん、キーちゃんでもそう考えるんじゃぁ、カズキ君が行きたくない学校って…先生方が『指導』やら『促す』のに疲れちゃってるのかねぇ。アホらしいって思っちゃったら、ヤル気になんてならないだろうし。最低ラインの『学ぶ機会』しか押さえてないのかもねぇ。で、生徒は『自主性』を身に付けたりせず、ラクなほうに流れてる、と。」
 「カズキ、そんなトコやだ。」
 憮然とするカズキ。
 「だったら、上の中等部に安心して上がれるくらいの学力は付けないと…。油断してるとマズイんだろ?」
 現実を突きつけるイツキ。
 「ぐはぁっ。ぐる~~っと回って、ソコに来た。一周して戻ってくるとは思わなかったっ。」
 「って言うか、上がれる学力はあるんだろ?『特別特待』とかいう、全て免除の資格が取れるかって事なんだよね?」
 イツキが確認するように訊ねると
 「えぇ…まぁ…そうです。」
 照れ臭いのか、言葉使いが改まるカズキ。
 「なんか『ユニーク』な校風って言ってたけど…試験もユニークなの?」
 「筆記試験と内申と指定された実技と面接があって、実技は例外も有るけど大抵は体育系で…。特にユニークなのは筆記と面接。初等部に上がるときも妙な事訊かれた気がする…。」
 カズキが説明をすると
 「筆記がユニーク?面接がユニークなのは、まぁ有り得そうだけど。」
 オミに比べたら遥かに学校に詳しいイツキが興味を見せる。
 「問題がクイズ形式になってたり…。クロスワードみたいになってたり…。配点が無茶苦茶だったり。」
 「なんだそりゃ。本当にそうなの?」
 「過去問で、そうなってましたけど?お姉ちゃんに見せたら『これ、やった。出てた、出てた。』って笑ってたし。リョウちゃんやトシ達も『あった、こんな問題。』って、シンちゃん達なんか懐かしがってたし、面白がって『解いてやろうか?』とか言っちゃうし。」
 「そりゃぁ、確かに『ユニーク』だわ。って、カズキ君の『宿題』は『過去問』かい。」
 「5年分くらいはやっとけって、キョウコ姉ぇが言ってて。減点用の『ひっかけ問題』は少ないみたいだけど、意表を突いてくるから備えとけって。面接も意表を突いてくるって言ってた。」
 「それって、その学校の先生方何考えてんだ?」
 別方向で呆れるイツキ。
 「さぁ?ただ、楽しんで試験問題作ってるみたい…。初等部はそうでもないけど、中等部とか高等部だと、試験が近づくと先生達が楽しそうにするって。『腕によりをかけた問題だから楽しみにしとけ』って、すんごく楽しそうに言うってお姉ちゃん達が言ってた。」
 「そ…そうなんだ。楽しんでるんだ?先生方。」
 余りに予想外な教師の様子に、驚きを禁じえないイツキ。
 「そ・みたい。カズキなんて、中等部でも高等部でも知られ捲くってるから、面接でなに聞かれるかと思うと…もぉぉぉおっ…。」
 「変に畏まってると笑われちゃいそうだねー。『いつもと違うじゃないか』とか言われて。」
 オミが暢気な口調で突っ込む。
 「だからって、面接にいつもと同じ態度ってワケに行かないしぃ~~。」
 「あはははは。ソレ困っちゃうねぇ。」
 オミは笑いながら、困りきっているカズキの頭を撫でてやる。

雨の日は静かで物憂げで… ⑨

 「あ、幾つか余ってるから、片しちゃってねー。」
 「「はーい。」」
 オミに教わってそこそこ上手に食べられるようになり、杞憂が除かれたからか、元気な返事が返される。
 「じゃ、オミも…。」
 「お前は既にお代わりしてるでしょ。遠慮しなさい。」
 即座にとめられる。
 「オミさん、ホントにコレ好きなんだねぇ。」
 「確かに美味しいけど…。」
 「リクエストするわな、そんなに好きなら。」
 「イチゴの季節にはイチゴで作ってもらってる~。」
 オミが嬉しげに応えると、カズキがすかさず
 「卵焼きとどっちが好き?」
 悪戯っ子な表情で突っ込む。
 確かに先日、好きな料理は?という問いに『卵焼き』と、はっきり答えたが…。そしてそれは嘘偽りなく本音では有るが、まさかそれをしっかり憶えているとは、ましてや今ここでこのタイミングで訊ねられるとは考えてもいず ―― 。
 今まで問われたことも、疑問に思った事もない事柄を、今初めて真っ正面から問われたオミは、文字通り硬直してしまう。
 「エ?え?えー…とぉ…?」
 どっちも好きっ。キーちゃんの卵焼きなら、それだけでご飯お代わりできちゃうし、ミルフィーユが食事代わりでも全く問題ないしっ。どっちが好き?って…どっちもだし…両方好きだし…どちらがって言われても…。
 ―― オミの葛藤。
 「カズキー、お前アホな質問して困らせちゃダメだろ…。」
 「オミさんが真剣に悩んじゃったじゃないか。」
 ヤスノリとトシが諌め
 「オミさんも、そんな真面目に取り合わなくて良いんですよ、どうせ『聞いてみただけ』って程度の質問なんですから。」
 リョウがフォローする。
 当のカズキは、というと ―― 、エヘエヘとわざとらしい笑いを浮かべている。
 「こーら、カズキ。悪ふざけなだけなら、困らせたことをちゃんと謝っとけ。」
 ヒロに注意されると、流石にマズイと考えるらしく
 「ごめんなさい。聞いてみたかっただけなんです。どっちも大好きで、決められないって分かりましたデス。」
 少々ふざけた態度が残ってはいるが、取り敢えず素直に謝るカズキ。

 オミとイツキは、クリームの香りと皆の和んだ雰囲気(なにしろミルフィーユを前に全員ビビッて居たものだから)とで起き出してきたタイガーがオヤツをおねだりした為、人間用のを上げる訳には行かないし近くにあれば欲しがってしまうのでダイニングへ。
 宿題タイム再開前に、使った皿やカップなどを洗いに持ってきた少年達の内、洗い担当のキョウコ、机・椅子のセッティング直し担当のシン・マサト・リョウ・ヒロからも外された、ヤスノリ・トシ・ミヅキ・カズキがオヤツを済ませたタイガーと遊び出す。
 イツキは洗うのもセッティングのし直しも、自分がやるのに…と少々気を揉み、先ずは『キョウコにお任せ状態』を気にかけキッチンを覗く。
 「キョウコちゃん?」
 なにやらカチャカチャ洗っている様子のキョウコに声をかける。
 「はい?」
 「食洗機あるから…。」
 「はい、使わせて頂いています。知ってる言葉で書いてあって良かったです。でも、ポッドはやっぱり手洗いですよねー。複雑な形状のものは無理だったはず。」
 「使いこなせてるなら平気だね…。そこの鍋はジャム作ってるから、そのままにしといてね。」
 「は~い。」
 次にリビングを覗きに行くと…。
 「ヒロ、リョウ、その椅子はソコの真ん中辺りのトコだろ。」
 「「は~い。」」
 大きめの椅子を二人で運んでいる。
 「で、こっちの椅子が…ここの端だったな。」
 イツキ出番なし…。
 ウロウロしているイツキを横目に
 「イツキさんは、やらせたくないの?それとも一緒にやりたいの?」
 とトシがオミに訊ねる。
 「ぅ~~ん…?両方?」
 オミが苦笑しながら答える。
 「キーちゃんは世話焼きタイプだしねぇ。丸投げが出来ないっぽい。」
 「御役御免だと役立たずって言われた気にもなっちゃうけど…今は単に手が余ってるってだけなんだし、普段動きっぱなしなんだから、こんな時ぐらい休んでいれば良いのにねー。」
 トシの前半のセリフに『ん?』と、身に憶えありまくりのオミは複雑な表情を見せるが、後半に関しては全くもって同意見なので、ウンウンと頷いて賛意を表す。
 と、キョウコが顔を出して
 「食洗機なんですけど…。」
 声をかけるが、イツキはリビングを覗きに行っているため姿がなく、言葉が一旦止まる。
 「アレって乾燥まで自動なんでしょうか?」
 で、気を取り直してオミに訊ねる。
 「確か、そのはず。って言うか、入れっぱなしで良いよ。終わってすぐは熱くなっていて持てなかった筈だから。」
 「あ、そうなんですか…。じゃぁ、私、あっさり手が空いちゃったわ。」
 さて、どうしよう。ジャムのお鍋はいじるなと言われたし…。と思案気なキョウコに
 「じゃぁ、一緒にタイガーと遊ぶ?」
 暢気にカズキが声をかける。

雨の日は静かで物憂げで… ⑧

 「イツキさん、これがパイ?焼き上がってるやつだよね…随分薄くない?」
 キッチンの調理台、イツキの脇にカズキがしっかり陣取っている。
 「表面テカテカしてるけど?」
 「キャラメリゼって言うんだったかな?グラニュー糖を表面に振って溶け出すまで焙ったんだよ。クリームが染みてブヨブヨになるのを防ぐ為にね。」
 「『キャラメリゼ』…へぇ…。そっちのボテッとしてるのはカスタードクリームでしょ?硬めじゃない?」
 「柔らかいと垂れちゃうからねぇ…。」
 「ほぅほぅ成程。」
 カズキの疑問に一々きちんと応えるイツキ。
 「なんでこっちのパイだけ小さめに切ってあるの?」
 「それを一番上に乗せるんだよ。一切れが一名様サイズね。」
 「へー…。エヘ…エヘ…エヘヘヘ…。」
 出来上がりを想像して嬉しげに笑みを漏らすカズキ。
 (あれ、待てよ。ベリーがあるんだよね。どーするんだろ?)
 ふと気になり、真顔でベリーの入った器に目を向ける。
 「まぁまぁ、見てなさいって。」
 言うなり、さっさと作業を開始する。

 「で、本来ならここで冷蔵庫に入れ冷やすワケですが…。」
 ほぼ完成したケーキを前に、期待をぶち壊すことを言い出すイツキ。
 「えーーーっ!」
 当然カズキからブーイングが起こる。
 「ま、普通はね。冷やそうと思ったら、冷蔵庫に入れ、暫し待たないとね。でもね、俺、超能力者よ?」
 一語一語切って伝える。
 言われたことが脳に伝わり何を言わんとしているのかを理解すると、途端ににんまりと表情の緩むカズキ。
 「えー…へへへへへ…。つまり、あっという間に冷やせる、と。」
 不満をブーイングで表してしまったバツの悪さを、笑って誤魔化す。
 「そー言う事ぉ。」
 言うなり一気に冷やす。
 「ぅおっ。こっちにまで冷気が…っ。って、すげー。」
 「後は切ってお終い。本当は冷やすのも目的だけど、全体を馴染ませるためにも時間を取った方が良いんだけどね。ま、少しくらいの手抜きは構わないよね。で、ダイニングとリビング、どっちで食べる?」
 「えー…と…ぉ。リ、リビングはだめーっ。」
 突然思い出し、キツイ言い方で拒否する。
 「へ?」
 宿題が…。
 バツの悪そうな表情で口篭もるカズキ。

 大慌てで片付けたリビング。
 思い思いの場所にイスや小型のテーブル等を設置し直し、ティータイムへと臨むが…。
 「あれ?どうしたの?固まっちゃって…。」
 イツキが不思議そうに訊ねる。喜び一杯ではじけそうになっていたカズキまでもが、テーブル上のケーキを前に動きが取れないでいる。
 「え…えーとデスね…。そのぉ…。どうやって食べたらいいかなー?なんて…。」
 顔を引きつらせながら応えるカズキ。
 「どうって、好きなように食べれば…。」
 良いのに、なんで悩んでるの?イツキには全く理解できず、不思議でならない。
 「だって、上からナイフで切ろうとしたら、脇からクリームが零れちゃうでしょ?それってどうなんだろうって思って…。」
 カズキが半べそ状態で訴えると、他の子達もウンウンと頷き同意を示す。
 「流石にちょっと、というか、いくらなんでもお行儀が悪すぎるのでは、と思って。恥ずかしながら困ってます。」
 最年長のキョウコが代表し、恥を忍んで自分たちの不明を口にする。
 「あー…成程。って、そんな気にしなくて良いんだよ?マナーと行儀は別物だし。君達がちゃんと気にかけて行動してるって分かってるから。」
 イツキが気持ちを和らげさせようと慰めるように言うが
 「だって横からクリームがブニーって言うのは…いくらなんでも、お行儀悪いって思う。」
 最年少のカズキですら、気にかけた態度を取る。
 「フム。オミ。お前のリクエストなんだし。どうしたら良いか見せてあげな。」
 オミに押し付ける。
 「へ?オミ、もう半分食べちゃったよ?」
 「早いなぁ…お前。」
 呆れた表情を見せるイツキ。
 お代わり行けます。

 「えー…先ず最初は、上に乗ってる、綺麗に飾られた部分をそれぞれ一旦下ろします。今日のはクリームごとベリーを下ろして、脇へ置きます。」
 「「「フムフム。」」」
 オミの周りに集まって、手元を凝視する一同。
 「本体を倒します。上をアチラへ。下、底の部分を自分の側に向けるように。で、ここから先に問題があって、やり方が一つしかないってワケじゃぁないところ…。まず最初のパターンは、真ん中のパイのところで二つに分け、それから片方を一口サイズに切り、脇へ置いたクリームやフルーツを乗せ、食べる、を繰り返す。別のパターンは、倒した後フォークの背で押さえつつ、一口サイズの幅に切ります。次に真ん中のパイの部分で切ります。脇に置いたクリームやフルーツを乗せて、食べる。で、もう一パターン有って、先に全部を一口サイズに切る。パイの部分で切る。クリームやフルーツを乗せなおす。食べるときにナイフでチョイチョイって整えつつ口へ。」
 「倒したり、上に乗ってた飾り部分を取っちゃったりってマナー違反にならないの?」
 カズキが意外そうに尋ねる。
 「食べてる最中に倒れちゃうより、先に倒しておく方がマシっぽい。で、乗せたまま倒したら、転がって行っちゃうかもしれないでしょ?それは避けないと…。だから、一旦下ろす、先に倒しておくって事らしい。」
 「なぁるほどぉ…。」
 溜息と共に納得の声が零れる。
 「カズキ、頑張りますっ!」
 いざチャレンジっ!と意気揚々と席に戻って行く面々。
 が、暫らくするとカズキの頼りなげな声が聞こえてくる。
 「オミさぁ~ん…。パイのカスが、散らかっちゃう…。」
 「そのままでも構わなかったはずだけど、気になるならクリームにコソッとナイフで付けると良いよ。小まめにナイフ使うから誤魔化せる。」
 バレナイバレナイダイジョブヨー。

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