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最上部にて…

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雨が上がったそのあとは… ⑳

 「オレ…婿に行けるとは思えないんですが…。」
 シンがへたり込みながら口にすると
 「あっさりハードル上がったね。」
 イツキが追い討ちをかける。
 「ウチ…一般家庭なんですが…。」
 「お相手は、旧家の元とはいえ許婚になれちゃう家の子なんだよね。」
 「もぅ、その二点だけで根性挫けそう…。」
 「最重要項目だね。」
 「って言うか…結婚前提?」
 「婚約破棄された経緯のある娘を振るの?」
 「いやいや…まさか…。って、具体的には考えていないんですけど…やっぱり結婚前提で考えないと、ダメなんでしょうかねぇ?」
 ぐったりしながら問いかけるシン。
 「一応は…そうなんじゃない?相手の子、年幾つ?」
 「13歳だったかな。3コ下です。早すぎません?結婚を考えるなんて。」
 「あんた、ミヅキに結婚を考えるのは早すぎるって思うの?相手を見つけて置くのとか。」
 大人しく聞いていたキョウコが口を挟む。
 余りにも身近な例えに、シンがガックリとテーブルに突っ伏すると
 「ミヅキだと仮定して考えても、今から相手を見つけて何の問題があるの?ま、確かに、ミヅキが中学を卒業して直ぐに嫁に行くとは考えられないけど?だからって、相手を見つけて、相手とそういった話しをして、なにが早いの?」
 サクッと突っ込まれて答えに詰まるシン。
 「3つ下じゃぁ…ミヅキと同い年か。ホンの2・3年で結婚可能年齢なんだよな。女子のほうが下限が低いから。」
 ミヅキももぅそんな年齢かぁー…。マサトがしみじみと口にする。
 「その分、早い内に結婚を現実的に見据えていたりするからね、女の子はおませさんだしねぇ。」
 「ぅ…ぅぅー…オレが甘かったですぅー…もうちょっと前向きに…結婚を含め、将来を考えます…。」
 シンが、少々芝居がかった態度でヘコタレっぷりを表す。
 「とは言っても、現実問題として、オレまぁず婿には行けないだろうから…嫁に来てもらう形になるわけだが…?出して頂けるんだろうか?」
 「まぁず難しいだろうねぇ。」
 苦笑いをしながら答えるイツキ。
 「家を継ぐ訳だが、ペンション経営に付き合って貰えるだろうか?」
 「彼女さんに?それは彼女さん本人に、時期が来たら訊きなさいよ。」
 「小舅が居るわけだが…追い出すべきか?」
 「リョウなら、時期を見計らって自分から出ると思うけど?居るなら居るで『この時まで』って自分から期限を言い出すだろ。」
 「オレ…大学行って、卒業したら同業の何処かで何年か働くつもりなんだけど…。なるべくランクの高いところで、色々とノウハウを学ぼうかと…。」
 「待たせるの?」
 シンの将来予定を知ったキョウコが訊ねる。
 「待ってもらえると思う?」
 「その時彼女さんは何歳よ?いつまで待たせるの?幾つまで待たせるの?あんたちゃんと迎えられるの?他の子に目移りしたりしない?しないって信じさせて挙げられる?不安を感じさせないで待ってて貰えるように気を配れる?相手方の親も安心して待てるように、親からの信頼を得る事が出来るの?」
 流石と言うか、同性のキョウコの矢継ぎ早の質問。
 「ぅーーー…22で卒業して就職して…27って言っても、社会人5年程度の若造なんだよな…。」
 「あんたが27って事は、彼女は24じゃぁないのよっ!不安を感じるなって?言えるだけのことをアンタは出来るの?」
 キョウコの遠慮の無い突っ込み。
 「だって結婚ってなったら、式とかその後の生活費とか…金が…貯められると思えないぃー…。」
 「その辺は、彼女さんも考えるだろうし、彼女さんのご両親だって考慮するでしょ。ご両親からの信頼が得られれば、だけどね。」
 イツキが気休め程度のフォローをするが
 「だからって丸抱えされるのはごめんですっ。」
 シンの『男の見栄』が顔を出す。
 「大体、『金を出したら口も出す』のが世の中でしょっ。口を出されて溜まるかーーっ!」
 一旦切れるが
 「まぁ…娘を気遣うのは分かるけど…。」
 すぐに軟化する。
 「彼女が22になる迄にって…オレ25だよ?若造も若造よ?社会に出て3年程度よ?それで家庭を持つってどうよ?金も無ければ実績も無い、無い無い尽くしよ?将来にかけるって掛けて貰えるか?娘の将来もかかってるってのに?」
 で、弱気になる。
 「じゃぁ、今の内に諦めれば?お互い痛手も少なくて済むよ?」
 イツキがラクな方へ挫折させようとする。
 「それは、イ・ヤっ。」
 きっぱり拒否。
 「矛盾してね?」
 マサトの問いに
 「うっさい。突き付けられている現実と自分の希望が離れすぎてるんだから、しょうがないだろっ。」
 逆ギレする。
 「相手の子のお父さん『切れ者』みたいだけど…?」
 シンの逆ギレをどこ吹く風と受け流し、マサトが畳掛ける。
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雨が上がったそのあとは… ⑲

 シンの爆弾発言に目を瞠るイツキ・マサト・キョウコの三人。
 キョウコは難しい表情をし、マサトは交際を直接見知っていたとは言え、重い溜め息をつく。
 イツキは…
 「うん。強敵だね。駄目ってなったら徹底的にくるよ。それこそ重箱の隅をつつく様にダメ出ししてくるだろうね。」
 ニッコリと笑いながら追い討ちをかける。
 やっぱりか…と苦笑いを見せるシン。
 「ところで、どんな娘なの?」
 イツキがマサトから頼まれたのはシンの考えの確認であって、先程の一言「将来の事は具体的にはまだ」を引き出した時点で、役目を終えたといってもいいのだが、相手の娘の様子によってはシンが考慮すべき点がまだまだ溢れ出てくるであろう、そうすると場合によっては再び三度と自分に話が回ってくる恐れがあると考えたイツキは、先手を打って情報を引き出そうとする。
 と言えば聞こえは良いが、本音は好奇心が大半を占めているだけである。お年頃の『性』少年の恋愛観は、簡単に他者の興味の的になるので…。
 「どんなって…一人っ子の一人娘で、足を怪我したらしくて…リハビリに泣きが入って車椅子で過ごしてて…。一人にしておくのが心配だからって婆やさんが付いてて。」
 シンの話しに段々と顔を強張らせるマサトとキョウコ。とは言え、シンが口にした内容はマサトが見知っている事で、マサトがイツキに伝えた事とほぼ同じな為新たな情報としては意味を為さない。
 「いつ、どういった経緯で知り合ったの?」
 「んー…?イツキさん達がウチに泊まりに来た後で…ケーキとアメリカンチェリーを頂戴する前だったかな。車椅子が轍に嵌まっちゃって、婆やさんの力じゃ抜けられなくて困ってるところに行き当たったのがきっかけで…。」
 「随分大雑把な憶え方だね。ま、あんまり詳しい日にちを言われても困っちゃうけど。で、だ。それで『お付き合い』にまで発展するものなの?単なる『行き摺り』で終わるんじゃない?」
 「学校にまで礼を言いに来て…。制服の特徴を伝えて教わったとか言ってたな。」
 「伝えて教わる?近場の子じゃぁ無いの?」
 「えーと…ですねぇ…、怪我をして入院してリハビリに泣きが入って退院して、一時的に環境を変えようと、伝手を使って知人のホテル?を利用してて、朝の散歩に出たら轍に掴まって動けなくなった、と。で、俺が着ていた制服から学校を探してって言うか、地元の人に訊ねて、わざわざ礼を言いに来てくれた…ワケです。」
 「成程ね。でも、それで行き摺りで終わらない理由が分からんワ。」
 シンの説明に納得はしても、疑問が解消されないイツキ。
 「えー…あのぉー…そのぉー…好みのタイプのストライクゾーンど真ん中だったものですからぁ…えー…エヘヘ。」
 一部照れ臭さから小声になり、最後は察してとばかりに言葉を濁し笑って誤魔化す。
 「あーあーあー…はいはい。行動を起こした、と。見かけた場所の近くにあってそこそこ格の高いホテルでって探せば、地元っ子なら目処を立てられると。」
 「えぇ…まぁ…そうです。名前も朝、お互い名乗りましたし…。」
 イツキにはっきりと言われテレながらも認めるシン。
 「で、その、OKを貰いまして…そのまま。」
 「今に至る、か。」
 「はぁ…。」
 なんかマズイ点でもあったか?と考え、煮え切らない返事をするシン。
 「『婆やさん』だって言うのは、朝の時点で聞いていたのかい?」
 「はい。お互い名乗ったときに。子供の頃から身の回りのアレコレをして貰っているって。」
 シンの応えに、複雑な表情を見せ始めるイツキ。
 「んーー…とさ…気付いてる?ソレって結構良いトコのお嬢さんって事だよ?」
 イツキは念のためと言う風で訊ねる。
 「はぁ、まぁ、分かってはいますが…。」
 イツキが何を気にかけているか、分かっていないシンは、やはり煮え切らない態度で返事をする。
 「えーと…箱入りって事だよ?」
 「大事にされているって言うのは、接していれば充分分かります。」
 それで?と不思議そうにするシン。
 「だから、許婚とか居ても不思議じゃぁないよね?」
 「あーっ。はいはい。破談になったとか、聞いてます。相手側から断って来たって。それもあって、環境を変えようって話しになったとか…。」
 「破談…?」
 三人の注意がその一言に向けられる。
 「なんでも、生まれて間もない頃から許婚が居て、相応の年齢になったら婿に来て貰うはずだったと。で、相手方に婿に出れない事情が起きて、折角だから嫁に貰いたいと申し込まれて応じたんだけど、足を怪我して、リハビリして歩けるようになっても長時間の移動は無理だろうって状態になったら断られた、と。相手方はとんでもない程の旧家で、そちらの地元がちょっとばかり田舎なものだからやたらと保守的で、嫁に来てからのケガだったら未だしも、それ以前のケガだと好奇の的になるだろうって。その家は元々、娘が跡を継いで地元密着で家を守るとか、入り婿の夫は他所でグループ企業の経営をするとか…。」
 「足が悪いと地元密着生活にも不便って事か。」
 マサトが呟くと
 「地元密着だからこそ、だろうね。それに良くも悪くもヒソヒソされるだろうし…夫がそばに居られないんじゃぁ庇って貰う事も、愚痴を聞いて貰う事も期待できないしねぇ。」
 イツキが訂正や追加説明し、シンに目で先を促す。
 「で、怪我はするわ破談にはなるわですごく落ち込んで、で、環境を変えようって話しになって、こっちへ来ていた、と聞いてます。破談そのものはアチラが全面的に責めを負ってくれたとか、丁寧に謝罪されたとか…。」
 「…気の毒になった?」
 イツキが辛辣な問いを口にする。シンは、その言葉の内にある『同情』や、男子特有の『ヒーロー願望』を指していると即座に気付く。
 「いやいや、そりゃ…なんとも思わないワケありませんが…。遠縁の遠縁っていう親戚で、アチラの事情も僅かながら分かっているとかで…。父親が粘ったらしいんですが、アチラの事情を前面に出しつつもコチラへの気遣いまで表されたら、致し方ないと折れたそうで。男の側から断る事で傷付ける事になったからと、相手の…婚約者本人から丁寧な謝罪を頂戴したって聞きました。で、それらを話してくれた後に『私は可哀想な子でしょうか?』と訊かれました。」
 アハハー…と渇いた笑いを漏らすシン。
 「なんて答えたか気になるなー。」
 面白半分に茶化していると分かる笑顔でイツキが口にする。
 「え?えぇ?そこまで?」
 渋るシン。
 「話し自体は付き合ってから聞いたから…。『大変だったんだね』って。後は…その…まぁ…。」
 ゴニョゴニョと濁す。
 「フム…。って事は、姻戚関係を築くことは叶わなかったけれども、信頼関係や力関係を損なうまでには至らずに済んだって事か。彼女のお父さん、破談の話しの際に上手い事立ち回ったみたいだね。前に、相手の都合の変更に合わせて一人娘を嫁に出すって判断したのが、功を奏したって事かね。」
 「遠縁の遠縁の旧家相手で、駄目になったとは言え、姻戚関係を築こうって程にお互いの信頼関係があったワケだし、一旦は相手の都合に合わせて苦渋の選択をしたんだし、事が決するときには粘ってるし…。したたかな旧家相手に良くやったねぇ。こりゃぁ、とんでもない強敵を引き当てたね。一々の読みがバッチリだ。」
 イツキは、一旦口を閉ざしたが再び直ぐに開くと、面白半分にまとめる。
 「……そんなに…?」
 シンが神妙に訊ねると
 「だって、婚約の初めの条件が婿に来るだったワケだし。彼女の父親にしてみれば『婿に来て頂けるなら受けましょう』って話しじゃないか。」
 婿に来る = 嫁に出さなくて済む。と考えれば、子は一人娘しかいない一般家庭の親でも、それだけで万々歳であろう。

雨が上がったそのあとは… ⑱

 愛は語っていなくとも、タイガーの大きさや『放り出された人』の体調不良(死亡)理由は話していたとトシに告げられたシン。
 「タイガーが小さいのって、そういう種類なんだと思ってたんだけど…最初見た時は。でも、なんか違うな。『小さいけど大人』ってパターンじゃなく『チビッ子のまんま』ってカンジだ。なんで?」
 「理由は分かってないんだよ。」
 シンの問いに、自身も知らないと首を軽く傾げながら答える。
 「ペット飼ってる人がよく『大きくなった今も可愛いけど…小さい頃はもっと愛らしかった。』って言うけど、タイガーはまんま当て嵌まるよねぇ。」
 トシが言うと
 「そうだねぇ。でも、タイガーみたいにってなると困っちゃうだろうけどね。小さいままン百年だもん。」
 「あー…か~るく300年以上だもんな…。飼い主何世代分?」
 オミの応えに思わず妙な疑問を感じてしまったトシが、シンに訊ねる。
 「大体、親・子・孫の3代で暖簾を守ると100年って計算が成り立ったはずだが?」
 「最低でもその3倍。9代?すげー。って、ちょっとまて。9代も御先祖遡れる?うちはムリ。」
 苦笑いしながらトシが尋ねる。
 「ウチも無理っ。聞いて回れば5・6代はいけるかも?だけど…9代は無理だろ。」
 「タイガーを飼う事、代々引き継いで10代目です。ご先祖様からの言い付けなんですってなんか変ーーっ。」
 大うけする2人。
 オミはと言うと、その時間ずーーーっと変わらずタイガーと共に居ただけに、2人が『変』と受け止めている点に対し共感できず、ただお互いの『時間感覚の違い』として受け止め、笑い転げている二人を微笑みながら眺めている。
 そこへマサトがひょこっと顔を出し、
 「キョウコさん、後シンもちょっと来て貰える?」
 キョウコと共に居たミヅキや好奇心の塊のカズキ、シンと共に居たトシには牽制の視線を向けつつ呼び出す。
 呼ばれた二人が、不思議そうな顔でマサトと共に座を外しリビングから出て行く後姿を見送りながら、オミとトシは不思議そうな視線を交わす。
 「なんだろね?」
 「わかんないけど、マーちゃんのあの目は来んなって言ってたから…。」
 こっちで関係ない事していないとマズそうね。
 
 キョウコとシンの二人がマサトに連れられキッチンに顔を出すと、少々バツの悪そうな表情をしたイツキと目が合う。
 「えーと…実はね、シン君のお付き合いの件なんだけどね。お相手の彼女サンの事とかね。オレは口出し出来る立場じゃぁ無いんだけど、ちょっぴり離れた立場にあるし大人だしって事で…シン君にちょっと確認したい事があってね…。」
 イツキが言い辛そうに話し出すと、シンはその様子からマサトが頼んだなと直ぐに察し、マサトに目を向ける。
 「だってお前、俺が聞いたってまともに答えないだろ。」
 少々悪びれつつ悪態をつくマサトの様子から、見兼ねた・気懸かり・心配等を感じ取り、一種の諦めを持ってイツキへ顔を向けるシン。
 「ぅん、まぁ察しているとは思うけど…シン君が何をどこまで考えているのかって、ソコをちょっと確認させて貰いたいんだ。」
 「取り合えず…真面目に考えてお付き合いをしていると思うけど?」
 一旦言葉を切り、直ぐに本題の肝心要である本心を訊ねる。
 「当たり前ですっ。」
 イツキの問いに、ある種の侮辱を感じ強く答えるシン。
 「うん、まぁ…そうだよね。性格的に遊びで付き合えるタイプとも思えないし。で、だ。どこまで本気?」
 シンの性格と面子を考慮し肯定しつつも、一歩踏み込むイツキ。
 「どこまで?」
 本気の行きつく先を尋ねられ困惑するシン。
 「別の人と付き合っていないから本気とか、『今は』この人だけだからとか、学生の間だけとか、恋人としてとか、色々あるよね。」
 「あぁ…そういう意味で…。」
 理解して困惑から抜け出し軽く脱力するシン。
 「あー…いゃぁ…将来的なことは具体的には…まだ。」
 脱力から持ち直すと、マサトやキョウコの前だというものあって照れ臭そうに答える。
 「『まだ』は、まぁしょうがないよね。年齢的にも実感が伴わないだろうし。でもね、その答えだと…『真剣さ』は伝わらない。お相手のお嬢さんの母親が納得すると思う?父親が理解を示すと思う?」
 「え?あ?…え…?」
 納得?理解?シンは新たな困惑に襲われる。
 「シン君がね、いくら『本気です』『真面目にお付き合いしています』って言ってもね『でも将来的な事はまだ考えていません』で、『娘を持つ親』が納得するかな?ってね。そういった点を考えた事があるのかなぁ?って思ってね。」
 「はぁ…?」
 納得させる必要ってなんだ?状態のシン。
 同い年のマサトが気にかけているのに…とも思えるが、マサトからしてみれば『他人の事』だからこそ一歩離れた位置で見ることが出来るため、当人が気付かない(気付けない)アレコレが逆に気にかかるワケだが。
 「納得とか理解とか…ある程度は必要でしょうけれど、『そこまで』必要なんでしょうか?」
 現実味の伴わないシン。
 「女の子の親ってのはね、娘が誰かとお付き合いしているってなったら『遊びではないのか』『捨てられて傷付けられるのではないか』って、絶えず気にかける存在なんだけど?」
 「はぁ。」
 「ミヅキちゃんに例えてご覧よ。妹(保護対象)みたいな存在でしょう?キョウコちゃんは姉みたいなものだろうから、ちょっと感じ方が違っちゃうだろうけどね。」
 ミヅキ ⇒ 妹 ⇒ 交際 ⇒ 相手の「将来のことはまだ」発言 ⇒ ……。
 例え相手がミヅキ一筋であっても、それを幾度も口にしていようと、周囲の様子から偽りでは無いと察する事ができようとも…。
 考えて力無く溜め息を漏らすシン。
 「でも…ですよ?将来のことは将来にならないと分からないじゃないですか。」
 半ば泣き言状態で訴える。
 「うん、そうだね。でもね、シン君自身がどの様に捉え、考え、実践していくかで、相手 ― この場合は親御さんだけど ― に伝わる心象ってものは変わると思うんだよね。大抵の場合、表に出るからね。態度や言葉は言うに及ばず、言葉の端々…言葉尻とかね、彼女さんに向ける折々の視線とか、仕草とかに出ちゃうから。で、相手の親御さんは、そういうところを見逃さない。特に娘を持つ親は、そういった点に厳しいから、細かく見るよぉ。」
 分かってる?と目で問いかけるイツキ。
 「えー…あのぉ…もしかして…一人っ子の一人娘だったりしたら…?」
 顔を引きつらせながら、恐るおそる口を開くシン。

雨が上がったそのあとは… ⑰

 「ところで、イツキさん?」
 ふと思い出し、口調を変えて声を掛ける。
 「シンに彼女がいるの、ご存知ですよね。」
 質問というよりは確認する口調で訊ねる。
 「うん、まぁね。それにキョウコちゃんや君達くらいの年齢なら、居ても不思議じゃぁ無いしね。」
 イツキが当たり障り無く答えると
 「どんな子かって聞いてます?」
 「へ?いや、聞いて無いけど…好きなんだなーって言うのは、まぁ分かる。」
 「良い所のお嬢さんみたいで…大丈夫なのかなぁ?なんて思ったりして。」
 「良い所の…ね。気になる?心配?」
 「気にはなりますけど…ね。俺達ぐらいの年齢だと、周りが先走って勝手に結婚に結び付けるし。『今の時代に?』かもしれないけど『家の格』がどうとか言われそうですし…。シンの相手って、見るからに格が違うご家庭っぽいから…どぅすんのかなぁ?って、余計なお世話なんだけど気にかかります。」
 「周りに無理矢理引き裂かれたら気の毒って?」
 「えぇ、まぁ。気持ちが離れて分かれるのとは違うでしょ?」
 「まぁ、そうね。って…マサト君は紹介でもされたの?なんで知ってるの?」
 「あー…見ちゃった。」
 テヘッと笑って誤魔化しながら答える。
 「学校帰りに、自宅とは別方向に向かうところを見かけちゃって。なにかなー?買物でも頼まれてたのかなー?なんて思って、面白半分に後を追けたら…公園デートでした。」
 最後の部分は吐き捨てるように口にする。アホクサと思ったと言う事であろう。イツキがそれを察してクスクス笑うと
 「いやぁ…まぁ…その時見かけた様子から、『良い所のお嬢さん』って思ったワケで。」
 「根拠ってなんかあるのかい?見かけただけでそう思ったって、そう思える目立った何かがあったって事だろ?」
 「婆やさんらしき人が同行してた。」
 「はぁっ?」
 「彼女サン、足が悪いみたいで車椅子使ってるんですよ。で、傍らにちょっとお年を召した方が控えてて…。」
 「成程ね。」
 「母親って感じでもないみたいだし…。ホント『控えている』って様子で。」
 「フム…。娘に誰かしら付き添いを頼めるって事ね。雇っているのか、親戚に頼んでいるのかは分からなくても。」
 「あ…っ、親戚…そうか、親戚かもしれないのか。母と娘って雰囲気ではなかったけど。親戚なら有りえますね。」
 「まぁ、それにしたってなんらかの謝礼は包まないとならないだろうけどね。母親の代わりをさせている様なもんなんだし。」
 「って事は、やっぱりそれなりの財力がある、と。」
 納得しつつも溜め息を漏らすマサト。
 「心配そうだね。」
 「大変そうだな、って。シンの所も人を雇っていますけど、僅かな人数ですしね。きっと規模が違うだろうなぁって。」
 「『お友達』の可能性は?」
 自身もシンから付き合っている相手がいると聞いていて、尚且つマサトにも知っていると答えつつも、別人を指し示している可能性もあるので、念の為と提示するイツキ。
 「全く有り得ませんっ。シンの表情も見えちゃいましたし。あの表情は『友達』に見せる表情じゃぁありません。」
 きっぱりと断言するマサト。
 「そうかぁ…付き合いの長いマサト君がソコまで言うんじゃ、確かだろうね。」
 捏ね繰り回していた、ボウルの『アイスの元』を容器に移し替え冷凍庫へ入れながら同意を示す。
 「アイツ、どこまで本気なのかなぁ?って。遊びじゃぁ無いのは、あの表情で分かるんですけどね。面倒な事になりそうなのに…突っ込んで行くのかな?って。それともお互い程々のお付き合いって割り切ってるのかなぁ?なんて思ったり…。」
 「程々って言うのは、ある程度の時期が来たら別れなければならないだろうからそれ迄、って意味で?」
 「えぇ。だって良い所のお嬢さんって…婚約者とか居そうでしょ?一線を越えなければ良いんだろうし…。居ないかもしれませんけどね、でも居るかも知れないし。本人が知らないだけって場合もあるでしょうし。」
 「……。」
 マサトが何故この話しをし始めたのか察したイツキ。
 「イツキさん…訊いて貰えませんか?」
 案の定、察したとおりの事をマサトが頼んでくる。
 「ぅー…ん、でもそう言う事って、ご両親の役目じゃないかな?」
 一応渋る。
 「この手の話しを両親にしたら、暴走されません?」
 マサトはマサトで危惧している点を口にする。
 「暴走されちゃったら…上手く行く話しがダメになったりもしますし…。オレは、アイツが何を分かっててどうするつもりなのかが知りたいだけなんですよ。ただ、だからってオレやキョウコさんが訊いても素直に話すとも思えなくて…。」
 「成程ね、オレだったら結果がどのようなことになろうと利害が無いから暴走するわけ無いし、年上だからシン君も少しは素直に話すだろうし?」
 「えぇ。親に話したときに親が万が一暴走しても、予め心の準備が出来ているでしょうし。問題点を挙げておけば、『今は』考えが纏まっていなくても、それまでに纏める事も出来るでしょう?必要なら覚悟も決められる。」
 女性の結婚適齢期が22・23歳辺りであるのに対して、男性は27・28歳が適齢期とされているので、マサトの懸念は早すぎると考えられなくも無いが、『27歳になりました、さぁ結婚しましょう』で結婚できるワケもなく、当然それ以前に相手を確保しているか、親しい相手か信頼できる相手に紹介してもらえるよう根回しをしていなければムリな話しとなる。大体適齢期とはイコール最適時期と考えられているという事であって、過ぎれば自身の価値が下がり、当然相手に対しての希望もとおり辛くなるものである。
 いつぞやオミが『売るなら高いうち』と言ったのは、なにも女性に限った話しでもなく男性にも当て嵌まる話しだというだけで、ただ、男性は仕事を理由にする事が可能なので、女性ほど追い詰められたりしないというだけで、値崩れっぷりが激しくなるのは男女問わずなのが世の常である。

雨が上がったそのあとは… ⑯

 「そういえば…タイガーって小さいですよね。」
 トシがオミに支えられながら胸元にへばり付いているタイガーをまじまじっと見る。
 「わざと小さいままにしてるんですか?」
 自分の姿だって若い時のままにしているのだから、猫に対しても可能であろうとの推測から、超能力で?と匂わせながら訊ねる。
 「ううん、タイガーにそういう事はしてないよ。タイガーがちょっと怪我したときに治したりはするけど。」
 じゃぁなんでこんなに小さいんだ?と言いたげに、尚一層まじまじっとタイガーを見る。
 「長生きするようにもしてない。ママ・レティシアに約束させられてる。破るとスグばれちゃうし。だからタイガーには、普段はちょっとしたケガの手当て位でしか超能力使って無いよ。それぐらいならママも目をつぶってくれるから。」
 と悪戯っぽく小さく微笑みながら答える。
 「普段は?」
 トシが突っ込んで訊ねると
 「こっちに放り出された時は、使ったね。こんな訳分かんない理由で死なせたくなくて。流石にママも怒らなかったな。」
 「へ?なんで?放り出された時って…?放り出されたときに、何がどうして使う必要に迫られたの?どこかにぶつかったとか?」
 丸っきり分かりませんとトシが食い下がって訊ねる。
 「え?だって…キーちゃんが『やばい。姿が近い。環境も似てる。マズイ。』みたいな事を…言ってたから。」
 詳しくは理解していないオミが、それ以上尋ねるなと雰囲気に表すと、同様に良く分かっていないトシが首を傾げながら
 「放り出された時、だよねぇ?姿や環境が似ててなにがマズイんだ?」
 悩みながら呟く。
 「さぁ?病気になるような事を言ってたような?『体調を崩す』程度のニュアンスじゃぁ無かったよ。タイガーは体が小さいから一発だとかなんとか…。」
 「なんの事なんだろう?病気?ってコッチの人と接したりしなくても罹るのかな?」
 「んー…?キーちゃんはコッチの様子が目に入った途端に言ったからねぇ。確かに接したりはしていないね。なんて言ったんだっけかな…ママやパパも似たような事言ってたけども…。病気を指して言っている様な感じはしたって憶えてるんだけど。」
 「随分昔の事ですから、細かい点は忘れちゃいますよね。」
 「ぅん…。ただ、後から『あぁ、この事か』とは思った。放り出されて暫らくしてからだけど、超能力者もそうだけど…超能力の無い人たち、身体の弱い人とか体力無い人とか、日が経つにつれて次々に不調を訴えて、倒れて、死んでいったから。」
 「それって…『なぜ?』なんでしょうね。奇病みたいだ。汚染の影響でも受けたとか?」
 トシが真剣な表情で問いかけると、微妙な雰囲気を感じていたらしいシンが
 「な~にさっきから二人でコソコソ話してるのかな~?愛でも語らってるとか?」
 ワザとおちゃらけて割って入る。
 「な… ― っ。語らないしっ!」
 相手がオミでは否定せずにいたら大変な事になり兼ねないので、なんてことを言うんだと仏頂面ですぐさま否定するトシ。

 トシとオミがシンに混ぜっ返されている頃、イツキはリビングの様子などそっちのけで、同じくそっちのけのマサトとキッチンでお茶菓子作りに励んでいる。
 「その、ひたすら泡立てているソレはなんになるんです?」
 マサトはコンロの前に立ち、弱火でかけられている鍋の様子を見ながら、傍らで大きいボールの中身を泡立てているイツキへ訊ねる。
 「アイスクリームになる予定。」
 「へ?アイスクリームって家庭で作れちゃうんですか?」
 「作れるよ。って言うか…店で売っているものの大多数は、元は各家庭でそれぞれ作っていた物でしょ。」
 「あ…あー、そっか。工場でまとめて作るよ、買えば直ぐ手に入るよ、手間が掛からないよって事か。」
 「そうそう。ってマサト君の家で味噌作ってなかったっけ?カズキ君がソレっぽいこと言ってたよね?」
 「アレは母の『こだわり』なんで…。非売品ですし。」
 「…味噌だって、店で売ってるでしょうに。」
 『店で売っているもの(味噌)』を『家庭で作っている(母作)』と知っているにも係わらず、なぜ『それ以外』は家庭で作れないと思ってしまうのか、イツキが不思議がる。目の前に実例があるというのに…。
 「生まれてからずーっと『そう』だから、ウチの味噌だけ例外って思い込んでて。身近すぎるし特殊な例としか考えていませんでしたっ。」
 力を込め開き直った言い訳。
 「特殊だろうとはオレも思うけどね。」
 「で、この鍋は?」
 「ソースに使おうと思って。アイスクリームにかけようかなと。」
 「はぁ、成程ねぇ。」
 鍋をそうっと混ぜながら出来上がりを想像するマサト。
 

雨が上がったそのあとは… ⑮

 オミがシャワーを終わらせ部屋から出ると、待ち構えたようにダイニングから声が掛かる。
 「オミさぁ~ん、ご飯ご飯。」
 「お昼出来てますよー。」
 「冷めちゃう…って言うか温くなっちゃうから急いでー。」
 少年達の声に少々慌てるオミ。
 「まさか待ってたの?先に食べてて良かったのに…。」
 「今しがた完成。」
 「シャワーなら大して待たないだろうと思いまして…。」
 「やっぱり一緒の方が良いですしね。」
 カズキ → シン → マサトの順。
 「家の人が在宅中で席を外してるのに、先に食べ始めるのは如何なものかと…。」
 「お行儀悪いですよね。」
 こちらはキョウコ → ミズキ。他の4人もウンウンと頷き同意を表す。
 「さっさと座れ。タイガーは寝てるみたいだから起きてからでいいだろ。」
 オミはイツキに促されながら席に着く。
 「その『すり流し』と炒め物のとうもろこしは、シン君の絶大な協力を受けて完成したからね。ありがとネ。」
 イツキがさらっと労をねぎらうと、シンはいえいえと軽く首を振り謙遜する。
 「どぅいった協力かなー?」
 今更ながらにカズキが尋ねる。帰って直ぐの時には、へたばっていたシンに捕まって訴えられてはマズイと逃げていたにも係わらず…。
 「鞘から取り捲りぃの、ほぐし捲くりぃの。」
 あー…山盛りしたのか…この量だし。
 シンが簡潔に述べると、イツキ以外の面々の表情が軽く引き攣る。
 そりゃぁ疲れるワ。
 思うと同時に全員の目がシンと合い、思わず「ぁー…」と引き攣った笑いを浮かべてしまう。


 昼食を済ませリビングでまったりと過ごしているとトシがオミに声をかけてくる。
 「オミさん、ねね、パズルどぅなってます?進んでます?」
 「え?ううん、大して進んで無い…。」
 「そうなんですか?こちらにお邪魔した初日に熱中してらしたから、良いカンジに進んでるのかなって思ってたんですけど。」
 「周りの枠部分しか出来ていません…。」
 恥ずかしげに答えるオミ。
 「枠部分っていうと…一番外側の?」
 トシが確認を取るように訊ねるとウンウンと小さく頷く。
 「なんかすごい大物って聞きましたけど…10000ピースとか?」
 再び頷いて肯定するオミ。
 「見せて頂くなんて…?」
 オミの顔色を伺いながら問うと、オミの表情が硬くなるのが目に映ったので
 「えーとえーと…ここ数日やってらっしゃらないみたいですけど…?」
 途中を見せるのは恥ずかしいのかと考え、慌てて矛先を変えるトシ。
 「あー…ぅん、急いでいるわけでもないし。」
 「?でも、好きな事ですよね?熱中してらしたし。」
 「ぅん、まぁ…。」
 「??昨日も、してなかった様な?」
 オミが何故返事を濁しているのか理由が思い浮かばないトシ。
 「『今はやる気が無い』とか?」
 「そうじゃなくて…タイガーが…。」
 「??」
 タイガー?昨日はひたすら寝てたよな?いつぞやは締め出し食ってたし。
 トシが全く理解していないと表情に表すと
 「タイガー…結果的には、一日中雨だからってひたすら寝てたけど、起きて騒ぐ可能性が全く無かったとは言い切れないし…。あそこの部屋で騒がれたら目も当てられないし、だからってこっちに居させたら君達の勉強の邪魔をしちゃうだろうし…。起きちゃったらだけど。」
 「邪魔…しますかね?」
 「小さく動くペンの頭部分も先部分も手元も…タイガー大好きだと思うけど?」
 机に乗って、皆の手元をチャイチャイして回ると思うんだよね。身体を伸ばしてペンの頭の部分を捕まえようとしたり。
 オミが気にかけていたことを挙げる。
 「あー…やりそう。」
 トシは言われて気付く。
 「で、下に降ろすと登ろうとして足元ウロウロするだろうし、ズボンに掴まってよじ登ろうとするかもだし。オミが締め出すからって大鳴きするかもだし。オミが気付かないかもしれないから、そうなると君達に訴えると思うんだよ。…大抵は寝てるんだけどね、雨の日って。でも…起きてる日も、起きてる時間もあるし、ね。」
 だからなるべくタイガーといるか、タイガーが寝惚けながらチラ見した時に見えるところに居たほうが良いって思った、と、それと、もし仮に自分の姿が見えないときにタイガーが起き出しても、皆が寝ているなら邪魔にならないかとも思ったとオミが続ける。
 「確かに…。タイガーって結構甘えん坊みたいだし。」
 「猫なのに混ざるの好きだよねー。子猫の姿のままだからかな?」

雨が上がったそのあとは… ⑭

 『爆発毛玉』状態のタイガーをオミが慌ててブラッシングしようとすると、傍らのカズキがモジモジしつつ上目遣いで訴えてくる。
 「?なに?どうしたの?」
 「あのぉ…ね、そのぉ…ですねぇ、カズキやってみたいなーって思って。」
 モジモジしながら照れ臭そうに言い出すカズキ。
 「やる?えーと…ブラシ?タイガーに?」
 片方の手をタイガーに添えながら、もう片方の手にあるタイガー用ブラシをカズキにかざして見せつつ確認を取るように訊ねる。オミに尋ねられたカズキはウンウンと頷き、ダメかな?と目で訴える。
 「別に良いけど…毛まみれになっちゃうよ。せっかくシャワー浴びたのに。」
 オミの返事にガックリと肩を落とすカズキ。が、ふと気付く。
 「オミさんだってシャワー浴びた後じゃないの?」
 「え?オミはまだだよ。さっきまでキーちゃんの所に居たから。タイガーを綺麗にしてから浴びようと思って…。」
 「まだだったの?イツキさんの所で何してたの?つまみ食いとか?」
 キッチンから良い匂いが漂ってくるため、食欲が刺激された結果の(お行儀の悪い)連想と思われる。
 「いやいや。オミがそれしたらキーちゃんに怒られちゃう。カズキ君がする分には、成長期だからって見逃すかもしれないけど…。」
 オミが笑いながら答えると、苦笑いを浮かべながらそれじゃぁなに?と目で訴える。口に出して問わないのは、聞いてはいけない話しかもしれないと考えたからだろう。
 「リスとウサギとモグラ。」
 「あぁ…。」
 オミが素っ気無い答え方をしたにも係わらず、カズキが理解した表情を見せたので今度はオミが疑問を感じ、タイガーをブラッシングしながら訊ねる。
 「?どんな話しをしてたか分かったの?」
 「退治するとかしないとか、かな?って。シンちゃんに見たよって話しして、害獣なんだって?見た目は可愛いのにねぇ。」
 「見た目は、ねぇー…。」
 溜息混じりに応えるオミ。
 「やっぱり困っちゃう?カズキ達が食べても構わないのは、もしかして『カズキ達だから』って…気を使わせちゃってる?」
 カズキが、実は困らせていたのではと心配そうに尋ねると
 「カズキ君達は構わないよ。ちょっと位食糧事情が良くなったからって増えるわけじゃなし…。」
 「は?増える?」
 体重なら増えそうですが…とは言わない。ニュアンスがそれとは違う、と直感が働いたカズキ。
 「うん。数が…個体数がボンって増えちゃうんだよね、食料が豊富だと。で、あの辺りまで出てくるって事は…結構増えちゃったのかなぁって。大抵は森の奥のほうに居るんだけどね、出て来たって事は、数が増えちゃって漁りに来たのかなって思って。だからほっとくととんでもない状態になっちゃうかなって、キーちゃんと話してた。」
 「縄張りの取り合いみたいな?でもウサギって群れで生活するよね。群れが乱立したとか?」
 「群れの中にも縄張りがあるらしいよ。で、まぁ…そうだろうね、縄張りだろうねぇ。」
 オミは、困ったね、と溜息混じりに呟く。
 「退治って…やっぱり狩るの?」
 「ぅーん…一部は狩って、他は…どこかの山に放すんだけど。迂闊に迂闊な所に放すわけにいかないから、キーちゃんが問い合わせてくれるって。」
 「山に放す?って…その為に育ててたりしてる?なんかの種も、増やすとか植えるとか言ってたような気がするけども、同じようにしてるの?」
 「してるしてる。憶えてたんだ。アレは葡萄の種だね。苗木程度迄育てて、ハゲ山にポイってする予定。ウサギやリスもね、一応は一旦増やして、増えた分をどこかの山にって予定だったんだけど…。考えていたより遥かにたっぷりと増えるもんだから、増え方があまりに多い時は狩っちゃおうって事になったの。」
 「はぁ…ウサギって凄いんだ…?」
 「凄いっ!洒落になんないっ!」
 カズキはあまり実感が伴わないらしく気の抜けた様子を見せたが、オミはそんなカズキに畳み掛ける。
 「えー…あのぉー、放す場所ってどこでもいいってワケにはいかないのかな?」
 オミの迫力に押され気味となるカズキ。
 「だって、ソコで山ほど増えちゃっても…近くで生活している人がいたら、迷惑掛けちゃうから。」
 「じゃぁなんで、増やして放すの??」
 見つけ次第、狩らないのは何故?カズキの至極尤もな疑問。
 「だって、ウサギって…食糧になるんだよ?人間の食糧にもなるし、他の動物の食糧にもなる。リスも食糧になるしね。結構美味しいし…。捕まえるのは、すばしっこいから大変だけどね。」
 「えー…と?全くいないのは困るけど、多すぎても困るって事?」
 「そ・ゆ事。食べてみる?なんならサクッと捕まえくるから、明日にでも料理してもらう?」
 オミが、ブラッシングを終えたタイガーを抱っこしながらにっこり微笑んで尋ねると、食べ慣れていないカズキは困惑してしまう。
 「え?え?いや…あの…でも…その…。」
 食べてみたい…でも…ちょっと不安、だけど…(どんなカンジなのか)興味もある…。心揺れるカズキ。

雨が上がったそのあとは… ⑬

 オミが小物の入った篭を片手に下げながら自室から出てくると、その姿を目にしたカズキが
 「オミさん、それなにするの?」
 早速声をかける。
 「ん?タイガーのグルーミング。ご飯の前にちょこっとしちゃおうと思って。」
 「グルーミング?」
 「うん、今日はカズキ君達に混ざったつもりで遊んでたからね。葉っぱや土でチョット汚れたかなって。」
 『つもり』。確かにタイガー目線ならば、その表現となるか。
 「お風呂とかシャワーじゃなく?」
 カズキが興味津々と、支度をしている様子を眺めながら尋ねると
 「猫とかってあんまり頻繁に洗わないほうが良いって聞いて。シャンプーしなきゃ良いって意味かもしれないけど、うかつに洗って肌荒れ起こさせちゃったら可哀想かなって思って。」
 既に風呂と川遊びを連日で行っている為、オミは少々肌荒れを気にかける。
 「で、ナニをどうするの?」
 「軽くブラッシングして、蒸しタオルで拭いて、乾いたタオルで湿り気を取って、また軽くブラッシングするの。タイガーは今お水休憩したし、汚れを落としてからご飯だね。」
 皆が座るのに邪魔になり兼ねないと、窓際の床にいらない紙を広めに敷き傍らに小物の入った篭を置いてタイガーを呼び寄せる。タイガーは大好きなブラッシング道具が見えたので、大喜びで転がるようにオミの元へと駆け寄ってくる。
 「カズキ君?タイガーの毛が飛ぶかもしれないから…えー…と、見るなら風上に座りな。少しはマシだろうから。」
 カズキが傍らから動こうとしないのが一瞬疑問であったが、すぐにもしやと察し、シャワーを浴びた直後のカズキが、飛ぶであろう毛の被害に合わないよう座るべき場所を教える。
 「あ…はい。コッチね。」
 あっちへ行っていろと言われてしまうかもと気構えていたカズキは、逆に座るべき場所を教えられたので、やや嬉しげにいそいそと場所を移す。
 オミはカズキが場所を移している間にも、小さいタイガーの身体をくまなくブラッシングし、目立つ汚れを落としていく。
 「最初にブラッシングするのはなんで?」
 「んー…リラックスさせる為と汚れを肌の方から離す為、だったような…。」
 「離す?汚れを?」
 「そのまま拭いちゃったら、汚れを肌に擦り付けちゃうみたいになるからって聞いた気がしなくもない。」
 「もしかして、遠い昔に教わったとか?」
 「うんっ。」
 オミの返事にカズキがクスクス笑い出す。
 「タイガーは、ブラッシングが好きだからね、だから尚更した方がいいかなって思って。最初と最後が大好きなブラッシングなら、途中は忘れてくれるだろうと…。」
 「あー…拭かれるのは嫌と。」
 「濡れたヤツで拭かれちゃうから…。」
 「猫だもんねぇ…。」
 カズキはしみじみと同意を示す。
 オミは一通りブラッシングを済ますと、少々不満げなタイガーの様子を見ない振りで、ここからが勝負とばかりに蒸しタオルを手にタイガーの身体を拭いていく。先ずは顔を、と目の周りを蒸しタオルで拭けば、イヤイヤとばかりに小さく鳴き、顔を背けるタイガー。
 「その前足は『やめろ』という事?」
 抵抗を企てているタイガーの前足を目にし、訊ねるカズキ。
 「そそ。顔と耳はやっぱりイヤね。何をどうしても嫌がる。首周りとか頭とか背中は、結構好きみたいなんだけど。」
 顔をン~と仰け反らし首を拭かれるタイガー。タオルが前首から横、後ろへと移動すると、ココもと催促するように頭を下げる。
 「今日は随分とお利口さんだねぇ。じゃぁ、今度はお腹ねー。ポンポン下さ~い。」
 言うが早いかタイガーの身体をコロンと仰向かせ、足の付け根やお腹を拭いていく。
 「『ポンポン』。オミさん達もお腹の事『ポンポン』って言うんだー?」
 「小さい子の言葉でしょ?『お腹ポンポン』って。足は『アンヨ』で手は『テテ』とか『おテテ』だよね。こっちに来てから知ったけど、可愛い言い方だよね。小さい子でも聞き取りやすくて言い易いから丁度いいって聞いた。猫にも通じるし。」
 話しながらも手は動き、今は4本の足(足先以外)を終わらせ背中を拭いている。
 「足はちょっと嫌がるから、ご機嫌を見ながらだねぇ。ネムネムの時は、お腹や背中を重点的に拭いて抵抗する意思を削いでみたりするし。だからって顔をそのタイミングでやると眠気が覚めちゃうし…。」
 「ネムネムって。」
 「眠たそうな様子の事を『ネムネム』って言わなかったっけ?」 
 「言うけど…。拭く場所の順番って決めてないの?」
 幼児語がここまで出るとは思わなかったカズキは少々笑いながら問いかける。
 「顔が一番先で、お尻か足先が最後だね。後はタイガーの機嫌次第。背中やってーって感じで背中見せたりする事もあるから。」
 答えながらも既に足先を拭っている。
 「肉球のところも嫌がる。敏感に出来て居るらしくて。お尻も微妙に嫌がるね。っとイケね、尻尾を忘れてた。大切な尻尾がバッチィまんまになっちゃう。」
 慌ててタオルを畳み、比較的綺麗な部分で尻尾を包む様に拭いていく。
 「尻尾大事かー…。」
 まじまじっと尻尾に目を凝らすカズキ。
 「大事大事。この長くてくねくねした所が特に大事。」
 大真面目に答えながら、今度は乾いたタオルで全身を包むようにして拭いていく。
 「これで水気を取ったら又ブラッシングね。」
 「オミさんって結構頻繁にタイガーのブラッシングしてるよね。」
 「そう?タイガーが気持ち良さそうにするから、ツイやっちゃう事は有るけど。」
 「タイガーの毛並み綺麗だもん。艶々で。」
 「普通コレくらいじゃないの?飼い猫だし。」
 「え?コレ普通なの?」
 二人の目がタイガーの、拭かれたばかりでボワっと膨らんだ毛へと向けられる。


雨が上がったそのあとは… ⑫

 「たっだいまー。」
 結局、カズキの行きたい・見たい・食べたいに負け、ブラックベリー畑とブルーベリー畑にまで寄り道し、案の定暑さで汗だくになりながらも戻った一行。
 庭で勉強に励んでいるキョウコの邪魔をしないよう気を付けつつ、外へと大きく開けた窓からリビングへと戻り、ぐったり休憩中のシンへ声をかける。
 「シンちゃんどうしたの?疲れてない?」
 「あー…ちょっと、ね。」
 山盛りの枝豆や、続く山盛りのとうもろこしとの2戦をこなしたシンは、細かくて面倒臭い作業をこなしてくれたから後は良いよとイツキに休んでいろと薦められ、リビングにてぐたっと休憩していたワケだが、そのしんどさを口には出さずとも態度で表している。
 「暑かったよー。風はあったけどぉ。」
 「飲んだそばから汗になって出たよな。」
 「もー汗だく。シャワー浴びるーっ。」
 汗だく状態なのに、シンから何をどうしたと訴えられても困る一同は、念のためと予防線を張る。
 「キョウコ姉ぇ、頑張ってるねぇ。」
 「カズキも頑張れ?一応お前も受験生だろーに。」
 「聞こえません。聞きたく無いから聞こえませんっ!」
 出かけていた一同は、ワヤワヤと騒ぎながら汗を流そうと部屋へと向かって行く。オミは皆の後ろから付いていくようにリビングを出、キッチンに居るであろうイツキの元へと向かう。そのオミを見送るように目で追っていたシンの視界に、オミの後ろを粒々が列を成してついて行くのが目に入る。
 ぎょっとして背凭れに寄りかかっていた背を起こし、まじまじっと粒々を見るシン。赤いのやら黒いのやら…イボイボしているのやらツルンと丸いのやら…。
 「なんだ?これ?」
 シンが凝視していると、離れたキッチンの方からイツキの声が聞こえる。
 「お前はまたぁ。なんでそうワケのわかんない持って帰り方をするかな?」
 「だって、オミにはこの方がラクなのっ!」
 声が聞こえる間も、列を成した粒々は続々と後を追う様にキッチンへと向かう。
 「コレがラズベリーでしょ、でコッチがブルーベリーで、コレがブラックベリーね。」
 「だーっ。篭に入れろ、篭にっ!」
 「はーい…。なんかね、まだいっぱい生ってたよ。目立ったのだけ採って来た。ま、ブラックベリーはその場で食べるとかはキツイしね。」
 粒々の正体がわかったシンは、再び力無くぐったりと背凭れに身をまかせる。

 「ねね。ウサギとリスともぐらを見たよ。で、オミさんがちょっぴり怖い顔になった。」
 シャワーを浴び終えたカズキが、嬉々として報告すると
 「あー…害獣扱いになるからな。出来た実を食っちゃうだろ?で、モグラはまだしも…ウサギやリスはやたらと増えるしな。」
 「あ、草食性…。」
 シンの答えにハタと気づいたカズキ。
 「そ・ゆ事。肉食の大型の鳥とかがもっといると良いのかも知れないけどな。じゃ無きゃイタチとか?ネズミなんかも居そうだしなぁ。」
 「ここ島なのに…どこから来たんだろうねぇ?オミさん達がそうとは知らずに連れて来ちゃったのかな?ここで『大災厄』を生き延びたとは思えないし。」
 「いくらなんでもネズミを連れてくるとは思えないぞ?」
 シンが反対意見を口にすると
 「じゃぁ…どうやってココに来たのさ?ねずみが居るか居ないかは脇に置くにしても。」
 カズキがむくれた様に訊ねる。
 「んー…鳥?肉食の鳥が本島で捕まえて、こっちで食べようって持ち帰る途中に、横取りしようとした鳥と空中戦になって、で落としちゃった、と。でも生きてたから、そのまま生き永らえて…って何度か繰り返されているうちに雄と雌が揃っちゃって、繁殖した。ってどう?泳いで渡ったとは思えないしな…。」
 「漁師さんがこの近くまで魚獲りにきてて、その船にネズミが乗ってて、なにかの拍子に海に投げ出されて、必死に泳いで辿り着いたのがココ、ならあり得る?」
 カズキも自分の考えを口にする。
 「あー、あるかもな。海に落ちたのがネズミだと…漁師も気にしないだろうしな。」
 「でも…変だよね。ウサギやリスが害獣なら、なんで見逃したんだろ?オミさんなら簡単に捕まえられるでしょ?」
 駆除しようとしなかったのは何故だろう?首を傾げながら問いかける。
 「うー…ん、お前等の目を気にしたとか?駆除するって事は狩るって事だから…そういった事になれていないであろうお前等の目の前では、やっぱり躊躇われるんじゃないか?」
 シンが可能性の高そうな理由を挙げると
 「あー…あー…そうね。ちょっと怖いかな。可哀想とか思っちゃうかも。だからって責めるつもりも無いんだけどね。」
 カズキは状況を想像し同意を示す。
 「んー?本当に責めないか?」
 確認を取るように訊ねるシン。
 「責めないしっ。必要な事なんでしょ?だったら仕方ないじゃん。オミさんが面白半分に狩ってたら逆に引いちゃうけど。」
 「なら、ま、良いんだけどな。中には居るからさ、必要な事をしているのに責める〇ホが。」
 シンは納得した様子を見せ、言葉を続ける。
 「それに、オミさん達は『商売』として育てているワケじゃぁないんだし。畑作農家だとか果物農家だとかってワケじゃぁないだろ?だから少々は目を瞑ってる可能性もあるわな。」
 「あ、そ・か。少しくらい取られても問題ないか。カズキ達が採って食べても構わないんだし。」
 「んー…まぁ、俺たちに関してはそうだけども…一時的なことだからな。でもリスだのウサギだのって言ったら、半端無いぞ?毎日の事だろうし。」
 シンは困ったような表情でカズキの考えの甘さを糺すべく、自分の意見を否定するかの様な付け足しを口にする。
 「じゃぁやっぱりカズキ達の目を気にして?」
 「それと、被害の状況に合わせて目を瞑るって事かな。酷ければ、お前らの目が有っても狩ったかもしれないし。それに、商売で育ててるワケでは無いって言ってたけど、前に、育てて禿山に植えるからって種だけ集めてたろ?増やす目的で、って事はやっぱり被害が大きいかって点は重要なんだろう。」

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