「イツキ。ちょっとこの書類にサイン下さい。」
中央区画の外れ(と言うか居住区の中央区画寄り)にあるカフェスタンドでまったりと過ごしているイツキとオミ(とタイガー)の元へ、年若い女性が書類の束を差出しながら声を掛けてくる。
「探したんですよー。『ママ』の所へ行ったら帰ったみたいだって言われるし、ご自宅を『遠見』に探って貰ったら居ないようだって。『エンパス』に探して貰ってやっと…。」
「お茶して散歩して帰ろうかー?ってね。北にある『三日月沼』最近行ってないなーって。で、これ何の書類?」
グチグチと零す女性に愛想良く対し、問い掛けることで相手の口を封じるイツキ。
「あの子のです。先日保護してらした少年とそのご家族の。」
「うん…だから、どういった性格の書類かな?って。」
要領を得ない答えにダメ押しをしつつ自分で読んだ方が早いと、手元の書類に目を通す。
「『雑費』ノです。」
「フーン。君、あの子の担当になったの?」
書類に目を通しながら、なんとなしに尋ねる。
「イエ違イマス。私では言葉が通じないですし…。」
問われた女性は本人に何か思うところがあったようで、その点を不意に突かれたらしく返事が一部ぎこちなくなる。
「言葉ねぇ…中々ねぇ。」
適当に相槌を打ち
「んー…。コレ、あれね。父親の評価、最低なのが下ったんだね。気付かれたらヘソ曲げてブンむくれられンぞ。」
苦笑いを漏らすが、交渉する気は一切無いと口調と態度で表す。
「はぁ…ですが、我々としては…メインはあの少年なワケですし。」
イツキの態度からは何も読み取らずに分かり切ったことを口にする女性へ、イツキは同意を示す様に何度も頷いて見せる。
「あの子は素直で聞き分けが良いんだね。母親も、素直な様で…父親が問題か。困っちゃうねぇ。」
「えぇ…。」
父親の件に対し言葉を濁しつつ
「でも、あの子は良い子な様らしいですね。明るくて、ホームシックにもかかっていないみたいです。」
少年の事に関してはハキハキと答える。
「…ホームシックかぁ。」
書類にサインを入れながら途切れ途切れに応じるイツキ。
「メモ付けておこうか。ホームシックの件、目を光らせておくようにって。気付かず見逃したら、先々大変なことになるだろうからな。」
- 関連記事
-
スポンサーサイト